【セミナーレポート】デジタル技術で実現!地方創生セミナー 持続可能な地方創生のためのEBPMの実現へ~ビジョン×事例でご紹介~
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が第2期に入って3年以上が経過しました。デジタル活用による地方創生が推奨される中、自治体では「どう対応すればいいのか」と悩む声も多いのではないでしょうか。
このセミナーでは、元日南市長の﨑田氏、および伊藤忠テクノソリューションズから地方創生に関わるスタッフを招き、EBPMの視点を踏まえた意見交換を実施しました。当日の様子をダイジェストでお届けします。
概要
□タイトル:デジタル技術で実現!地方創生セミナー 持続可能な地方創生のためのEBPMの実現へ ~ビジョン×事例でご紹介~
□実施日:2023年7月27日(木)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:128人
□プログラム1:地方創生はなぜ必要?地域の抱える課題とは?
プログラム2:地方創生におけるEBPMの実現に向けたビジョンと事例のご紹介
プログラム3:トークセッション「﨑田氏×伊藤忠テクノソリューションズ株式会社」
地方創生はなぜ必要? 地域の抱える課題とは?
日本が抱えている人口減少問題。特にその傾向が顕著な地方ではどのように向き合うべきなのか。第1部では首長経験者がその経験をもとに、今まさに求められている取り組みと心構えについて語る。
<講師>
﨑田 恭平氏
株式会社飫肥社中 代表取締役
一般社団法人Data for Social Transformation(DST) 常務理事
プロフィール
宮崎県庁、厚生労働省を経て、2013年4月に33歳で日南市長に就任。「日本一組みやすい自治体」をキャッチコピーに掲げ、民間人の登用や官民連携を積極的に実行し、その手腕は全国から注目を集めた。2期8年を務め、退任後は株式会社飫肥社中の代表取締役に就任。2022年11月、一般社団法人Data for Social Transformationを立ち上げ、常務理事に就任。全国を舞台に活動を展開中。
変わりゆくライフスタイルとそれに伴う地方創生の変化。
私は自治体職員として現場での仕事を経験した後、市長を2期8年勤めました。市長に就任したのは、安倍総理が就任し、地方創生に向けて旗が振られ始めた頃です。私自身も、空き商店街にIT企業を誘致するなど、様々な地方創生の取り組みを現場で進めました。そうした視点からお話ししたいと思います。
今回のテーマである“地方創生”ですが、元々は東京一極集中を是正するという意味があり、同時に地方においても安心して働くことができ、きちんと稼げる環境をつくりつつ、人の流れを生もうという目的があります。今この取り組みを進めるにあたり、前提として“働き方やライフスタイルが多様化している”という側面を視野に入れておかなければなりません。
私のまわりにも、「東京から熊本に移住した」とか、「今は四国に住んでいる」など、必要なときにだけ東京に行くという働き方を選んだ人もいます。かくいう私自身も、今まさに日南市の自宅からオンラインで話をしています。地方に住んでいながら全国に向けての仕事もできる時代になったということです。
従来は地域に仕事をつくる必要がありましたが、今は多様な働き方をする人がいる中で、自分のまちに拠点を置いてもらうためにどうすればいいか、と考えることが大切です。そのためには、まず分析が必要だと思います。世の中の人の動きはどうなっているのか、自分たちのまちに興味を持っている人はどういう属性なのかといった様々なデータを取得する必要がある。
こうした作業は、民間企業では当然のことです。顧客データを収集し、その人たちの好みに合わせて戦略を立てていくのが当たり前で、自治体もそういうことをすべき時代になってきました。そもそも行政は多くのデータを持っているので、それを分析することを考えつつ、新たなデータをどう得ていくかも大事なのです。
関係人口を増やすためにもデータの収集・分析・活用を!
