近年「リスキリング」が注目されている。リスキリングとは、企業が従業員に対して必要とされるスキルを身につけてもらうための取り組みである。岸田首相の所信表明演説にて強調されただけでなく、2020年のダボス会議においては「2030年までに10億人のリスキリング」が提唱され、国内外において多くの注目を集めている。特にデジタル技術に対応するため、DXが普及し続ける現代においてリスキリングは欠かせないものとされている。
だが地域のDX推進について、課題に感じている自治体も多いだろう。自治体DXや情報化を推進するための職員育成の取り組みは進んではいるが、未実施の市区町村も4割程度存在(※1)する。そこで今回は、リスキリングの概要や推進時のポイントについて詳しく解説する。
【目次】
• リスキリングとは
• リスキリングが現在注目されている2つの理由
• 自治体がリスキリングを推進するポイント
• “わかる・できる”を積み上げて、リスキリングでDXの壁を乗り越える。
リスキリングとは
そもそも、リスキリングとは何なのだろうか。経済産業省によれば、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること(※2)」とされている。
リスキリングとリカレントの違い
ここで、似た意味を持つリカレント教育を想像した方もいるだろう。では、リカレント教育とリスキリングは何が違うのだろうか。総務省が公開している情報通信白書(平成30年度)によれば、リカレント教育とは「就職してからも、生涯にわたって教育とほかの諸活動(労働、余暇など)を交互に行うといった概念(※3)」と記載がある。またリカレント(recurrent)とは英語で「繰り返す」「循環する」という意味を持つ。
つまり、リカレント教育とは仕事と教育を繰り返し行うことであり、教育のために職を離れることが前提となっている。一方リスキリングは離職することなく、新たに必要とされるスキルを在職したまま身につけるのだ。
リスキリングが現在注目されている2つの理由
昨今、リスキリングについて目にする機会が増加している。冒頭でも少し触れたが、現在リスキリングが注目されている理由は大きく2つある。
1つ目は、リスキリングが国際的なキーワードとなっているためだ。2020年に開催された国際会議「ダボス会議」では、「2030年までに10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」を目標とした「リスキリング革命」が発表された。日本においても経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を立ち上げるなど関連した取り組みが始まっているが、新たなスキルの獲得や社会の変化に対応した人材育成は、世界的にも大きな問題となっていることが分かる。
2つ目は、DXの推進における人材不足だ。現代の日本においてDXの推進やDX人材の育成は急務の課題となっており、総務省が公開している情報通信白書(令和4年度)によれば、デジタル化を進める上での課題・障壁は「人材不足」が7割近くを占めており、米国・中国・ドイツの3カ国と比べて非常に多い結果となっている(※4)。このような状況の中で、岸田首相は2022年10月に「5年間でリスキリング支援に1兆円の予算を投じる」と発表した。首相の意向表明によって国内におけるリスキリングへの注目はさらに高まり、対応を迫られているのだ。
自治体がリスキリングを推進するポイント
こうした中、デジタル人材育成について自治体がリスキリングを推進するポイントは大きく2つだ。
庁内へのリスキリング支援
1つ目が「庁内へのリスキリング支援」、職員のデジタル人材育成が挙げられる。具体的な取り組み内容としては、eラーニング等を活用した研修が効果的である。
ここで、すでにデジタル人材育成に取り組んでいるいくつかの自治体を参考に、詳しい内容について見ていきたい。「鹿屋市役所スマート化計画」にもとづき、スマートな鹿屋市役所の実現を目指す鹿児島県鹿屋市では、「スマート職員育成研修カリキュラム」にもとづく各種研修により、職員の業務改善力やITリテラシー、政策立案力を養成している(※4)。ICTスキル等の向上により、業務効率をアップさせるねらいだ。
また茨城県つくば市では、正しくデータを活用できる人材の育成を目指し、職員向けにデータ利活用研修を実施。研修内容は管理職と実務職で異なっており、管理職は「データ利活用の必要性や重要性を、高い視点から俯瞰するための理解を深める」こと、実務職は「データ利活用の実施に対しての理解を深める」ことを目的として、管理職と実務職でそれぞれ別の研修を実施している。なお同研修は受講必須となっており、2030年に在職する職員はほぼ全員が受講することになる見込みだ(※5)。こちらも、全職員が受講する研修によってデジタル人材を育成する好例である。
地域企業へのリスキリング支援
2つ目が「地域企業へのリスキリング支援」である。大企業ではデジタル人材の確保や育成が進む一方、中小企業ではその確保や育成が遅れているなど、DXの進展に伴うデジタル人材需要の高まりに追いついていない。このような状況下で地域企業のDXを加速させるためのデジタル人材の育成を自治体が支援していく必要がある。
例えば鳥取県では、県内企業のデジタル人材育成を目的に「オンライン受講促進事業」に取り組んでいる。地域企業の業種・業態によっても学習ニーズは様々だが、手軽に多様なテーマで受講できるオンライン学習を通じ、リスキリング機会の提供により、労働者の能力開発や企業価値の向上につなげるねらいだ。
このように、すでにいくつかの自治体では「庁内へのリスキリング支援」や「地域企業へのリスキリング支援」によるデジタルスキルに対応した人材の育成が進められている。
“わかる・できる”を積み上げて、リスキリングでDXの壁を乗り越える。
リスキリングについて注目が集まる現在、なぜ今リスキリングに取り組むことが重要なのかと疑問に感じている職員もいるだろう。リスキリングはDXの推進が求められる現代の日本において優先して取り組むべきであり、急ぎの対応が必要と言える。しかし、推進にあたっては様々な壁が立ちはだかっていることも事実だ。他自治体がどのような壁をどのように乗り越えたのだろうか。
今回の特集では、先進自治体が“わかる・できる”を積み上げて、リスキリングでDXの壁を乗り越えた事例の詳細を紹介していく。
庁内へのリスキリング支援
地域企業へのリスキリング支援
※出典1:自治体DX推進のための職員育成の取組 令和4年6月3日 地域力創造グループ 地域情報化企画室
※出典2:リスキリングとはーDX時代の人材戦略と世界の潮流ー
※出典3:総務省 平成30年度 情報通信白書
※出典4:総務省 令和4年度 情報通信白書
※出典5:総務省 自治体DX推進のための職員育成の取組 令和4年6月3日 地域力創造グループ 地域情報化企画室