注目を集めた今回のセミナー。能登半島地震における被災現場の動きを中心に、被災自治体・応援自治体や事業者が知見を持ち寄り、2Days形式で実施されました。
2日目のプログラムでは、被災地支援を経験した職員に加え、防災ソリューションを提供する3事業者が登壇。それぞれの視点で防災について語ってもらいました。
Day1のレポートはこちら
概要
□タイトル:能登半島地震の現状と教訓 ~被災自治体・被災地応援職員からの共有~【Day2】
□実施日:2024年5月16日(木)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:434人
□プログラム:
第1部:応援に行って何を感じたか?~能登半島地震の災害対応の教訓~
第2部:得られた教訓をこれからの防災にどのように生かしていくか[対談]
第3部:災害対策は、「仕組み」で解決。駆けつけ不要で避難所や防災倉庫を解放。
第4部:防災意識の向上と、発災時の正確・迅速な情報発信を実現するには
第5部:災害対応の現場から認識した罹災証明書早期発行の重要性
応援に行って何を感じたか?~能登半島地震の災害対応の教訓~
第1部では、2自治体の職員が登壇。総括支援、広報支援と、それぞれ異なる方向から被災自治体を支えた活動の内容について振り返ってもらいつつ、参加者と災害時における課題を共有した。
【登壇者】大月 浩靖 氏
三重県 いなべ市 総務部 防災課 課長補佐
プロフィール
平成19年より防災の担当をし、これまで東日本大震災、熊本地震、九州北部豪雨、西日本豪雨など様々な被災地支援に従事。平時から積極的に地域に入り地域防災に取り組み、市民の防災意識の向上に努める。プライベートでは内閣府のチーム防災ジャパンのお世話係としても関わり、災害の被害軽減をするために、国民運動の展開を行うとともに、国民の防災意識の向上を行っている。
【応援業務内容】
派遣先の自治体:輪島市
派遣期間:1月3日~1月10日
派遣先での業務内容:市長等の幹部職員への災害対策のマネジメント
【登壇者】多名部 重則 氏
兵庫県 神戸市 市長室 広報戦略部 部長兼広報官
プロフィール
2003年から2005年に内閣府(防災担当)へ派遣され、阪神・淡路大震災の総括検証を担当。2007年の能登半島地震では直後に現地で支援活動を行った。2011年の東日本大震災では、被災地からほかの自治体に避難した人の情報を集約して各種支援の網から漏れないようにする制度を発案。現在も国内で防災分野の主要な学会の一つとされる「地域安全学会」に所属。博士(情報学)。
【応援業務内容】
派遣先の自治体:珠洲市
派遣期間:1月18日~
派遣先での業務内容:被災者向け広報
総括支援チームとして現地入りした職員が見た風景。
本パート前半では、いなべ市の大月より、被災地の応援で何をして、何を感じたのかお伝えします。
当市の統括支援チームは1月3日にいなべ市を出発しました。現地に向かう道は落石が見られ、液状化でマンホールが浮き上がっているなどかなり損傷していました。家屋も倒壊し、道路がふさがれている箇所もあって救助部隊も現地入りは困難だったと推測します。さらに、被災地に向かう車で大渋滞が発生。パンクや脱輪している車も多く、こうしたことが応援部隊の到着の遅延につながったようです。
輪島市内ではビルが倒壊し、家屋も沿岸部の被害が大きかったようです。孤立した集落も多かった。これはどこでも起き得ることで、当県も例外ではないと感じました。市役所に到着後、まずは市長・副市長・市の幹部と面会し、マネジメント表を使って災害対応業務について説明。この時点で市役所の中には多くの被災者が避難していました。ここに大勢の応援が来ても作業・執務ができないので、避難者の方々が違う場所へ移動できるよう調整を進めました。
オペレーションルームでは、自衛隊、海上保安庁、地元警察と消防、内閣府、経産省、国交省、石川県が活動していました。さらに多くの機関が入ってくることが分かっており、相談をしていたところへDMATが到着して、オペレーションルームがあふれました。そこでレイアウトをやり直し、動線を考えながら再配置しました。
