消滅可能性自治体とは、2020(令和2)年~2050年までの30年間で、子どもを産む中心になる年齢層の20歳~39歳の若年女性人口の減少率が50%を超えると予想される自治体のことである。将来的な人口減につながる問題のため、国を挙げての対策が求められている問題だが、自治体ができることはあるのだろうか。
消滅可能性自治体が生まれる背景や問題点、すでに対策を始めている自治体の例を見ながら、これからできる対策について考えていこう。
【目次】
• 消滅可能性自治体とは?
• 自立持続可能性自治体とは?
• ブラックホール型自治体とは?
• リストに見る地域ごとの特徴
• 消滅可能性自治体が取り得る対策とは
• 人口減少時代のまちづくりを
※掲載情報は公開日時点のものです。
消滅可能性自治体とは?
「消滅可能性」という表現は、平成26年に「日本創成会議(座長:増田寛也)」が消滅可能性都市として発表したリストで初めて使われ、続いて令和6年に民間の有識者で組織される「人口戦略会議」が発表した「地方自治体『持続可能性』分析レポート」(※1)でも使われている。
若年女性人口が減り続ける限り、出生率は低下し、総人口の減少も止まらない。人口減少のスピードから見ると、若年女性人口が2020(令和2)年~2050年の30年間で50%以上減少する地域では、70年後に20%、100年後に10%程度にまで減少することになる。そして、減少している地域は将来的に消滅する可能性が高いのではないか、と推測したレポートだ。
以上の推察をもとに、子どもを産む中心になる年齢層の20歳~39歳の若年女性人口の減少率が50%を超える自治体を「消滅可能性自治体」とし、全体の約4割となる744の市区町村名を公表した。
数字としては、平成26年発表の通称『増田レポート』の896自治体と比べると若干の改善がみられる。
平成26年当時にこの用語とリストが発表されたとき、世間は大きな衝撃を受けた。全国町村会はリストに対し「一面的な指標で線引きし、地域の努力や取り組みに水を差す」と批判するコメントを発表した。
平成26年のリストで使用された消滅可能性都市、令和6年のレポートで使用された消滅可能性自治体と2通りの呼び方があるが、この記事では新しいレポートで使用された消滅可能性自治体を使用する。
なぜ消滅可能性自治体が生まれるのか?
消滅可能性自治体が生まれる背景は以下の2つに集約される。
【背景その1】若者の都市部への流出
就職をきっかけに、未婚の若年女性をはじめとした若者が都市部に流出することが背景の1つだと考えられている。さらに、一度地元を出た若年女性の結婚・出産は地元では発生しないという調査結果も出ている。
【背景その2】少子高齢化の進行
地方自治体だけでなく、国全体で少子高齢化が進行し、若年層が減少していることも消滅可能性自治体が生まれる理由である。総務省の調査によると、令和5年時点で日本の65歳以上の高齢者人口は3,623万人となっており、平成12年の2,204万人と比較すると、1,000万人以上増加しているのだ。
消滅可能性自治体の歴史
消滅可能性自治体はどのようにして生まれたのだろうか?今までの歴史を振り返ってみよう。
平成11年~「平成の合併」
平成11年以降、 人口減少や少子高齢化といった社会の変化に伴い、地方自治体の財政基盤の確立を目的として、各地で市町村合併が行われた。いわゆる「平成の合併」である。これで多くの小規模自治体が姿を消し、学校や役場などが中心部に統合された。結果的に合併は若年層が旧町村域から出ていく原因ともなっている。
平成26年「消滅可能性都市」リストの発表
平成26年5月、日本創成会議が「消滅可能性都市」リストを発表した。リストでは若年女性が 2040 年までに50%以上減少する「消滅可能性都市」が896(全体の約5割)に上り、そのうち人口が1万人を切り、消滅可能性の高い自治体が523自治体あることが明らかにされた。
平成26年の発表では、自治体が消滅する原因として、人口の再生産力がある若年女性(20歳~39歳)の流出を挙げている。
令和6年「地方自治体『持続可能性』分析レポート」の発表
前回の発表から約10年後の令和6年4月、 人口戦略会議から、最新のデータに基づき「地方自治体『持続可能性』分析レポート」が公表された。令和6年のレポートでは、平成26年の分析を踏まえつつ、出生率の向上として「自然減対策」と人口流出の是正として「社会減対策」、両面からの分析を行っている。
なお、令和6年のレポートでは、2050年までに消滅可能性がある自治体が744自治体あると発表されている。
自立持続可能性自治体とは?
