ジチタイワークス

静岡県

【市川 美奈子さん】まわりの協力が必要な事業を通し、“共感”を得る大切さに気づいた。

“失敗が許されない組織風土”といわれがちな自治体。

ですが、最初からうまくいくことなんて少ないはず。このコーナーでは、今活躍する職員に“試行錯誤した経験”や“失敗の乗り越え方”をインタビュー!つまずきを学びや改善に変えていくヒントをお届けします。

※下記はジチタイワークスVol.30(2024年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

静岡県 台湾事務所 所長
市川 美奈子(いちかわ みなこ)さん

もともと民間企業で働き、北京に5年半ほどの駐在経験があった市川さん。静岡県庁入庁後はインバウンド担当となり、現在は台湾事務所長を務めている。一見華やかに活躍しているように見えるが、試行錯誤の連続だという。


01 あのときは苦労したな……と思うエピソードを教えてください。

入庁後は、中国・台湾・香港からの観光客誘致に取り組み、インバウンド向け託児サービスを始めるなど様々な挑戦をしてきました。その中で思い入れの強い事業の一つが、海外で現地の法律にのっとって婚姻する“リーガルウエディング”の受け入れです。

これは、正式な婚姻として認められる制度で、沖縄県で受け入れ実績がありました。そこで当県でも香港からの観光客に向けてPRすることに。というのも、香港では婚姻届を出すために3カ月以上前から予約し、当日に証人2人を連れて行かなければならないなど、手続きが煩雑なのです。日本は役所に書類を出せば婚姻が成立するため、海外旅行で一生の思い出をつくりたい香港のカップルからの需要があるのではと考えました。

この取り組みは、婚姻届を受理する市町村の協力がなければ成立しません。平成29年度、2つの自治体の市民課に協力をお願いしましたが、同課はもともとの業務だけでも多くの市民が訪れ、かなり忙しい状況。それに加えて日本語を話せない外国人の対応をするのは負担が大きいということで、協力を得るのに苦労しました。

02 協力が得にくい状況をどのようにして乗り越えましたか?

全く面識のない市民課に直接お願いしても難しいかもしれないと思い、まずはもともとつながりのある観光課職員の皆さんにリーガルウエディングの内容と意義を説明して、協力体制を築きました。そして共感してくれた観光課の職員から市民課に伝えてもらい、改めて私が説明に伺うという段取りに。しかし、観光課の担当者から話をしてもらった段階で、“対応は難しい”と言われて頓挫しかけたこともあります。

なんとか説明する機会をもらった際は、相手の懸念点を想定し、払拭するように心がけました。例えば、“日本語が話せない人が来たら困る”と言われたら“県の観光協会に電話してくれれば通訳対応します”、“書類を自分たちで確認できないかもしれない”という心配には“書類は1カ月前までに送ってもらうようにして、不備があれば責任をもって確認します”と伝えました。ただお願いするだけではなく、自分たちも一緒に汗をかく姿勢を見せて乗り越えましたね。

03 この経験からどんなことを学びましたか?

まず、市民課の負担増加は間違いないので、そこを理解し、相手の言うことを尊重する大切さを学びました。この段階でも“共感”がカギになったと感じます。例えば、「リーガルウエディングの受け入れで、海外に〇〇市のファンができたらすてきですよね」と伝えたり、自分の思いや考えを熱意をもって丁寧に話したり。それが共感につながり、最終的に承諾してもらうことができました。

もともと自分の業務や価値観、プライベート、困っていることも隠さず話すようにしていたのですが、ここでもちょっとしたきっかけで距離が近づき、それも協力を得る一助になったのではと思います。

04 仕事をする中で大切にしていることと、今後について聞かせてください。

一人でできることは限られているので、できるだけ仲間を増やしたいと思っています。それに、仕事も子育ても完璧を目指さなくていいと考えています。気負いすぎるとつらくなりますよね。一時的に人の手を借りて、次は自分が人を助ける側になればいい。私自身、これまで仕事や子育てとの両立において、上司や同僚に何度も助けてもらいました。だから私も部下が困っているときは、寄り添い助けてあげられる上司でいたいし、“恩送り”をしていきたいです。

 

市川さんに迫る!一問一答

公務員になろうと思ったきっかけは?
海外生活を通じて、“富士山”は知られていても“静岡”の知名度は低いことに気づき、大好きな静岡のよさを海外にも伝えたいと思ったからです。
 

仕事で落ち込んだときの気持ちの切り替え方は?
甘いものを食べに行きます。1人の時間をもったり、逆に家族に話を聞いてもらったりします。
 

子育てをしながら働く職員さんに向けてメッセージ
私自身、子育てでは手抜きの面もあります。完璧を目指さず、楽しく子育てしながら働いていきましょう。まわりの人を頼って!

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