輪島市の職員は、道路の寸断や自宅の倒壊などがあって、参集率が39%という状態です。そこに全国の対口支援が集まって、本格的な動きが始まったと言えます。情報は大量に集まっていたのでいったんそれを整理し、国も含めた応援機関を集め、共有会議を実施。今何が求められ、何をしなければならないのか話し合う場としました。
※レイアウト図作成 吹田市
総務省からの要請は総括支援チームとしての派遣であり、対口支援団体の調整をするには人数的に厳しかったため、そのことを速やかに判断をした当県から対口支援を調整役として幹部級職員を含む対口支援チームの派遣してもらいました。このチームは、各都道府県から来た対口団体のリエゾンの調整をする役割を担当。輪島市が混乱しないように組織図をつくり、できるだけ被災地に負担がかからない仕組みを構築したので、現場はスムーズに動いたと思います。
また、100人規模の対口支援が入ってくるので、ルール化とベースキャンプ地の確保が必要。ルールは作成して書面で配布し、ベースについては伊勢市の職員が奔走してくれました。文字どおり市内を走り回って場所を探し、キャンピングカーを手配していただき、本当に助かったと感じています。そして、会議の実施です。当初は災害対策本部会議が進められていなかったので、1月6日に実施を呼びかけ、私が司会を務めて災害対策本部会議を立ち上げました。さらに情報連携会議が必要なので、応援機関が輪島市のニーズの把握や、他機関との情報共有をする場として設置しました。
最後に、大規模災害では道をつなぐことがとても重要です。道をつなげなければ被災者支援ができないので、道路啓開を意識しながらの災害対応が求められます。そうした上で、現地の人をはじめ、自衛隊や緊急消防援助隊が意識を合わせて災害対応をすることが大切だと感じました。
被災地への“広報”支援という思いがけない要請。
神戸市の多名部です。私からは珠洲市に対する広報支援業務についてお伝えします。
私は神戸市役所で広報の責任者をしているのですが、地震発生後、思いがけないメッセージが届きました。発信者は同市に神戸市のリエゾンとして派遣されていた職員からで、「珠洲市の広報の仕事を手伝ってほしい」とありました。住民への情報提供は非常に重要な業務で、失敗は許されません。とりあえず電話で話を聞くと、同市の広報担当は1人しかおらず、被災者から「珠洲は情報発信が遅い」とお叱りを受けているとのこと。そこで当市は、ホームページ責任者、SNS責任者の職員2名を派遣することにしました。そして、広報戦略部にいる約40人の職員で、うまく支援ができないか考えたのです。
珠洲市の広報担当職員は非常に優秀な方でしたので、その方を派遣の2人がサポートし、広報戦略部の40人がオンラインで2人をサポートする方針を決め、珠洲市の職員に休みを取ってもらうことを最初の目標にしました。
2人が現地に入った後、まず手がけたのがLINEです。珠洲市の公式LINEを震災モードに切り替え、市長メッセージをはじめ、被災者向けの情報を発信しました。珠洲市・神戸市間では毎日のようにWeb会議を実施し、意見を交換。例えば、避難所にデジタルサイネージを設置する計画があるが、何を載せたらいいのか、といったものです。神戸市役所では情報発信でデジタルサイネージを活用していたので、そうした面でもサポートできたと思います。
また、前述のLINEも活用の余地がありました。「新たな炊き出し情報があります」という投稿をしてみると開封率が急上昇。求められている情報が分かったので、その後はお風呂の情報や、給水情報などを投稿するようにしました。登録者はどんどん増えて、1月15日時点の約3,000人から今では1万人を超えています。
記憶に残っているのが、支援制度を掲載したチラシです。第2次派遣で行った2人の職員に対し、珠洲市の副市長から直々に相談がありました。そこで2人が各支援制度の担当課から情報を集め、それを神戸市側に送信。神戸市側ではデザイナーや広報誌の編集担当者がそれをキャッチして対応。やりとりは全てチャットで進め、チラシが完成。印刷物を自衛隊に渡し、避難所に届けられました。
その他、動画も制作しました。災害ごみを仮置き場にどう捨てたらいいのかを説明するものや、罹災証明の発行を受けるための動画です。これらは第6次派遣の職員がスマホを駆使して現地でつくりました。
