近年、問題が浮き彫りとなっている「メンタル不調」。
働く人の約半数がメンタル不調を発症するリスクを抱えているとのデータ(※)もある。
もちろん公務員も例外ではない。
近年は、大規模災害や新型コロナウイルス感染症への対策・対応で業務負担が増加し、ストレスを感じている地方公務員も多いようだ。
総務省が行った調査によると、メンタルヘルス不調により休務する公務員は近年増加傾向にあるという。
自治体におけるメンタルヘルスの実態はどうなっているのか、個人・組織としてメンタルヘルスのためにできることはあるのか。
この連載で探っていく。
1回目の今回は、地方公務員のメンタルヘルス不調の実態とあわせて、メンタルヘルス不調を予防するセルフケアの方法を紹介する。
【公務員のメンタルヘルス】
vol.1 メンタル不調は増えた?役職で違いは?公務員のメンタル不調を紐解く! ←今回はココ!
vol.2 部下が、同僚が、うつになったらどうする?公務員のメンタルを守るために、組織にできること
vol.3 公務員のメンタルヘルス。より良い住民サービスのために!一番大事なこころの健康とは。
約8割の自治体で休務者が増加傾向
総務省が行った「令和2年度 メンタルヘルス対策に係るアンケート調査」にて、回答した都道府県・市町村の87.4%でメンタルヘルス不調による休務者がおり、休務者数は職員10万人あたり2,258人にのぼることがわかった。
同調査によると、休務者は40代前後がもっとも多く、10代から20代の若年層も2割を超えている。メンタルヘルス不調は、働き盛りの年代や、これからの地域を担う年代を直撃している状況だ。
また、一般財団法人地方公務員安全推進協会の「地方公務員健康状況等の現況 (令和3年)」を見ると、令和2年度の「精神及び行動の障害」による長期病休者数が、15年前と比較して約2.1倍まで増加している。
なぜ、これほどまでに地方公務員のメンタルヘルス不調が増加しているのだろうか。その原因や実情を、総務省の調査結果をもとに次項より説明する。
メンタルヘルス不調の原因は?
前述した総務省のアンケート調査では、休務に至った主な理由に「職場の対人関係」「業務内容(困難事案)」「異動・昇任」「プライベートでの人間関係」などが挙げられていた。
メンタルヘルス不調の原因としてもっとも多く挙げられた「職場の対人関係」においては、ハラスメントが背景にある可能性がある。
また、「業務内容(困難事案)」「職場以外の人間関係」においては、近年、地方公務員の業務が複雑化・高度化していることに加え、価値観の多様化から多種多様な要望が寄せられるようになり、職員への負担が増加していることが原因の一端にありそうだ。
休務者が多い部署は?
次に、所属部署別の休務者数を見ていきたい。
所属部署別では保健福祉・生活文化での休務者が多く、企画・政策、防災では少ない傾向にある。ただし、各部署に所属する職員数の違いが調査結果にも影響を与えていると見られる。
役職による違いはある?
さらに役職別では、係員がもっとも多く、課長級以上が占める割合は2.4%にとどまった。
こちらも役職別の職員数が調査結果に反映されていると考えられる。ちなみに、首長部局における休務者の役職別の比率は係員が44.8%、係長級27.3%、課長補佐級15.5%、課長級以上は12.3%と、全体の結果に比べわずかに違いが見られた。
直近ではコロナ禍や災害による業務負担増も原因
近年では、豪雨や台風、大雪、地震などの災害への対応や、新型コロナウイルス感染症に関する新たな業務の追加などで業務負担が増えたこともメンタルヘルス不調の原因と考えられている。
災害時においては、公務員自身や身近な方に被害が及ぶ中でも業務に当たらなければならない。また、災害後の対応では、通常業務に加え復旧業務が加わり、人手不足から負担を感じる職員も少なくない。
地方公務員数は、平成6年から令和3年4月1日までに48万人減少している。人手不足の中で、増える業務に対応している状況だ。さらに一般行政部門では、前述した新型コロナウイルス感染症対策に加え、子育て支援、防災・減災対策への対応などで体制強化が求められている。
新型コロナウイルス感染症関連で、特に業務過多に陥っているのが各地の保健所職員だ。感染者の発生届やワクチン接種への対応などにより超過勤務が常態化しているケースも見られる。
コロナ禍によって保健所職員の2割以上が過労死ラインとされる月80時間超の残業をしているという調査(※)もある。地方公務員が受けるストレス問題は深刻化の様相を呈している。業務量増加の他に、患者からのクレームや感染の不安に強いストレスを感じているという声もあるようだ。
(※)「コロナ禍における保健所等職員の意識・影響調査結果」全日本自治団体労働組合
約9年で過労死認定は232件にのぼる
業務過多によるストレスは、時に命に関わる事態を招きかねない。平成22年から平成31年までの9年間に、過労死とされ公務災害の認定を受けた地方公務員の精神疾患・自殺事案は232件にのぼる。これは年間平均で25件の精神疾患・自殺事案が発生している計算だ。
<自殺事案に関するデータ>
・男性が約9割
・40~49歳が全事案の約3割
・職員区分別では、一般職員が53.9%、義務教育学校職員が16.8%、義務教育学校職員以外の教育職員が8.6%
