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エコツーリズムは自然環境と人間活動を両立する新しい観光の形!過去の受賞例もご紹介

インバウンドを含めた旅行客が増加する中で、地域に負担をかけない旅行スタイルとしてエコツーリズムが注目されている。エコツーリズムは自然環境やそれに根ざした歴史、文化など、その地域固有の魅力を観光客に伝えることで観光資源の価値を理解してもらい、環境保全につなげる観光のあり方だ。

本記事をとおして、観光と環境保全を両立させる意義について理解を深めよう。具体的にはエコツーリズムの定義、メリットや歴史、エコツーリズム大賞の受賞例を詳しく解説する。

 

【目次】
 • エコツーリズムの定義とは

 • エコツーリズムで期待される効果とは
 • エコツーリズムはどうやって発展してきた?
 • 環境省のエコツーリズム大賞とは?過去の受賞例をご紹介
 • 地域の魅力を知り、観光資源を守る持続可能な観光のあり方を考えよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

深見 聡(ふかみ さとし)さん  長崎大環境科学部准教授 監修 

 深見 聡(ふかみ さとし)さん
 長崎大環境科学部准教授

 1975年鹿児島市生まれ。鹿児島大学理学部地学科卒、同大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。2008年より現職。専門は、観光地理学・環境教育論。修士課程在学時の2001年に、NPO法人かごしま探検の会を設立、初代代表理事としてまち歩き観光の立案や実施を推進。第6回日本観光研究学会賞(共同受賞)。長崎県環境アドバイザー。五島列島ジオパーク推進協議会学識顧問。奄美群島エコツーリズム推進協議会構成員。主著に『ジオツーリズムとエコツーリズム』(古今書院、単著)、『観光とまちづくり―地域を活かす新しい視点』(古今書院、共編著)

 

エコツーリズムの定義とは

エコツーリズムの定義とは

環境省はエコツーリズムを次のように定義している。「地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組み」(※1)。

エコツーリズムによって地域の観光のオリジナリティが高まるだけではなく、地域住民も自分たちの身の回りの資源について価値を再認識することで、地域社会全体の活性化が期待されている。

※1出典:環境省「責任ある観光~エコツーリズム」

グリーンツーリズムとの違い

エコツーリズムと似たことばとして、グリーンツーリズムが挙げられる。グリーンツーリズムは農村活性化政策の1つで、農業だけでは存続できない地域で観光産業を推進しようという取り組み。イギリス、フランス、ドイツなど欧州で始まり、農村が持つ食料生産以外の機能に注目し、それを観光に活用することで農村の活性化を目指す。

一方、エコツーリズムは農村に限らずに、今あるかけがえのない自然や景観を守るための保全活動をメインテーマにした取り組み。両者の取り組みが持つ考え方は、出発点や目的が違うことを理解しておきたい。

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エコツーリズム推進法とは

エコツーリズム推進法は平成20年に施行された法律だ(※2)。地域の自然環境の保全に配慮しながら、創意工夫を活かしたエコツーリズムを適切な形で推進していこうと、政府の基本方針や自治体の役割など基本的なルールが示されている。エコツーリズム推進法の4つの基本方針について詳しく見ていこう。

※2出典:環境省「エコツーリズム推進法」

自然環境の保全

エコツーリズムは地域の自然環境の保全・保護を大前提とした取り組みだ。観光事業による自然破壊や文化的資源の劣化を防ぎながら、地域を訪れる人たちに自然との触れ合いや交流を楽しんでもらうことを目的としている。

観光振興への寄与

エコツーリズムは、その地域にしかない自然や伝統文化を観光資源として活かす取り組みでもある。地域住民にとってはありふれた日常の景色でも、外から訪れる人にとっては非日常的な体験として認識され、地域外の人を呼び込むきっかけとしてエコツーリズムが観光振興へ寄与すると期待されている。

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地域振興への寄与

エコツーリズムでは観光客を迎えるために、地域が一体となって協力する必要がある。事業者、自治体、ボランティア団体、地域住民が関わるきっかけにもなり、地域コミュニティの活性化にもつながると期待されている。

環境教育の活動

エコツーリズムは環境教育の手段としても効果的な取り組みだ。現地のツアーガイドやアクティビティに参加することで自然への理解が深まり、都市部から訪れる人たちが自然体験をすることで地球環境を考えるきっかけにもなる。

エコツーリズムで期待される効果とは

エコツーリズムに取り組むことで、期待できるメリットについて解説する。

エコツーリズムで期待される効果とは

地域経済への貢献

エコツーリズムが地域経済に直接的に貢献することが、大きなメリットとして挙げられる。地域への来訪者が増えることで、エコツーリズムに関わる観光産業をはじめとした様々な事業者に経済的な恩恵をもたらし、地域の雇用や収益上昇が期待できる。

環境保全につながる

エコツーリズムの最大のテーマは環境保全である。その地域の自然環境や歴史文化といった資源を支えるための経済基盤を築けることもメリットだ。エコツアー料金の一部がツアー区域の環境保全・設備費として活用されるケースも多い。

地域イメージや住民意識の向上

環境保全を目的としたエコツーリズムを推進することは、自然環境を大事にするといった地域イメージの向上につながる。また、これまでの施設開発による観光と違い、自然や文化を中心とした観光開発をする過程で、住民意識の向上にもつながると期待されている。

エコツーリズムはどうやって発展してきた?

