ジチタイワークス

はじめてのチームマネジメント、受け入れるべき変化とは?

本年度も早いもので、気づけば3月。この時期、多くの公務員が「人事異動」について考えるのではないだろうか。多種多様な仕事がある自治体現場での人事異動は、しばしば「転職」と称されるほど。これまでの経験が活かせず途方に暮れるといった話を耳にすることも多い。

そこで、ジチタイワークスでは『自治体シゴトのテキスト』という企画をスタート。
少しでも皆さんの支えとなるよう、多種多様な自治体業務について、その業務に精通している方にやりがいや魅力、仕事のポイントについて紹介いただく。

【公務員のチームマネジメントを学ぶ 基礎編】

第2弾のテーマは「チームマネジメント」。ご登場いただくのは「はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント」の著者である千葉市職員の安部浩成さん。現在は部長として従事しているが、係長へ昇任した当時は意気込みと裏腹に幾度と失敗も経験をしたと語る安部さん。安部さんのテキストには、いったいどんなことが書かれているのだろうか。

※著者の所属先及び役職等は2022年3月公開日時点のものです。
※各記事の掲載情報は公開日時点のものです。

北京オリンピックが私たちに教えるもの


皆さん、こんにちは!
間もなく人事異動の季節ですね。人事異動は公務員にとって最大の関心事、皆さんの中には係長へ昇格される方もいらっしゃることでしょう。係長というのは、チームを運営する立場であり、チームマネジメントが欠かせません。このコーナーでは3回にわたり、主に「新しく係長となる皆さん」へ、チームマネジメントについてお話ししていきます。

2022年2月20日まで開催された北京オリンピックでは熱い戦いが展開され、日本は史上最多18個のメダルを獲得しました。個人競技では小林 陵侑選手、高木 美帆選手、平野 歩夢選手が金メダルを取り、その技の完成度の高さに日本中が、いえ、世界中が魅了されました。
一方、団体競技に目を転じると、カーリング女子が銀、ノルディック複合では銅メダルを取るなどする中、スピードスケート女子団体追い抜き(パシュート)では、佐藤 綾乃選手、高木 菜那選手、高木 美帆選手で構成する日本チームが銀メダルを獲得しました。同競技で金メダルを獲得したのはカナダです。同チームは個人の力は高くはないものの、チームとしての連係を深めたことが金メダルに結びついたといわれており、そのお手本は日本だとされています。このように、団体競技ではチーム化できているかどうかが成功のカギを握ります。

チームとグループの違い


公務もチームワークが大切、ということは論をまたないでしょう。ところで、人の集団をあらわす言葉には“チーム”のほかに“グループ”があります。両者の違いは何でしょう。“チームマネジメント” “チームビルディング”は聞いたことがありますが、“グループマネジメント” “グループビルディング”はあまり聞いたことがないでしょう。どうやら、チームは、マネジメントやビルディングする対象であるということが分かります。そこで、両者の違いを明らかにしておきましょう。

チーム
複数の人間が同一の目的を持って動く集団。役割分担し、協力し合って、同じ目標を達成していく。金メダルを取る、優勝するというのは同じ目標です。

グループ
あらゆる集団のこと。必ずしも全員に共有する目的や目標はありません。「烏合の衆」が良い例でしょう。


このように、目的や目標の有無が、チームとグループの違いです。そして、係長、課長のように、“長”がつく役職は、財源、人材といった与えられた資源を活用し、“チーム”が成果を挙げられるように何とかする=“マネジメントする者”であり、“チームマネジャー”といえます。

雰囲気作りが大切


晴れて係長になったあなた、これからの仕事に燃えていることでしょう。しかし、空回りしてしまうかもしれません。皆さんの他山の石としていただきたく、私が立候補をして初めて係長になったときの苦しい経験をご紹介します。 

ある日、部下が遅刻してきました。その部下は、遅刻の理由を説明することなく、何事もなかったかのように自席についたため怒鳴ってしまったところ、「恐怖感を覚えたので帰ります」と本当に帰られてしまいました。
また、外部委員で構成する会議の開催を翌日に控えた夕方、会議資料がまだできていないと報告を受けました。私は、そのような事態に陥ったことを責め、徹夜してでも作成するように告げて帰宅しました。翌朝、資料は仕上がっていたのですが、「昨日、なぜあのような言われ方をしたのか納得がいきません」と泣かれてしまったことがあります。