ここまで、消滅可能性自治体について述べてきたが、「自立可能性自治体」についても押さえておこう。
自立可能性自治体とは、人口移動がないと仮定した場合、人口減少率が20%未満にとどまる自治体のことである。「100年後も若年女性が5割近く残っており、持続可能性が高い」と定義されている。
それでは、具体的に自立可能性自治体の例をご紹介する。
【宮城県大衡村】「消滅可能性自治体」を脱却し、「自立持続可能性自治体」になった
宮城県大衡村では、「消滅可能性自治体」と指摘されたことをきっかけに、若い世代向けに子育て支援などを強化している。
大衡村は、 トヨタ東日本などの工場が東北へ移動したことに伴い人口が増えているが、人口増の原因はそれだけではない。充実した子育て支援策が効果を上げている自治体だ。
具体的には、村内の認可保育園と幼稚園が認定こども園に移行した時期に、入園費・通園費・旧食費を無料にするという支援策を行っている。そして、令和元年10月からの幼保無料化により、幼稚園の保育料も無料となった。
妊婦向けには紙おむつ・粉ミルク・タクシー利用に使える5万円分の支援金の配布、さらに、出産時5万円、子どもの小・中学校入学時にそれぞれ3万円の支給、また、18歳までの医療費全額無料も実施している。
これらの施策効果で、大衡村には多くの子育て世代が移住してきた。0歳~5歳児の人口は平成31年4月時点で前年同月比約6%増加、18歳までの人口は約10%増加している。
ブラックホール型自治体とは?
ブラックホール型自治体とは、ほかの地域からの人口流入により人口が増加しているが、出生率が低い都市圏の自治体のことである。
ブラックホール型自治体の例を紹介しよう。
【東京都豊島区】「消滅可能性自治体」からは脱却、だが……
東京都豊島区は平成26年の報告で「消滅可能性自治体」とされた自治体だ。それを受け、区は発表から8日後に「消滅可能性都市緊急対策本部」を設置し、「女性にやさしいまちづくり担当課」の創設などで、子育て環境改善を強化した。
具体的には区立小・中学校の給食無償化を行っている。さらに、若年層向け施策として、マンガやアニメの聖地としてのまちづくりなどで若者に興味を持ってもらえる取り組みも行っている。これらの取り組みが効果を上げ、令和6年の報告では消滅可能性自治体からは脱却した。
しかし、出生率は上がらず、全国ワースト7位にとどまっている。この状態により、豊島区は、出生率は低いままで、人口維持をほかの地域からの流入に頼る「ブラックホール型自治体」とされている。
リストに見る地域ごとの特徴
「消滅可能性自治体」として多くの自治体が公表されているが、地域ごとに特徴はあるのだろうか。詳しく見ていこう。
【北海道】自立持続可能性自治体はゼロ、ブラックホール型自治体は2
北海道では、6割以上の自治体が“消滅する可能性がある”とされている。転入者から転出者数を引いた社会減、さらに、出生者数から死亡者数を引いた自然減も問題化している。
その中で、上士幌町は子育て支援に力を入れたことで消滅可能性自治体を脱した自治体だ。上士幌町の取り組みは次のとおりである。
・英語を学べる環境の提供など、子どもの教育環境整備
・こども園の利用料・給食費無料
・移住検討者向けに上士幌町での生活が体験できる施設の提供
・町での起業を支援
これらの取り組みにより、子育て世代の移住者が増加している。
【東北】消滅可能性自治体が77%と全国最多
215ある自治体のうち「消滅可能性自治体」は165自治体と77%に上っており、数、割合とも全国で最も多くなっている。
しかし、先に紹介した宮城県大衡村のように、自治体独自の努力で消滅可能性自治体を脱したところもある。
【関東】ブラックホール型自治体は21で全体の8割を占める
