地方公務員でありながら経営修士(MBA)の学位を持つ、糸島市秘書広報課の岡 祐輔さん。現在は、地域連携のマーケティングモデルで地元事業者を活性化させるプロジェクトを進行している。なぜ MBAを取得し、どう実践に生かしたのかを伺った。
※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.8(2019年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 福岡県糸島市役所 企画部 秘書広報課 ブランド推進係
まちのサービスレベルは自分次第
実は、自分が市役所職員になるなんて思ってもみないことでした。
学生時代はステータスだけを求めて歯科大学に入学したものの単位取得に追われて勉強の楽しさを感じなくなり引きこもりに。悩みを相談しようと地元の同級生に会いにいくと、彼が「学校を辞めて地元の役場に入る」と言ってきたんです。卒業間際でしたがこういう生き方もあるのかと影響を受けて、大学を中退し、二丈町(現・糸島市)の役場に入職しました。
配属されたのは生活環境課。小さな町役場だったので業務範囲が広く、毎日町民から苦情ばかりが届く部署でした。でも2、3年が経ったころ、友人の結婚式で上司の方が「彼は◯人ものお客様を担当している」とご挨拶されました。そのとき「自分はこのまちで1万3,000人の町民を担当している」「お客様は好きな役場や担当者を選べない。自分しか選べない」と思いました。それから意識がガラリと変わりました。単に安定だけじゃなく、誇らしい仕事だと思え、担当者のやる気や能力一つでまちのサービスレベルが違ってくる、「自分がやらなければ誰がやるんだ」と使命感を持つようになりました。
そんな時に、イギリスでは民間の経営手法を使った行政政策がすでに進んでいるという記事を目にしたんです。興味を持ち、経営コンサルタントの小宮一慶さんや公共政策学者の上山信一さんの本を読み進めていくうちに、これからの地方公務員は民間の経営学を持ち込まないとやっていけなくなると思いました。
異動しても使える才能を
地方公務員である以上、いつどこに異動になるかわかりません。
自分にしかできない、どこに行っても使える能力が欲しいと思いました。そこで、小宮さんたちのようになりたくて、MBAを取りたい!と思ったのですが、大学院(修士)は大卒しか受験できなかったんです。だから、まず平成18(2006)年に通信制大学に入学し、4年間経営学の基礎を学びました。すぐに受験したかったのですが、市町合併や業務多忙で少し遅れ、平成26(2014)年にビジネススクールに入学し、2年通ってMBAを取得しました。仕事の昼休みには菓子パンを片手に勉強し、授業中には「この知識は役所だとここで応用できる」と常に考えていました。
卒業後はシティセールス課に配属され、マーケティングの考え方を実践で活かそうと取り組みました。そのうちの一つが平成28(2016)年に内閣府主催の「地方創生☆政策アイデアコンテスト2016」で最優秀賞をいただいた糸島産ふともずくをはじめとした糸島マーケティングモデルのプロジェクトです。糸島市は一見プロモーションに成功している自治体に見えるのですが、データで見ると各産業の生産性が低く稼ぐ力が弱い傾向にありました。注目度の高いうちに商品や事業者、生産者の力を磨いていくことが必要だと感じ取り組んだことで、一つの成果としてふともずくの売上は1年半で6倍増を達成しました。
運命の場所で自分ができることを考える
自分が今この部署に配属されていることは運命です。まちの歴史の中で考えると、まちの何かを変えられる運命に自分は立ち会っているんです。なんでもいいから、置かれた場所で自分にしかできないことを探してまずはやってみることが第一歩だと思っています。私にとってはそれがマーケティングでした。これからも運命の場所で政策を進めていきます。
岡 祐輔さん 福岡県糸島市役所 企画部 秘書広報課 ブランド推進係
PROFILE
平成15(2003)年に入庁。九州大学ビジネススクールに飛び込み、平成28年に経営修士(MBA)を取得。現在は博士の学位取得に向けてさらなる勉強を続けている。
こちらもチェック!
『スーパー公務員直伝!糸島発!公務員のマーケティング力』
特産品の売り上げを1年半で6倍にした手法がわかる!
●企画・政策立案に使える!
●分析力・判断力が身につく!
岡 祐輔[著] 出版社/学陽書房 定価/本体1,800円+税