地域の未来を考える上で、住民の健康増進は重要な課題だが、漠然としたテーマであるため先送りにされてしまうことも多い。そんな中、“健康”を地域計画の柱とし、さまざまな取り組みを行っているのが新潟県見附市だ。同市の施策の一つ「健幸ポイント」について、見附市健康福祉課いきいき健康係の反町 健斗さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.8(2019年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 新潟県見附市
ポイント制度と口コミ効果で市民の関心がアップ
見附市では、「日本一健康なまち」を目指すというテーマのもと、以前からさまざまな施策を行ってきた。指針には「食生活・運動・生きがい・検診」の4つを設定、運動教室の開催や市立病院への相談窓口設置などに取り組み、一定の効果を得られたが、次第に活動は停滞した。原因は「無関心層」。活動に参加するのは健康意識の高い市民に限られ、残りの人達が動いていないことが市の調査で分かったのだ。「無関心層は全体の約7割。この人達を動かさないと市のビジョンは実現できません。課題解決に向けて策を練っていたところに、Smart Wellness City首長研究会(SWC首長研究会)のアイデアが浮上しました」。
SWC首長研究会は自治体の課題とその解決策を首長と有識者が議論する集まりで、見附市の久住市長も立ち上げ時から関わっていた。このSWC首長研究会で前述の課題を検討した結果、「健幸ポイント」の案が生まれた。健幸ポイントは、健康増進活動への参加に応じて地域で使えるポイントを付与する制度だ。これを6つの市による合同実証実験としてスタートすることが決まり、見附市では、歩いた歩数・健康診断の受診・運動プログラム参加などを含めた計6項目をポイント付与の対象として実証実験を開始した。
結果はすぐに現れた。運動教室の参加者は増え、制度への参加申請者も約1,400人まで伸びた。同市が過去に実施した類似の事業では参加者が30人程度だったので、約50倍の伸びだ。反町さんは次のように振り返る。「広報を強化すると共に、すでに運動教室に参加している人達から、身近な無関心層への声掛けをしてもらいました。地道な口コミ作戦ですが、効果的でした。心に届く情報が人を動かしたといえます」。
無関心層の取り込みに「口コミ」は欠かせない。
6自治体で年間4.7億円の効果が!
実証実験は平成26(2014)年12月から2年以上にわたって実施され、医療費抑制効果と地域経済波及効果を合計した金額から健幸ポイントの運営費を差し引いても、年間4.7億円の効果額があるという検証結論が出た。何より大きいのは地域の変化だ。運動教室がにぎわい、まちを闊歩する人が増えると、地域そのものが元気になる。
この結果に手応えを得た見附市は、実証終了後にポイント制度を単独施策に移行した。移行の際には、早朝のラジオ体操やウォーキングなど市民団体による活動への参加にもポイント対象範囲を広げ、見附市に合った内容へとカスタマイズしている。これは、「日本一健康なまち」というテーマに沿って、地域への更なる浸透を狙ってのことだ。実証実験では2万2,000ポイントまでだった付与上限を財政などの関係で6,000ポイントに引き下げたが、利用率の低下はなく、参加者のモチベーションも高いままだったという。
また、地域住民による口コミ活動は、スマートウエルネスコミュニティ(SWC)協議会の、平成28年度厚生労働省地域におけるインセンティブ情報ネットワークモデル構築事業「健幸アンバサダー」として仕組み化された。産官学から成るSWC協議会では、国民が自律的に健康づくりを開始・継続したくなる新たなシステムや制度の開発に取り組んでいる。健幸アンバサダーは、規定の講座を受講した上で、健康に関する知識を広める「健康の伝道師」で、令和元(2019)年10月時点で1万8,000人を超えるアンバサダーが養成されている。アンバサダーの働きかけで55%の人が行動を変えたという調査結果※も出ており、社会への貢献度も高い。
進化を経つつ地域へ浸透する健幸ポイント制度。ポイントで交換できる地域商品券は市内約100店舗で使え、「貯まったポイントで、歩くための靴を新しく買った」といった声も聞かれるそうだ。「今後は、現場の運動指導員らも巻き込み、参加者への声掛けやヒアリングを重ねつつ、地域全体をより活性化させたい」と語る反町さん。健幸ポイントは、住民の健康づくりだけでなく、経済や暮らしやすさなど地域の基礎体力を向上させる制度として今後も続いていく。
※SWC協議会調べ
How To
01無関心層への訴求を意識する
健康意識が社会的に高まっているとはいえ、無関心層はまだ圧倒的に多い。この層に働きかけるために、自治体の広報活動を強化するのはもちろん、すでに活動に参加している住民(関心層)にアプローチして、参加経験のない身近な人々への声掛けをしてもらう。こうした草の根運動が「心に届く情報」となって活動参加へのきっかけを作り、さらに「ポイントが得られる」という明確なインセンティブが継続へのモチベーションの向上につながる。
02データの収集と分析
健康に関する施策の効果は長期的に見ないと分かりづらい。実感だけでなく、専門機関などの力を借りて、数値化可能な部分の効果測定を行い、導入・継続の評価基準にする。
03地域の特性に合わせてカスタマイズ
自治体の枠内だけで完結させるのではなく、市民団体による活動への参加もポイント付与対象として裾野を広げ、参加者にとって敷居の低い活動になるよう逐次カスタマイズする。
Results
地域のビジョンに沿って計画を練り、住民が楽しく参加できる仕組みをつくることが、長く継続可能な健康づくり施策を生む
市民の健康寿命が延びると医療費は抑えられ、人が活動的になることで地域経済も活性化します。何より「生きがいがあるまち」「明るく元気なまち」というイメージは大きな財産です。「健幸ポイント」は、そんなまちづくりを可能にする制度だと考えています。(見附市健康福祉課 いきいき健康係 反町 健斗さん)