
熊本県の村橋さんは、阿蘇地域の住民と交流し、無償で仕事を手伝う“レンタル公務員”として活動している。どんな仕事に取り組み、地域の人たちとどのような関係を築いているのだろうか。そして4年目を迎えて感じることとは。とある一日の活動を取材した。
※所属およびインタビュー内容は、2025年3月取材当時のものです。
プロフィール
村橋 友介(むらはし ゆうすけ)さん
長崎県佐世保市出身。
2019年、熊本県に入庁。阿蘇地域振興局総務振興課に在籍していた2022年から、地域のイベントなどを無償で手伝う“レンタル公務員”の活動を開始。2024年4月に土木部河川課に異動してからも継続している。
村橋さんが中心となって立ち上げた九州公務員ネットワーク
自治体を越えてつながり、ワクワクするまちをつくる「WAKUSU LABO.」。
【レンタル公務員とは】
地域住民から依頼を受け、休日に様々な仕事を無償で手伝う。大工やまき割り、イベントの運営など、幅広く取り組みながら住民との交流も深めている。
ジチタイワークスvol.24(2023年2月発行)G-people
イベント運営の手伝いなど、活動累計は65回にのぼる。
コーヒーの実の収穫が始まる3月、南阿蘇村の「後藤コーヒーファーム」で収穫体験のイベントが開かれた。同ファームでは、苗木1本を年間3万3,000円で契約するオーナー制で栽培している。村橋さんは1本の苗木のオーナーとしてコーヒーを収穫しつつ、参加者の誘導や受付など、イベントの運営にも携わる。
収穫イベントには、県内外から約40人のオーナーが参加し、自分の苗木に付いた実の収穫や、木の手入れに取り組んだ。村橋さんは参加者と交流しながら手入れを手伝ったり、収穫できる状態の実を見極めたり。ファーム代表の後藤至成(ごとう しせい)さんに代わり、収穫した実の脱穀・乾燥作業のやり方を自身の経験を交えて説明していた。「ここに来るようになって約3年が経ちます。だんだん運営側の一員として、アドバイスができるようになってきました」と笑顔を見せる。
▲ 参加者とともに収穫作業にあたる村橋さん(右)
代表の後藤さんは、元高校教師だ。阿蘇の新たな特産品として、“阿蘇コーヒー”を開発しようと、高校生たちと栽培を始めたという。定年退職後は南阿蘇村に拠点を移し、平成30年からファームを営んでいる。村橋さんが阿蘇地域振興局の業務でファームを訪れたことをきっかけに、プライベートでファーム併設の畑を借りて野菜を育てるようになり、交流が始まった。その後、レンタル公務員の活動を始め、令和4年の苗木の植え付けを手伝ってからは定期的に訪れているという。
阿蘇コーヒーは高地の寒暖差で育つことで、特有の甘みや香りが生まれるのだとか。阿蘇の湧き水で飲めることも、地域ならではの魅力だ。後藤さんがオーナー制でファームを運営しているのは、コーヒーを育てるために阿蘇を訪れる人が増え、地域の人との交流が活性化することを目指しているから。“阿蘇を盛り上げたい、地域内外の人と交流を深めたい”というコンセプトは、村橋さんの活動と共通する。
▲ 後藤さんとはレンタル公務員の活動を始める前から、ファームで交流している。
活動は4年目に突入し、関係性や役割にも変化が。
入庁3年目で阿蘇地域振興局に配属された村橋さんだが、当時は新型コロナの影響で地域と関わる仕事が縮小されていた。“このまま過ごすのはもったいない”と、個人的に地域に飛び出してから3年が経ち、活動は累計で65回に。「当初は、丸3年も続くと思っていませんでした」と振り返る。
「具体的には決めていませんでしたが、レンタル公務員をきっかけに、次の活動に発展させたいと思っていました。でも、続けていると同じ人に繰り返し声をかけてもらえるし、そこからつながる出会いもあります。繰り返し会うことで関係性が深まり、同じイベントでも貢献できる範囲が増えているように感じ、うれしく思います」。
令和6年度から本庁の土木部河川課に異動し、主に予算管理の業務を担当している。新しい業務や環境に慣れるまで、大変な時期もあったそうだが、それでもレンタル公務員を続けているのは、「この活動と、阿蘇が好きだから」。
「これまでのように庁外に出る機会はほとんどないので、休日に阿蘇に来ることが息抜きのようにもなっています。頻度は少し下がりましたが、それでも週末に活動があったときは、“また明日から頑張ろう!”と月曜日を迎えられていると気づきました」。
レンタル公務員の初仕事となったのは、正月の飾りを燃やして無病息災を願う行事“どんど焼き”。阿蘇を離れてからも変わらず手伝いに行っている。「当たり前のように参加者名簿に入れてもらっていて、それがうれしいですね」。定期的な仕事は、関係性や役割の変化を感じるとともに、原点に立ち返る機会にもなっているようだ。(写真:どんど焼きのイベントを手伝うと初心に返り、続けてよかったと実感できるという。)
業務や立場を問わず、様々な場面でつながりは活かせる。
現在所属する河川課では、阿蘇地域などにある遊水地の管理をどう円滑に行うかが、課題の一つだという。そこで、野焼きの前に行う“輪地切り”に着目。輪地切りとは、野焼きの火が予定されている場所以外に燃え広がらないよう、周囲の草を刈って防火帯をつくる作業だ。村橋さんの担当業務ではないものの、もともとつながりがあった阿蘇の輪地切りの研修を行う団体に相談したそうだ。
「遊水地を研修会場に使うことで、草刈りと管理が省力化できないかという案が課内で出ました。まだ実現には至っていないのですが、レンタル公務員としての出会いを、異動先でも活かせると思えた経験です」。
今後は、レンタル公務員を組織の中に広げていくことを考えているという。「地域に貢献したいと思って公務員になった人は多いはず。外で活動したいと思っている人もいるのではないでしょうか。県庁では直接住民と関わる業務が少ないのですが、地域に出ていくことで意欲を発揮できるチャンスが生まれます」。
「私が作業を手伝うときに、参加してくれる人を募って同行できればいいなと考えています。ここまでたくさんの縁をつないでもらっているので、自分自身もつなげる役割になれたら」。公務だけでは得られない経験・出会いがあり、それを仕事にも活かしている村橋さん。地域への感謝、まわりの人に光を当てたいという思い、そしてこの活動を心から楽しむ姿勢は、始めた頃と変わらない。3年間を通して確かめた喜びを、これからは仲間につなげていくつもりだ。
▲ 「この活動が好き」と迷いなく話す村橋さん。表情からも充実ぶりがうかがえる。
「WAKUSU LABO.」の仲間【戸上 雄太郎】さん
住民の主体性と地域の魅力を引き出し、住みたいまちを自分たちの手でつくる。