さらに時間が経過すると、例えば炊き出し情報の投稿なども単純な情報だけでなく、メニューも投稿するようにしました。入浴施設の案内なども配信しています。現在も当市は職員1名を派遣中です。3月末に珠洲市側から相談があり、当市としてもできる限りのことをやろうと体制を維持。定期的にWeb会議をしつつ広報サポートを続けています。
被災すると、自治体の業務は膨大になります。この事例は、その一部をアウトソーシングしたというものです。なぜこれが可能になったかというと、コロナ禍を経て、Web会議をはじめとするオンライン連携に職員の抵抗感がなくなったことが大きいと思われます。おそらく5年前にはできなかったでしょう。現在ならではというか、今後の災害応援にはこうした選択肢もあるのかなと思います。
得られた教訓をこれからの防災にどのように生かしていくか[対談]
ここでは、第1部で情報共有いただいた2人が再び登壇。災害対応の経験が豊富な岩国市の佐伯さんにファシリテーターを務めていただき、支援内容の詳細や舞台裏について語ってもらった。
【ファシリテーター】佐伯 欽三 氏
山口県岩国市 周東総合支所 玖珂支所
地域振興班長
プロフィール
1990年に岩国市役所入庁。障害者福祉・社会教育・人権等の部署を経て現職。内閣府防災スペシャリスト養成研修、日本DMATロジスティック隊員養成研修を修了、元山口県災害ボランティア養成研修プログラム策定委員会委員など、様々な災害対応の活動にも取り組む。
【登壇者】
大月 浩靖 氏
三重県 いなべ市 総務部 防災課 課長補佐
【登壇者】
多名部 重則 氏
兵庫県 神戸市 市長室 広報戦略部 部長兼広報官
オンラインを活用しつつ、現地でなければ分からないことも。
佐伯:まずは多名部さんに参加者から質問です。「職員を少数精鋭で送ったという話でしたが、神戸市の広報支援として、派遣者へのサポートで工夫や意識した点はありますか」というものです。
多名部:色々ありましたが、メンタル的なサポートは重要です。派遣職員が現地の避難所に行ったところ、高齢者がスマホを持っていても通話くらいしか使えていない。「これではLINEを使っても意味がないのでは」とWeb会議で不安を投げかけてきました。そこで神戸市側の職員は、「避難所で誰かLINEを使えていたら、まわりに伝わる可能性がある。できることをやってみよう」と励まし、派遣職員の表情も明るくなりました。やはり仲間にサポートしてもらえるのは非常に大きく、メンタル面で支えになったと思います。
佐伯:続いての質問。「広報支援のやりとりの中で、オンラインでの難しさはありましたか」ということですが、いかがでしょうか。
多名部:現地でしかできないことはあります。なかでも人間関係の構築は大切です。それを派遣職員の2名が担って、やってほしい仕事を中継し、神戸市側に作業を外注する。この役割分担が非常に有効でした。
佐伯:多名部さんにもう1つ、「三層分離について、インターネットとLGWANの使い分けに課題はありませんでしたか」という質問です。
多名部:現地に行った2名の職員は、インターネットにつながるPCと、LGWAN用PCを両方持って行きました。普段のやりとりはLGWANを使って、外部の方がいるときはZoomを使う。これについては普段からうまく使い分けているので、特に不便はなかったようです。
災害対応で大切なのは“温故知新”のバランス感覚。
佐伯:次に大月さんに質問します。「DMATの活動スペースとして広さの目安が分かれば教えてください」というものです。私もDMATの研修を受けているので、少しは雰囲気が分かるのですが、いかがでしょうか。
大月:DMATの執務室に使っていた場所は、10m×7.5mの中会議室程度で、受付は会議室入口手前の場所でしていました。
佐伯:やはり一定のスペースは必要でしょうね。では次の質問。「応援職員の宿泊場所として、避難場所になっていない公共施設はどのくらいあったのでしょうか」というものです。
大月:現地で多くの職員にどこか公共施設はないか聞いたのですが、「ありません」という返事でした。災害対応に追われている中、急には思いつかないかもしれないので、普段から計画の中で公共施設を把握しておくとか、民間も含めた施設・物的資源を確認しておくのは大事だと思います。
