
公用車は日々の業務に欠かせない存在である。しかし、運用や管理にかかるコストの問題、そして、環境におよぼす影響など、解決すべき課題が山積しており、現在の方法での運用をそのまま続けていくのが難しいという自治体もあるだろう。
公用車の運用管理について、問題点を確認しながら、様々な最適化の方法を紹介する。また、ほかの自治体の取り組みから、課題の解決に向けて何ができるのか具体的に考えてみよう。
【目次】
• 公用車の運用に関心が高まっているのはなぜ?
• 運用最適化のために考えられる手段とは
• 国の補助金を賢く利用しよう
• 自治体の実際の取り組みを見てみよう
• 公用車の管理・運用を見直して業務効率化・脱炭素につなげよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
公用車の運用に関心が高まっているのはなぜ?
はじめに、全国的に公用車の運用になぜ関心が高まっているかを確認しておこう。
コンプライアンスの強化
令和6年度、複数の自治体で、車検切れ状態の公用車を運行していたという問題が発覚している。
また、道路交通法改正により、令和5年12月からは「白ナンバーの車を5台以上使用」「定員11人以上の車を1台以上使用」する事業所に対し、アルコール検知器を用いたアルコールチェックが義務化されている。
このような理由もあり、自治体の公用車運用に対するコンプライアンス意識が高まっている。
経費削減
厳しい財政状況の中、各自治体では運用効率の改善や台数の削減など、公用車に関する経費の削減に注力するようになっている。
アナログな手順による工数圧迫
従来、自治体の公用車運用では、以下のようにアナログな手順が多かった。
・手書き台帳での利用予約
・運転免許証の確認
・アルコールチェック
・運転後の車両日誌の記入
・鍵の受け取りおよび返却
官民問わず働き方改革が推進される現在、公用車利用手続きに時間を取られ、本来の業務時間が圧迫されている点が問題視されている。
環境意識の高まり
国を挙げて「温室効果ガス排出削減」を目指していることもあり、各自治体でも、公用車の台数削減、EV車への切り替えに力を入れ始めている。
運用最適化のために考えられる手段とは
環境や業務効率化に対する意識の高まり、そして、コスト削減が重要視されていることもあり、公用車の運用方法について、改善を検討する自治体も多いだろう。
公用車の運用最適化のために考えられる手段を具体的に紹介する。
台数の最適化
まずは台数を最適化することを検討してほしい。各部署の公用車稼働状況調査から、必要な台数を割り出し、稼働が多い部署には多くの台数を配置し、稼働が少ない部署からは台数を減らすということだ。
稼働状況を調査するためのアプリやシステムもある。手書きの運行日報から調査するのが難しいという場合は、これらのツールの利用も検討しよう。
運用のデジタル化
紙ベースだった公用車貸出管理をデジタル化すると効率化が実現できる。部署ごとの貸出台帳での管理から、デジタルでの一元管理に変更することで、管理担当者を置く必要がなくなる点もメリットだ。
また、パソコンから公用車の利用状況が一目で分かり、予約もしやすくなるため、職員の業務効率化にもつながる。
EV車の導入
公用車をガソリン車からEV車に変更することで、ガソリン代などの維持費を削減できる。さらに、CO2排出量を従来の3分の1ほどに抑えられる点は環境にも優しいといえるだろう。振動や騒音も少なく静かに走行できる点は、地域住民にとってもメリットが大きいはずだ。
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公用車のシェアリングサービス
公用車を業務時間外に地域住民に貸し出す「シェアリングサービス」の導入も検討してはいかがだろうか。貸し出しや保険関係の管理、整備点検はシェアリングサービス会社が行うので、自治体側の負担は大幅に軽減される。導入時の費用負担もシェアリングサービスを利用しない場合と比べて削減できるだろう。
なお、シェアリングサービスを導入する際は、災害時には優先的に自治体が利用できるのかを確認しておくとよい。
国の補助金を賢く利用しよう
令和5年5月「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」が成立(※1)した。この法律の目的は、10年間で官民合わせて150兆円超の脱酸素に向けた投資を推進することである。
※1出典:経済産業省「『脱炭素成長型経済構造移行推進戦略』が閣議決定されました」