これらのことが起こったとき、私はぼう然としてしまいました。ちなみに、この年度の私の人事評価には、「空回りしているきらいがある」と書かれていました。それではどのような対応がチームマネジャーとして正解だったのでしょう。

遅刻の例では、その部下は遅刻常習者であったわけではありません。その日は特別な事情があったのかもしれません。まず、「今日は何かあったのではないかと心配したよ」と心を寄せるべきだったと思います。次に、理由を尋ね、その上で、社会人として次回からは自ら説明するよう説諭すればよかったと考えています。
資料遅延の例では、遅延したままずるずると前日を迎えてしまったことに、本人も不安や焦りを感じていたはずです。進捗状況の中間報告を求め、方向性のすり合わせをし、必要に応じて作業分担すべきでした。

後から思えば解決策を見つけることができるものの、そのとき直情的な行動に出てしまうのは、我を忘れているからです。クールダウンしてから対応しましょう。

ところで、昇格は、必ずしも本人の意向と一致するとは限りません。望まずして係長になってしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、嫌々ながらの仕事はスタッフに伝播し、チームの士気低下を招きます。係長は“見られる”存在です。係員時代を思い出してください。「今度の係長はどんな人かな」と皆が観察しています。係長次第で係の雰囲気は変わるもの、今度はほかでもないあなたが、見られる立場になるのです。

マネジャーへの脱皮


係員時代は、担当として割り当てられた仕事をこなしていれば用が足りました。しかし、係長としてのあなたは、スタッフ全員を統率し、期待される成果を挙げなければなりません。しかも、あなたを見ているスタッフは、年齢・性別・経歴などバラエティーに富んでいます。つまり、係長としてアプローチする対象が、モノ(事務・事業)からヒトへと変わっているのです。この違いを強く認識し、チームマネジャーへと脱皮していかなければなりません。

例えばプロ野球で、選手時代には優秀な成績を上げたのに、監督としての成績は今一つといったことがあります。反対に、選手としての成績は人並みだったが、チームを優勝に導いた監督もいます。もちろん、個々の選手の力量によるものもありますが、監督として問われることは、チームマネジメントに成功できたか否かです。これまで散々あおってきました。係長になることが怖くなってしまうかもしれません。でも、安心してください!

あなたの自治体には、これまでも多数の係長がいました。皆、立派に係長としての責務を務められてきたはずです。皆さんがお仕えした係長の良いところはまね、もし悪いところがあったとしたならば反面教師としてそれを繰り返さない。基本的にはそのことが大切です。そして、公務員のチームマネジメントにはポイントがあります。次回以降、それをお話ししていきます。

係長は、とてもやりがいがある仕事です。皆さんが、自らの係のチーム化に成功し、スタッフからチームマネジャーとして信頼され、チーム全員で成果を挙げることができたとき、それはかけがえのない経験となることでしょう!


プロフィール

安部 浩成(あべ ひろしげ)さん

千葉市総務局情報経営部長。1993年千葉市役所に入庁。総務課、政策法務課、行政管理課、中央区税務課、保健医療課、障害者自立支援課、都市総務課、教育委員会企画課を経て、人材育成課長補佐、業務改革推進課行政改革担当課長、海辺活性化推進課長、中央図書館館長などを歴任。2021年より現職。厚生省(当時)や千葉大学大学院、市町村職員中央研修所(公益財団法人 全国市町村研修財団)への派遣経験を有する。研修所では教授として、講義や研修企画等を通じた人材育成に携わる。主な著書に『はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント』(2020年、学陽書房)『仕事がうまく回り出す! 公務員の突破力』(2020年、ぎょうせい)がある。雑誌寄稿は「新任昇任・昇格者の行動力」(『月刊ガバナンス』2020年3月号、ぎょうせい)他多数。人材育成と行政改革がライフワーク。趣味は旅とフィットネス。


著書
はじめて部下を持ったら読む 公務員のチームマネジメント』(学陽書房)
自治体職員のための市民参加の進め方』(学陽書房)他多数

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