
複合施設の統括管理と運営・維持管理
民間のノウハウを活用し、体育館、市民センターなどの機能を備えた複合施設「フジタスクエア まるくる大野(以下、まるくる大野)」を整備した廿日市市。令和5年3月のオープン以来、多世代の交流・活動拠点としてにぎわいを見せている。
※下記はジチタイワークスVol.39(2025年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]株式会社東急コミュニティー
廿日市市
経営企画部 公共施設マネジメント課
川下 晃一(かわした こういち)さん
▲施設はガラス張りで開放感があり、居心地のよさが好評。イベントなどの様子も外から見えるため、通りがかりの人も参加しやすいという。
わが家のように気軽に利用できる“みんなの3LDK”を目指して。
同市の大野筏津(おおのいかなづ)地区では、体育館、市民センター、図書館が隣接し、市民活動を長く支えてきた。そんな中、公共施設再編事業が行われたきっかけは、体育館と市民センターの耐震性能の問題だった。耐震化改修を行うか、建て替えを行うか検討し、費用対効果の観点から建て替えに決定。併せて、図書館についても将来的な維持管理や運営の観点から見直しが行われ、3施設の複合化を検討することに。「各施設の運営は別々に行っていましたが、会議室や共用部分など重複するところもたくさんあり、機能を集約すれば経費も効率的に削減できると考えました」と川下さん。
複合化の計画にあたり、幅広く利用される施設を目指して、市民にヒアリングやアンケート調査を実施した。既存施設は利用者が固定化しており、子育て世代や児童・生徒の利用が少なかったことから、この層を主なターゲットにすることになったという。「市全体としては人口減少の傾向にありましたが、同地区では子育て世代の転入が増加していたのです。こうした人たちの居場所をつくろうと、既存の施設に子育て支援機能を加える構想が決定しました。誰もが気軽に立ち寄りたくなるような居心地のいい施設を目指し、キャッチフレーズを“みんなの3LDK”としました」。
整備にあたっては、各施設の役割と機能を見直し、重複する部分を整理して施設の面積縮減を図ることで、将来的な管理の効率化を目指した。また、官民連携の可能性を探る調査を行い、手応えが得られたことから、民間事業者に設計・建設・運営などを一括発注するDBO※1方式を採用することに。
※1 DBO=Design Build Operate(設計・建設・運営・維持管理などを民間事業者に一括発注する方式)
▲中庭や施設内を活用して定期的に様々なイベントを開催。たくさんの人が来館し、にぎわいを見せている。
一括発注のメリットを活かし各所と連携した事業を展開。
そこから、市が求める運営・維持管理の内容を“要求水準書”に詳しくまとめ、委託する事業会社(SPC※2)を公募で選定。設計段階からSPCと頻繁に打ち合わせを行い、着工後は毎月定例会を開いて協議をしながら事業を進めていった。「一括発注とはいえ、目的を共有して市がしっかり関与していくことが大事です。民間の提案をできるだけ活かしていく方向で、要求水準が確保できているか、利用者視点で工夫されているか、安全面に問題はないかなどをチェックしていきました」と川下さん。
一連の事業の中で、施設の統括管理・運営・維持管理を担うのが「東急コミュニティー」だ。具体的には、総合案内、広報・プロモーション、交流促進、市民センター機能の提供といった運営業務に加え、清掃や警備、修繕を含む維持管理業務まで幅広く対応している。完工の約半年前から会議に参加し、市民に向けた説明会や、施設の利用方法に関する相談などに応じてきた。特に既存施設の利用者からの問い合わせが多く、予約の手順や備品に関する質問にも個々に対応し、心配事や疑問点の解消に努めた。
まるくる大野のオープン後は、同社の担当者が常駐し、日々の管理をはじめ各施設と連携した講座やイベントの企画運営を手がけている。日頃から利用者とあいさつを交わし、地域行事にも出向いて市民と信頼関係を築いていることが、円滑な運営につながっているそうだ。
維持管理については、清掃の行き届いた清潔感のある環境が好評だという。不具合が発生したときは常駐の技術担当者がすぐに対応し、工事が必要な場合は協力企業と連携して解決を図っている。「一体的に管理を委託することで、市が別々の業者に発注する必要がなくなり、事務作業が大幅に軽減しました。業務効率化のメリットも大きいですね」。
※2 SPC=Special Purpose Company(ある特別な事業を行うために設立された事業会社)
ハード・ソフト両面において居心地のよい空間をつくる。
施設の運営において、同市が大切にしてきたのは、“みんなの居場所として、心地よい空間とサービスを提供すること”だそうだ。例えば図書館は従来と設計を大きく変え、1階はある程度のにぎやかさを許容するオープンな空間、2階は静かに過ごす空間に分けられている。小さな子ども連れでも気兼ねなく来館できるようになり、静かなスタディーコーナーで勉強する生徒も増えた。
利用者から“旧施設のルールと違う”“図書館がにぎやかすぎる”といった意見は出たが、運営担当者がその都度説明してきた。「丁寧な対応で、市民の皆さんから喜ばれています。色々と要望はあるものの、市役所まで苦情が来ることはほとんどなく、とても助かっています」。
