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【セミナーレポート】先行事例をもとに解説! 保育所と児童発達支援の一体化とは?

令和4年末、厚労省の省令改正の施行に先立ち、「保育所等におけるインクルーシブ保育に関する留意事項等について」の通達が出されました。地域ニーズに沿った保育をする上で非常に重要な内容です。

このセミナーでは、こども家庭庁の担当者が通達のポイントを解説。さらに、全国でインクルーシブ保育を実践している事業者が、現場の課題や実践事例を共有しました。

概要

【タ イ ト ル】
  先行事例をもとに解説! 保育所と児童発達支援の一体化とは?
  ~国が推進する“インクルーシブ保育”のメリット、運営課題とその解決~
【  実 施 日  】 2023年5月26日(金)
【参 加 対 象】 自治体職員
【申 込 者 数】 256人
【プログラム】
  第1部:保育所等におけるインクルーシブ保育について
  第2部:保育所と児童発達支援の併設・多機能化の視点を子ども・子育て事業計画へ
  第3部:「建てただけ、一緒にしただけ」では進まないインクルーシブ保育。7年間の併設施設運営ノウハウを公開
 


保育所等におけるインクルーシブ保育について

 

<講師>

北條 俊一 氏
こども家庭庁 保育政策課 企画法令第一係長

プロフィール

平成31年4月、厚生労働省に入省し、医政局総務課へ配属。その後、健康局予防接種室へ配属され、新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の政策立案を担うなど公衆衛生行政を担当。令和4年7月、子ども家庭局保育課へ配属され、令和5年4月より現職。

多様化する保育ニーズに応える重要なカギが“インクルーシブ保育”。

まず、インクルーシブ保育について、国が考える方向性をお伝えします。令和3年末に「地域における保育所・保育士等の在り方に関する検討会」で取りまとめられた内容ですが、これまでの国の保育政策は待機児童問題への対応が主でした。この問題については、令和4年4月1日時点の待機児童数が2,944人で調査開始以来最少となっており、保育の量的拡充を行ってきた成果が見られると考えています。その一方で、今後の人口減少社会においては、いかに良質な保育の提供を持続させるかが大きな課題です。

また、今後の人口減少社会を鑑み、各地域において良質な保育を提供する体制を確保することを前提に、保育所などが様々な関係機関と協働しつつ、多様な保育、子育て支援ニーズを地域全体で受け止める環境整備を行うことが重要です。

具体的な取り組み内容として、“多様なニーズを抱えた保護者・子どもへの支援”が大きな柱の1つだと考えています。その中でも、保育所と児童発達支援との一体的な支援、いわゆる「インクルーシブ保育」を可能にするための規制の見直しが必要なのではないかと、検討会で取りまとめられています。

こうした中、厚生労働省は令和4年11月30日に省令の改正を行っています。同年12月26日に留意事項を示した通知書を発出した後、令和5年4月1日から施行されました。改正前は、保育所の保育士と、児童発達支援事業所の児童指導員らが、それぞれに保育・療育を実施し、施設を併設している場合でも人材や設備の交流は認められていませんでした。それに対し、この改正によって下図にある通りそれぞれの事業の基準を満たしていれば、人員の交流、設備の共用といった一体的な支援が可能になります。これにより、園での取り組みの幅が広がり、多様なニーズに応えられるようになるものと考えています。

通達を正しく理解するための留意事項と、以前との比較。

次に、実施にあたっての留意事項を、通知の内容からいくつか抜粋して説明します。基本的にここで示す内容が主に重要だと考えています。

まず、インクルーシブ保育の実施にあたって、それぞれの基準を満たす必要があるという点です。1つ目の事項として、保育所、児童発達支援事業所のそれぞれにおいて必要な職員が配置されていなければならない。つまり、今回の改正によって職員配置上の人員計算が変わる訳ではなく、この体制によって人数が少なくできるものでもありません。事業としてはあくまでも交流をしているという前提で、元々の人員基準は満たす必要があり、その上で職員間での交流が認められるという趣旨になっています。

