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異次元の少子化対策~自治体の担当者が押さえておきたいポイントとは?~

少子化が大きな社会問題になっている中、政府は「異次元の少子化対策」と称される「こども・子育て政策」を打ち出した。若い世代の所得向上、子育て世代への支援、高等教育費の負担軽減など、少子化対策のカンフル剤となることが期待される政策となっている。

政府の異次元の少子化対策とはどのようなものか、自治体の担当者が押さえておきたい部分を中心に、少子化問題の課題と具体的な取り組みについて解説する。

こども・子育て政策の基本的考え方

令和4年、1年間に生まれた子どもの数が初めて80万人を割り込み、 77万747人となった。この数字は統計を始めた明治32年以降最少だそうだ。合計特殊出生率についても1.26と過去最低水準となっている。このような状況に至った原因には「経済的な不安」「仕事と家庭の両立の困難さ」「女性の精神的・体力的な負担増」などがある。

これらを改善し、若者世代が子どもを産みやすく、育てやすい社会をつくるために、政府は「こども・子育て政策」を打ち立てたという経緯がある。 

 

●「日本のラストチャンス」2030年

ところで、なぜ今になって異次元の少子化対策が打ち出されたのかと疑問に思っている方もいるのではないだろうか。それは、政府が2030年を「少子化対策の分水嶺」と考えているからである。先に触れたように、日本の出生数は急激に減少しており、2000年から2010年の間に約10%も減少している。また、2020年から2022年のコロナ禍の3年間では婚姻件数が約10万組減少した。さらに、結婚を希望する未婚者や、希望する子どもの数も大幅に減っている。

このような状況を受けて、政府は2023年から2030年までの6、7年を少子化改善のラストチャンスと考え、集中的に少子化対策に取り組むことを決定した。

こども・子育て政策の課題

今までも、少子化対策は行われてきており、「待機児童の大幅減」という成果を上げることもできたが、少子化を止めるまでは至らなかった。そこで、さらなる対策を講じることになった。

なお、現在の少子化の大きな原因として考えられているのは以下の3点である。

● 若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない
● 子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある
● 子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する

これらについて詳しく見ていこう。
 

● 若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない

若い世代(18歳~34歳の未婚者)の晩婚化、未婚化が少子化の原因の一つといわれている。男女の8割が「いずれは結婚したい」と考えてはいるが、一生結婚するつもりがないという人も増えている。さらに、未婚者の希望する子どもの数も低水準となっている。

特に非正規職員・従業員の有配偶者率が低い傾向にあり、「子どもを育てられるほど、稼げる自信がない」「解雇される不安が大きい」などの声も聞かれる。

また、子育て世帯の現状を見て、「子育ては大変」と感じ、結婚や出産に魅力を感じないという人も増えている。これらは、経済的な不安などから、結婚・子育てに対し、将来の展望を描けなくなったことの表れであろう。
 

● 子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある

電車内のベビーカー問題、職場のマタハラ問題など、子連れや妊娠中の人々への風当たりの強さがネット、ニュース番組で話題になることが多く、若い世代から「日本は子育てしづらい国」というイメージを持たれやすくなっている。

さらに、出産後も継続して働きたいという女性が増えているが、男性側の長時間労働が解決しない限り「ワンオペ育児」になる可能性も高い。育児負担が女性に集中する点も出産をためらう一因となっている。男性側についても、職場の無理解で育休が取りにくいという問題を抱えている。
 

●子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する

理想の子ども数を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかるから」が挙げられており、経済面での不安から子どもを持つことをためらう人が多いことが分かる。

また、晩婚化が進んだこともあり、希望していても子どもができない、というケースもある。

そのほか、「親の所得で子ども支援の有無が決定する」「教育費以外に固定費などの生活費も必要」「子どもがいると自由な生活が送れない」など、子育てに対して、不公平感やネガティブなイメージを持つ若い世代も多い。

「加速化プラン」~今後3年間の集中的な取り組み

前述したとおり、政府は2023年から2030年までが少子化改善のラストチャンスと考えている。

特に以下の7項目については「加速化プラン」として、今後3年間で集中的に取り組むこととなったので、把握しておこう。

①児童手当の拡充 
②出産等の経済的負担の軽減
③医療費等の負担軽減 
④高等教育費の負担軽減
⑤個人の主体的なリスキリングへの直接支援
⑥いわゆる「年収の壁(106万円/130万円)」への対応
⑦子育て世帯に対する住宅支援の強化

