地域DXとは、地域課題の解決に新しい通信技術やデジタル技術を活用することだ。
DXは「デジタル・トランスフォーメーション」を略したことばで、デジタル技術で人々の生活をより良いものに変革するという意味を持つ。
全国民がデジタル技術の恩恵を実感でき、便利で暮らしやすい社会の実現を目指して、総務省を中心に全国で地域DXの導入が推進されている。
本記事では地域DXの概念や、取り組みを成功させるための7カ条、実際の事例を解説する。
【目次】
• 地域DXとは?
• 地域DX成功のための7カ条
• 自治体は地域DXに実際どう取り組んでいる?
• 地域DXの導入で、地域の暮らしをより良いものに変革しよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
地域DXとは?
地域DXとは、デジタル技術を活用して地域課題の解決を図る取り組みのことだ。
DXとは「Digital(デジタル)」と「Transformation(トランスフォーメーション)」を組み合わせた言葉で、スウェーデンのメテオ大学教授、エリック・ストルターマン氏が平成16年に概念を提唱した。「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と定義されており、「デジタル変革」と訳されることもある。
総務省を中心に企業のDX化を推進しており、IT業界などの先端技術を扱う企業だけではなく、製造業DXや物流DXなど、多くの産業でDXの導入が進んでいる。
地域DXには自治体行政におけるDX(自治体DX)と、地域社会におけるDX(地域社会DX)の2つの側面がある。
自治体DXは行政手続きのデジタル化や、行政内部のデータ連携などを通して、地域住民の利便性向上や業務の効率化を図ることが目的だ。一方で、地域社会DXは地方自治体だけではなく、住民や民間企業など地域の多様な主体が連携して、医療・保育・交通といった、さまざまな地域課題の解決を図る取り組みを指す。
総務省は自治体DXと地域社会DX、2つの側面から各地の地域DXを支援する施策を展開している。地域DXの導入により、人口減少や少子高齢化が進む中でも持続可能な地域社会を形成すると同時に、全国民がデジタル技術の恩恵を実感でき、便利で暮らしやすい社会の実現を目指す。
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地域DX成功のための7カ条
地域DXを成功に導くためには、必要不可欠な要素がある。総務省が令和5年にまとめた報告資料「地域DXの実現へ 9つの好事例と成功の秘訣」(※1)では、9つの自治体へのインタビュー調査を通じて、地域DX成功のための7カ条を見出している。それぞれ具体的に見ていこう。
1.地域課題の徹底的な話し合い
地域DXを導入する前の段階で、デジタルで解決する課題を明確化・具体化するために、地域課題の徹底的な話し合いを行うことが大切だ。先進事例に取り組んだ自治体への調査では、デジタル技術ありきのDX導入や、地域課題とデジタル技術のミスマッチが生じる事態を避けるべきとの声もあった。
地域DXの導入を始める前に、部門内で十分に話し合うことはもちろん、住民の悩みに詳しい他部門を交えて地域課題の洗い出しや、DXでどのように解決すべきか議論を深めておきたい。さらに、地域住民も交えた場を設け、当事者から直接話を聞いたり、解決の方向性について話し合ったりすることも大切だ。
2.地方公共団体内の一枚岩化
取り組みを始める前に、自治体の中での体制構築も済ませておこう。関連部門の巻き込み不足は、後に思わぬトラブルを招くおそれもある。総合計画やデジタル化計画への組み込み、首長クラスからの号令、自治体内のキーパーソンへの根まわしや調整といった対応が、内部の体制整備には有効だ。
3.目標と役割分担の明確化
DX導入には企業や大学などの専門家に協力を依頼するケースも多い。複数の組織の人間が動くことを念頭に置き、計画の目標とそれぞれの役割分担は明確にしておこう。
4.互いに支え合える仲間づくり
地域DXに取り組む他の自治体や、企業、大学などの研究機関と良好な関係を築くことも大切だ。知見やノウハウを共有したり、困り事を相談したりなど、お互いに支え合える仲間をつくっておきたい。
5.地域住民への直接的な聞き取りや説明
