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なぜ公務員離れが起こるのか?時代に合った柔軟な採用活動が人材獲得のカギ

若者の公務員離れが深刻化している。かつては安定した職業の代表であった公務員だが、近年ではその魅力が薄れつつあるようだ。

新卒の就職先として民間企業を選ぶ人が増加し、公務員志望者の減少に拍車をかけている。特に若手職員の離職増加は、各自治体の採用活動にも影響を及ぼしている。
本記事では、公務員離れの現状と原因を分析し、各自治体で進められている対策を紹介する。公務員を取り巻く状況と今後の展望について理解を深め、よりよい組織づくりについて考えるきっかけとしてほしい。
 

【目次】
 • 公務員離れの現状とは

 • なぜ公務員離れが起こっているのか? 
 • 公務員離れを防ぐための対策8
 • 実際に自治体が行っている対策を見てみよう
 • 柔軟な働き方や採用手段により、公務員離れを食い止めよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

公務員離れの現状とは

「公務員離れ」という言葉が聞かれるようになって久しいが、実際のところはどうなのだろう?ここでは、統計データや具体的な数字を交えながら、公務員離れの実態を見ていこう。

地方公務員数は減少、その後微増へ 

地方公務員数は減少、その後微増へ 

総務省の調査によると、地方公共団体の総職員数は、平成6年をピークとして平成28年まで減少し続け、その後横ばいから微増傾向にある。

特に平成17~22年の集中改革プランにより約23万人が減少した(※1)。集中改革プランとは、平成17年に総務省が示した指針にもとづき、地方公共団体が行政の効率化と財政健全化を目的に策定したもので、大幅な人員削減を伴う取り組みである。

しかし近年では、自治体の人的リソースは限界に達し、突発的事案への対応に支障をきたす例も報告されている。一方で、福祉や社会情勢などの背景により、地方公務員数は微増に転じている。

※1出典 総務省「令和4年地方公共団体定員管理調査結果の概要」

国家公務員の志望者数が激減、10年未満の退職者数が増加

国家公務員試験の志望者数は減少傾向にある。令和6年度の国家公務員一般職試験(大卒程度試験)の申込者数は2万4,240人(※2) と、平成24年度の3万9,644人(※3)に比べて1万5,404人(約39%)も減少している。

さらに深刻なのは、採用された若手職員の早期退職の増加である。特に入職後10年未満の職員の退職が目立っており、令和4年度に10年未満で退職したキャリア官僚は177人(※4)に達し、過去最多を記録している。

※2出典 人事院「2024年度 一般職試験(大卒程度試験)区分別実施結果・合格者の状況」
※3出典 人事院「平成24年度業務状況」
※4出典 人事院「総合職試験採用職員の退職状況について」

メンタル不調による休職者の増加

メンタル不調による休職者の増加

公務員のメンタルヘルスの不調も大きな問題となっている。総務省が地方公務員を対象に行った調査(※5)によれば、メンタルヘルスの不調で休職する公務員が増加しており、原因としては「職場の対人関係」「業務内容(困難事案)」などが目立つ。

職場環境の改善や、職員へのメンタルヘルス対策が急務と言えるだろう。

※5出典 総務省「地方公務員のメンタルヘルス不調による休務者及び対策の状況」

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なぜ公務員離れが起こっているのか? 

公務員離れの背景には、複数の要因が絡み合っている。主な原因として以下の5つが挙げられる。

公務員試験の日程

【原因1】公務員試験の日程

民間企業の就職活動と公務員試験の時間軸の違いは、公務員離れの一因と言えるだろう。民間企業の採用活動が早期化している一方で、公務員試験は依然として6月頃に集中している。

民間企業の内定が決まる同期に囲まれて、焦りを感じながら公務員試験に挑むことになる。「公務員試験の結果を待つよりも、早めに進路を決めたい」「公務員試験一本に絞るのは不安だ」と考え、より早く結果が出る民間企業の就職活動を選択する学生が増えている。

【原因2】進まないデジタル化

民間企業に比べて行政機関のデジタル化は大きく遅れている。紙文化が根強く残る職場環境や、古い情報システムの継続使用、テレワークの導入の遅れなどは、デジタルネイティブ世代の若者にとって魅力的ではないだろう。

デジタル化の遅れは、効率重視の若者にとって大きな障壁となり、結果として公務員離れの原因の一つとなっている。

【原因3】やりたい仕事に手を上げるシステムがない

公務員組織は典型的なメンバーシップ型雇用を採用しており、ジョブローテーション制度によって様々な部署を経験することが一般的だ。この制度は幅広い経験を積むことができる反面、個人が特定の仕事や部署を選択することが難しい仕組みになっている。

