ジチタイワークス

福岡県古賀市

市民のための“90分”を、創意工夫で生み出す古賀市の働き方改革。

いま“熱い”自治体の1つが福岡県の古賀市。DXや働き方改革の施策を次々に実行し、令和7年1月には窓口受付時間の90分短縮を断行しています。全国的に注目を集めている、これらの取り組みの舞台裏ではどんな動きがあったのでしょうか。市長の言葉からは“窓口短縮”の先にある地域への思いが見えてきました。

※インタビュー内容は、2025年3月取材当時のものです。

 

福岡県古賀市 市長
田辺 一城(たなべ かずき)さん

昭和55年5月生まれ、古賀市出身。平成15年、慶応義塾大学法学部卒業。毎日新聞社に入社し、記者として勤務後、平成23年より福岡県議会議員。平成30年より古賀市長に就任し、現在2期目。日々のウォーキングと、定期的な筋トレを欠かさない。好きなアーティストはサザンオールスターズ、椎名林檎、DREAMS COME TRUE。

 

複合的な取り組みから生まれた、窓口の受付時間短縮というアイデア。

―古賀市は令和7年1月から窓口の受付時間を9時~16時としました。90分の短縮は全国でも異例ですが、経緯をお聞かせください。

ある日、市長室に経営戦略課と市民国保課の課長(当時)が連れ立ってやってきたんです。それぞれに個性的で、いつもアイデアを練っているような人たちなのですが、その2人がペアで登場した。「これは絶対に面白い話だな」と私もワクワクしながら対応しました。2人が話しはじめたのは、「来庁者が減っているから窓口の短縮ができます」という提案だったんです。

この話には前段があります。当市では、令和5年1月から当市のLINE公式アカウントを使った電子申請を開始しており、来庁せずにスマホだけでできる手続きが増えていたのです。また、同年10月から半年間、証明書のコンビニ交付手数料を10円にするキャンペーンを実施しました。例えば、住民票を市役所窓口で取得すれば300円、コンビニなら250円ですが、コンビニ交付を10円にした。その結果、多いときで約65%がコンビニ交付となったのです。さらに、公開型GIS(地理情報システム)を導入したことで、事業者さんも道路台帳などを窓口でなくオンラインで確認できるようになりました。そこで2人が、来庁者の減少に気づいた、というわけです。話を聞いて私は思わず膝を打ち、「それはいい。銀行にならって15時で閉めるのはどうだろう」と返したのですが、2人からは「それは早すぎます」と制止されました(笑)。

―そうした経緯での“90分短縮”だったんですね。その場で決定したのですか。

いいえ、きちんと手順を踏んでいます。ちょうど次年度の予算を編成しているタイミングで、施政方針を書こうとしていた頃だったので、まずはそこに落とし込むことにしました。この方針は“私が首長としてどうしたいのか”を表明するものなので、うってつけです。

令和6年度の施政方針では、コンビニ交付や公式LINEの活用、道路台帳オンライン化などの施策による窓口来庁者の減少を報告。そして、「市役所窓口の受付時間の短縮を検討します」と明記しました。その後、対象となる窓口や、短縮時間などを具体的に定義し、内部的に整理すべきところを現場の職員と整理していったのです。全国でも先んじた取り組みだったので、時間を要した部分もあります。前例がないからこそ、丁寧に進める必要がありました。

関連リンク ・市長室ブログ|令和6年度(2024年度)の施政方針演説

 

窓口短縮を実施している自治体

※北海道室蘭市:一部庁舎では2025年6月から短縮を実施
※愛知県東浦町:2025年9月末までの実証
※愛知県常滑市:2026年4月から9:00~16:00に(105分短縮)

※令和7年4月時点 ジチタイワークス調べ

市民に思いが伝われば、新しいチャレンジも成功するはず!

