気づけば中堅と呼ばれる立場になり、業務範囲も仕事量も増え、さらには結婚・出産・子育てとライフスタイルも変わったことで、ますます忙しく過ごす日々。仕事と生活とのバランスを考えると、今後のキャリアについて悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。
今回は、係長としての責任とプレッシャーを感じる中、その役割を果たすために何をすべきでしょうか……といったお悩みに対し、山形市 健康医療部 健康推進課課長の後藤 好邦さんに回答いただいた。
【連載】
case1:出世しても増えるのは仕事と責任ばかりでこの先が不安です。
case2:係長として期待される役割を果たすために何ができるでしょうか。←今回はココ
case3:忙しく時間がない中、課外活動に取り組むべき理由が分かりません。
case4:年上の部下や、やる気のない部下に対してどう接していいか分かりません。
case5:どうすれば組織横断的な取り組みや官民連携事業を上手に進められますか?
case6:厳しい指摘ばかりの上司との付き合い方について教えてください。
お悩みcase2
昨年度から係長に昇進しました。最近では、上司・部下の板挟みで正直、精神的につらいと思うことが増えています。限られた時間で、自身の業務もミスなくスピーディーに進めなければならないプレッシャーの中、係長としての役割を果たすために何ができるでしょうか。
約30年の職員経験の中で最も印象深い出来事。
私は今年度で山形市職員として30年目を迎えました。この間、初めて後輩ができたときや管理職になったときなど、様々な節目がありましたが、最も転換期と思えた出来事が係長になったときです。
チームリーダーとなり部下をもつということは、それだけインパクトがあり、これまでにない大きなプレッシャーと責任を感じることでした。
そのときのことを振り返りながら、なぜ“係長への昇任”が最もインパクトのある出来事になったのか、その理由をもう少し詳しくお話しましょう。
係長となり実感した果たすべき責任とプレッシャー。
係員から係長になり最も大きく変わったことは、初めて部下をもつ立場になったということです。それまでは、係に在籍する一担当者として、自分が担当する仕事の経過や結果だけを考え仕事に取り組んでいれば良かったため、正直、ほかの担当者の状況などあまり気にしていませんでした。
しかも、最終的には係長が責任をとってくれるという甘えもあったように感じます。その反面、急いで判断しなければならないことは、自己判断で勝手に方向性を決め、係長には事後報告といったこともありました。
こんな調子でしたので、どの部署でも自由にのびのび仕事に取り組んでいました。いま考えれば、当時の係長の皆さんの理解があったからこそだと、感謝しているところです。
しかし、こうした状況は係長になり一変します。それは、これまでにないミッションが係長になって新たに課されたことが原因でした。
係長のミッションは2つあります。第一に、チーム(係)に課せられたミッションを達成することです。これは、業績向上とも言い換えることができます。
第二に、係員の人材育成です。係員が成長することは業績向上にもつながりますので、2つのミッションは関連性が強いともいえます。
一般的に、係長はプレイングマネジャーですので、ほかの係員同様、自分の担当業務もあります。これらの業務の進捗管理を行いながら、係員一人ひとりをケアし、係全体のパフォーマンスを最大限発揮できるようなチームづくりを行う必要があります。
また、こうした業績向上に向けた活動を通して、部下の成長を促す人材育成も行わなければなりません。これらの係長として求められることの多さ、大きさに、係長に昇任したばかりの頃は戸惑うばかりでした。
“係長像”確立のため心がけた3つのポイント。
このようなプレッシャーと戸惑いの中、私自身、係長として心がけた3つのことをご紹介します。第一に“スピード”です。上司や係員との関係性の中で、私は常に“迅速な対応”を心がけました。
特に、係員への対応については、判断を求められたときや相談を受けたときなどは、仕事の手を止めてでもすぐに話を聞くよう心がけました。そうすることで、係員はムダな時間を過ごさなくて済むと考えたからです。
第二に普段の会話を通して“想いを伝える”ことです。「前例通りにせず、新しいことにチャレンジする」「時間外勤務はしない」など、私が仕事をしていく中で大事にしていることを普段のコミュニケーション、もっと平たくいえば、雑談の中で伝えました。
そうすることで、係長の考えが徐々に係員に浸透し、チームとして同じ意識で仕事を行うことができたように感じたからです。
係長として2年目の頃、「時間外勤務をすることが当たり前だと思っていましたが、意識を変えることでしなくても済むようになるんですね」と係員から言われました。
この言葉の背景には、「時間外勤務は可能なかぎりしないようにしたいよね」と、事あるごとに雑談の中でいっていたことが影響したと考えています。課長となった今でも、課長である私の考えは雑談を通して伝えるようにしています。
第三に“問題のある現場にこそ、自ら足を運ぶ”ことです。私は行革部門で初めて係長になりましたが、内部管理ということもあり、照会やヒアリングなど、他課への依頼や指摘をすることが多々ありました。
そのため、時に意見の相違などから苦情をいわれることやもめ事になるケースもありました。しかし、そのような時にこそ、係員と一緒に、場合によっては一人で相手の部署に出向き、直接、対話するようにしていました。
また、これは上司との関係にもいえることで、係長として判断できない案件に関しては、すぐに上司である課長や部長の判断を仰ぐようにしていました。そうした姿勢が“何かあった際には係長が対処してくれる”という係員の安心感になったと感じています。
これらのことを実践していく中で、自分なりの係長像を徐々に確立できたと実感します。
悩みを一人で抱え込まず上司や部下を信じること。
係長業務は課長補佐との兼務も含めると7年間務めましたが、いま考えれば、管理職になるための訓練期間だったと感じています。
いろいろと悩むこともあると思いますが、嫌なことから目を背けず、悩みは一人で抱え込まず、上司や部下を信じて相談すること。部下に任せることは任せ、何かあったときには迅速に対応すること。こうした意識をもちながら真摯に一つひとつのことにあたっていくうちに、まわりからの信頼も高まり、自分の理想とする係長像に近づいていくと思います。
誰でも同じ悩みを抱えながら、係長という節目を乗り越えました。きっと皆さんもできるはずですよ。
後藤 好邦(ごとう よしくに)さん
山形市 健康医療部 健康推進課課長。1994年入庁。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課を経て現職。総合計画の進行管理や次期総合計画の策定、仙台市との連携などを担当。自治体職員が横のつながりをもつ機会を生み出すため、2009年6 月に岩手県北上市の職員らとともに「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足し、会員を900名になるまで拡大させるなど、人・組織・地域・色々なものをつなぎ、東北、そして日本を元気にするための活動を実践している。
著書:
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