 

①児童手当の拡充 ~全てのこどもの育ちを支える制度へ~

「児童手当の所得制限撤廃」「高校生年代までの支給期間延長」「第三子以降3万円の支払い」を2024年度までに実施できるように検討することになった。
 

②出産等の経済的負担の軽減 ~妊娠期からの切れ目のない支援、出産費用の見える化と保険適用~

幼児教育・保育の無償化だけでなく、妊娠出産期から2歳までの支援強化として、10万円の「出産・子育て応援交付金」の制度化を検討することになった。また、以下も検討されている。

● 出産育児一時金を42万円から50万円へ引き上げ
● 出産費用(正常分娩)の保険適用
● 出産費用の見える化
 

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③医療費等の負担軽減 ~地方自治体の取り組みへの支援~

現在、ほぼ全ての自治体で行われている「こども医療費助成」の国庫負担の減額調整措置の廃止を行う。また、子どもにとって最適な医療の在り方についても検討し、適切な措置を行う。
 

④高等教育費の負担軽減 ~奨学金制度の充実と「授業料後払い制度(いわゆる日本版HECS)」の創設~

子育て世帯の経済的な負担を軽減するため、貸与型奨学金制度について以下を実施する。

● 減額返還制度が利用可能な年収を325万円から400万円へ引き上げ(子ども2人世帯は500万円以下、子ども3人以上世帯は600万円以下まで引き上げ)
● 所得連動方式を利用している場合、返還額の算定のための所得計算において、子ども1人につき33万円所得控除上乗せ

その他にも、下記のような高等教育費の負担軽減策が実施される。

● 令和6年度から、授業料等減免および給付型奨学金について、多子世帯、理工農系学生の中間層(世帯年収約600万円)にまで対象を拡大する。また、多子世帯の学生等に対する授業料減免についてもさらなる支援拡充を検討する。
● 令和6年度から、修士段階の学生を対象に「授業料後払い制度」導入を検討。その財源基盤強化のため、HECS(出世払い型貸与奨学金)債による資金調達を導入する。
● 地方自治体の高等教育費負担軽減策として、大学卒業後に地方に移住する学生を対象に「移住支援」を行う。


 

⑤個人の主体的なリスキリングへの直接支援

学び直し支援について、個人が主体的に選択できるよう5年以内をめどに効果を検討する。また、過半が個人経由での給付が可能になるようにする。そして、主体的なリスキリングのために、訓練期間中の生活を支える新たな給付や融資制度の創設を検討する。
 

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⑥いわゆる「年収の壁(106万円/130万円)」への対応

「106万円の壁」「130万円の壁」といった年収の壁を意識せず働けるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大や最低賃金の引き上げに取り組む。
 

⑦子育て世帯に対する住宅支援の強化 ~子育てにやさしい住まいの拡充~

「こどもまんなかまちづくり」と称し、子育て世帯の居住環境の改善に取り組む。具体的には以下の対応を行う。

● 子育て環境に優れた公営住宅等の賃貸住宅に子育て世帯等が優先的に入居できる仕組みの導入
● ひとり親世帯などの支援が必要な世帯が入居しやすくなるよう「空き家」の活用を促す
● 子育て世帯が住宅を取得しやすくなるよう「フラット35」金利優遇を行う
● 集合住宅等での子育て世帯への理解醸成

「加速化プラン」を支える安定的な財源の確保

少子化対策の加速化プランは作成されたが、問題となるのは財源の確保についてだ。そこで、財政改革のための取り組みも決定している。

●見える化
こども家庭庁のもとに、こども・子育て支援のための新たな特別会計「こども金庫」を創設。既存の特別会計事業を統合しつつ、「こども・子育て政策」の全体像と費用負担の見える化を進めていく。

●財源の基本骨格
徹底した歳出改革を行い、国民に追加負担を生じさせないようにする。また、消費税増税など、子ども・子育て関連予算充実のための増税は行わない。

異次元の少子化対策のこれからに要注目

わが国の将来のためにも少子化対策は非常に重要である。今回紹介した「異次元の少子化対策」の中には、現段階では検討中、もしくはこれから検討される予定、というものもあり、全てが実現できるとは限らない。さらに、この大きな危機を乗り越えるために、多くの財源が投入されることも予想される。自治体としても、今後の政府の動向を注視しておきたい。

 

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