―令和6年9月の公式発表後は、どのような反応がありましたか。

まずは多くのメディアが取り上げてくれました。その効果もあって広く知れ渡ったのだと思いますが、否定的な意見はごくわずかでした。

対外的な発信の場では、どういう形でメッセージを伝えるのかという点に注意を払いました。窓口受付時間の短縮は、ともすれば「職員が楽をしたいからなのでは」と見られる可能性がありますが、そうではありません。短縮で生まれた90分の時間は、職員の政策立案機能を強化し、社会課題解決の可能性を高め、市民サービスの質を向上させるために使う。そのための働き方改革です。社会に対しても、この趣旨がきちんと伝わらなければなりません。公式ホームページや私のブログでも、この点は誤解を生まないように、発信を続けています。

関連リンク 古賀市公式HP ・市長note ・YouTube(田辺かずきチャンネル)

 

―令和7年1月、窓口短縮を実施した後はどうでしたか。

思っていた以上にスムーズです。短縮開始からしばらくは、職員が自発的に庁舎入口に立って、時間外の来庁者に説明をしてくれました。

私自身の感覚は、「大半の市民は理解してくださるはずだ」というものでした。もちろん反発もあってしかるべきですが、ここでも“きちんと説明すれば分かっていただける”と信じていた。そして、予想以上に市民は受け入れてくださいました。中には「そうなのか、じゃあ仕方ない。お仕事頑張って」と声をかけてくださる方もいたそうです。この話を聞いたときはうれしかったですね。ちなみに、入口に立って説明していた職員の中には、最初に窓口短縮を提案した課長の姿もありました。

 

明るい未来をひらくために必要なのは、決断、覚悟、気合い。

―古賀市は、テレワークやフリーアドレスなども以前から取り入れており、公民連携のユニークな取り組みも見られます。

土台としての考え方は、社会の「持続可能性を高めること」であり、そこに「DX、シェアリングエコノミー、公民連携」という3つの柱を立てています。そこから水泳授業の民間委託とか、事業者が課題と解決策を同時に提案する「まちづくり実証実験」といった事業が生まれてきました。

関連リンク 市長室ブログ|水泳授業を民間委託 ・古賀市まちづくり実証実験

テレワークやフリーアドレスは、現場の「やってみたい」という声から始まった取り組みですが、職員の中には、ユニークな発想をもつ人や、果敢にチャレンジする人がいるので、そうした人たちにはどんどん活躍してほしいですね。私自身、就任当初からこうした勢いでやっている訳ではありませんが、6年経っていい流れが生まれているのを感じています。

今、当市の働き方改革において中心に据えているのは「多様な生き方を保障する働き方改革」という理念です。窓口短縮についても同様ですが、市民サービスの向上を図ろうと思ったら、まず職員が働きやすい職場でなければなりません。そのためにも「多様な生き方を保障」する必要があるのです。

それに加えて、日本の人口はこれからどんどん減少し、働き手も限られてくる。そうした中、残念ながら現在の就活市場で公務員は不人気です。では今後どうやって優秀な人材を確保していくのかということを考えると、働きにくい職場が選択されるはずがないでしょう。地域の持続可能性を高めるためにも、自治体における働き方改革は必須なのです。
 

―最後に、全国の自治体職員へメッセージをお願いします。

私から言えるのは、「大変だし面倒かもしれないけれど、挑戦すれば明るい未来が開ける」ということです。DXや働き方改革に限らず、行政はもっと失敗を恐れずにチャレンジした方がいい。そして「よし、やるぞ」と決断したら、やりきる覚悟と気合い、これが大切です。この覚悟と気合いが十分であれば、複雑な行政課題に向き合う中でも、“思い”がすり減ることはありません。こうして生まれた好事例は、ほかの自治体も追随してきて、いつかスタンダードになります。そうなってから取り組みを開始しても埋没してしまう。だったら、パイオニアになった方がいいと考えています。

もちろん先駆的な取り組みを進めるのは色々と大変ですが、挑戦することで、市民だけでなく自分たちにもメリットがもたらされる。それが“快い働き方”につながっていく。その結果、「古賀市って、おもしろいな」などと感じてもらえたら最高です。そんな未来を職員と一緒にイメージしつつ、私も情報発信を続けていきたいと思っています。

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