ジチタイワークス

チーム化において重要なこととは?

本年度も早いもので、気づけば3月下旬。この時期、多くの公務員が「人事異動」について考えるのではないだろうか。多種多様な仕事がある自治体現場での人事異動は、しばしば「転職」と称されるほど。これまでの経験が活かせず途方に暮れるといった話を耳にすることも多い。

そこで、ジチタイワークスでは『自治体シゴトのテキスト』という企画をスタート。
少しでも皆さんの支えとなるよう、多種多様な自治体業務について、その業務に精通している方にやりがいや魅力、仕事のポイントについて紹介いただく。

【公務員のチームマネジメントを学ぶ 応用編】

シリーズ最終回は「応用編」。ご紹介いただくのは「はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント」の著者である千葉市職員の安部浩成さん。マネジャーとなりチーム始動にあたり直面する課題、その解決策やチームの導き方を、安部さんの経験を踏まえて語っていただく。
具体的な対応、ポイントを参考に最強のチーム作りの参考にしていただきたい。

※著者の所属先及び役職等は2022年3月公開日時点のものです。
※各記事の掲載情報は公開日時点のものです。

構造的課題に気づく


前回は、1on1ミーティングを通じて意思疎通を図り、あなたと個々のスタッフとの間の一対一の関係づくりを行うところまで述べました。次はいよいよチーム化です。

まずは、1on1ミーティングで出た課題を整理しましょう。1on1ミーティングでは、担務または係の長所および短所、改善したいことややりたいことなどを個々に確認しています。これらの中から、共通点がないか探しましょう。

例えば、時間外勤務が常態化しているのでこれを改善したいという共通点があれば、それはチームとして解決すべき構造的課題であり、マネジャーはそれに気づかなければなりません。働き方改革は役所・役場全体の課題でもあり、時間外勤務を発生させずに仕事の成果を挙げることは、あなたの係のミッションでもあるはずです。

スタッフ全員を同じ方向へ向ける


チーム化とは、スタッフ全員が、係のミッションとビジョンを共有し、同じ方向へ進んでいくことです。その仕掛けとしてチームミーティングが役立ちます。

係会議が定着している役所・役場であれば良いのですが、そうでない場合、チームミーティングをセットしなければなりません。ただでさえ忙しいスタッフにとっては余計な時間を割かれることとなり、あまり歓迎されないかもしれません。

しかし、自分が忙しい思いをして残業しなければならないのに、ほかの係員が「お先に」と定時退庁するのを見て、心がザワついたことはありませんか。“忙しい”とは、“心を亡くす”と書きます。スタッフ間でのコミュニケーションが不足し不信感があると、チームワークは成立しません。忙しいからこそお互いに何をしているのか確認し、その上で同じ方向に向けていく必要があるのです。特にテレワークが増えてきた現在では、より一層チームミーティングの必要性が高まっているといえます。

チームミーティングのポイント


まずは「1on1ミーティングで出た共通課題をシェアして、皆で解決策を考えたいので」とミーティングをセットしましょう。課題解決へと早速動き出すマネジャーに求心力が高まります。

ここでは、時間外勤務の縮減を例にモデルを挙げます。
「皆さんからの意見で共通していたのが、定時で帰りたいということでした。私もそう思います。例えば、事業所監査にだいぶ時間が取られているようです。この監査は3年ごとに行っているとのことですが、その根拠は国からの通知によるものですね。そこで、ほかの自治体でもこれに従っているか確認してもらったところ、5年ごとというところもありまちまちで、5年ごとという自治体でも国から改善要請は出ていません。また、事業所側にもレベル差があり、問題のある事業所は特定されています。このため、選択と集中の観点から、問題のない事業所には5年ごと、悪質な事業所には毎年度監査に入ることとし、全体の監査件数を削減して時間外勤務縮減を図りたいと思うのですが、皆さんいかがですか」

意見が出れば修正していきましょう。すぐに意見が出ないようであれば、来週までに考えてきてもらい再度意見交換することとしましょう。会議が無駄だと思われる要因は、ミーティングにかける時間に比して生産性が低いときです。そのような印象を与えないミーティング運営に努めましょう。