2つ目に、交流を行う設備、保育室などについても、各事業で必要とされる面積を合計した面積が確保されていることとされています。このように人員・面積共に基準が緩和された訳ではなく、交流の際に弊害となっていた規制を見直した、というのが趣旨です。
また、この通知には「障がい児の支援に支障がない場合」として留意すべき点も記載されています。そこから主なものをピックアップしたのが、下図の下枠にある4項目です。

続いて、実際にどのような人員・面積が求められるのかという点について。下図に記載されている人員と設備は、全て交流や共用が認められています。下線を引いている箇所は、今回の省令改正によって共用・交流が認められ、改正前は認められていなかったものです。

省令改正による基準の変更で多様化する子育てニーズに応えていく。

最後に、そのほかの留意事項について、3つほど案内します。
1点目、運営費の公定価格上の算定方法についてですが、保育所に対して支払われる公定価格は元々入所している利用児童数分のみが算定されます。
2点目は、施設整備等に係る財産処分との関係について。併設・交流にあたって、本来の目的として使用せずほかの用途に用いる場合には財産処分の手続きが必要になりますが、本来の事業目的に支障を及ぼさない範囲で使用する場合には、一時使用に該当するものとして手続きが不要となります。
3点目は、多様な社会参加の支援に向けた保育所等の活用等について。この施策には、各施設を社会資源・地域資源として活用できればという考えもあり、空きスペースを利用して本来の業務に支障のない範囲で、積極的な事業を行っていただきたいと考えています。例えば、「子ども食堂の実施」といったものです。

こうした保育所の多機能化については、参考になるものとして、令和4年6月に発出した「地域の実情に合った総合的な福祉サービスの提供に向けたガイドライン」があります。こちらを参照の上、様々な施設における共用にあたっての留意事項を確認しつつ対応していただければと考えています。

保育所と児童発達支援の併設・多機能化の視点を子ども・子育て事業計画へ

インクルーシブ保育という考え方が広まってきたとはいえ、まだ国内での事例は限られており、自治体は戸惑いを感じるかもしれない。第2部では国内で多くの併設園を運営する事業者が、これまでの歩みと行政との間に生じた様々な課題・解決策を共有した。

<講師>

高堀 雄一郎 氏
株式会社日本福祉総合研究所
取締役 開発担当役員

プロフィール

平成10年、保育の現場に疑問を抱き、認可外保育室を自ら開設。平成17年に株式会社日本福祉総合研究所を設立し、事業所内・院内保育所の受託運営、保育所運営コンサルティングを開始。どろんこ会グループの創設者であり開発担当役員として、全国150施設の開設を行う。

子どもの「生きる力」を育むために併設園を開園するという道をひらく。

私は1998年に有限会社を設立し、朝霞市に家庭保育室メリー★ポピンズを開園しました。その後、新規園を増やして5園くらいになったとき、市から社会福祉法人格を取得して認可保育園事業をやりませんかと声をかけていただき、設立したのが「社会福祉法人どろんこ会」です。そして初めての認可保育園、朝霞どろんこ保育園を開園しました。
現在のどろんこ会グループは子育て支援施設が約160カ所、職員が約2,300名の法人グループとなっています。その中で、児童発達支援事業所は24施設あり、うち保育園と児童発達支援事業所の併設施設が13施設です。

では、なぜ併設にしたのかという点ですが、やはりどうやって子どもたちの生きる力を育むのかというのが大切だと思っているからです。そのためには、屋外かつインクルーシブな関わりの中で、直接体験を通じて以下の3つの要素が求められる場面を環境設定して見守ることが重要だと考えています。

メリー★ポピンズは異年齢保育でスタートしましたが、同一年齢の場合は、リーダーシップをとる子とそれをフォローする子に分かれてしまいます。それが異年齢保育になると、フォローにまわっていた子どもが年下の子どもたちの中ではリーダーシップを発揮するなど、成長していく場面が見られるのです。

また、障害を持ったお子さまの受け入れも積極的に行っていました。認可外で広い保育室ではなかったため、そもそも障害を持ったお子さまを分離して保育することができなかったのですが、子ども同士が関わり合う環境で障害の有無に関わらず成長していく場面を何度も目の当たりにして、やはり併設というのが重要だと実感したのです。