※出典:「令和2年度 地方公務員の過労死等に係る公務災害認定事案に関する調査研事業調査研究報告書」独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所
地方公務員の職員数が減る中で、通常の業務をこなしながら大災害やパンデミックにも対応しなければならない状況が続いている。特に前述した新型コロナウイルス感染症関連の業務に当たっている職員の多くが業務過多に陥っており、メンタルヘルス不調から過労死に至る事例が増加しかねない。
各自治体はこれまで以上にメンタルヘルス不調への対策を講じる必要があるのだ。
公務員の心の健康を守るために個人ができること
うつ病などメンタルヘルス不調に陥ると、強い悩みや不安を感じ、業務だけでなく日常生活にも支障が出る可能性がある。メンタルヘルス不調を防ぐためには、自身の状況を把握し心と体に向き合うことが大切だ。
ここからは、自分のストレスに気づき対処する「セルフケア」の方法を紹介する。
ストレスが心身に与える影響
ストレスを受けている自覚がなく、気づかぬうちにストレスをため込んでしまう人は少なくない。人は強いストレスを受けると、心理面、身体面、行動面に次のような反応があらわれる。
<心理面でのストレス反応>
・気分が落ち込む
・興味や関心が持てなくなる
・不安を感じる
・イライラしやすくなる
・意欲が低下する
・集中力が低下する
<身体面でのストレス反応>
・寝付きが悪くなり、中途覚醒するなど不眠になる
・頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れが出る
・疲労を感じやすくなる
・便秘または下痢になる
・めまいや動悸が起こる
・腹痛や食欲の低下が起こる
<行動面でのストレス反応>
・飲酒量や喫煙量が増える
・食欲が急に増える
・欠勤や遅刻が増える
・仕事でのミスが増える
これらの反応がある場合、強いストレスを受けている可能性がある。変化に気づき早急に対処できれば、これらの反応は徐々に低下し、ストレスによる症状は改善に向かうだろう。ストレス反応を自覚したときには、改善を目指してセルフケアに取り組もう。
自分の心の変化に気づくことが大切
心の健康の維持に重要なセルフケアのポイントは、「気づき」と「セルフコントロール」にある。自分の心が健康なときの状態を把握しておくことで、ストレスや疲れを感じているときの異常に気づけるようになる。例えば、普段は楽しく感じられるプライベートでの外出や対人コミュニケーションがおっくうになり、出かけられなくなってしまう等の変化には警戒が必要だ。
また、環境や生活の変化が強いストレスにつながることある。身近な方との死別やペットの死、病気やケガなどネガティブな変化だけでなく、結婚や出産などのポジティブな変化もストレスの要因になることがある。
<メンタルヘルス不調を招きやすい生活上の変化>
【人事異動】
昇進、転勤、部署の変更によって環境が変わり、うつ病を発症することがある。「昇進うつ病」「転勤うつ病」などと呼ばれる。
【喪失体験】
退職、死別、離婚、失恋、子どもの独立、ペットの死などをきっかけにうつ病を発症するケースがある。
【病気やケガ】
病気やケガによる不安などからメンタルヘルス不調に陥るケースもある。また、病気そのものが原因となる「身体因性うつ病」を発症することがある。
【結婚や妊娠・出産】
ポジティブな環境の変化もストレスになることがある。妊娠・出産時の女性はホルモンが不安定になりうつ病を発生しやすい。
自分がストレスを受けやすいタイプか否かを把握しておくことも大切だ。一般的に、気持ちの切り替えが早く大らかなタイプはストレスに強く、真面目で几帳面なタイプはストレスに弱いと言われている。
<ストレスを受けやすいタイプの例>
・真面目で几帳面
・責任感が強く努力家
・自分にも他人にも厳しい
・頼まれると断れない、嫌なことを嫌と言えない
セルフコントロールの3つのポイント
心の変化を感じたときには、次の3つのポイントを意識して生活し、メンタルヘルス不調を予防しよう。
<セルフコントロールの3つのポイント>
1. 早めに相談しサポートを求める
何かの困りごとが発生したとき、すぐに相談できる人がいるだけでもストレスを軽減できる。仕事の困りごとであれば、上司や同僚などに相談して悩みを抱え込まないようにしよう。
2. 柔軟な思考を身につける
一つの物事にとらわれて強い不安を感じたり、人と自分を比較して落ち込んだりする場合には、視野を広げ様々な考え方を取り入れるようにする、失敗したときには落ち込むのではなく「次に生かすにはどうしたらよいか」を考えるなど発想の転換を図ろう。
3. 生活習慣を改善する
健康的な生活習慣は、心の健康にも効果的だ。運動、食事、睡眠、休息を毎日の生活に偏りなく取り入れることを意識しよう。1日10分歩く、栄養バランスを考えた食事を摂る、夜更かしをしない、1日10分のリラックスタイムを設けるなどの行動の継続がストレスの軽減につながるのだ。
まとめ:住民の安全のためにも公務員のメンタルヘルス不調対策は重要
予期せぬ災害や感染症の発生で、地方公務員の多くが業務量増加による負担を感じていることだろう。これら緊急事態において、住民の安全な生活のために地方公務員は重要な役割を担っている。
地域や住民のためにも、職員自身によるセルフケアにも着目し、ストレスの軽減を図れるようその方法について周知するとともに、組織全体で職員のメンタルヘルス不調対策の実施を検討しよう。