上図は総務省の資料です。右上が現在まちに住んでいる定住人口で、左下が名前は知っているとか観光で来たことがあるといった交流人口。これらの間に関係人口があり、この層を厚くして、最終的には定住人口にしようという動きがあります。その際には、関係人口にどんな人がいて、どんな属性でどんな傾向があるのかということを分析する必要がある。中には、定住人口になりえない人もいるでしょう。その層は関係人口のままなのですが、地域経済やまちづくりにはプラスになる可能性もあります。
このように、色々な側面から考えるべきで、やみくもに関係人口を増やして定住人口にするのを目指そうということではなく、まずは関係性の分析をする必要があるのです。
従って、これまでの行政のあり方を改め、データをどう得て、どう分析活用していくのかが重要。例えば、地方の自治体が東京で物産展や観光PRを実施したりしますが、そこでたくさん売れたとか、人が多い都会でできたということで満足してしまってはいけない。あるいは、アンケートを取ったとしても、感想や名前を聞くだけでは足りません。大切なのはそこに何を書いてもらい、どう活用するかなのです。
仮にメアドをとったとしたら、そこからきちんとつながって、関係人口になってもらうよう進めて行く必要があります。もしかしたら、ふるさと納税も物産の魅力で買っているだけで、半年後にはどのまちかも覚えていないという人も多くいるでしょう。それでも、一度つながったという履歴はある。それをどう分析し、どうアプローチして、地方創生につなげていけるかというのが重要です。
もちろん、自治体だけでそうした取り組みを進めるのは難しい。IT、DXの技術は自治体自身が開発する訳ではないからです。だからこそ、これからの自治体は良いパートナーを選んでいくことが重要になるのです。
地方創生におけるEBPMの実現に向けたビジョンと事例のご紹介
第2部は、デジタル技術を活用した地方創生事業を展開する伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)から、最前線で活動している3名のスタッフが登壇。持続可能なまちづくりの実現に向けたビジョンや自治体との取り組み事例を共有してくれた。
<講師>
三塚 明 氏
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
未来技術研究所スマートタウンチーム チーム長
プロフィール
ERP、CRM、GIS、業務ソリューションの技術責任者から、流通、製造業へのITコンサルティングに従事。AI、数理解析、シミュレーションなどによる分析を得意とし、現在は地方活性化のための事業開発に従事。
寺西 努 氏
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
未来技術研究所スマートタウンチーム チーム長代行
プロフィール
通信キャリア向けシステム開発プロジェクトにてPL、PM経験を積む。2014年より新規事業企画・開発に携わり以後、IoT、ヘルスケア、MaaSなど様々な分野での新規事業開発に従事し現在に至る。
川口 重之 氏
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
未来技術研究所スマートタウンチーム 主任
プロフィール
ITテクノロジー、AI、AR/VR、IoTなどを活用した新規事業開発、メタバースを活用した移住促進、関係人口として複数の地域での地域活性化活動に参画。自治体と共にデジタル住民カードの企画立案・開発・立ち上げ実施を進めている。
エビデンスにもとづいたテクノロジーの活用で地方創生が加速する。
今回のセミナーは、「持続可能」、「地方創生」、「EBPM」がキーワードです。ここで重要なのは、目的はあくまでも地方創生であり、持続可能というのは前提条件で、エビデンスは手段であるということ。例えば100年後も持続可能というのは無理なので現実的な範囲になるでしょうし、EBPMについても初めてのことにエビデンスはないので、あくまでも手段として考えるべきものだといえます。
その地方創生について、先ほど﨑田さんも触れた“定住・交流・関係”の3つの人口ですが、自治体の視点では大きく2つの要素があると思います。“住民サービスの向上”と、“地域の活性化”です。
住民サービスの向上は主に定住人口をカバーします。例えば交通を例にすると、民間のバス会社で成り立っているのであれば問題はありません。しかし成り立たない状況であれば、自治体が支援してバスを走らせる、あるいはオンデマンド交通を走らせる、といった対策が必要。自治体の存在意義が住民サービスを行うことにあるので、これはやらないといけません。しかし持続可能性という面では、住民サービスだけで考えると少子高齢化のため成り立たなくなっています。