佐伯:必要なスペースをあらかじめ考えて、機能で割り当てることが大事だと。ところで、キャンピングカーを借りたという件について、レンタルにあたり事前に協定などはされていたのでしょうか。
大月:協定はなかったと思います。私たちは普通車で現地入りして、応援職員が入ったときの宿泊場所としてキャンピングカーを借りました。応援職員全員がロビーで寝るわけにはいかないので、本当に泊まるだけ。お風呂は自衛隊に借りていたようです。ちなみに私はお風呂にも入らず、ロビーで寝ていたので……詳細は分かりません。
佐伯:最後に、お2人にお聞きします。今後、私たち職員、そして自治体組織はどのような姿勢で災害対策に取り組めばいいのか、ご意見をお願いします。
多名部:私が感じたのは、過去の延長線上に現在はなかったということです。4~5年前なら自治体の広報業務をアウトソーシングするのは無理だったでしょうし、やっても非効率だったと思います。しかしコロナ禍を経て、オンラインでつながることが日常になった。その流れで今回の業務も可能になった。前例も大事ですが、それにとらわれることなく、新しいことに挑戦するマインドが大事だと考えています。
大月:同感です。災害に同じものはないので、フレキシブルな危機管理能力も含め、日頃のトレーニングも大切ですし、地域性を踏まえた対応も求められます。DXなど新しいことも取り入れつつ、昔の人たちが考えた災害時の思いも考えながら、うまくやっていけばいいのかなと思います。
佐伯:お2人の話からも、災害対応は様々な面で進化していることが分かりました。こうした気づきを次の災害への備えにつなぐという意味でも、継続的な研修プログラムなどが必要だと思います。受援側、支援側、それぞれの立場で動き方は変わるかもしれませんが、様々なことを知っておくことが重要。ここで共有した内容も、今後の皆さんの活動につなげていただければうれしいです。
災害対策は、「仕組み」で解決。駆けつけ不要で避難所や防災倉庫を解放。
能登半島地震では、避難所の開錠が間に合わず、住民がガラスを破って中に入る事例も多く報告された。職員も被災している中で、開錠にまつわる様々なリスクをどう防ぐのか。この分野でサービスを展開するKEYes(キーズ)がヒントを提供する。
【登壇者】柄澤 博人 氏
KEYes株式会社 取締役 経営管理担当
プロフィール
2018年 KEYes株式会社設立。屋外で使えるスマートロックサービスの提供を開始。電力会社、ガス会社、鉄道会社、大規模工場、大手企業研究施設などから多数導入を得て、2024年には自治体向けの新サービスをリリース予定。
その備えで本当に大丈夫? 災害時のインシデント防止に向けて。
能登半島地震は、災害に対して備えるということだけでなく、それが本当に機能するかどうかが改めて問われた事象だったと思います。各自治体では防災訓練を定期的に行っていたことでしょう。しかし実際の災害は訓練とは異なり、現地が大混乱となってしまった様子がうかがい知れます。特に、災害が起きた直後には、避難所や防災倉庫が頼りになるのですが、今回の地震ではそれらが速やかに活用されなかった事例もあったようです。大きな災害が起きたときに、一体誰がその施設を機能させるのか、早期に駆けつけて開錠できるのか、それが今回は実現できなかったという報道もありました。
これらの状況は、災害というアクシデントが起きたがゆえに、次に起きたインシデントが重なったということだと思います。自然災害は防ぐことができません。ただ、インシデントが重なると供給されるべきサービスが停止する、もしくは機能が低下してしまう。避難所も防災倉庫もあるが、そこを使えない・開かないという事象、これはインシデントだったと私は考えています。
避難訓練や防災訓練、災害対応マニュアルなどでは、開錠シミュレーションも特に問題なかったことでしょう。これは準備を怠ったがゆえに起きたものではなく、災害時だからこそ起こり得ることでした。ではどうやって食い止めていくのか。そうした視点で当社はサービス開発をしています。
鍵をスマホに置き換えて、現地での開錠リスクを無くす。
当社のサービス「KEYes」は、端的にいうと“鍵をスマホに変えた”というものです。大規模工場をはじめ、電力会社、鉄道会社、自治体にも導入いただき、スマホで開錠するという仕組みを提供しています。
