左：企画政策部
デジタル推進課
課長補佐　足立 悠（あだち ゆう）さん
右：元・企画政策部
デジタル推進課
（現・経営総務部 財政課）
遠藤 駿（えんどう はやお）さん

庁内全体の課題を解決するために、ノーコード開発ツールの導入を決定。

同市では、令和4年度にデジタル推進課が発足。庁内全体のDXに注力していく中で、ある課題に着目した。「Excelが、複数人での編集作業や計算処理以外のデータ管理など、表計算ソフトに不向きな用途で使われていたのです。これをなんとかしたいと考えていました」と遠藤さんは話す。

そんな中、職員から「サイボウズ」の「kintone（以下、キントーン）」を活用してはどうかと提案があった。ITの専門知識がない職員でも、業務用アプリケーションをノーコードで開発できるツールだ。また、データの同時編集やファイル共有なども容易になるという。早速調べてみると、全職員が1年間無料で使えるキャンペーンを実施中だった。「ちょうど、部署の垣根なく全員で取り組めるものを探していたところだったのです。ISMAP^※1登録の安心感もあり、申し込みを決定しました」。

こうして令和4年6月から利用を開始し、庁内の照会業務や議会事務など、多くの職員が使えるアプリを開発。しかし、予算査定までに導入メリットを十分にアピールできず、キャンペーン終了後の令和5年度の導入は、最小限のアカウント数にとどまることに。「この結果を受け、次年度はより明確に成果を出そうと計画を練り直したのです」。

※1 ISMAP=Information system Security Management and Assessment Program（政府情報システムのためのセキュリティ評価制度）

細やかなサポートを地道に続け、“全員参加”の業務改革を進める。

令和5年度以降、同課は取り組みを強化。各課への説明会に加え、少人数研修や個別相談会を頻繁に実施し、アプリ構築の伴走にも力を入れた。そんな中でも、こだわっている点があるという。「職員の異動などがあっても使いつづけられるよう、アプリ構築は担当課内で行ってもらいます。サポートは全力で行いますが、主役は現場です」。

こうして、次々と業務アプリが誕生。職員課では、健康診断・人間ドック受診日程の調整を一元化し、担当職員の手間を削減した。多種多様な相談が寄せられる市民相談課では、各部署との連携が容易になったそう。また、行政改革推進課がアプリコンテストを実施し、各課の自信作が共有された。足立さんは「職員が頑張っている姿を知る機会になりました。仲間が手を動かして改革を進める様子を目にすれば、職員のモチベーションも高まります」と振り返る。

令和6年度予算では改めて、全職員分^※2のアカウント予算を要求。査定結果は“現状のアカウント数を維持”だったが、「復活折衝の末、“1年で結果を示すこと”という条件付きで、OKが出たのです。“退路を断って成果を出そう”という激励だと受け取りました」。

※2 一般行政職員数と同数

庁外の関係者も巻き込んで、DXの恩恵を拡大させていく。

全職員が利用可能となり、さらに取り組みは活発化。「標準化に携わる部署が情報共有アプリをつくり、部署間の連携がしやすくなったと聞きました」。また、庁内だけでなく、外部とつながれる“ゲストユーザー”機能の活用効果も大きいと遠藤さん。「保育園や福祉施設など、部署によって様々な外部機関とのやりとりがあります。従来はメールや電話のみでしたが、キントーンで連絡やファイル共有が可能になり、令和6年度はそれらにかかる時間を年間1,765時間ほど削減できたようです」。

現在は50課以上がアプリを開発し、業務に活用中だ。令和7年度はゲストユーザーの導入が11課に拡大し、この機能だけで年間4,791時間の削減効果が見込まれているという。「これでも効果の一部なので、全体で考えると費用対効果は十分です。仕事の質が高まっているのも、大きな成果ですね」。

本格導入から2年、着実に歩みを進めている同市のDX。足立さんは「庁内の困り事に関するコミュニケーション用アプリがあれば、さらに活用が発展しそうです。他自治体の事例も参考にしながら、今後も工夫を続けていきたいですね」と意欲を見せる。改革は道半ばだと話す2人の目は、“全職員が主役のDX”というゴールを見据えている。

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