推進のための補助金交付も発表されている。公用車の運用最適化のためにEV車を導入する場合、コストがかかる点が難点だが、負担を少しでも抑えるために補助金の活用も検討したい。補助金の種類と概要を確認しておこう。
地域脱炭素推進交付金
脱炭素の取り組みを行う地方公共団体などに対し、地域脱炭素推進交付金で支援する。交付率は3分の1~3分の2となっている。
自治体の車載型蓄電池の導入、EV公用車の導入などが対象となる。また、EV公用車を活用したカーシェアリングも交付金の対象だ。
クリーンエネルギー自動車導入促進補助金
「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」 という施策を実現させるための補助金である。毎年必ず募集があるわけではないので注意が必要だが、タイミングが合えば申請が可能だ。
補助対象は決められた期間内に新車新規登録(登録車)または新車新規検査届出(軽自動車など)された自動車となっており、補助対象者は、対象者を購入する個人・法人・地方公共団体だ。
補助金額は車両の種類ごとに異なるが、一例を挙げるとEV車の場合、ベースは上限65万円、条件付きで上限85万円である(令和4年度補正予算・令和5年度当初予算の募集時の場合)。(※2)
※2出典:経済産業省「令和4年度補正予算・令和5年度当初予算『クリーンエネルギー自動車導入促進補助金』」
クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充填インフラなどの導入促進補助金
2050年のカーボンニュートラルゼロ実現に向けて、クリーンエネルギー自動車の充電施設や水素ステーションの整備費用に対して交付される補助金(※3)である。具体的には以下の通りとなっている。
・充電インフラ整備事業など:EV車やプラグインハイブリッド車の充電設備の購入費用や工事費などへの補助
・水素充填インフラ整備事業:水素ステーションの整備費や運用費を補助
※3出典:クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金
自治体の実際の取り組みを見てみよう
公用車の運用最適化に取り組む自治体の例をご紹介しよう。
【京都府向日市】公用車運用の効率化や台数削減、EV車導入
京都府向日市では、市政施行50周年を契機として、令和4年10月に「ゼロカーボンシティ宣言」を行っている。
この施策の一環として、公用車のEV車への切り替えが推進されることとなった。
EV車への切り替えの際、前提となったのが台数の削減である。それまで向日市では公用車を部署ごとに管理していたため、「公用車が足りない」という部署がある一方、駐車場には公用車が残っている、という状況が続いていた。
そこで、社用車の運用管理の一元化を行い、社用車は全部署で共有とした。結果、車両削減が実現している。
また、車両管理アプリの運用もスタートした。車両予約、運転日報、アルコールチェックなども全てデジタル化させ一括管理を行い、業務の省力化につなげている。
【群馬県】EVカーシェアリング実証実験『EGシェア』を開始
群馬県では、令和5年9月よりEV公用車を一般の人でも利用できるというカーシェアリングの実証実験「EGシェア」を行っている。
県内5カ所に20台のEV車を配置し、平日は県庁や近隣自治体が公用車として共用、土日祝日は県民や観光客が使えるようカーシェアリング事業を行っている。ちなみに、県民や観光客の予約はカーシェアリング事業者が提供するアプリ上から行えるため、県の業務負担は増えていない。
【茨城県大子町】時間のかかる公用車管理をシステム化
茨城県大子町では、公用車管理のシステム化の実証実験を行っている。これまで時間がかかっていた紙の台帳での運行記録簿管理、そしてアルコールチェックをシステム化することで、業務負荷軽減につながった。
さらに、各部署に任せていた公用車管理がシステム導入で標準化されるというメリットもあった。
茨城県大子町が導入したシステムでは、アルコール計測結果などの確認項目を自動で帳票化することもできる。紙で管理する場合より紛失リスクが低くなる点も利点といえるだろう。
公用車の管理・運用を見直して業務効率化・脱炭素につなげよう
公用車の管理・運用について、従来のままでよいのか迷っている自治体は多いのではないだろうか。今回紹介したように、アナログな方法での貸出管理、運用記録管理は職員の手間が増えるだけでなく紛失の心配もある。システム化での業務効率化を積極的に考えていこう。
また、脱炭素社会の実現のために、公用車の台数最適化も実現したい。その際は、ただ台数を減らすだけでなく、必要な人が使える台数はきちんと維持するべきだろう。そして、徐々にでも環境に優しいEV車に切り替えることも検討したい。