開錠のための物理的な鍵をなくせば、鍵の受け渡しの手間・時間がなくなる、移動時間も削減できる、鍵を渡すためだけに役所に残る人がいなくなる、といった面で業務効率化にも貢献できる。さらに、鍵の管理などの負担も軽減され、物理的な鍵の紛失リスクもなくなります。これらはすなわち、DXだと考えています。
では当社の考えるDXとは何か。ひとことで言うと「頑張る人を無くそう」ということです。もちろん否定的な意味ではなく、テクノロジーの力で、リスクを背負ってまで頑張る人がいなくなる世界を実現する、というのが目指すところなのです。
ちなみに、2022年、東京ビッグサイトで行われた「自治体・公共Week」に当社は出展したのですが、このときにブースを訪れた自治体の方のほぼ100%から「遠隔で開けられる鍵はないか」ということを聞かれました。その質問の意図は「公民館や運動場の貸し出しに使いたい」、「防災倉庫で使いたい」、「避難所を遠隔で開けられるようにしたい」というもので、さらにその後も同様の問い合わせを多数いただき、開発陣が奮起。2年を経て遠隔で開錠できるサービスを完成させました。これが開発の経緯です。
機能は非常にシンプルです。開錠したい錠前に対して通信で指示を出し、確実に鍵を開ける。つまり遠隔操作で避難所や防災倉庫の錠前を開けられる仕組みです。開錠の方法はいくつかあり、震度の感知による開錠、スマホで端末に指示を出す方法、最もシンプルなのは、当社側で24時間対応のオペレーターを用意しており、そこに連絡して遠隔開錠指示を出すという仕組み。これらを用意しています。
災害時には、基本的にLTEの会社が全て電話の回線をいったん絞ってしまいます。ゆえにメールもしくはショートメッセージの方がつながりやすいということも起きますが、今後はスターリンクなどとも連携し、災害時にワンストップで各避難施設や防災倉庫などの鍵を遠隔で開けられる機能を付加していく予定です。ご興味のある自治体は、気軽にお問い合わせください。
防災意識の向上と、発災時の正確・迅速な情報発信を実現するには
防災や災害対応で重要なのは、迅速かつ適切な情報の発信。近年はSNSなどで虚偽の情報が氾濫している。だからこそ、自治体による信頼性の高い情報発信力が求められている。第4部では、日本経済新聞社グループの金融情報サービス会社として、付加価値の高い金融・経済情報を提供しているQUICK(クイック)が、動画での発信を軸にアドバイスする。
【登壇者】山内 康弘 氏
株式会社QUICK データソリューション事業本部長
プロフィール
1992年、株式会社QUICKに入社。システム保守・運用や開発に従事し、新サービスの企画に携わる。2022年の内閣府のV-RESASの開発・運用プロジェクト以降、官公庁のシステム運用をサポート。現在は生成AIを活用した広報業務・デジタル技術を活用した広聴業務の開発運営をサポートしている。
災害時は、迅速で適切な情報発信とインバウンド対応が必要。
当社は日本経済新聞社のグループ企業として1971年に創業、金融市場を支える情報インフラの役割を担っています。事業の一つとして、自治体・官公庁へEBPMの支援も推進しています。
情報ビジネスは信頼性が重要ですが、この点は自治体も共通ではないでしょうか。SNSなどに代表される、見たい情報をすぐに調べて入手することが習慣化している昨今、人は自分に都合の良い情報を得ようとする傾向があり、不確かな情報も溢れています。これは非常に危険です。信頼できる情報を正しく配信することは、自治体にしかできません。このことを前提に、デジタルを活用した防災について考えてみましょう。
自治体は信頼性の高い情報を提供できますが、課題もあります。公的なデータには活字が多く、とっつきにくいものになりがちです。人は活字から離れて、動画や音声に頼る傾向があります。だからこそ、公的な情報も柔らかく、アクセスしやすい形で浸透させていくことが大切です。日頃から信頼できる情報を配信し、啓発することが防災意識の向上に繋がります。当社のサービス「QUICK Smart Brain(以下、QSB)」を活用することで、住民の防災意識向上のほか、非常時への対応力を高めることができます。
