
誰にとっても失敗は怖いもの。「できることなら挑戦せず、現状維持でいきたい‥…」と考える人は、決して珍しくないだろう。本特集では、現役の自治体職員が経験した“しくじり”と、そこから得た気づきをご紹介。
今回は、民間企業での長い経験を経て自治体に入ったCさんの失敗談。新しいことへチャレンジしようと奮闘した結果、現場で起きたすれ違いとは……。行政と民間の“常識のギャップ”で発生したトラブルを振り返る。
※掲載情報は公開日時点のものです
事業者の、せっかくの好意が台無しに。
――Cさんは民間企業出身だそうですね。
そうです。長いこと会社員をしていたのですが、まちづくりに興味があって自治体の世界に飛び込みました。
当時はシティプロモーションの仕事をしていました。私は民間時代に進物店の広告も手がけていたので、その経験をもとに“出産応援ギフト”を思いつたのです。すでに多くの自治体が実施していますが、県内では実施しているところがなかったので「これだ!」と思いつき、スポンサーになってくれそうな団体を見つけ、子育て担当課にも話をして、実現に向けて順調に進めました。
――その取り組みの中で壁にぶつかった、と。
構想が固まって、協力団体の内部でもOKが出たので内部の合意を得ようと住民担当課に行くと、「いち事業者に肩入れするようで好ましくない」と言われました。
しかもその後、福祉担当課にも行ってみると「ギフトの内容が乏しい。案内の配布にも協力できない」と……。定期健診の場で住民に配布する予定だったので、話が行き詰まってしまったのです。
この仕組みは、ギフトをきっかけに住民とつながることがスポンサーのメリットになるのですが、うちのまちは人口規模が小さいので、そのメリットはゼロに等しい。それでも団体の人は「やろう」と言ってくれたのに、申し訳ない気持ちになりました。
振り返ると、多くの理由が思い当たる。
――相手の好意を裏切ってしまったような感じですね……原因は何でしょうか?
意識の違いと、根まわしのタイミングが大きかったと思います。
まず、この取り組みは自治体にとってコスト負担がほぼゼロです。配布などの負担は多少発生するものの、県内初の試みとしてPRすればメディアに取り上げられる可能性が高い。注目が集まれば多くの人に認知され、住民にとっても無料でギフトを受け取れるメリットがあります。これら全体がベネフィットです。
私は民間出身ということもあり、こうした視点で考えていたのですが、その意図が十分に伝わっていなかったと感じます。
あと、私が全体を構想して進めようとしたことが、「あなたが勝手に決めたこと」と受け取られ、不評を買ってしまったのかなと振り返ります。
――根まわしについては、もう少し早めに相談すれば良かったということでしょうか。
そうなんですが、これが難しい。先方でNGが出たら職員に割いてもらった時間はムダになるし、先方のOKが出てから話をもっていったら庁内で反発を買うし。都度ベストのタイミングを探るしかないと思います。
そしてもう1つ、この件は私が発案して組み立てましたが、私がいなくなったら「誰が担当になるのか」というのもあったような気がします。
横連携は、自治体の永遠の課題だと認識。
――この件でCさんはどんな学びを得ましたか?
やはり合意形成に至るまでのステップ、根まわしの大切さです。
それ以来、重要な話をするときには上司にも同席してもらうことにしています。また、決定すべきことがある場合には関係各課にも入ってもらう、ということです。双方にとって手間ですが、後でひっくり返るよりはラクですから。
同時に、他自治体の先行事例も紹介して、合意を得やすくしていくのも有効なのですが、事例は慎重に選ばないと。私がギフトの件で紹介した事例は政令市のものだったので、スケールが違いすぎて見劣りしてしまい、「内容が乏しい」と言われたのです。これも失敗でした。
――なるほど。やはり庁内の合意形成は難しいものですか?
シティプロモーションは庁内横断的な取り組みなので、特にそれを感じる面があるかもしれません。起案が課内で通っても、原課では通らなかったということはよくあります。横串を刺すというのは、行政にとって永遠のテーマかなと感じるときもあります。アジェンダごとにチームを組むという取り組みを始めた自治体もあると聞いています。
ただ、これからの人口減時代では、もっとスピードが求められてくると思うんです。私が民間出身だから痛感することなのかもしれませんが、縦割りから生じるひずみは早急に解決した方がいい。
この先もっと職員が減っていくと言われているのに、今のスピード感・価値観のままだと大変なことになるのでは、と危惧しています。その感覚のズレで私は失敗したので、あまりエラそうなことは言えないのですが……。
ヒントは失敗事例の中にこそ転がっている。
――「失敗したくない」という職員に向けてメッセージを!
まずは仲間を増やすことだと思います。自治体の中で、1人では何も変えられません。もし庁内に仲間が見つからないなら、外部の人でもいいと思います。
地域の事業者や住民とつながり合って、その話に耳を傾ければ課題は見つかるでしょうし、住民の声に応えることは自治体の仕事として「成功」に向かうものだと思うんです。
そして、学び続けることも大切。私もセミナーなどによく参加しますが、気になる話があれば電話をして直接話し、資料をもらったりして、仕事の参考にします。
ただし、注意しておきたいのは、上手くいった事例や成功体験ばかりを参考にしても、同じようにはいかないということ。個人でも組織でも同じですが、取り組みの中でイレギュラーが発生しても対応できるようにしなければならない。
そうしたヒントは、失敗事例の中にあるのかもしれません。私の失敗も、誰かの役に立てたらうれしいです。