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地域医療連携とは? かかりつけ医制度で適切な医療機関の選択を

令和7年には団塊の世代が後期高齢者となり、医療や介護のニーズが大きく増えることが予想されている。

こうした背景を踏まえて日本のこれからの医療体制を考えると、地域医療連携が重要なキーワードとなってくる。

高齢者が増えると医療機関への負担が増えるため、地域の医療機関が互いに連携し、医療資源を効率よく活用していくことが必要だ。

本記事では、地域医療連携の重要性や具体的な取り組みについてわかりやすく解説する。地域医療連携の現状や役割を理解し、自治体の医療支援業務の参考としてほしい。
 

【目次】
 • 地域医療連携がなぜ今必要なのか?

 • 地域医療連携により実際に行われている取り組みとは
 • 地域医療連携のメリット
 • 地域医療連携の課題とは
 • 全ての患者が適切な医療を受けられる地域医療連携を進めよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

地域医療連携がなぜ今必要なのか?

日本では少子高齢化が急速に進んでおり、特に75歳以上の後期高齢者が増加している。令和4年時点で65歳以上の人口は約3,624万人、高齢化率は29.0%で、後期高齢者は約1,936万人(※1)。この傾向は今後も続くと予測される。

※1出典 内閣府「令和5年版高齢社会白書」

この状況に加え、生産年齢人口(15~64歳)が減少しているため、医療従事者の確保がますます難しくなっている。医療リソースが限られる中で、重症患者と軽症患者が同じ医療機関に集中し、治療の遅れや医療の質の低下が懸念される状況だ。

こうした課題に対応するために、地域医療連携が重要な役割を果たす。医療機関同士が情報を共有し、患者に最適な医療を提供する体制を整えることで、限られた医療リソースを効率的に活用し、医療提供の質を維持することを目指している。

地域医療連携がなぜ今必要なのか?

地域の中核病院に患者が集中する現状

高齢者は複数の慢性疾患を抱えるケースが多く、専門的な治療や長期的なケアが必要となることが多い。この需要に応えるため、専門医や高度な医療設備をもつ中核病院への患者集中が進んでいる。
また、少子化による生産年齢人口の減少やそのほかの理由により、地域の診療所や小規模病院の数が減っている。

そのため、残された病院への患者の流入が増え、医療提供体制に負担がかかっているのが現状だ。こうした状態は特に地方で顕著であり、地域医療の提供体制がさらに厳しくなっている。

少子高齢化と地域医療の負担

少子高齢化がさらに進行すると、地域医療に対して大きな負荷がかかり、本当に治療が必要な重症患者がすぐに医師に診てもらえない事態が起こりかねない。
中核病院に軽症患者も重症患者も集中すると、治療の優先順位が乱れ、適切なタイミングでの治療が遅れる可能性が高まる。

医師や看護師の負担も増大し、結果的に医療の質が低下することが懸念されている。

こうした状況を改善するために「地域医療構想」が制度化された。その具体的な内容を見ていこう。

「地域医療構想」の制度化 

平成26年に「医療介護総合確保推進法」が成立(※2)し、これにもとづいて地域医療構想が制度化された。

※2出典 厚生労働省「医療介護総合確保推進法(医療部分)の概要について」

令和7年の医療ニーズと病床の必要量に応じて、医療リソースを適切に配分することを目指している。地域の中核病院と小規模医療機関が連携し、急性期、回復期、慢性期といった異なる医療機能に基づいて病床を配分し、医療リソースの効率的な活用を図る。

この取り組みにより、医療機関同士の連携が強化され、中核病院の過剰負担を防ぎ、地域全体で質の高い医療を実現することが期待されている。

地域医療連携により実際に行われている取り組みとは

地域医療構想で実際に行われている取り組みを紹介する。

「地域医療構想」による病院の連携と医療の役割分担

地域医療構想では、将来の人口動向にもとづき、令和7年の医療需要に対応するために全国を341の区域に分け、4つの医療機能にもとづいて病床を配分する。それぞれの役割は以下のとおり。

救命救急医療を提供!「高度急性期病院」

高度急性期病院は、命の危険がある患者に対して24時間体制で救命救急医療を提供する。高度な医療設備と専門チームを備えており、緊急時に即座に対応できるのが特徴だ。

発病直後の患者が対象「急性期病院」

急性期病院とは、発病直後の患者を集中的に治療する施設である。急変しやすい患者の状態を細かくモニタリングし、短期間の入院で症状が安定するまで治療を行う。

自宅や施設に戻るための準備「回復期病院」

回復期病院とは、急性期を過ぎて病状が落ち着いた患者が、自宅や施設に戻るためのリハビリや準備をする医療機関である。日常生活に復帰するための支援を行う。

長期療養のための「慢性期病院」

慢性期病院とは、長期にわたる療養が必要な患者を受け入れ、再発防止や体力維持を目的としたケアを行う。患者の生活の質を保つことが主な役割である。

以上のように、地域医療構想によって医療機関が4つの医療機能に分けられることで、それぞれの病院の役割が明確化され、効率的な医療提供が可能となっている。

診療情報を病院同士でシェアする紹介予約制度

「紹介状なしで大きな病院に行ったら、特別な料金がかかると言われた」という経験はないだろうか。これも大病院と中小病院・診療所が互いに連携しながら、それぞれの特徴を活かした医療を提供する「医療機関の機能分化」の考え方にもとづいている。

