全国自治体にDXが求められている今、ChatGPTをはじめとする生成AIの活用はスタンダードになっていくだろう。戸田市においては、「戸田市デジタル宣言」を掲げ、かねてより全国自治体に先駆けて、様々なITツールを導入し、業務効率化と行政サービスの向上を図ってきた。ChatGPTについても、調査研究の実施により集めた知見を、広く公開している。同市の取り組みから、安全・安心に活用するためのヒントやコツを紹介する。
【ChatGPT連載】
Case.1:~神戸市編~
Case.2:~戸田市編~ ←今回はココ
Csse.3:~志木市編~
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです
Interview
戸田市 デジタル戦略室
室長 大山 水帆(おおやま みずほ)さん
業務効率化に有効と判断し、まずは活用方法の検討とルールづくりを進めました。
Q.なぜChatGPTを利用することに?
大山さん:戸田市では、未来志向のデジタル市役所実現に向け、令和3年9月に「戸田市デジタル宣言」を行いました。以降、成長的なDXを図る組織をつくるため、市を挙げてDXに取り組んでいます。
具体的には、情報化推進計画をもとに、行政手続きのオンライン化やキャッシュレス決済の導入、デジタルによる業務効率化を進めています。各種AIツールについては、業務効率化に有効と判断したものを積極的に利用してきました。
ChatGPTに関しても、職員業務をサポートできるツールという認識のもと、令和5年4月より導入に向けた取り組みをスタートしています。調査研究は、戸田市が全国の自治体で初めてという、未知の試みでした。導入に先立って、まず庁内に調査研究チームを設置し、同年5月以降、外部専門家の支援を受けながら「ChatGPTに関する調査研究事業」を全5回実施しています。
初回は5月に、調査研究会の趣旨、ChatGPTの概要説明などを実施。第2回は、「課題解決のためのChatGPT」ワークショップ、第3回は、ChatGPTを用いた新たなアイデアやプログラムをつくるハッカソンを実施しました。また、第4回には河野デジタル大臣が視察に訪れ、「ここまで進んでいる自治体はいないのでは」とコメントをいただきました。第5回は、調査研究事業の成果として「自治体におけるChatGPT等の生成AI活用ガイド」についての説明が行われ、10月に公表しました。
「自治体におけるChatGPT等の生成AI活用ガイド」はコチラ
リスクは一般のインターネットのサービスと同じです。
Q.“情報漏えいが怖い”という意見もありますが、いかがでしょうか?
大山さん:情報漏えいリスク対策としては、ChatGPTがどのようなものか把握したうえでルールを策定し、安全な環境を構築することが重要です。インターネットのサービスに個人情報や機密情報を入力してはならない従来の情報セキュリティポリシーに加え、生成AIの回答をそのまま使わないことなどの禁止事項を定めました。
さらに、使用するサービスをしっかり選定することで情報漏えいを防げます。当市では、「シフトプラス」の「自治体AI ZEVO」を導入し、技術的にも個人情報が漏えいしない仕組みを構築しています。「自治体AI ZEVO」はLGWAN-ASPを用いているとともに、個人情報を入力してもAIに認識・学習されることがありません。また、日本の法令が適用される「マイクロソフト」の「Azure OpenAI Service」を使用しています。
職員に対しては研修用の動画を用意し、利用促進とルールの周知に努めています。そもそも、職員はインターネット検索を日常的に行っており、ChatGPTの利用もそれと同等と考えています。インターネット検索に個人情報や機密情報を入力することは通常ありませんから、普通に市の情報セキュリティポリシーに従えば良いのです。
また、当市ではセキュリティに関して研修や内部監査、外部監査を通じ、職員全体が高い意識を有しており、ツールを利用する際は、個々人が情報の取り扱いに注意している背景もあります。
“まずは実際に使ってもらう”ことが大切です。
Q.具体的にどのようにして庁内利用を進められたのでしょうか?
大山さん:前述のように、当市は「戸田市デジタル宣言」を掲げ、情報化推進計画をもとに全庁的にDXを進めてきた背景があります。そのため、職員の多くはITツールや情報の取扱い取り扱いに高い意識をもっており、活用に関して心理的ハードルもほとんどなかったように思います。
全職員に利用してもらうためには、まずは実際に使ってもらい、ツールの特徴を理解してもらうことが大切です。使用する中で生成AIの能力を体験することで、業務への活用が広まっていきます。
「ChatGPTに関する調査研究事業」は、総務部門や窓口部門などの職員約15名に加え、外部専門家も招いて実施しました。研究会の成果を活用ガイドブックにまとめ周知するとともに、使用方法を動画にするなど、職員が気軽に利用できるよう努めています。
実際の業務での活用を検証できました。
Q.研究成果としてはいかがでしょうか?
