気づけば中堅と呼ばれる立場になり、業務範囲も仕事量も増え、さらには結婚・出産・子育てとライフスタイルも変わったことで、ますます忙しく過ごす日々。仕事と生活とのバランスを考えると、今後のキャリアについて悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。
今回は、出世しても責任と仕事が増えるばかりで、これからキャリアアップしていくことが不安……といったお悩みに対し、山形市 健康医療部 健康推進課課長の後藤 好邦さんに回答いただいた。
【連載】
case1:出世しても増えるのは仕事と責任ばかりでこの先が不安です。←今回はココ
case2:係長として期待される役割を果たすために何ができるでしょうか。
case3:忙しく時間がない中、課外活動に取り組むべき理由が分かりません。
case4:年上の部下や、やる気のない部下に対してどう接していいか分かりません。
case5:どうすれば組織横断的な取り組みや官民連携事業を上手に進められますか?
case6:厳しい指摘ばかりの上司との付き合い方について教えてください。
お悩みcase1
まわりでは、出世しても責任と仕事ばかりが増えるので、昇進を考えないという人が多いです。ただ、社会貢献度の高さなど公務員としてのやりがいを実感しており、昇進試験を受けたいのですが、正直不安が大きいです。
“管理職になりたくない”ベテラン職員の離職率の高さ。
私は昨年度から管理職(課長)になりました。はじめに、管理職になってみての感想をお伝えすると、“管理職になって良かった。やりがいがあって、すごく楽しい”と素直に思っています。人の気持ちは千差万別、私のように思う人もいれば、逆にプレッシャーを感じてつらいと感じる人もいるでしょう。
これに関連して、今年の3月に驚くことがありました。人事異動の内示を見ていると、定年で退職される方と同じくらい早期退職の方がいることに気づいたのです。その方々の顔ぶれを見てみると、半分くらいが20代から30代の若手・中堅職員で、残り半分が管理職手前の40代後半から50代のベテラン職員だったのです。
その中のベテラン職員のお一人と話をする機会があり、退職の理由を聞いてみたところ、「職位が上がるにつれて責任が重くなるし、まわりの職員からの期待も大きくなる。また、他課との仕事の押し付け合いで矢面に立つことも増える。こうした状況に疲れてしまった。管理職になると、もっとつらい思いをすることが増えるだろうから、自分はここで身を引くことにした」と語ってくれたのです。
この話を聞き、私自身も同じように感じたことがあったので、その方の判断を尊重したいと素直に思いました。
まずは自分自身がどんな人生を歩みたいかを1番に考える。
昇進や出世についての悩みは尽きません。これらのことについて、私自身の考えをお話しするにあたり、はじめに伝えたいことがあります。それは人の生き方、働き方に正解はないということです。
まして、今は答えのない時代といわれており、以前よりも多様性が認められる社会にもなっています。そのため、まずは“あなた自身がどんな人生を歩みたいですか?”という問いに対する自分自身の答えを見つけることが大事だと思います。
その結果、昇進し、社会貢献したいと思うのならば、他者の考えに左右されずに昇進試験を受ければ良いと思いますし、逆に、昇進以外の方法で社会貢献できる方法があるとすれば、それに合った生き方を選択すべきだと思います。そして、自分の選択した答えに自信を持ち、その答えが正解となるよう全力を尽くすことが大事です。
次に、“あなた自身がどんな人生を歩みたいですか?”に対する私の答えと、その答えを選択した結果、今、管理職としてどのような気持ちで働いているのか、お話しします。
私は若い頃から早く偉くなりたいと思っていました。その理由は偉くならないと自分の好きなことができないと考えていたからです。ただ、その考えを持ち続けることに一瞬ひるんだときがありました。それは係長のときです。そう感じた原因は、チームとしての業績向上に責任をもつことや、部下をもつことに対するプレッシャーからくるものでした。
反面、職位が上がることによって、裁量権が高まることも実感しました。自分の判断で物事を進められる喜びを感じたのです。このプレッシャーと権限をてんびんにかけた結果、たとえ責任が重くなり仕事が大変になったとしても、管理職となり自分が思うように色々な事業に挑戦してみたいという考えに至ったのです。
このように判断し、仕事に全力を尽くしてきことが評価されたのか、私は自分が想像したよりも早く管理職になることができました。本年度で管理職2年目ですが、前述したとおり、管理職になれて本当に良かったと感じています。そのように感じられる管理職の魅力を2点ご紹介します。
自己裁量と人材育成の権限で実感した仕事への充実感。
第一に、自分が所属する課の業務について、そのほとんどを自分の判断で決定することができるということです。皆さん、想像してみてください。今、皆さんが業務を進めるにあたり、課長に確認していることが、課長になれば全て自分の判断でどんどん進めることができるようになります。
これってすごいことだと思いませんか。確かに、その分、責任は課せられます。そのため、部下の意見などを聞き、色々な角度から検討して判断する必要はあります。ただ、誰かに伺うことなく自分で決められるというのは、仕事のやりがいに直結します。
第二に、部下の人材育成に直接関われるということです。確かにリーダーという点では、係長も部下の育成に関わることができます。しかし、誰を研修に派遣するのか、どうした方針で若手を育成するのか、といったことは、最終的には課長の判断になります。
新たに仕かけた人材育成プランで職員の成長と価値創造につなげる。
私は管理職になり、人材育成に関して2つの新たなことを仕かけました。1つ目が、人脈とオンラインを活用した職場内研修です。
図書館分館が併設されている公民館のリノベーションにあたり、見本となるような先進的な図書館のことを知ってほしいと考え、岩手県紫波町の図書館に関わる2人の友人にお願いをしてオンライン研修会を開催しました。なお、この研修は誰かに許可を得ることなく、課長としての自分の判断で実施しました。
2つ目は、外部セミナーへの参加を業務扱いとしたことです。組織内の研修にマーケティングの研修がない一方で、マーケティングなどの民間企業が用いる手法などを活用し価値ある事業を創出することが自治体職員には求められます。
そこで、こうした趣旨の外部の無料セミナーに参加しようとしている職員について、それをプライベートでの参加とせず、業務扱いとし、職員が参加しやすい状況をつくりました。
このように管理職になると自分の判断で色々なことができるようになり、それが私のモチベーションを高めてくれました。だからこそ、私は管理職になって良かったと思っています。しかし、先にお話したように、私にとっての正解は、皆さんにとっての正解とは限りません。まわりに左右されず、まずは自分に合った生き方を考えてみてください。
後藤 好邦(ごとう よしくに)さん
山形市 健康医療部 健康推進課課長。1994年入庁。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課を経て現職。総合計画の進行管理や次期総合計画の策定、仙台市との連携などを担当。自治体職員が横のつながりをもつ機会を生み出すため、2009年6 月に岩手県北上市の職員らとともに「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足し、会員を900名になるまで拡大させるなど、人・組織・地域・色々なものをつなぎ、東北、そして日本を元気にするための活動を実践している。
著書:
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