316ある自治体のうち、消滅可能性自治体は91自治体である。また、人口維持をほかの地域からの流入に頼る「ブラックホール型自治体」は東京都の17を含めて21の自治体となっている。
【中部】消滅可能性自治体は約3割と比較的低水準
316ある自治体のうち、消滅可能性自治体は109自治体である。また、「自立持続可能性自治体」が12自治体ある。
なお、愛知県飛島村は消滅可能性自治体を脱却しているが、その理由は外国人技能実習生が増えたことが一因とされている。
【近畿】大阪市と京都市はブラックホール型自治体と認定
227の自治体のうち、消滅可能性自治体は93自治体である。令和6年の報告では大阪府の門真市、泉南市、阪南市が消滅可能性自治体に加えられた。
また、大阪市と京都市はブラックホール型自治体とされている。
【中国・四国】前回の発表から消滅可能性自治体を脱却した自治体が多い
202ある自治体のうち、消滅可能性自治体は93自治体であるが、平成26年の報告以降、脱却した自治体が多いのが特徴だ。特に、島根県は平成26年の16から4に減少している。その要因として、人口戦略会議では「特殊出生率が全国2位と高く、それにつながる対策が結果として実った」と分析している。
【九州・沖縄】沖縄県は全国で唯一消滅可能性自治体がゼロ!
274ある自治体のうち、消滅可能性自治体は76の自治体と数、割合とも全国で最も少ないのが特徴である。特に沖縄県は全国で唯一ゼロである。
また、鹿児島県宇検村は県内で唯一「自立持続可能性自治体」となった。その要因として、親子移住を前提とした山村留学制度の実施を挙げている。
消滅可能性自治体が取り得る対策とは
消滅可能性自治体とされた自治体ができる対策について考えていこう。
【対策その1】地域活性化
若年層向け、移住希望者向け、どちらであっても、まずは、自治体に魅力を感じてもらうことが重要だ。
例えば、特産品を活用した地域ブランドの創造、観光資源をアピールできるイベントの開催など、多くの人に興味を持ってもらえる取り組みで地域を活性化するところから始めたい。
またメタバースなどの新しい技術を活用すれば、オンラインで地域の魅力を発信することもできる。
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【対策その2】子育て支援策の推進
消滅可能性自治体から脱した自治体の例を見ると、子育て支援に力を入れているところが多い。
こども園の利用料や給食費の無料化、教育環境の整備などに取り組むことで、地元に残りたい若年層の増加や子育て世代の移住が期待できる。
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【対策その3】企業誘致や雇用の創出
若年層の地域からの流出の原因に「仕事がない」ことが挙げられる。これを防ぐため、企業の誘致、および雇用の創出もぜひ検討したい。
地元で働けるようになると、仕事を求めて流出していた若年層をくい止めることもできるだろう。また、誘致した企業の従業員やその家族の転入も見込める。
人口減少時代のまちづくりを
各地方自治体からの人口減については、国全体での少子化対策で取り組むべき問題であったが、人口戦略会議のレポートによって、自治体間での若年層や子育て人口の奪い合いになってしまったという批判もある。
残念ながら、日本全体の人口減はすぐに止められるものではないため、全ての自治体の人口が増えていくことも期待できない。今後、自治体ができることは、ほかの地域との人口の奪い合いではなく、自治体の特色や長所を大切にしながら、若年層が子どもを産み育てたいと思える環境をつくっていくことではないだろうか。