出典:政府広報オンライン(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201603/5.html

紹介予約制度は、患者が最適な医療を効率的に受けられるように、診療情報を医療機関同士で共有する仕組みである。この制度により、患者が適切な診療を受けるために、中核病院への患者集中が抑制され、医療リソースのバランスが保たれることが期待されている。

かかりつけ医制度

かかりつけ医は、患者がまず診療を受ける身近な医師として診察を行い、必要に応じて専門医やほかの医療機関へ紹介する役割を担う。令和5年5月に成立した改正医療法にもとづき、2025年4月から「かかりつけ医機能報告制度」が開始される予定だ。 

中核病院は、救急を除き、かかりつけ医からの紹介を受けて診療を行い、地域の医療機関と連携した体制をつくることが目指されている。

逆紹介制度

逆紹介制度とは、中核病院で症状が軽快・安定した患者を、紹介元の医療機関に戻して診療を継続することだ。かかりつけ医を持たない患者や、新しい医療機関での診察・治療が継続して必要な場合には、適切な医療機関絵への紹介を行う。

逆紹介の制度により、患者は継続的なケアを受けることができるだけでなく、中核病院の負担も軽減される。

地域医療支援病院制度

地域医療支援病院は、地域のかかりつけ医を支援し、地域全体の医療を支援する役割を担う病院のことをいう。

地域医療支援病院は、紹介患者への医療提供や高度医療機器の共同利用、救急医療の提供、地域医療従事者への研修といった4つの役割があり、地域全体の医療の質を向上させることを目的としている。

地域医療支援病院と称するためには都道府県知事の承認を受けなければならない。令和5年9月時点で700の医療機関が承認され 、地域医療の中核として機能している。

紹介患者への医療提供

地域医療支援病院は、地域の病院や診療所から紹介された患者に対して、専門的な医療を提供する役割を担っている。

かかりつけ医が高度な検査や専門的な治療を必要と判断した患者を受け入れ、病状が安定した患者は再びかかりつけ医に逆紹介する。紹介率や逆紹介率は地域医療支援病院の承認要件として定められており、毎年その報告が求められている。

高額医療機器の共同利用

地域医療支援病院では、MRIやCT、RI、内視鏡などの高額な医療機器を共同で利用する仕組みが整えられている。この取り組みにより、医療資源を有効に活用できるだけでなく、患者の待ち時間短縮にもつながる。

救急医療の提供

地域医療支援病院は地域の救急医療を支えるため、24時間体制で救急患者を受け入れる重要な役割を担っている。集中治療室(ICU)の設置や、入院が必要な重症患者のための病床確保、さらに救急専従の医療従事者を配置することで、迅速かつ適切な救急医療の提供が可能となっている。

医療従事者に対する研修

地域の医療従事者に対して定期的に研修を行い、技術や知識の向上を図ることも地域医療支援病院の役割だ。研修を通じて、地域全体で質の高い医療提供が可能となる。

地域医療連携のメリット

地域医療連携が推進・強化されることで、どのようなメリットがあるのか詳しくみていこう。

医療関係者の負担を軽減できる

地域医療連携が進むと、医療関係者が過剰な業務に追われることが少なくなる。各医療機関はそれぞれの専門性を活かしながら、効率的に役割を分担できるため、負担が軽減される。結果として、患者への対応がより迅速で、かつ質の高い医療が提供できるようになる。

機能に応じた医療を提供できる

患者の状態や病状に応じて、最適な医療機関が選ばれ、必要な治療を受ける仕組みが整う。医療資源がムダなく活用され、特に高度な医療が必要な患者に対しても、タイムリーに対応できる体制が確立される。

スムーズな診療が実現できる

医療機関同士で診療情報が共有されることで、二重検査や二重投薬といった非効率な医療を防ぐことができる。
また、特定の病院に患者が集中せず、待ち時間が短縮されるため、スムーズな診療が実現できる。患者は必要なタイミングで適切な医療を受けることができる。

地域医療連携の課題とは

地域医療連携が進む一方で、いくつかの課題が残っている。どのような課題があるのか見ていこう。

地域による医療資源の不足

地域によっては、医療機関や医療従事者の数が足りず、全ての患者に十分な医療を提供することが難しい状況がある。特に地方では、専門的な治療を行う施設が少なく、患者が受けられる医療の選択肢が限られていることが大きな課題である。

情報共有システム導入の遅れ

医療機関同士の連携を強化するための診療情報共有システムの整備が、地域によっては進んでいないことも問題だ。情報共有の遅れにより、必要な診療情報が十分に伝わらず、効率的な医療提供が妨げられている。

全ての患者が適切な医療を受けられる地域医療連携を進めよう

私たちの生活において「医療」は欠かせない存在である。人々が安心して医療を受けられる環境をつくるためには「地域医療連携」を推進し、全ての患者が適切な医療を受けられる体制を整えることが必要だ。

地域ごとの医療資源を効率的に活用し、診療情報の共有や医療機関間の役割分担を強化することで、医療従事者の負担を軽減し、患者にはスムーズで質の高い医療が提供されることが理想的だ。

少子高齢化時代の医療システムを持続可能にするために、本記事を地域医療連携について考えるきっかけとしてほしい。
 

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