また、年間を通してイベントを積極的に行い、多くの人が訪れる機会を創出。市の主催事業に加え、民間イベントを誘致し、親子で楽しめる大型遊具の遊び場づくりや、中学生コンサートなど、地元と連携した事業が展開されている。「施設全体に開放感と柔らかい雰囲気があるのは、建物の設計だけでなく施設で働く人たちの接し方も大きく影響しています。ハード・ソフトの両面において、コンセプトに沿った運営が十分にできていると評価しています」と川下さん。
オープン後は、要求水準書に定めたサービスが維持できているか確認することを主な役割としてきた同市。定例会での情報共有、四半期ごとのモニタリングなどを通して、常に実施状況を評価しながら見守りつづけている。
民間のノウハウを活用して幅広い層から愛される施設に。
オープンから3年目を迎えたまるくる大野。以前は3館合わせて年間約17万人だった利用者数が、令和6年度は60万人近くまで伸びた。予想をはるかに超える成果が上がっている。利用者からは“スタッフの皆さんがとても親切で、対応が丁寧で安心できる”“子どもと楽しく過ごすことができた”“清潔で明るく、また利用したい”などの声が届いているという。
また、各施設ではダンスや英会話など、様々な教室が開かれている。例えば、同施設内にある“放課後児童クラブ”で過ごした子どもが、帰宅せずにそのまま参加することも可能だ。移動の手間がなく、習い事が施設内で完結するため、保護者からも好評を得ている。「広報活動の工夫もあって、子育て世代や児童・生徒の利用が増え、子どもたちの“放課後の居場所”として選ばれる施設になってきたことを実感しています。今後は社会の変化やニーズに応じて、さらに民間の強みを活かした事業展開にも期待したいところです」。
将来的な課題としては、利用者が大幅に増えても快適な空間を維持できるようにしていくことや、駐車場不足の解消、飲食サービスの誘致などが考えられるという。最後に川下さんは「事業を成功させるためには、民間企業や市民に説明するときに、市の担当者が熱い思いを伝えることが大切だと思っています。市民の視点で考え、一緒に事業を育てていきたいですね」と語ってくれた。
東急コミュニティーによる多機能施設の運営体制
運営担当の声
東急コミュニティー
東海・西日本支社 九州・沖縄事業部 第二エリアセンター 福岡FMチーム
小林 大佑(こばやし だいすけ)さん
トータルマネジメントと地域連携を軸に、複合施設のポテンシャルを最大化する。
場所貸しだけにとどまらない、積極的な地域連携を。
市の要求水準書をしっかり理解した上で、地域団体の人たちと関係を築きながら運営を続けてきました。相談を重ね、一つずつ丁寧に進めていくことで、信頼関係も少しずつ深まってきたと感じています。地域のイベントを当施設で開催してくれることも増えました。単なる場所貸しではなく、運営側が積極的に動いてサポートすることが大事。地域に溶け込むことが、施設運営には欠かせない要素だと実感しています。
誰もがフラッと立ち寄れる和やかな雰囲気づくり。
様々な関係者と連携して施設を円滑に運営するため、私たちは全体の調整役を担っています。各施設の所管課からの情報を集約し、部署を横断した運営や、SPCではハブ機能となり、複数構成企業であることを活かした共同イベントも積極的に実施してきました。関係者との密な連携はもちろん、利用者が心地よく過ごせる雰囲気づくりも重視。気軽に挨拶や世間話ができる和やかさが定着し、目的がなくてもフラッと立ち寄れる施設へと成長したと感じています。
公共施設からまちづくりにプラスの価値を
CHECK!
官民連携のパートナーとして活動
公共施設や大型スポーツ施設などの管理で培った実績とノウハウを活かし、顧客視点に立ったサポート力を強みに全国で事業を展開している同社。「国土交通省PPPパートナー」として、PPP/PFI※3に関するセミナー開催や相談対応なども随時行っている。
※3 PPP=Public Private Partnership(公共施設の建設、維持管理、運営などを官民連携で行うこと)/PFI=Private Finance Initiative(PPPの中でも、民間の資金、経営・技術的能力を活用して行う手法)
管理実績
PFI事業・・・33件
ビル・その他指定管理者物件・・・60件
住宅系指定管理者物件・・・約25万戸
※令和7年4月1日時点(PFI事業は稼働予定・終了事業も含む)東急コミュニティー調べ
セミナー情報
公共施設再編・集約・複合化
フジタ スクエア まるくる大野から考える複合施設のつくり方
令和7年8月28日(木)13:30~(予定)
・無料/現地とオンライン(Zoom)のハイブリッド開催
・セミナー後の現地視察特典付き
登壇者/内閣府、廿日市市、株式会社長大、株式会社東急コミュニティー
お申込みはこちら
お問い合わせ
株式会社東急コミュニティー
営業開発本部 PPP営業部
事業推進チーム
東京都渋谷区道玄坂1-21-1
渋谷ソラスタ6F
TEL:03-5717-1083
Email:kanminrenkei@tokyu-com.co.jp
企業についての詳細はこちら