
企業版ふるさと納税を通じた資金とノウハウの集約
資金調達の方法として、企業版ふるさと納税に着目したつくば市では、専門職員の「ファンドレイジング推進監」を公募し、民間人材を採用。企業との連携の枠組みを考え寄附を集めるなど、着実な成果を上げている。
※下記はジチタイワークスVol.37(2025年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
政策イノベーション部
持続可能都市戦略室
左:室長
袴田 修由(はかまた のぶよし)さん
右:元・ファンドレイジング推進監
粟井 祐樹(あわい ゆうき)さん
生産年齢人口のピークが迫り、税収減に危機感を抱いていた。
ふるさと納税による税の流出額が、平成29年からの3年間で約17億円に達していた同市。しかし、財政状況が健全な不交付団体のため、国からの補てんは受けられないという。「当市は、人口が増えていますが、近い将来に生産年齢人口が減りはじめる見込みです。そのため、税収減を見据えた資金調達が必要だと感じていました」と袴田さんは語る。
そこで注目したのが、企業版ふるさと納税だった。令和2年度の制度改正で、寄附募集が地方版総合戦略に記載がある事業に対し包括的に認定されることが決まり、すぐ動きはじめたそうだ。「当市では専門的な仕事のレベルやスピードを上げ、結果として一般職員の育成を進めるためにも、任期付職員の採用を積極的に行ってきました。そこで資金調達の仕組みづくりを担う専門職員として“ファンドレイジング推進監”を公募し、企画と運用を任せることにしたのです」。
令和4年に就任した粟井さんが託されたミッションは“共感の獲得”だった。「先進的な取り組みを継続するためには、資金だけではなく、ノウハウや人も必要です。そうしたリソースを提供してもらえる関係を企業と構築するために、カギを握るのが“共感”だと理解しました」。
企業との対話を重ねることで、寄附付きのアイデアを形に。
粟井さんは早速、事業などを通じて同市と接点のある企業に、企業版ふるさと納税のアプローチを開始。中でも特徴的な活動は“寄附付き商品”の導入だった。「当市に大型書店を開業したばかりの企業と出会ったことがきっかけです。北海道に本社を置く同社から“地域に貢献したい”などの思いを聞く中で、連携の枠組みを考え、それを通じて令和5年4月に寄附付き商品の運用を開始しました」。
同市が実施した制度は、本が売れると1冊につき10円が自治体へ寄附される仕組み。企業が一定の期間で売り上げた分の寄附を行う。同じ取り組みが広まり、令和6年12月までに複数回の寄附を受け、約260万円が集まったそうだ。さらに、小学校に書店員を招く読書推進イベントなどの連携事例も生まれたという。「寄附を一回受けて終わりではなく、継続してもらえる関係を築き、当市と連携することで企業にメリットがある枠組みをつくることが仕事だと思っています」。
▲“寄附付き”とは、企業の売り上げの一部を寄附してもらう仕組み。これをきっかけに小学生向けの読書イベントなどが実施されるように。
必要以上に失敗を恐れない心が成果を生む原動力となる。
企業版ふるさと納税のパートナーは書店だけにとどまらない。ほかの事業にも寄附が集まり、令和5年度は27社から計2,400万円以上の寄附金が集まったという。「100件にアプローチしても成立するのは2~3件だと思います。だからこそ余裕をもって多くの接点をつくることは大切です。袴田さんが、自治体として守るべきポイントを示しつつ自由に仕事をさせてくれたので、助かりました」と粟井さんは感謝を述べる。
袴田さんも「これまで日常的に企業と連携することがなかったので、粟井さんのおかげで関係を構築できてありがたいです。公務員にはミスをしてはいけないというプレッシャーがあり、誤解を招かないように説明が冗長になりがちです。でも共感を得て納得してもらうには、コミュニケーションが大切だということを、私も部下も学びました」と語る。2人が口を揃えて言うのは“普段から企業と信頼関係を築いておくことの重要性”だ。共感を基盤にした同市の取り組みは、きっと将来の大きな助けになるだろう。
独自のアイデアをかけ合わせて財源確保に取り組んだ事例を紹介!
青森県むつ市 自治体YouTubeチャンネルとして全国初となる収益化に成功。
むつ市では、“市のファンづくり”を目的にYouTubeチャンネルを運用。令和2年に、チャンネル登録者1,000人以上などの、チャンネル基準をクリアしたことから、収益化に向けた取り組みが始動した。総務部門や法規部門に確認を行いながら、“伝わる”ことを重視し、試行錯誤を繰り返しながら動画を制作したという。
▲市長が自ら出演し、“むつ市の今”を伝える。
総務部 市長公室 広報グループ
主任主査
羽根田 雄斗(はねだ ゆうと)さん
岩手県山田町 閉校物品をフリマアプリに出品し2年間で累計売上額が100万円超に。
フリマアプリを運営する「メルカリ」から、閉校した学校備品の売却処分について提案を受け、検討を開始。他自治体に前例がなく、地方自治法などに沿った仕組みを手探りで構築したという。令和3年には全国初の出品を行い、町章を掲載して自治体が出品していると分かるように工夫。翌年度には累計売上額が100万円を超えた。
▲7校の備品を出品。写真は旧・織笠小学校。
財政課
主任
小林 徹(こばやし とおる)さん
長野県 事業検討に“ガチ(本気)”で取り組み年間1億円超の寄附金が集まった。
ポータルサイトの委託料などの事務経費が、寄附額の5割近くに及んでいたことなどが課題だったという長野県。施策への共感による寄附募集を目指し、返礼品のないふるさと納税受付サイト「ガチなが」を、県直営で令和5年4月に開設。全庁で募集事業の検討や広報活動を行い、同年度だけで寄附額が1億円を超えた。
▲事業への熱意を表現したというロゴマーク。
総務部 税務課
主任
藤本 健太(ふじもと けんた)さん