地域住民の中には、デジタルに対する抵抗感や警戒感を持つ人もいるため、現地まで足を運んで話をする場も大切にしたい。住民に直接会って悩み事を聞いたり、説明会を開催したりするなど、対面でのやりとりも丁寧に行っていこう。
6.地方公共団体内外へのコミュニケーション
自治体の内外とのコミュニケーションを密にするため、デジタル化の目的や進捗状況などの情報発信は積極的に行おう。外部メディアの取材を受けたり、表彰やホームページ掲載を行ったりなどの広報活動は、外部との情報共有や関係者のモチベーションの維持にも有効だ。その他にも、住民を対象にアイデアの公募を行うなど、外部との双方向のやりとりもDXを身近に感じてもらう手段として役立つだろう。
7.迅速な意思決定・PDCAの仕組み構築
迅速な意思決定やPDCAの仕組みづくりを行うために、デジタルの知見やノウハウは自治体の中で蓄積しておきたい。失敗例や改善点の情報も他部門の参考になったり、類似事例の失敗を予防したりなど、自治体組織にとって有益な知見となる。
デジタル技術が進歩するスピードは非常に早く、予算確保の長期化が機運の低下にもつながりやすいため、DXに関しては意思決定の高速化も意識したい。一般会計予算だけではなく補正予算を活用するなど、短期間で予算を確保することも重要だ。
また、定期的にプロジェクトの状況をチェックして軌道修正を行うPDCAサイクルの仕組みづくりにも取り組んでおきたい。
※1出典 総務省「地域DXの実現へ 9つの好事例と成功の秘訣」
自治体は地域DXに実際どう取り組んでいる?
ここからは、すでに地域DXに取り組んでいる地方自治体の事例を紹介する。
【石川県かほく市】IT人材育成を目指したプログラミング教育事業
「IT-CATS かほくDX」は、地域・企業・かほく市が共同してプログラミング教育を行う事業だ。自身の学ぶ楽しさを知り、地域課題の解決に取り組むことができるIT人材の育成を目指している。児童・生徒・学生を対象にしたプログラミング基礎教室の実施に加え、成果発表としてプログラミングコンテストも開催している。
さらに、地域の人たちにもIT人材の育成に関心を持ってもらおうと、かほく市商工会の会員や地元企業を対象にした大人のためのDX学習会も行っている。
【北海道室蘭市】「室蘭DX推進ラボ」ではフェリーの船内でアプリをつくる楽しいイベントも
室蘭市の「室蘭DX推進ラボ」では、市民団体の「Code for Muroran」が事務局となり地域DXに取り組んでいる。
平成30年と平成31年には、企業も市民も巻き込むイベントとして「宮蘭フェリーハッカソン」を開催。室蘭市と岩手県宮古市を結ぶ往復20時間フェリーの船内でアプリをつくるイベントだ。この催しで最優秀賞を獲得した室蘭市工業大学の学生チームは、イベントの後も室蘭DX推進ラボのサポートを受け続け、民間企業にも協力してもらいアプリを完成させたという。
ほかにも、未就学の子どもを対象にしたデジタル教育体験事業や、市役所と連携して自治会活動のデジタル化にも取り組んでいる。
【宮城県仙台市】「せんだいDX推進ラボ」では魚市場のスマート化実証実験にトライ
「せんだいDX推進ラボ」は仙台市、東北大学IIS研究センター、DX推進団体が参画する産学官連携団体だ。
大学が持つ技術やノウハウを活用しながら、地域産業の競争優位性向上に取り組む。
画像AI判定、ロボット技術などを応用して、魚市場のスマート化実証実験などを行っている。魚市場や缶詰工場などで魚種の選別を自動化することで、作業負担の軽減や人手不足に対応するという取り組みだ。将来的には鮮魚流通などにもデジタル技術を取り入れ、関連事業のスマート化を目指している。
▶ 「地域DX」に関する、民間サービスを確認する。
「ジチタイワークスHA×SH」では、サービス資料の確認とダウンロードが可能です。
地域DXの導入で、地域の暮らしをより良いものに変革しよう
DXはデジタル技術で人々の暮らしをより良いものに変革するという概念だ。そして、地域DXは自治体DXと地域社会DX、2つの側面で構成されている。
自治体DXは行政手続きや自治体内部のデジタル化を通して、地域住民の利便性向上を図ること。地域社会DXは住民や民間企業と協力しながら、地域課題の解決を図る取り組みを指す。
総務省はデジタル技術の恩恵を全国民が実感できる社会を目指し、全国で地域DXを推進している。便利で暮らしやすい地域社会をつくり、今ある課題を解決するために、地方自治体も積極的にDXを取り入れていきたい。