一方で地域活性化の方は、関係人口にお金を落としてもらうことができる。例えばふるさと納税や企業誘致などです。地域活性化を推進していくことである程度の財源確保ができるからこそ、関係人口が増やせるかどうかが重要なのです。
これを実現するためには、まち・ひと・しごとをつなげて考える必要があります。オンデマンド交通があることでメタボ検診を受ける人が増え、それによって保険の負担が減るというようなことです。単純にオンデマンド交通の利用者が何人ということではなく、それで何かが変わってくる。だからこそ、複数のサービスや部局にまたがった仕事をトータルで分析して因果関係を考えるというEBPMの視点が大切になってくるのです。ただ、個別の施策をまわすだけでも大変なので、我々は下図の4ポイントで考えています。
EBPMの観点でいうと、テクノロジーを使うだけではなく、どう使うかを検討しなければなりません。エビデンスにもとづく客観的なデータをもとに、因果関係を考えてアウトカムにつなげていく、これが重要です。
MaaS×オンデマンド交通で持続可能なまちづくりを目指す。
ここからは私・寺西から地域交通の全体最適化に向けたMaaS/AIオンデマンド交通に関する取り組みについて紹介します。
我々は、MaaSとAIオンデマンド交通という2つのテクノロジーを組み合わせて、公共交通のサービスレベルの向上が実現できると考えています。自治体ともいくつかの実証実験を実施してきました。以下、その要点をお伝えします。
実証実験の準備段階は3~4カ月です。運輸局の申請が1~2カ月かかり、ほかの公共交通会議、法定協議会への付議など事前の調整もありますが、それらがうまく進むと4カ月以内で準備は整います。また、交通でどこを走らせるかという点ですが、当社では下図の通り4段階で分析し選定しています。エビデンスの部分でいうと、国や市町村のオープンデータ=定量的なデータと、あとは住民の声などの定性的な部分を組み合わせて絞り込んでいき、エリアを選定します。
こうした実証実験でMaaSを導入する場合、何を準備するのかという質問もよく受けますが、大きく3つあります。まずは“経路探索対象の決定”を行い、対象が決まったら“GTFS(公共交通の世界標準データフォーマット)データの準備”をしてMaaSの経路検索システムで処理ができるようにします。そして最後は“決済方法”の調整です。
実証実験の期間は、3カ月以上がいいでしょう。サービス開始当初は利用者が多く、いったん減少傾向になり、その後の利用促進などで増えていく流れになるため、短期だと減少傾向のみを捉えて終了してしまうからです。利用促進活動については、公共交通機関の利用者は高齢者が多いため、チラシやDMが中心。また、スマホアプリのインストールを増やすために、エリア限定の広告メールも効果的です。
このAIオンデマンド交通とMaaSに加え、今後は人手不足への対応も必要なので、我々も自動運転や、ほかの医療・観光・教育・福祉などとの連携などを通じて持続可能なまちづくりを実現する交通を目指して活動を続けたいと思っています。
まちの魅力を発信し地域ファンを増やす“デジタル住民カード”とは?
私・川口からは、デジタル住民カードについてお伝えします。ここまでの話であった通り、地方創生においては交流人口や関係人口、住民等の地域のファンの拡大が重要。そのためにも、今後は地域とファンが共助で持続的にまちづくりをしていくことが大切です。
この“地域ファン”には様々なグラデーションがあります。目的を限定して地域を訪問する方もいれば、その土地に愛着を持って定期的に通う方もいる。これは住民も同様で、地域プロジェクトなどに無関心な人もいれば、積極的に参加する方もいます。こうした中、下図のオレンジで記載している部分のように、地域のファンの方々により関わりや愛着を深化してもらう機会を提供し、継続的に地域に関わってもらうことが大切。そうした接点を提供するサービスが「デジタル住民カード」です。
デジタル住民カードは、交流人口、関係人口、住民などの地域のファンに向けて、地域への関わりや愛着の深化を加速するサービスです。スタンプラリーや地域の魅力体験などの機会を継続して提供したり、地域への貢献度合いを可視化したりすることができます。さらに、関わりの強いファンに向けて特別な体験企画を提供したり、アンケートやオンライン会議でのアイデア募集を行ったりすることも可能。こうしたサービスを通して、地域のファンの意見を集め、さらに効果的なまちの施策やプロモーションにつなげていくことがねらいです。
このデジタル住民カードは、トライアルも実施いただけます。取り組みのスタートラインとしては、お祭りや地域のイベント、宿泊、アンテナショップなどがありますが、まずはこういった機会を活用して、地域ファンとのデジタルな接点を持ち、その接点を活用して、地域ファンの地域への関わり・愛着を更に深化させていくことが可能です。