一方近年、若者の間では、自身の専門性や興味にもとづいて仕事を選択できるジョブ型雇用への関心が高まっている。配属先が人事部主導で決まる公務員のキャリアパスは、自己実現や専門性の向上を重視する若者のニーズと必ずしも合致しない。

【原因4】「人のために働きたい」若者が減っている

マイナビが令和7年卒業予定の大学生・大学院生を対象に実施した「就職企業人気ランキング」調査によると、「楽しく働きたい」(38.9%)、「個人の生活と仕事を両立させたい」(24.5%)といった項目が上位を占めている。一方で、「人のために役立つ仕事がしたい」という回答は10.9%にとどまっている。

「人のために働きたい」若者が減っている

出典 マイナビ 2025年卒大学生就職意識調査

従来、公務員は「人のために働く」職業の代表格とされてきた。しかし、この価値観の変化により、公共サービスに従事することの魅力が相対的に低下している可能性がある。若者にとって、「安定」や「社会貢献」だけでなく、「やりがい」や「ワークライフバランス」といった要素がキャリア選択の重要な基準となっているのだろう。

【原因5】労働環境の課題

近年増加している地域住民からの理不尽な要求や迷惑行為(通称「カスハラ」)も、公務員の労働環境を悪化させている一要因と言える。また、年功序列型の賃金体系や、職種による給与の差が少ないことも、若者にとって魅力を感じにくい点だろう。特にIT人材の確保においては、民間企業との賃金格差が大きく、優秀な人材を確保する上で大きな課題となっている。

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以上のように、公務員離れには複合的な要因が絡み合っている。次章では、公務員離れを食い止めるためにどのような取り組みが有効なのか、具体的な事例を交えながら見ていこう。

公務員離れを防ぐための対策8

公務員離れの問題に直面する中、各自治体や政府は様々な対策を講じ始めている。以下に、主な取り組みを8つ紹介する。

インターンシップの拡大
1.インターンシップの拡大

多くの自治体が、学生に公務員の仕事を体験してもらうインターンシップ制度を拡充している。例えば、岐阜県や愛媛県では有給インターンを導入し、会計年度任用職員として学生を受け入れている。また、岡山県東京事務所では通年インターンを実施するなど、より深く公務員の仕事を理解してもらう機会を提供している。

2.採用年齢枠や中途採用枠(経験者枠)の拡大、UIJターン特別枠

これまで公務員採用試験の年齢制限は、大卒なら30歳前後までが一般的だった。近年では年齢制限を緩和し、社会人採用枠では59歳まで受験可能とする自治体も増えている。また、民間企業での職務経験者を対象とした「UIJターン枠」や「経験者枠」を設けるなど、多様な人材の確保に努めている。

3.民間企業志望者も受けやすい試験

民間企業志望者も受けやすい試験、共同採用

従来の公務員試験は民間企業の就職活動とは大きく異なっていたが、民間企業の就職活動と並行して受験しやすいよう、試験時期を早期化したり、通年化したりする動きが出てきている。従来はA日程とB日程で併願は2つだったが、複数の自治体に出願することも可能になった。
また、SPI3などの民間企業でも活用されている試験を導入することで、受験者の負担軽減を図る動きも出てきている。

4.米国のジョブ型採用にならって好きな分野の仕事を選択できる方式

米国で普及しているジョブ型採用の考え方を取り入れ、日本の公務員採用でも職員が希望する仕事に就きやすい仕組みの導入が進んでいる。従来の自己申告制に加え、庁内公募制や庁内FA制を導入する自治体が出始めている。この取り組みによって、職員は自身の専門性や興味にもとづいて仕事を選択する機会が増え、若手職員の早期離職を防ぎ、公務員の仕事の魅力を高める効果も期待されている。

5.複業促進やリボルビングドアなど柔軟な働き方を 

公務員の働き方をより柔軟にするために、複業を認める動きが出ている。公務員には職務専念の義務があるため、勤務時間と重複しない時間であることなど一定の条件を設けている例が多い。

「リボルビングドア(回転ドア)」と呼ばれる仕組みも注目されている。これは、官公庁と民間企業との間で人材が行き来する制度で、公務員が一定期間民間企業で働いた後に公務員に戻ることや、その逆も可能にする。この仕組みにより、公務員が民間のノウハウを学んだり、民間の視点を行政に取り入れたりすることができ、行政サービスの質の向上につながると期待されている。

