ジチタイワークス

【セミナーレポート】会計×DX 庁内全体業務の連携による業務執行の自動化・効率化へ

新地方公会計制度のスタートから約8年が経過し、各自治体がシステム導入や業務整備を通じて新制度の運用に取り組んでいることと思います。ただ、システムが統一されていないことで、かえって業務が複雑化したり、紙ベースの作業が多数残っていることから、人的ミスが発生したり…といった悩みを抱えている自治体も少なくないようです。

そこで今回のセミナーでは、それらの悩みを解決し、業務の自動化・効率化を推進するためのサービスを提供しているSAPジャパン社に登壇いただきました。

また、大分県会計管理局の清水氏をお招きし、会計業務をDXで変える・進化させることの重要性や効果、具体的な取り組みについて語っていただきました。

概要

■テーマ:会計× DX 庁内全体業務の連携による業務執行の自動化・効率化へ
■実施日:2023年11月16日(木)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:145人
■プログラム
Program1
財務総合システムの再開発について
Program2
標準化(Fit to Standard)による予算管理・会計DX


財務総合システムの再開発について

<講師>

大分県庁 会計管理局
審査・指導室室長 清水 宣雄氏

プロフィール

昭和61年度入庁。情報システム部門で、県域情報ハイウェイ「豊の国ハイパーネットワーク」や自治体情報セキュリティクラウドの構築などに従事。令和3年度から財務総合システムの仕様検討などに関わり、令和5年5月より現職。


令和6年3月の稼働開始を目指し、財務総合システムの開発を進めている大分県。行政手続の電子化やICT等を活用した業務効率化を推進するため、新たに電子決裁の導入や公共料金等の自動支払、コンビニ・キャッシュレス収納などの機能を追加するという。

その他、クラウドサービスを活用した消耗品発注システムや指定金融機関とのADP接続など、会計事務の電子化に向けた取り組みを、清水氏が紹介する。

財務会計システムの概要について

当県の現行の財務会計システムは、平成6年に最初の開発を行っています。機能としては、歳入・歳出、外現金・基金、決算など。その後、物品調達、備品管理、公会計、燃料券発行の機能を付け加え、現在のシステムになっています。

平成24年に財務会計システムの最初の更新を実施。今回が3回目の開発です。現行システムのサポートが令和6年度末に終了すること、予算編成システムと連携すること、業務改善のための課題を解決すること、「大分県行財政改革推進計画」にもとづきICT等を活用した業務の抜本的な見直しを図ることが、再開発を行う理由です。

なお、開発のポイントとしては、

①財務関連システムの統合・連携 ➡ 業務の効率化
②大量・定型業務の自動化 ➡ 職員の業務を削減
③キャッシュレス等への対応 ➡ 多様な収納方法に対応し、業務を省力化

…の3項目が挙げられます。

財務総合システムの方向性

令和2年3月に策定した「大分県行財政改革推進計画」の中で、行政手続きの電子化、ICT等を活用した業務の効率化を掲げており、今後は県の行政手続きについて100%電子化を目指すこととしています。また、令和4年3月策定の「大分県DX推進戦略」は、暮らしのDX、産業のDX、行政のDX、DXの推進基盤という4つの大きな柱があります。この中の「行政のDX」については、県民の利便性向上と行政の高度化・業務効率化を掲げています。

県民の利便性向上策としては、スマホによる行政手続きや手数料支払いのキャッシュレス化、行政の高度化・業務効率化策としては、県からの支払いや公金納付の手続きを、容易で迅速にすることなどが考えられるため、新システムには様々な機能を追加する予定です。

これまでも、業務のデジタル化に取り組んできましたが、既存の業務や仕組みにもとづいてシステムを構築し、運用してきました。

今回のDXでは、「デジタルによる価値創造」ということで、既存の業務や仕組みを前提としない、新たな視点・発想で、システムを構築するということです。財務会計においても、従来の紙で行っていたものを電子化したり、USBなど媒体による指定金融機関とのデータのやりとりをオンラインで行ったり、すでに民間で使われているクラウドサービスを活用したりと、新たな視点・発想で開発を行っている状況です。

財務総合システムの開発範囲については、下記図の通りです。

行政手続の電子化・業務効率化の実現

今回、行政手続の電子化・業務の効率化を実現するために、大分県がやっていることを紹介します。

(1)自動支払い機能の追加

大分県の場合、支出命令書の件数は年間約22万件ありますが、現状は紙で決裁しています。そこで、下記図の3つを財務総合システムに取り込むことで、自動支払い機能を追加します。

今回対象としているもの全てに自動支払い機能が利用できれば、約36%の業務削減が見込まれます。ただし、自動支払いに対応できない支払いもありますので、今のところは約20%の削減を見込んでいます。

(2)定型様式のシステム化

例えば、事業実施伺(委託契約、物品購入等)、検査に係る事務手続き、随意契約理由書は、これまで別途作成して決裁を取り、添付ファイルにしていました。しかし、入力漏れなどの不備が多かったため、今回、システムに様式を用意し入力することにしました。これにより、添付漏れや入力項目漏れなどのチェックができるため、差戻し件数の削減を見込んでいます。

