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全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。今回はその中から、神奈川県横浜市の「スマホアプリを用いた消防団活動の効率化」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
本業を持ちながらも、地域防災の中心的存在として活動する消防団員は、全国的に団員の減少や高齢化が進んでいる。消防団員8,305人の限られた時間を有効活用するため、民間事業者と協力し、災害現場における活動の効率化と、事務処理業務を支援するスマホアプリを開発し運用を開始した。
背景・目的
消防団活動における様々な業務は、手作業や紙を基本とするアナログ的な処理がされている場面が多く、消防団員の負担となっていた現状があり、消防団に最も期待される災害対応や訓練に充てる時間を減少させる要因となっていた。
そのため、消防団活動の効率化と消防団員の負担軽減を目的として本事業を立ち上げた。
▲従来の活動実績報告書
取り組みの具体的内容
市内の消防団、民間事業者と協力し、実証実験を通じてスマホアプリを開発。
令和5年4月以降市内の全20消防団で運用を開始し、従来は手作業や紙で処理されていた様々な業務がデジタル化され、アプリによる処理が可能になったことで消防団活動の効率化を実現した。
具体的には、災害発生情報は自動的にアプリで通知されるようになったことに加え消火栓の設置場所もアプリで確認できるため、災害対応における活動は迅速化された。
また、活動終了後に作成する活動実績報告書も従来は紙であり、作成・提出・保管が大きな負担となっていたが、アプリで処理できるようになったため、結果的に本来消防団に期待される災害対応や訓練等に充てる時間の確保に繋がった。
▲スマホ用アプリ 消防団ワークス
特徴
・災害対応と事務処理の双方を兼ね備えた、消防団活動にマッチするアプリの開発を実現した。
・アプリの知的財産権をあえて本市が持たず、他区市町村でも利用できる市販商品としてリリースした。
・開発段階から団員の声を第一に重視し、運用開始時にギャップを感じさせないよう心掛けた。
・現場の業務フロー見直しを行った上で、アプリの機能を精査した。
・時代の流れと共に必要な機能が移り変わることを考慮し、継続的な機能改善を前提とした設計とした。
取り組みの効果・費用
災害発生時の情報伝達に要していた時間を年間3,500時間削減するとともに、紙ベースで処理されていた年間41,000件に及ぶ報告書を削減し、活動実績把握に要していた時間についても約54%削減に成功した。
市販アプリのサービス利用のため初期費用は不要であり、利用者数に応じた月々の利用料が発生する。
取り組みを進めていく中での課題・問題点
消防局にはデジタル化に係る専門的なノウハウと予算が無く、事業推進が困難であると見込まれたが、専門部署の協力を得るなど、組織を跨いだ全庁的な実施体制を構築することでアプリ導入を実現した。
今後の予定・構想
画像や動画の共有などコミュニケーションを活性化する機能の実装、消防団の身分証など現状紙ベースで処理されている事務の更なるデジタル化を検討している。
様々な情報が紙からデジタルに移行することで、収集できる情報の「量」「速度」「精度」を向上させ、これらを施策に有効活用することで、消防団活動の更なる効率化を目指している。
他団体へのアドバイス
新規事業へのチャレンジには様々な専門知識・ノウハウが必要です。自組織だけで完結させるのではなく、必要に応じて組織全体を巻き込み、十分な実施体制を確保することが重要であると認識しています。
そもそも行政の業務は紙や手作業で処理されることを前提にフローが定められているものが殆どであり、現状の業務をそのままデジタル化しようとすると、様々な場面で非効率化を招く原因となります。デジタル化推進と業務フロー見直しはセットであり、切り離せないものであると認識頂ければと思います。
デジタル化の推進には、その字面から受ける第一印象とは異なり、実現までに地道で継続的な努力を必要とするフェーズが必ず存在します。しかし、実現後には絶大な効果を発揮し、業務の効率化・負担軽減に寄与しますので、課題解決に向けた強い意志を持ち続け、事業に取り組んで頂ければと思います。