理想を実現するために繰り返した行政との協議と歩み寄り。

我々の理想は、同じ空間に双方の子どもがいて、そして双方の職員が子どもたちを見ていく、という環境です。

その挑戦となった併設園が、2016年に埼玉県ふじみ野市に開園したふじみ野どろんこ保育園でした。自治体に確認しながら園舎の図面をひいたのですが、「保育園と児童発達支援それぞれの子どもの動線、例えば玄関や保育室に向かう廊下、過ごす部屋などの動線を完全に分けるように」という指導が入りました。結果的に玄関も事務所も別々になり、運営が始まってみると非常にやりにくい。そこで、より理想に近づけるために協議していこうと決めました。

翌年の併設施設は、東京都足立区の北千住どろんこ保育園でした。こちらも、動線を分けるよう指導がありましたが、協議を重ね、玄関と事務所を共有にしました。そして、日常的に交われるように“絵本コーナー”をつくり、双方の子どもたちが自由に行き来できる環境を用意しました。しかし運営が始まって、現場に監査に来た方に、「完全に区画しなさい」と指導を受けてしまったのです。

2018年には、千葉県の公立保育園の民営化に伴って、自主事業によるインクルーシブモデルを提案しました。この園では、交流スペースを壁で完全にふさぐのではなく、引き戸の設置が認められるところまで協議をしました。随分進歩したと思います。

そして現在、2023年春に茨城県つくば市に開園した香取台どろんこ保育園は、1階が未就学児部分で2~5歳児と児童発達支援のお子さまが一つの大きな部屋で過ごし、2階は学童と放デイのお子さまが共に過ごす配置にしました。当然、玄関・事務所は共有です。そして、壁や引き戸ではなく、収納棚によるゆるやかな区画での空間の一体化に成功しました。これならお互いの様子が分かりますし、子どもたちは自由に行き来できるので、交流も盛んになりました。

インクルーシブ保育の現状とどろんこ会の今後の展望。

このように、我々には“こういう保育をしたい”という思いがあって、自治体にそれを伝え、そして協議を重ねてきました。感じた課題は国に要望し、配置要件の緩和と施設要件の緩和について声を上げました。そうした中、昨年国連から日本政府に分離教育を中止する勧告が出て、12月には厚労省から併設施設に関する事務連絡がありました。さらに今年の3月には、東京都が事業所向けに行った説明会で、併設施設において壁で区画する必要がない旨の説明がされています。インクルーシブをとりまく環境も変わりつつあると実感しています。

最後に、今後の計画を紹介します。令和6年、東京都東大和市に初の児童発達支援センターと認可保育所の併設モデルを開設する予定です。この園が生まれたのは、4年半ほど前に、東大和市の運営する園が老朽化で廃園になるため、建て替えの相談があったのがきっかけです。その際、認可保育所との併設を提案し、職員の方々もどろんこ会の併設施設を見学、併設での開園を決定していただきました。

ここは、来年の4月から定員80名の認可保育所として、発達支援事業としては6つの事業を運用する施設として開園します。こうした取り組みは前例が少なく、分からないことばかりだと思います。東大和でも4年半前からアドバイスしつつ進めてきました。分からないことがあれば、同じようにアドバイスしますので、お気軽にお問い合わせください。

「建てただけ、一緒にしただけ」では進まないインクルーシブ保育。7年間の併設施設運営ノウハウを公開

第3部は、どろんこ会の大久保氏が登壇し、具体的な現場事例を紹介。併設園でどのような保育を進めているか、そしてどんな課題が見つかり、それを職員たちはどのように克服しているのかを共有してくれた。

<講師>

大久保 優介 氏
社会福祉法人どろんこ会 運営部 部長

プロフィール

ベネッセグループの教育系の企業で約15年勤務、平成24年より株式会社LITALICOにて児童発達支援事業の立ち上げを経験し、平成27年に社会福祉法人どろんこ会に入職。以来全ての併設施設の運営に携わる。保育所、児発双方を統括する運営部部長としてインクルーシブ保育の推進にあたっている。

地域に溶け込み、人がつながる場所をつくるためどろんこ会が大切にしつづけた理念。

ここからは、当会が進めてきた7年間の併設園運営に関して、これまでの変遷と運営における葛藤などをお話しします。まず併設園の変遷です。
我々の児童発達支援事業所は、2014年に東京都杉並区からスタートしています。当初から理念は法人の理念と同じで、「10より100の経験を」というもの。児童発達支援ガイドラインにも、子どもが自ら環境に関わり自発的に活動し、様々な経験を積んでいくことができるよう配慮すること、と記されていますが、こうした部分も意識して子どもたちを支援してきました。