令和5年のお盆に台風7号が直撃しました。この時、広域の情報はメディアなどが伝えましたが、個人単位で考えると、今、自分がいる場所を起点に交通、河川が氾濫する可能性、避難所の場所などの情報が求められるはずです。また、外国人向けの情報発信も重要です。台風7号でも多くの外国人旅行者(以下、インバウンド)が困り果てていました。災害時は迅速かつ適切な情報発信と、インバウンド対応が必要です。
当社のQSBは石川県でも導入されています。能登半島地震の発生時、インバウンド向けにも県の公式HPで情報を提供しました。サイトに誘導するために多言語の動画を作成して、X(旧twitter)で配信。その情報がさらにリポストされ、必要な方に情報を届けることができました。このように、信頼できる情報を作り、拡散することができます。石川県では、馳知事がAI石川県知事「デジヒロシ」として活躍しています。
防災は、多言語の対応も重要です。外国人の方は、「自国では台風や地震など発生しない」という例も少なくありません。多言語での情報発信は、そうした方たちの身を守ることに直結します。QSBでは、日本語の原稿を用意して英語や韓国語など言語を指定すると、AIが要約したメッセージや音声を作成し、動画を自動生成することができます。こうした機能も自治体の防災への取り組みを支える基盤となります。
要約、アバター、多言語など、多様な機能で動画をクイック制作。
防災は、常日頃から情報を刷り込んでいくことが必要です。庁舎に設置されている大型のディスプレイで必要な情報を常に配信する取り組みも一つの方法です。QSBは、作成した動画をテレビ番組のようにスケジュール化して配信することができます。このサービスが各自治体のプラットフォームとして利用されるようになれば、自治体が連携したデジタル防災も実現できるのではないかと考えています。各自治体が災害時にどのような協力をするのか、あらかじめ連携しておくことで、迅速な対応も可能になるのではないでしょうか。
QSBはSaaS型のサービスで、Webの入力ツールにアクセスするURL、ID、パスワードを発行します。発信したい内容をテキストで入力できるほか、PDFをアップロードすることも可能です。AIによる原稿の要約機能を搭載しており、3つの要約パターンから最適な原稿を選択できます。音声は多言語(※)を選択可能、ボタンをクリックだけで、音声データを作成します。
(※)言語は40カ国語に対応(随時追加)予定
次に背景の画像とキャラクターを選択して画面デザインを仕上げます。動画生成ボタンを押すと、数分でMP4形式の動画が完成。作成した動画ファイルはアーカイブで保存され、履歴も確認できます。
このように、簡単なステップで動画を作成して迅速に情報を配信できるのがQSBの特長です。防災対策や災害時の情報発信のほか、広報活動にも広くご利用いただけるサービスです。自治体の皆さまの様々な業務にぜひお役立てください。
災害対応の現場から認識した罹災証明書早期発行の重要性
本セミナーの最後は、罹災証明書の迅速な交付に貢献するソリューションを手がける富士フイルムシステムサービスが登壇。能登半島地震で支援に入った経験も踏まえ、被災地で見た課題と、それを解決するヒントを共有してくれた。
【登壇者】尾関 広明 氏
富士フイルムシステムサービス株式会社
プロフィール
2010年富士ゼロックス株式会社(現・富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)に入社。2021年内閣府防災に出向し、防災デジタル分野を担当。能登半島地震では、内閣府リエゾンとして現地入りし、災害発生初期から復興期に至るまで幅広く災害対応に取り組む。2024年4月から富士フイルムシステムサービスにて、防災・減災DX分野における新規ビジネス開発を担当。
罹災証明書の迅速な交付が、被災地の復興を早めるカギになる。
私は2010年に富士ゼロックスに入社し、ITソリューションの分野に従事しました。その後2021年から内閣府防災に出向し、防災デジタルの分野を担当しました。能登半島地震では内閣府リエゾンとして現地入りし、現地状況の調査や災害対応にかかる関係機関との調整を行いました。ここではその経験も踏まえてソリューションの紹介をします。
私が現地で経験したことについては、大きく4つに分けて上記に示しています。ここでは、右下枠の「被害認定調査」にフォーカスしてお伝えします。