大山さん:例えば、第3回研究会で実施したハッカソンでは、民間を含め様々なチームが生成AIを使用したプログラムのデモや、プレスリリースのテンプレートをつくるためのプロンプト案などを作成していただきました。
すぐにでも活用できる例としては、調査研究チームが命名した「市役所情報バズっちゃえプロジェクト」で、広報担当職員が作成したプレス資料をもとに「心に響く文章」をつくるようChatGPTに指示を与えることで、少しの修正で使用できる文章を生成するプレスリリース用のプロンプト(命令)のテンプレート例がありました。
このプロンプトについては「自治体におけるChatGPT等の生成AI活用ガイド(本編)」活用編(31ページ目以降)に記載しておりますので、ぜひご覧ください。
(参照:「自治体におけるChatGPT等の生成AI活用ガイド(本編)」P33 https://www.city.toda.saitama.jp/uploaded/attachment/62855.pdf)
ChatGPTをより効果的に活用するためには、プロンプトの工夫が必要です。当市でも、試行錯誤を繰り返す中で回答の精度が高まることを検証しました。最終的には、人間が生成するものと同等かそれ以上の成果物が作成される場合があります。
プロンプトによって、生成結果は大きく変わります。そのため、利用する職員側が明確な目的や生成AIの特性を理解し、プロンプトを作成することが重要です。
本格導入後は日常業務に活用し、500時間相当の削減効果があったと推定されます。
Q.庁内からの反響はいかがでしたか?
大山さん:これらの取り組みを経て、職員は導入当初から、普段利用しているインターネットの検索エンジンのように活用しているようです。今後は、“業務になくてはならないもの”というレベルにまで職員に浸透していくと思います。
ChatGPTは、あくまで正解を導くツールではなく、文章の素案をスピーディに提案してくれるツールということを理解することが重要です。文章生成や要約、施策提案などに大いに役立ってくれます。文章をゼロからつくろうとすると、膨大な時間が必要です。ChatGPTを利用することで、そこにかかる時間を大きく圧縮できます。
当市では、令和5年11月1日~29日までに業務で使用する約300万文字を生成しています。あくまで単純計算ですが、業務時間にして、500時間相当の削減効果があったと推定されます。文章の生成・要約においては、大きく省力化できているといえるでしょう。
内部利用だけでなく、市民サービスにも活用したいと思います。
Q.今後ChatGPTをどのように利用していきたいと思いますか?
大山さん:現在、生成AIを活用した市民向け応答サービスの実証を行っています。これはLINE電話の音声をAIがテキスト化し、それをChatGPTが戸田市公式ホームページの内容をもとに回答を生成、さらにそれを音声合成して音声で回答するものです。市公式ホームページの内容をもとに回答を生成することで、一般に言われている“生成AIがもっともらしい嘘をつく”ことを防ぐことができます。これが実用化するとコールセンターがいらなくなるかもしれませんね。
(参照:戸田市HPより 戸田市におけるAIの取り組み https://www.city.toda.saitama.jp/soshiki/154/chatgpt.html)
さらに、行政内部の独自情報をChatGPTに学習させる実証も行っています。現在、職員向けFAQと市議会議事録をChatGPTに学習させていますが、特定の情報をもとに回答を生成するため、誤った情報が生成されることを防ぐとともに、必要な情報が要約されて生成されるため、業務の省力化に役立つものと期待しています。
少子高齢化で人口減少が進む中、限られた職員数で先進的なツールの利用を進めなければならない自治体も多いでしょう。当市が作成した「自治体におけるChatGPT等の生成AI活用ガイド」をご利用いただくことで、“どのように活用したらよいか分からない”“どのようなルールをつくればよいのか分からない”“ガイドライン作成に割ける人員がいない”などの課題を解消しながら、生成AIを利用した業務効率化に着手していただけたらと考えています。
当市は生成AIに関しこれまでに様々な取り組みを進めてきましたので、皆さんの自治体でも、ChatGPTをスムーズに導入し利用できるよう、活用方法などの情報提供を引き続き行っていきたいと考えています。