
使途を限定した債券で資金調達と市の取り組みをPR
ESG債※を発行して資金調達を行う自治体が増加傾向にある中、北九州市は令和3年度より、自治体初のサステナビリティボンドを発行。環境改善にとどまらず、社会的課題の解決にも有効活用している。
※環境課題や社会的課題の解決に向けた事業への資金を調達する債券のこと。グリーンボンド(環境債)、ソーシャルボンド(社会貢献債)、サステナビリティボンド(グリーンボンドとソーシャルボンドの両方の要素を含む債券)などの分類がある。
※下記はジチタイワークスVol.37(2025年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
北九州市
財政・変革局 財務部 財政課
左:財務担当係長
髙野 一成(たかの かずなり)さん
中央:主任
神谷 雄志(こうや ゆうし)さん
右:矢野 弘起(やの ひろき)さん
持続可能なまちづくりのために新たな資金調達の方法を模索。
同市は、高度経済成長期に深刻な公害問題に悩まされたが、その克服を契機に環境分野へ注力しつづけてきた歴史をもつ。こうした背景から、持続可能なまちづくりを目指し、平成30年に「SDGs未来都市計画」を策定した。
「取り組みの一つとして令和3年に初めて発行したのが、ESG債の一種であるサステナビリティボンドです。これまでも、例えば建設事業に対しては市債を発行し、財源を確保してきました。今回は、環境改善と社会的課題解決に特化して活用できる資金調達を目指しました」と矢野さんは話す。
準備の第一歩として行ったのが、資金使途として適切な事業の選定だ。「当年度の予算で市債を充てる事業の中から、環境改善や社会的課題の解決に当てはまりそうなものを抽出しました」。また、同債の発行にあたっては、第三者機関の評価と認証を受けることが必要だという。「充当する事業の実施により得られる改善効果をKPIとして設定する必要があるなど、通常の起債業務と比べて事務手続きは煩雑です」。関係各課への丁寧な説明に力を注ぎ、証券会社とも密接に連携しながら準備を進めたという。そして令和3年10月に、愛称「北九州市SDGs未来債」としてサステナビリティボンドを発行するに至った。
▲再生可能エネルギーとして期待のかかる洋上風力拠点形成の事業費は、サステナビリティボンドで調達した資金が充てられている。
個人向けの債券が人気を集め、発売から3営業日で完売へ。
同債は、機関投資家向けと個人向けの2種類がある。「発行額の規模でいえば、銀行や信用金庫をはじめとした機関投資家向けが9割以上を占めています。ただ、当市のサステナブルな取り組みに市民も一緒に参加してほしいという思いも。債券の販売を通じて、市の取り組みを広く知ってもらい、行政への参加意識を高める機会になればと、個人向けの発行にも踏み切りました」と髙野さんは語る。個人向けは1万円から購入することが可能で、市民だけでなく、市外の人が購入できることも特徴だ。「市を応援したいと思ってくれたときに、気軽に参画できる仕組みにしたいという思いがありました。そこで、少額から幅広い人たちに買ってもらえる形にしたのです」。
同市では令和3年度から6年度までに、同債を4回発行。資金調達の合計額は機関投資家向けが379億円、個人向けが35億円で、計414億円に達するという。個人向けについては、初年度に5億円分が完売したことを受け、翌年度からは発行額を10億円に倍増。令和6年度分は、発行からわずか3営業日で完売したという。「長く続けているのでリピーターも増え、販売されたら買おうと思っている人も多いのかもしれません。SNSやYouTubeを活用した広報活動や、金融機関でのチラシ掲示などの取り組みも、効果を発揮したのではないかと思います」と振り返る。購入者層については、「購入理由をアンケートで調査していますが、“市の取り組みを応援したい”という声が目立ちます。さらに、購入者の2割近くが市外からという結果も出ており、正直なところ予想以上でした」と神谷さんも驚きを示す。
各課の理解を得る働きかけを今後も丁寧に続けていきたい。
同債発行後はレポートを作成し、第三者機関に対して事業の効果を報告する義務がある。「かなり詳細なレポートで、大部分を自分たちで作成するため手間がかかります。また、結果を裏付ける数値や写真も多数必要です。担当課に有無を確認し、不足する場合は撮影の協力をお願いしています」と矢野さん。年度を重ねる中で、庁内における同債の認知度は高まってきた。一方で、第三者機関から認証を得る際など、専門知識が求められる場面も多いという。担当課の協力を得るため個別に協議を重ね、共通理解を深めるように努めているそうだ。
今後も持続可能なまちづくりを目指していく上で、同債の発行を通して取り組みを発信していきたいと話す髙野さん。「集まった資金は、例えば環境改善であれば洋上風力発電事業に、社会的課題の解決であれば市民にとって身近な小・中学校の整備や、救急車の購入などに充てています。今後も様々な広報を通じて、分かりやすくPRしていけたらと思っています」。さらに、今後の課題についてこう語る。「金利環境もかなり変わってきており、難しい局面になっていると痛感しています。今まで以上に金融に関する知識を深めながら、取り組むことが重要ではないでしょうか」。財政課として安定的かつ確実な財源確保に努めながら、まちづくりを支えていく構えだ。