被災地で、住民が避難所にいる理由は様々です。それに対し、災害ごみの片付けや、仮設住宅の建設などが進めば、順次退所いただくことができます。避難所は閉鎖・集約化に向かい、職員の負担も減っていきます。ただし、このようなステップを進めるためには、罹災証明書が必要です。罹災証明書を交付するためには、申請を受けて、被害認定調査をする必要があります。そして調査にはとても時間を要することが多いです。それはなぜでしょうか。
被害認定調査をするには計画を立てる必要がありますが、そのためには被害の全容を把握しなければなりません。しかし発災直後に全容を把握するのは困難です。さらに計画にもとづき調査員を確保しようとしても難しく、他自治体の応援職員は本来の業務があるので1週間ほどで交代します。するとノウハウもたまらず調査スピードは向上しません。苦労して出した判定結果もミスがあれば再調査になり、罹災証明書の交付が遅れていく、というのが実情ではないでしょうか。
交付が遅れると、被災者は次の生活に進めず復興自体が遅れてしまいます。これが避難所閉鎖の遅れにつながり、職員の疲労も蓄積されるという負のスパイラルに陥っていきます。まずは避難所をいかに早く閉鎖していくかというのが復興の大きなカギの1つで、だからこそ罹災証明書を迅速に交付することが重要なのです。この罹災証明書を迅速にするためのソリューションを紹介します。
自治体から寄せられた声を、自社グループの技術で実現する。
防災DXでは、主に「予測力」、「予防力」、「対応力」というテーマがあります。そして私たちはこの対応力の向上に重点を置き、特に罹災証明書の迅速化という課題解決に注力してきました。そして解決策として提供するのが「罹災証明迅速化ソリューション」です。このソリューションは大きく3つのシステムで構成されています。
1つ目がスクリーニングシステムです。ドローンなどで撮影した空撮画像を富士フィルムの画像処理AI技術をもとに解析し、調査対象のエリアの検討を支援します。
2つ目は被害調査統合システムで、調査計画全体を監視します。申請の受付、調査員の登録、班の自動編成、調査対象エリアの自動割り振り、そして調査結果のモニタリング、さらに他社システムへのデータ連携と、中核的な役割を果たします。
3つ目が家屋被害判定アプリです。現地調査を支援するもので、タブレット型なので紙を持っていく必要はありません。分かりやすいインターフェースになっており、現地作業の垂直立ち上げを支援するものになっています。
このソリューションは自治体の声から生まれました。当社はコンビニ交付の証明書においてトップシェアを持っており、幅広く行政証明を支援しています。そうした中、4年前にある自治体から「罹災証明に大きな課題がある」と相談をいただいたのが開発のきっかけです。
富士フイルムには医療分野で培った画像処理AI技術があるので、これを家屋の被災度判定に使えないかと、研究をスタートしました。その後6自治体との共同研究を経て、2022年8月に無償版の住家被害認定調査アプリを提供開始しました。そして2023年6月に罹災証明迅速化ソリューションとして提供開始しています。
その後も開発を進めており、2024年4月には上記4つの新機能をリリースしました。また、調査プロセスにとどまることなく、その後の工程にも貢献できるよう、他社システムとの連携にも力を注いでいます。これまで、有償版・無償版含め約40自治体に導入いただいております。そこでいただいた声を紹介します。
「分かりやすい操作性で次に何をすべきかがよく分かる。また自動計算してくれるので非常にラクになり正確性が担保された。それらの効率化により帰庁後の残業がほぼなくなった」
「デジタル化によって被災者の声を聞く時間が確保でき、心の痛みに寄り添うことができるようになった」
このほか、様々な声をいただくことができました。
平時の備えとしてシステムが手元にあって、初めて罹災証明の迅速化は実現します。そのために、家屋被害判定アプリを無償提供しています。ぜひご活用ください。また、当社サイトにはオンラインセミナーの動画もありますので、ぜひご視聴ください。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works