自治体における事例としては、令和5年8月から栃木県那須町で取り組みを開始します。同町ではまず二地域居住者にフォーカスし、訪問頻度や滞在期間の増加を図る施策を進めていく予定です。ほかにも、地域での消費拡大や、ウェルビーイングの向上を感じていただくこと、さらに災害時に利用できるといったことなどで地域により近づいていただければと考えています。
トークセッション「﨑田氏×伊藤忠テクノソリューションズ株式会社」
ここからは、﨑田氏と三塚氏によるトークセッション。首長経験者、民間事業者という視点を持つ2人が、受講者の質問に答えながら互いの意見を交換した。
﨑田:最初の質問です。「EBPM実現のために、職員1人ひとりが身につけるべきスキルを具体的に教えてください」。
三塚:身につけた方がいいスキルはたくさんありますが、大切なのはテクニカルなスキルよりも、意識だと思います。例えばセキュリティなどと一緒で、情報漏れを防ぐための技術を知るよりも、まずどういう行動をしなければいけないかを学ぶべき、というものと似ています。
もう少し具体的に説明すると、例えばある自治会から何かを強く言われたとします。でも、それは本当に事実なのか。うそではないとしても、その主張の賛同者は住民の0.01%にとどまるのかもしれません。このように、バイアスのない事実と、その事実から導かれる因果関係を分離できるスキルが求められます。オンデマンド交通でも同様で、利用者だけのアンケートを取ってもあまり意味はありません。サイレントマジョリティーの声をどう拾うかというのが重要なのです。
﨑田:次の質問です。「EBPM推進にあたっては一定のスキル・知識が必要になると思いますが、推進していくためには専門人材を育成する体制が必要か、あるいは民間に委託した方が効率的なのでしょうか」。
三塚:色々な考え方があると思います。例えばDXでは、専門部署をつくっている自治体もあれば、そうでないところもある。また、オンデマンド交通であれば通院や買い物なども含めて検証すべきであって、必ずしも専門部署は必要ではありませんが、部署をまたいだ分析・検討は必要です。
﨑田:同感です。仮にDXで専門部署を置くとしても、過渡期の間だけで十分でしょう。その先にはデータを収集する仕組みをつくることが求められます。そして、データをどう活かすのかという面で、職員の育成を進めることも必要です。もちろんそうした仕組みを持っている会社に委託するのも選択肢の1つですね。
続いての質問です。「事業評価するにあたって、住民のためになったかどうかを計るにはどうしても定性的な評価になりがちです。アンケートの他に定量評価をするにはどうすればいいでしょうか」。
三塚:“ネット・プロモーター・スコア”というものが役立つかもしれません。これは「自分が使ってみて良い」だけではなく、「他人にオススメしますか」ということについて0から10で評価するものです。9~10はすごく良いのでみんなに使ってほしいというレベル。逆に絶対勧めない、使わないほうがいいというのは0。これで真ん中を無視して、9~10を選んだ人のスコアから4以下を引くんです。それでプラスになればかなり高い評価だといえます。
また、オンデマンド交通の例でいえば、移動のために乗った人の数だけでなく、その先も乗り継いでほかの公共交通機関の乗客が増えているとか、逆にタクシーの需要を減らしているとか、周辺のものも一緒に分析する。誰かがこう言ったということではなく、周辺が確かにこう変わっているというエビデンスをとることが大切です。
﨑田:質問をもう1つ。「日頃の業務で肌感覚として感じている課題を解決するためにデータを分析していくのか、それともデータ分析を先に実施して浮上した課題に取り組むのか、どちらがいいのでしょうか」。
三塚:どちらも大切だと思います。肌感覚というのは何らかの経験に裏打ちされたものなので、それをベースにやった方が早いしハズレも少ない。ただし自分自身のバイアスがあるかもしれないので、やはり分析はした方がいい。スタートは肌感覚、結論はデータ、という進め方がいいかと思います。
﨑田:仮説を立てることは大事ですよね。肌感覚の中に仮説があって、それをEBPMの手法で確認し、軌道修正する中で、別の課題が見えてくることもあると思います。
今回のセミナーでは、色々な場面でデータを取りながら進めて行くことの重要性や、それに関連したサービスも理解いただけたのではないかと思います。もし関心があれば問い合わせをして、住民のための新たなDX、新たなEBPMをつくることにお役立てください。
お問い合わせ
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