6.DX、ペーパーレス化

DX、ペーパーレス化

デジタル化の遅れは、若者の公務員離れの一因となっていることは先に述べた。そこで、各自治体では、業務の効率化や住民サービスの向上を目的としたDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。また、行政手続きのオンライン化や、電子文書の活用によるペーパーレス化なども積極的に進めている。

7.職場環境の整備

働きやすい職場環境をつくることは、職員のモチベーション向上につながる。カスハラ対策として、相談窓口の設置や職員への研修などを実施するほか、男性の育児休業の取得を促進するための制度整備や、在宅勤務やフレックス制度など、柔軟な働き方ができる環境整備も進めている。

8.職員研修の充実

職員研修の充実

公務員のスキルアップとキャリア形成を支援するため、多くの自治体が職員研修の充実に取り組んでいる。

若手向けのリーダーシップ研修、中堅職員向けのマネジメント研修、ワークライフバランスに関する研修など、時代のニーズに合わせたプログラムが導入されている。継続的な学びと成長の場を提供することで、公務員という職業の魅力を高める効果も期待されている。

実際に自治体が行っている対策を見てみよう

ここでは、鹿児島県と神戸市の事例を紹介する。

鹿児島県の取り組み 

鹿児島県の取り組み 

鹿児島県の公務員を巡る現状

鹿児島県では、職員採用試験(事務職・技術職)の受験者数が過去10年間で24.3%減少し、特に技術職では競争率が約4分の1に低下する(※6)など、深刻な人材不足に直面している。

※6出典 鹿児島県「鹿児島県における持続可能な組織体制の構築について」

柔軟な採用試験の実施

この状況に対応するため、鹿児島県では年齢制限の撤廃、UIターン枠の創設、民間企業志望者も受験しやすいSPI3の導入など、柔軟な採用試験を実施している。

積極的な人材確保活動

職場見学会「お仕事ガイダンス」やグループワークを中心としたフリートーク座談会、WEBを活用した面談など、多様な形式で情報提供を行い、積極的に人材確保に努めている。

民間企業への派遣や研修などで人材を育成

民間企業への派遣を大幅に拡充し、民間の視点やノウハウを学ぶ機会を増やしている。また、管理職のマネジメント能力向上若手職員の政策形成能力強化のための研修を新たに実施している。

兵庫県神戸市の取り組み 

兵庫県神戸市の取り組み 

神戸市の公務員を巡る現状

神戸市では、平成7年からの行財政改革により、職員定数は約3分の2に減少した(※7)。しかし、生産年齢人口の減少や、多様化する市民ニーズなどに対応していくため、将来有望な人材確保と、職員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できる職場環境づくりが課題となっている。

※7出典 神戸市「神戸市の人材マネジメント現状について」

新たな人材獲得戦略

この状況に対応するため、神戸市では「新卒:経験者=5:5」という採用方針を打ち出している。人材獲得を取り巻く社会情勢に対応するため、年齢制限の緩和や通年募集の実施、ジョブ型管理職採用など、民間企業の採用手法を積極的に取り入れている。

本人の希望を加味した人事異動

能力や適性正、意欲に応じた人事異動となるよう、意向調査フォローアップ面談を実施して、本人の希望を聞き取り、異動に反映させる取り組みを行っている。また、庁内公募制度も導入し、職員の希望をより反映しやすい仕組みを整えている。

多様な経験を通した人材育成でキャリアを応援

地域貢献応援制度としてNPO法人などでの副業を許可したり、民間企業派遣や国内外大学院派遣を行ったりするなど、多様な経験を通じた人材育成を図っている。市役所の枠にとらわれない活動を通して、柔軟な発想やスキルを学ぶ機会を設け、キャリア形成を応援している。

人事評価を給与に反映

頑張っている職員が報われるように、年功序列ではなく人事評価の結果が反映される給与制度を導入している。これにより、職員のモチベーション向上と公平な評価を目指している。

柔軟な働き方や採用手段により、公務員離れを食い止めよう

公務員は、社会課題の解決に直接携わる、大きなやりがいを得られる職業だ。時代に合った柔軟な働き方や、専門性を活かせる職場環境が整備されれば、公務員離れを防ぐことができるだろう。年功序列や終身雇用といった従来のイメージから脱却し、現代のニーズに応じた柔軟な働き方へと進化させることで、公務員という職業の持つ本来の魅力が再認識され、若者たちの職業の選択肢として再び注目されるよう期待したい。

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