エコツーリズムの概念は欧米で生まれ発展してきた取り組みだ。エコツーリズムを巡るこれまでの歴史を振り返ってみよう。

欧米でのエコツーリズムの誕生

欧米では産業革命以降、工業化したことで様々な場所で自然破壊が進んだ。特に第二次世界大戦終結後の1950年~1970年代にかけて、各地で工業が発展することで同時に自然破壊も急速に進み社会問題となった。

エコツーリズムが最初に提唱されたのは、昭和57年に国際自然保護連合(IUCN)が行った「第3回世界国立公園会議」でのこと。エコツーリズムが「自然保護の資金調達機能として有効」とされた。その後、1980年代半ばからは国際的にも「環境と人間活動の両立」を目指す動きがあった。

欧米でのエコツーリズムの発展

欧米でのエコツーリズムの発展
オーストラリアはエコツーリズム先進国として知られており、平成8年にエコツーリズムの認証制度(NEAP)を導入した。

国際連合は平成14年を「国際エコツーリズム年」と定め、この年にはカナダのケベックで「世界エコツーリズム・サミット」、南アフリカのヨハネスブルクで「持続可能な開発のための世界サミット」が開催された。その中でエコツーリズムをはじめとする持続可能な観光の促進、地域社会の文化や環境維持が合意されている。

日本でのエコツーリズムの誕生

日本でのエコツーリズムの誕生

日本では平成5年に白神山地と屋久島が世界自然遺産に登録され、この頃からエコツアーを開催する民間事業者が各地で活動するようになった。

エコツーリズムが正式に国の制度として登場したのは平成14年に制定された「沖縄振興特別措置法」。この中にエコツーリズム推進措置が盛り込まれた。

環境省のエコツーリズム大賞とは?過去の受賞例をご紹介

環境省では平成17年から毎年、エコツーリズム大賞を選出している(※3)。エコツーリズムに取り組む団体、事業者、自治体などを対象にしており、優れた取り組みを表彰するもの。ここからは過去の受賞例を見ていこう。

※3出典:日本エコツーリズム協会「エコツーリズム大賞」

【高知県黒潮町】高知県黒潮町の長さ4kmの砂浜を「美術館」に

【高知県黒潮町】高知県黒潮町の長さ4kmの砂浜を「美術館」に

令和5年度の大賞を受賞したのは、高知県黒潮町で連携してエコツーリズムに取り組む、NPO砂浜美術館、大方遊漁船主会、黒潮町観光ネットワークの3団体。高知県黒潮町の長さ4kmの砂浜を「美術館」ととらえて、その場所でエコツアー、アートイベント、環境教育プログラム、防災学習プログラム、ホエールウォッチングなどを開催している。

まちで暮らす人々の日常や、ありのままの風景、土佐湾を泳ぐクジラも全てが大切な「作品」として観光客に楽しんでもらう。南海トラフ地震発生時、日本一の高さの津波が想定されている地域でもあることから、近年は自然の恵みだけではなく、災害とも向き合う防災学習プログラムにも力を入れている。


【北海道川上郡弟子屈町】「硫黄山(アトサヌプリ)」の噴気孔を特定自然観光資源に指定

【北海道川上郡弟子屈町】「硫黄山(アトサヌプリ)」の噴気孔を特定自然観光資源に指定

令和4年度の大賞は北海道川上郡弟子屈町の、てしかがえこまち推進協議会と摩周湖観光協会の取り組み。弟子屈町には阿寒摩周国立公園があり、摩周湖や屈斜路湖のほか森林や火山など自然に恵まれた場所。

平成28年にエコツーリズム推進全体構想を策定し、令和2年には硫黄山(アトサヌプリ)の噴気孔を特定自然観光資源に指定した。資源の保全を目的とした立ち入り制限をかけ、認定ガイド制度の仕組みも整備。許可されたガイドのもとで硫黄山に登る「アトサヌプリトレッキングツアー」の販売も行っている 。

 

【香川県】豊かな海を目指して、里海づくりの人材を育成

令和5年度の特別賞を受賞したのは、香川県のかがわ里海大学協議会。香川県と香川大学が産学連携して「里海づくり」の人材を育成することを目的に、学びと交流の場「かがわ里海大学」を運営している。ユニークな取り組みで県民の参加を促し、担い手育成のための講座や一般向けのワークショップ、体験ツアーも開催。

里海づくりの担い手育成講座では、ふるさとの海と楽しく親しむ「スタートアップ」から、里海の理解を深める「ステップアップ」、里海体験ツアーのガイドを目指すための「スキルアップ」が設けられている。

地域の魅力を知り、観光資源を守る持続可能な観光のあり方を考えよう

地域の魅力を知り、観光資源を守る持続可能な観光のあり方を考えよう

エコツーリズムは地域の自然環境や歴史文化などの資源を保全しながら、観光事業を行う持続可能な観光スタイルのこと。その地域にしかない魅力を観光客に伝え、理解してもらうことで環境保全につなげようという取り組みだ。

自分の地域の魅力や価値を見つめ直し、次世代にその資源を残す経済基盤を築くためにも、エコツーリズムの推進に積極的に取り組んでいきたい。

深見 聡(ふかみ さとし)さんの著書 

『観光と地域―エコツーリズム・世界遺産観光の現場から―』(南方新社)

 

『観光と地域―エコツーリズム・世界遺産観光の現場から―』(南方新社)

 

急激な人口減少と超高齢化の中、世界遺産とエコツーリズムを軸に、息の長い観光への道筋を探ります。

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