
離島特有の業務負担を軽減する電子契約の導入
奄美市では、契約業務の課題を解決するため、令和4年度に全庁で電子契約を導入。作業時間の短縮とコスト削減につながったという。また、導入をきっかけに、担当者のデジタル化への意識が変化したそうだ。
※下記はジチタイワークスVol.38(2025年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
左:総務部
契約・検査指導課
係長 小元 雄太(こもと ゆうた)さん
中央:総務部
契約・検査指導課
主査 吉田 奈奈美(よしだ ななみ)さん
右:商工観光情報部
デジタル戦略課
係長 里村 正力(さとむら しょうりき)さん
東京までの郵送に最短で4日かかり、押印のための移動も負担だった。
紙の契約書でやりとりする際、例えば、東京までの郵送には最短でも4日を要するという同市。台風が発生すると、船の欠航が1週間以上続くことも少なくない。しかも、支所の職員は押印のために、本庁まで車で30分以上かけて移動しなければならず、大きな負担になっていたという。
「年間で約1,200件の契約があり、そのうち約半数は4月に集中します。膨大な作業量になりますし、急ぎの契約の際には事業者にも迷惑をかけていたのではないでしょうか」と吉田さん。改善策としてはデジタル化が有効だが、庁内の意識には温度差があったという。
「業務の効率化を意識する職員がいる部署は前向きに進める一方で、関心が低い部署ではあまり進まないという状況でした。従来の流れを変えるには壁がありましたし、事業者が対応できるのかも不安でした」と里村さんは話す。小元さんも、「新しいシステムが入ることにより、事務作業が増えるのではないか、手順が複雑にならないか、そういった心配の声がありました」と打ち明ける。
同市では平成27年、地方創生を目的に、インターネットを活用した新しい働き方を支援するための連携協定を結んでいた。そのパートナー事業者からの案内により、電子契約の導入を検討。事業者にもメリットがあるならやってみようという思いで、実証実験を行うことを決めたそうだ。
事業者にとってもメリットが大きく、工事関係は約94%が電子契約に移行。
令和3年1月から、企画調整課や水道課などで実証実験を開始。契約1件当たり約15分の作業時間の短縮や、収入印紙が不要になり事業者側の負担軽減などの効果があることが確認できた。こうして、令和4年6月より全庁に導入。運用は、契約の起案から確認までを各担当課が行い、事業者との電子署名の締結を、契約・検査指導課が担うという流れだ。
導入検討時に重視したのは、多くの事業者が参加しやすいことだった。そこで、立会人型※¹と当事者型※²の2つの契約形態を選べるハイブリッド型のサービスを採用。「立会人型であれば、契約相手はメールアドレスとインターネット環境さえあれば利用できます。事業者の負担を極力減らせるのではと考えました」。
普及を促進するために、庁内外に向けた周知とサポートも徹底したという。例えば、契約業務を担当する各課向けに説明会を開催し、流れを詳しく記載したマニュアルを整備。事業者の利用を促すため、スムーズな移行を支援する体制も整えた。「初めて利用する事業者は、やり方が分からないのでマニュアルを送り、締結の際には電話して一緒に操作するなどして、不安を払拭できるようにしました」。
事業者の理解が進み、電子契約の利用率は順調に向上。「実は、どこまで普及するのか不安がありました。しかし、令和5年度末には全体の53.3%で利用され、工事事業に限れば94.3%に達しています。特に工事関係は、契約金額が大きく印紙代も高いため、その負担軽減が、事業者に選ばれている理由ではないでしょうか。試算したところ、印紙代は年間約240万円の削減につながっているようです」。
※1 メール認証によって契約相手の本人確認を行う。相手の負担を抑えつつ、迅速に契約を締結できる。
※2 契約をする双方が、事前に電子認証局が発行する電子証明書を取得して本人確認を行う。
職員のさらなる負担軽減のため、“電子契約100%”を目指す。
電子契約の導入で、作業負担も軽減した。「パソコンだけで業務が完了するので、とても便利だなと思います。契約書を印刷・製本し、郵送するのが当たり前だと思っていましたが、振り返ると手間がかかっていたと感じます」と吉田さん。また、契約書の送付自体が不要になり、年間約16万円の郵送コスト削減につながっているそうだ。
取り組みは順調に浸透しているものの、課題も残る。「紙と電子契約が混在し、管理が煩雑になるケースが見受けられます。二重作業があるとかえって手間が増えたと感じ、デジタル化の印象が悪くなってしまう傾向があります。一本化に向けて電子契約100%を目指したいですね」と里村さん。今後は各課で契約締結まで行うことを目指す考えだ。
今回の経験を経て、吉田さんは業務のデジタル化に対するハードルが下がったと感じているという。「工事の起案書が、各課で保管・運用されていて、ファイルが点在している状況です。書式を統一するためにも、それを電子化できないか検討しています」。
3人は、チャレンジすることの大切さについても強調する。「契約業務の件数は多く、だからこそ方法を変えることは手間がかかる。しかし、“まずはやってみる”ことで、道が開ける可能性もあると思います」と小元さん。日々の契約業務に追われる自治体にとって、有益なヒントになりそうだ。