つむぎの事業所には、地域の特色に合わせたカフェを設けており、保護者がわずかな時間でもくつろげる場所、地域の人とつながれる場所として開放しています。また、受付まで靴のまま入れるつくりになっており、ファシリティ面に関しても障害の意識差を生まない設計にしています。

どろんこ会では、始めからインクルーシブ保育を意識してきました。しかし、開設当初はビルテナント型ということもあり、部屋の中で活動することが多くなります。また、保護者のニーズも、専門士による機能訓練を求める方が多く、保育士・専門士による短時間のグループ活動や、個別支援・機能訓練を中心に行ってきたのが実情です。我々の理想とはほど遠い内容で、職員も、まずは経験者が必要ということもあり、従来の療育を経験してきた職員のみで構成されている状況でした。

試行錯誤の末に自分たちで生み出した独自の支援内容と日々の活動プログラム。

ここから併設園の誕生です。2015年に世田谷区駒沢で、同じ建物の中に児童発達支援事業所を設けました。保育所と児童発達支援事業所を1つ屋根のもとにということで、カフェスペースも設け、地域の方に開放してきました。下図は1日の活動の流れです。

併設園の開始当初は、建物が一緒とはいえ、1階と2階で分かれていたり、カフェスペースを間に挟んで両側に設置したりといった状況で、実際のプログラムも保育園と児童発達支援が個別の流れでやっていました。同じ建物に入っているものの、別々の部屋で活動し、交流が生まれないというのが難しいところでした。保育士と機能訓練士も、お互いの専門性が全く活かせません。子どもも大人も交われないという支援の内容になってしまっていました。
そこから、我々が「マンスリー」と名付けた、実際の生活を中心とした支援を開始していきました。活動の流れは、下図のような内容です。

朝の「日課」では、我々が大事にしている、生き物の世話やぞうきんがけなどを行っています。9時になったら散歩に出かけ、両施設の子どもたちが一緒に歩き、公園で関わり合いながら過ごしています。散歩から帰ったら給食や午睡、おやつなどもともに過ごしています。機能訓練士も保育に入り、生活の中で個々の特性に応じた環境構成を行っています。

職員の意識を日々高めながら真のインクルーシブ保育実現を目指す。

ただ、プログラムや生活、事務所を一緒にするということだけでは足りません。やはり職員の意識が変わらないと、真のインクルーシブ保育は実現できないのではないか、ということで様々な葛藤を経つつ試行錯誤をしています。

職員の意識改革のために、月々の会議や研修を通じて意識向上を図ってきました。インクルーシブ保育の実践のために、1つの施設として、全ての子どもに対して同じ方針で子育てを行っていく、これが一番重要だと考えています。

また、「守る・分ける福祉」から、「ジブンで選ぶ・社会を生きる独歩福祉」へということで、従来の“保育・療育”から言葉自体も変化させ、“子育て”という1つのワードでくくっていくことを意識しています。同時に、職員研修も充実させています。入社前の2~3月に実施する事前研修に始まり、入社後のフォローアップ研修、各種会議、勉強会などがありますが、そうしたものを通じて同じ意識を持てるように徹底。年間計画の策定会議では、保育園・児童発達支援の両スタッフがまざって計画を立て、法人の理念の再確認も実施しています。

そのほかの研修は、施設長勉強会や子育ての質を上げる会議を毎月実施。また、主任・リーダー級の会議など階層別の研修や任意参加の研修も定期的に開催しています。毎月定例の併設園会議というのもあり、これはインクルーシブ保育を実践していく上で、保育側と療育側のスタッフが意見交換を行う場です。もちろんうまくいかないときもありましたが、それを乗り越えて今があります。
今でも、我々はまだ道半ばだと思っています。日々活動しながら、これでいいのかと振り返りつつ、子どもたちの成長のために何をすべきか、真のインクルーシブ保育の実現を考えながら、これからも精進していきたいと思っています。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局

TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works
 

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