職員の“やりたい”意欲をキャリアにつなげる人事制度
個人のスキルや興味関心を仕事につなげたいと思う職員は少なくないだろう。愛知県では、その意欲を業務に活かせる機会として、2つの制度を設立。自らの力でキャリアを切り開ける仕組みが、好評を得ているという。
※下記はジチタイワークスVol.29(2023年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
希望する業務への挑戦で職員の意欲を向上させる。
同県では、職員の意欲を向上させ、組織の活性化につなげるために「やりたい仕事挑戦制度」を平成12年に設けた。対象は主査級以下の職員で、希望する業務に手を挙げ、合格すればその所属へ異動できるというものだ。
「公務員は、頻繁に異動があり、様々な所属を経験します。幅広い知見を得るという効果はありますが、時には意にそぐわない配属先になることも。職員のやりたいと思うチャレンジ精神を尊重し、その意欲を業務へ反映させれば、職員を大きく成長させることができるでしょう。また、そうした職員がいることが、組織の活性化につながると考え、この制度が運用されています」と花岡さん。
まずこの制度(一般公募型)では、庁内の各局に対し、公募したい業務をヒアリングすることからスタートする。その後、人事課が募集業務を公示し、挑戦したい職員は志望理由と自分のキャリアビジョンを記載した応募用紙を提出。各主管課で面接・選考を行った後、人事異動の内示で本人に結果を通知する流れだ。現所属の上長を通さず直接応募でき、合否もほかの職員には分からないように工夫しているため、周囲の目を気にせずに制度を利用できるという。
また、挑戦の機会を公平にするために、応募回数は制限している。一般公募型への応募が多いものの、ほかにも特定の事業を提案するものや、公示のない業務でも自らのスキルや経験をアピールして挑戦できるパターンも用意しているそうだ。
「キャリアを自ら形成できる点が、職員の意欲につながっていると思います。選考では、特に志望理由がポイントです。せっかく挑戦するのに、ミスマッチが起きると意味がないので、各課の面接でしっかり対話をしてもらっています」と名越さん。
専門人材を育成するための中長期的なキャリア支援も行う。
若手職員向けの制度と並行して、中堅職員に向けた制度も運用している。県庁業務は幅が広いため、専門知識や経験が必要なものも多く、ゼネラリストだけでなく、スペシャリストの育成も求められる。そこで、平成27年に「極めたい分野挑戦制度」を設立。ジョブローテーションで様々な経験を積んだ後、自らの進みたい分野を選択。合格すれば1つの分野内で異動することになるため、軸足を置いてキャリアを積むことができるそうだ。
対象となるのは、採用7年目以降で管理職に上がる前の中堅職員が中心。募集分野は税務、ICT・DX、医療・介護、会計、法務、防災、用地、病院事務の8つだそう。応募の流れは前述の制度と同様で、希望の分野があれば応募し、面接・選考を経て合格すれば3月の内示で異動になる。
「やりたい仕事挑戦制度との違いは、より密接に、その後のキャリアに関わってくる点ですね。この制度に合格すれば、特定分野に数年従事することになります。専門的な知識を磨けると同時に、計画的に中長期のキャリアを形成できます。そのため応募する職員はより深く自分の適性と向き合うことが必要ですし、求められる人物像にかなうか、選考も慎重に行っています」と花岡さん。
公募から内示までの流れ
10~11月 公募する業務を公示
11~12月 主管課で面接・選考
3月 人事内示で本人通知
安心して応募できる工夫で職員から支持される制度に。
2つの制度について、多くの職員が前向きだという。やりたい仕事挑戦制度は、一般公募型では累計639人が合格し、望む業務へ挑戦できている。また、極めたい分野挑戦制度は、7年間で累計14人が合格。自らでキャリアをつくるチャンスを存分に活用しているようだ。
花岡さんによると、「制度を安心して利用してもらうために、プライバシーや情報漏えいには気を配り、誰でも周囲を気にせず応募できるようにしています。制度を利用した職員からは、『気軽に応募でき、チャレンジしてみて良かった』『専門知識を身に付けられることが自分の強みになる』などのポジティブな声が多く、組織としても活性化していると思います。組織の全体最適化を考える上で、調整をする人事課の役割は大きいと思います。今後も引き続きキャリア形成の支援を行って、意欲向上を図っていきたいですね」と語る。
次のステップとして、職員のキャリアプランを提示し、各級で求められるスキルを明示化するという新たな施策も計画中だという。今後の展開についても注目していきたい。
愛知県 人事局 人事課
左:主査 花岡 勇哉(はなおか ゆうや)さん
右:主事 名越 千紗(なこし ちさ)さん
制度を利用した職員の声
海外誘客業務に挑戦!
石川 恭子(いしかわ きょうこ)さん
挑戦前:名古屋東部県税事務所
挑戦後:観光コンベンション局 国際観光コンベンション課
Q なぜ国際観光コンベンション課へ応募を?
海外誘客業務が、自分を活かせる業務だと感じたからです。入庁の理由は、県の魅力をPRしたかったというのが、一番の理由ですし、学生時代に外国語を学んでいた経験も活かせると思いました。
Q 制度を利用してみてどうですか?
キャリアの大きなステップアップになったと思います。前向きに業務に携わることができ、積極的に学ぶように。初めての政策立案も良い経験になりました。子育て中だったので、大変な場面もありましたが、やってみたい仕事に挑戦でき、感謝しています。
極めたい分野挑戦制度
防災分野に挑戦!
町田 隆義(まちだ たかよし)さん
挑戦前:西三河県民事務所 防災安全課
挑戦後:防災安全局 防災部 災害対策課
Q なぜ防災分野に挑戦を?
年齢を重ねて、家族・仲間・地域のことを考えたからです。災害時に家族や仲間を守るため、助けが必要な人を支援するため、県の被害を減らすために、自分にできることから始めようと応募しました。
Q 応募して良かったことは?
すでに3課をまわっています。モチベーションを高めながら、市町村や防災機関とのつながりをつくれました。事業における調整先は自衛隊から民間まで多岐にわたりますが、これまでの経験で得た他機関とのつながりが、今に活きていると実感しています。