ジチタイワークス

群馬県高崎市

ヤングケアラーを見逃さないために “待つ”より“出向く”姿勢へ。

サポーターの無料派遣で家事や介護などの負担を軽減

社会問題となっているヤングケアラーの増加。そんな中、全国に先駆けて対象家庭にサポーターの無料派遣を開始したのが高崎市だ。自治体が各所と連携を図り子どもを支える、その取り組みについて聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

市立中学・高校で状況を把握し即座に支援を開始することに。

家庭の事情で、親に代わり家事や介護、さらにはきょうだいの世話を担う“ヤングケアラー”。学業や友人関係などに支障をきたす可能性があり、社会問題となっている。同市では、令和3年に市立中学校25校と高校1校の校長に聞き取り調査を実施。すると各校に1~2人程度、ヤングケアラーの可能性がある子どもがいることが明らかになった。

結果を受けて同市は、“高崎市の子どもは高崎市で守る”というスローガンを掲げ、翌年4月、学校教育課にヤングケアラー支援担当を設置。直接的に支援する事業「ヤングケアラーSOS」が始まった。金井さんによると「相談窓口の担当は現在8人で、福祉に従事していた職員らが配置されています。教育と福祉が融合し、こうした事業を行うことは、全国的にも珍しいのではないでしょうか」。

そして、同年9月に対象家庭へサポーターの無料派遣を開始。「子ども1人に対し、2人一組の体制で週2日、上限を1日2時間とし、無料で利用できます。委託事業所から派遣されるスタッフは介護ヘルパーの経験者です」。また、支援に入る前に同課の研修を受け、子どもとの関わり方、心が不安定な保護者への対応方法などについて理解を深めているそうだ。支援に集中できるよう、家庭の細かな事情については伝えていない。「家庭に入って支援を行うため、子どもが不安に感じないよう、ある程度メンバーを固定するなどの配慮をしています」。

職員が市内各機関へ出向きヤングケアラーの発見に尽力。

このような取り組みが始まっても、子どもたちが自らサービスを知り、相談に訪れることはそう多くないという。そこで同市は学校をはじめ、様々な機関との連携も重視した。「学校は子どもの情報をよく把握している場所です。事業を理解してもらうことで異変に気づき、ヤングケアラーの可能性がある子どもの発見につながると考えます。また、市立校(園)長会議や、県内公私立高校校長会にも出向き、事業の周知をしています」。

さらに地域の民生委員や主任児童委員、高齢者あんしんセンター、相談支援事業所などにも足を運び、事業内容を説明。ヤングケアラーの可能性がある子どもに気づいたら、相談してほしいと依頼しているという。「例えば、高齢者から“中学生の孫がお風呂に入れてくれる”、病気を患っている保護者から“体が思うように動かないため、子どもが料理をつくってくれる”などと聞いた際は、支援担当に相談してもらうようにお願いしています」と小林さん。

また、教育委員会の中に相談窓口がある強みを活かし、今年度から新たな取り組みを開始。教育委員会指導主事と一緒に学校に出向いて、直接話を聞くようにしているという。

断られても決して諦めず時間をかけて支援を遂行する。

事業開始以降、サポーターを派遣している家庭は約25件。支援家庭には、担当職員も定期的に足を運び、状況を把握している。また、それだけでなく、サポーターや利用者の意見、感想に耳を傾けるようにしているそうだ。「サポーターからは、“初めは子どもも慣れないようだったが、徐々に学校での出来事を話してくれるなど、コミュニケーションがとれるようになってきた”といった声、子どもからは、“ご飯がおいしい”“自由な時間ができてうれしい”“ラクになった”といった声が上がっています」。

現在、相談件数は80件ほど。すぐに全てをサポートできない理由について金井さんは「この事業は対象者の家で支援を行うため、保護者や子どもの同意が必要です。ヤングケアラーはとてもデリケートな問題のため、サポーターの派遣を拒まれることはもちろんあります。ですが、断られたからといって諦めず、支援が必要な家庭には時間をかけて向き合い、事業に関して丁寧に説明することを心がけています」。

最後に小林さんは「以前は、“気づいたら連絡をください”という待ちの姿勢だったかもしれません。しかし今は子どもたちのために、“待つ”だけでなく“行動”の姿勢で、スピーディに支援の手を差し出していきたいと思っています」と今後への思いを力強く語ってくれた。

高崎市
教育委員会事務局 学校教育課
左:課長補佐
金井 克代(かない かつよ)さん
右:主任主事
小林 平(こばやし たいら)さん
 

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