(3)添付書類等の見直し
(4)内部統制機能の保持および強化
(5)その他、多様な収納方法への対応については、下記図を参照してください。

ここからは個人的な見解ですが、会計DXには、以下の3つの考え方があると思います。

①AIの活用
・紙請求書などの読み取り(AI-OCR)や審査
・チャットGPTの活用(規則、模範事例、逐条解説など自治体共通のQ&Aシステムを構築)
・契約書などの自動作成や内容の分析、リスクの洗い出し

②他システムとの連携(クラウドシステムの活用)
・電子申請システム(許認可、補助金など)と連携し、 申請、収納、許可証、交付決定、交付請求、支払いなど一連の手続きをシステム化
・インターネットバンキングによる公金の取扱い
・電子契約、電子請求、電子入札、積算システムなどとのデータ連係

③標準化
・都道府県での財務会計システムの共同利用、共同調達、クラウドサービスの利用
・公金収納事務のデジタル化(全国共通納付書、納付手段、地方税における地方税統一二次元コードの導入)

当県が財務総合システムを開発するにあたっては、いくつかの県にご協力いただき、大分県の独自仕様にならないよう情報共有を行ってきました。その中で、これまでの機能を見直したり追加するなどし、他県でも使えるようなシステムになるように仕様を作成しています。作成した仕様書については、ご協力いただいた県と共有し、それぞれのシステム開発の参考にしていただいてるところです。

今後、大規模なシステム開発は経費が高くなったり、開発を受託するベンダー等が少なくなることが予想されます。そのため、内部事務にかかるシステムもなるべくなら標準化を意識して構築することが必要だと考えます。県でも次の財務総合システムの更新では、クラウド上でいくつかの県と共同利用できるといいかなと思います。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:現在、紙の請求書に押印後、スキャナーで読み込んで、PDFを添付して電子決裁処理をしています。検査を行った証明をシステム上でどのように実現していますか。また、工事や委託などの紙文書、計算書、契約書などの電子化が進まないのですが、どのように整理しておられますか。

A:工事終了後の検査調書の作成に関する質問と思いますが、開発中のシステムにおいては、負担行為の画面に検査の有無を選択する項目をつくっています。例えば「検査あり」を選択すると、検査の入力画面で、検査結果の決裁後でないと支出命令が起こせない仕組みになっています。この検査調書の作成については、検査員が入力することで証明する判断にしています。

また、紙文書で電子化が進まないという点ですが、当県も現行の財務会計システムは紙主体です。システムで起案しますが、印刷したものに押印をしています。今回電子化するにあたり、工事や委託の設計書は、紙が非常に多い状態です。それらをどういった形で電子化していくかという点については、まだ頭を悩ませているところです。

全庁的な取り組みとして、別の部署がペーパレス化を進めており、当面は紙で添付せざるを得ない状況です。そのあたりをどのように改善すべきかは、実際に運用しながら考えたいと思っています。

標準化(Fit to Standard)による予算管理・会計DX

<講師>

SAPジャパン株式会社
インダストリシニアアドバイザー
浅井 一磨氏

プロフィール

国内ソフトウェア企業やマイクロソフト勤務を経て、令和3年にSAP入社。官公庁および地方自治体を担当し、公共機関のDX推進支援や、防災、人的資本など社会課題解決にも取り組む。


グローバルNo.1のビジネスアプリケーションを提供するSAP。同社の浅井氏が日本の民間企業や公共分野での知見をもとに、地方自治体の会計分野におけるDX推進のヒントや、庁内システムの連携やデータの一元管理を行うことで、業務の自動化・効率化を実現する方法を紹介する。

多くの自治体が抱える課題について

自治体の皆さんは、「紙作業が多く残っているため人為的なミスが発生しやすい」、「複数システムで情報を管理しているため、重複入力や業務の複雑化が発生している」、「欲しいデータへのアクセスに時間がかかる」などの問題を抱えていませんか。これらは、弊社が自治体から受けることの多い相談内容の一部です。

平成27年1月の総務大臣通知により、全ての自治体は「新公会計制度」を導入しました。財務書類等の作成に係る統一的な基準を設定することで、

①発生主義・複式簿記の導入
②固定資産台帳の整備
③比較可能性の確保

などが促進され、新公会計基準への対応や会計領域のデジタル化では、先進的な自治体様では以下のような取り組みがなされていると伺っております。

●新公会計基準への取り組み(例)
・公共施設の維持管理・更新に係る費用を推計し、平準化のための基金の創設
・同規模の地方公共団体をベンチマークとして設定し、財政指標を比較
・将来バランスシート(10年後のバランスシートの予測値)を作成し、市全体での財政目標を設定
・ゲームや体験イベント等で住民と一緒に考え、行動する機会を創出