生産的なミーティングとするための10のポイントを紹介します。

1.定期開催
 ⇒毎週●曜日●時から、隔週●曜日●時からと決めましょう。
2.所要時間
 ⇒人間の集中力は時間の経過とともに低下します。原則30分とします。
3.情報共有
 ⇒チーム全体や役所全体のスケジュールを共有します。
4.進捗管理
 ⇒スタッフ一人ひとりから、前回のミーティングから今日までの担務の進捗状況と今後の予定を発表してもらいます。
  これはマネジャーとして進捗管理するためもさることながら、セルフマネジメントが真のねらいです。
  前回と発表内容が同じであったり、遅延したりしていれば、そのことがチーム全員に明らかとなってしまいます。
5.重複・漏れ落ち防止
 ⇒進捗状況の発表の中で、重複や漏れ落ちを確認することができます。
6.相互理解
 ⇒ほかのスタッフが今何をやっているかを知ることは、相互理解につながります。
7.協力体制
 ⇒進捗状況の発表の中で、繁閑差があるようであれば調整します。
8.アイデア出し
 ⇒3人寄れば文殊の知恵です。上の会話例で挙げたように、スタッフ全員でアイデアを出し、
  よりよい解決策を検討しましょう。
9.合意形成
 ⇒スタッフが出したアイデアをそのままスルーしてしまうと、それがチームとしての合意事項かあいまいとなって
  宙に浮いてしまうことがあります。アイデアベースのものをマネジャーとして整理し、合意形成します。
10.結論を出す
 ⇒時間内に合意形成に至れない場合も、その日議論してきた結論をまとめ、手戻りが発生しないようにします

先輩である部下への対応


皆さんの係に再任用などの先輩職員がいるとします。仮に自分がその先輩職員だとしたら、後輩が上司であることをどう思うでしょうか。その視点は絶えず失ってはなりません。しかし、そのことと、マネジャーとして果たすべき役割とは異なります。

先輩は、職業人のみならず1人の人間として、あなたより多くの経験をしています。これはリスペクトすべきことです。そして、後輩がこれからどのようにマネジメントしていくかを注視しています。あなたの変な萎縮・おもねり・居丈高な対応は、人間としての底を見透かされます。

組織における役割の上下と、人としての一人ひとりの価値とは異なるものです。普通に人間としてリスペクトしながら、そして時に相談しながら、マネジャーとして必要な指示を出していきましょう。

先輩も、組織の判断としてマネジャーに据えたあなたに、実は一目置いているはずです。

“あの人のもとで働いてみたい”といわれるマネジャーへ


人は、自分を成長させてくれるマネジャーかどうか感覚的に分かるものですが、少しの工夫でそうなることができます。

まず、情報収集を恒常的に行いましょう。課題が発生してから調べるのでは1テンポ遅れます。恒常的に情報収集しておけば、課題発生時に、たしかA市で先進的な取組を行っていたはずと気づくことができます。このことがスタッフからの信頼につながります。「ジチタイワークス」をチェックする、「月刊ガバナンス」(ぎょうせい)を定期購読することなどが有効です。

次に、年間で一人一改善の実現、一人一研修への参加を促しましょう。改善は“面倒くさいと思っていること”が起点です。デジタル活用などを検討しましょう。ずっと役所・役場の中にいると井の中の蛙(かわず)化します。研修で成長の機会を与えましょう。

北京オリンピックのカーリング女子で日本チームは史上最高の銀メダルを獲得しました。同競技で最も重要なポジションであるスキップは、作戦を組み立て、指示を出してゲームを進める存在です。スキップを務めた藤澤五月選手は「最後までチーム全員で戦い切れて感謝している」、最年長の石崎琴美選手も「大会を通して全員で戦い抜けたことがうれしい」とコメントしています。

人を動かすことは難しい、しかし、難しいからこそこれに成功し、チーム全員で成果を挙げることができたとき、その喜びはひとしおです。そして、これをマネジメントすることはチームマネジャーの醍醐味です。
これまでより一段高いステップから見えるフィールドは、より広くなります。そして、そのフィールドは、昇格のたびに広くなりますが、これはあなたが、課長、部長と昇進していくための大切な準備でもあります。
はじめてのチームマネジメントは誰しも不安を抱くものであり、それが当然です。しかし、第1回目の基礎編でもお伝えしたように、あなたの自治体にはこれまでにたくさんの係長がおり、皆が悩みながらも立派にその責務を務められてきました。このページを読んでいる意欲的なあなたにできないわけがない、必ずできます。

私もチームマネジャーの一人です。ともにいいチームをつくっていきましょう!


プロフィール

安部 浩成(あべ ひろしげ)さん

千葉市総務局情報経営部長。1993年千葉市役所に入庁。総務課、政策法務課、行政管理課、中央区税務課、保健医療課、障害者自立支援課、都市総務課、教育委員会企画課を経て、人材育成課長補佐、業務改革推進課行政改革担当課長、海辺活性化推進課長、中央図書館館長などを歴任。2021年より現職。厚生省(当時)や千葉大学大学院、市町村職員中央研修所(公益財団法人 全国市町村研修財団)への派遣経験を有する。研修所では教授として、講義や研修企画等を通じた人材育成に携わる。主な著書に『はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント』(2020年、学陽書房)『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(2020年、ぎょうせい)がある。雑誌寄稿は「新任昇任・昇格者の行動力」(『月刊ガバナンス』2020年3月号、ぎょうせい)他多数。人材育成と行政改革がライフワーク。趣味は旅とフィットネス。


著書
はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント』(学陽書房)
自治体職員のための市民参加の進め方』(学陽書房)他多数

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