●会計業務のデジタル化事例
・AI-OCRによるペーパーレス化
・RPAによる業務効率化
・文書管理システムの導入
・会計業務のBPR など

これらのうち、予算執行や請求書のデジタル化について、弊社が一部支援している部分があります。下記図は、業務プロセスの自動化事例です。

SAPが提案する解決策

ただし、財務会計システム自体のDX化やシステム統合を進めなければ、根本的な課題の解決にはつながりにくいのではないかと思います。

実際、自治体から財務会計の問い合わせ・相談も増えてきております。ご相談をいただいた際に弊社は以下のような視点での検討をご紹介しております。

①会計情報の一元化
②リアルタイム仕訳による効率化と信頼性向上
③固定資産のライフサイクルを管理
④帳票対応はもちろん、見たい情報を即座に把握
⑤業務プロセスの見える化・改善
⑥適切なユーザー教育

これらの点に加え、業務自体の改善(BPR)を行うことで、業務の標準化(Fit to Standard)と、データ一元化によるデジタル変革を行えると伝えております。

なお、以下の図は、弊社が理解している予算管理・会計業務の一連の流れです。

加えて、固定資産の管理、調達・購買、在庫管理、給与といった関連する業務も含めたご相談を受けるケースが増えております。

弊社の予算管理・会計業務は本国ドイツをはじめ世界各国で利用されています。さらに会計業務をはじめとした基幹システムをコアとして、税務、EBPM、市民サービスにも利用されています。特に直近3年ではコロナ渦で対応のための、ワクチン接種管理、給付金申請などの住民向けサービスで利用されているケースも多いです。日本でも様々な公共機関様でご利用されております。

多く利用されている理由として弊社の財務会計パッケージは、同じデータを同じ場所に格納する「ワンファクト・ワンプレイス」の考え方が根幹にあり、その点が我々の強みとなっています。

さらに業界毎で標準化された業務ルールと業務プロセスをパラメータとして提供しており、それらの設定するにより、自治体様の業務改革を実現すると考えています。また、設定を変更することで継続的かつ柔軟なデジタル業務改革を後押しします。

また、ワークフローも標準コンテンツとして提供しています。設定済みのワークフローを利用することで、効率的な開発を行え、コストおよび開発期間の短縮が見込めまし、人事異動などの変更内容はワークフローに自動的に反映されます。

SAPが提案するソリューション

SAPが提案するソリューションの、特徴について紹介します。

●会計情報の統合管理
先ほどもデータは1カ所に集約(ワンファクト、ワンプレイス)し、いつでも最新の情報を見て意思決定が可能とご紹介しました。業務取引が発生した際、その都度内容を「伝票」として記録します。「伝票」はリアルタイムに「仕訳」に変換されるため、会計・戦略部門は原課・業務担当の動きを数値データとして即時に把握することが可能です。

●会計機能をリアルタイム統合
予算会計、財務会計、管理会計が連動しながら、データを記帳管理します。予算執行の進捗に応じて金額が管理され、リアルタイムに自動転記される仕組みになっています。

●SAP予算会計の特長
予算会計は、下記の図のように構成されています。

●固定資産管理の特長
①固定資産業務を完全サポート
②決算効率化をサポート
プロジェクトや設備保全との統合

このように、SAPは官民の実績と経験をもとに、業務標準化とデータ一元化により自治体様の会計業務を支援します。特に「新公会計制度」の目的を遂行しながら、データ活用、業務改善の実現をサポートし、皆様が地域住民からの信頼を得るデジタル変革に寄与したいと考えています。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:会計事務のDX化は、どこまで進むと予想しておられますか。最終的な会計管理はAIでも事足りると考えられると思いますが、オペレーションとして、人間とAIとが許容される範囲や見分けをご教示ください。

A:AI技術の飛躍的な進歩で、業務プロセスや業務統合は自動化により、大幅に削減・効率化できると考えています。また、機械学習によってさらに精度が上がり、人間が気づかない視点や解決策を提示してくれる点が大いに期待できます。ただし、住民向けの視点に立った優先順位付けや最終的な判断は、やはり人間が行っていくべきだと思います。
 

Q:規則などによる縛りがかなり強い上、固定概念的な要素もあるため、BPRがうまく進んでいません。何とかBPRを進めたいのですが、何かアイデアをご教示いただけないでしょうか。

A:BPRを実際に行う際、現場の賛同が得られないとか、やってみたもののうまく機能しない、といった声を多く聞きます。まずは可視化して、業務プロセスを見直すことが必要だと思います。デジタル化に取り組み、トライアンドエラーにより、柔軟にプロセスを変更して、運用することが重要です。さらにデジタル化を体験することによって、現場の方々に「使ってみると、良いね」と感じていただくことも重要であると思います。

加えて、BPRを何のためにやっているのか、目的を明らかにすることが重要です。そもそもの課題が何なのかを認識した上で、適切なゴールを設定することが重要です。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 【セミナーレポート】会計×DX 庁内全体業務の連携による業務執行の自動化・効率化へ