岸田首相の所信表明演説で言及されて、最近メディアなどでも話題の「リスキリング」(学び直し)。自治体には幅広い部署があり、業務ごとに必要とされる知識やスキルは異なる。しかし、DX推進のためのリスキリングや人材育成は、現在、全ての自治体において全庁的な課題といえるだろう。
名古屋市では、令和4年に動画学習サービス「Udemy Business」を導入して、積極的に職員向けのDX人材育成を行っている。導入を決めた背景や進め方、工夫、効果などについて、同市デジタル改革推進課の担当者に話を聞いた。
[提供]株式会社ベネッセコーポレーション
Interview
名古屋市 デジタル改革推進課
右:主査 廣岡 大輔さん
左:森 克敬さん
市民一人ひとりにより適した市民サービスを届けるためにDXを推進
名古屋市では、令和3年度末に「名古屋市役所DX推進方針」を策定した。目指しているのは、デジタルの活用を前提にあらゆる市民サービスや市役所の業務を変革し、市民一人ひとりにより適した市民サービスを提供すること。方針の7番目には「全組織、全職員一体でのDXへの取り組み」を掲げた。
「昔からの慣習や紙文化が根強い役所において、DXという変革を浸透させていくことは容易ではありません。全員で同じ方向性に進むためには、ICTやDXに関する基礎知識がなければ判断がつかないケースが多く、職域によって求められる知識も異なることに課題感を持っていました」と名古屋市の担当者は語る。
幹部層のマインド醸成と、職員のスキルアップを狙う動画学習を提供
そこで令和4年度、2つの取り組みを行った。1つは、根強い紙文化を払拭するためのマインド醸成だ。市長や局長、幹部クラスなどを対象に3回のセミナーを実施。外部講師を招き、実際の事例などをもとにDXに取り組む必要性を伝える機会を設けた。
もう1つは、職員のスキルアップを目的とした学習機会の提供だ。DX人材を育成するための教材として、オンライン動画学習サービス「Udemy Business」を導入した。ベネッセコーポレーションが日本におけるパートナーとして運営するUdemy Businessは、アメリカのユーデミー社が公開している世界20万以上の講座の中から、企業・自治体向けに厳選した9500以上の講座を、定額で学び放題というもの。ITの基礎からDXの推進、データ活用、業務効率化、プログラミングまで、内容は多岐にわたる。
Udemy Businessを選んだ理由について、市の担当者は「職員一人ひとりが抱える課題や職務は様々あるため、ほかのeラーニングに比べて幅広い講座の中から自分の興味に合わせて選べる点が魅力だと感じました。DXに関連する講座が豊富な上に市の様々な業務もカバーできること、職員ごとの受講状況を事務局側が確認できることも決め手になりました」と説明する。
幹部クラスと全職員向けの2つを企画したのは「幹部からのトップダウンと職員からのボトムアップはどちらも大切です。うまく進めるためには双方に基礎的な知識とDXマインドが欠かせないため、それぞれにアプローチしました」と意図を語る。
受講者の意欲を高めるべく、交流の場とニュースレターを活用
Udemy Businessの導入にあたっては、自己啓発という位置づけで、職務時間外に学んでもらうことにした。そのため、まずは意欲の高い人に受講してもらおうと、全職員を対象に希望者を募ったところ、さまざまな部署から定員を上回る申し込みがあり、200人に絞った。
令和4年度からベネッセコーポレーションと契約し、希望者200人を対象の受講を開始。開始前には事務局で試行環境を使い、庁内での活用法をイメージした。さらに、すでにUdemy Businessを活用している自治体が集まるオンラインの会合に参加して、「気になることを質問できて、進めていく上で大変参考になりました」と振り返る。
受講期間が始まると、事務局では受講者の意欲を上げるために2つのことを行った。まずは受講者の横のつながりを強めるためにチャットのトークルームを開設し、事務局からは人気の講座などを紹介した。「使い方はもちろん、無料で参加できる外部のコンテストなど有益な情報を共有してくれる人もいました。受講者の交流の場になり、事務局としても学ぶことがありました」。また、毎月「オンラインDX動画だより」を発行し、受講者が業務に活用した成功事例、事務局が受講して役に立ったオススメ講座、視聴時間ランキング(所属部署と視聴時間を記載)などを掲載。期間中に受講者の興味関心ができるだけ低下しないように工夫した。
幅広い講座から選択可能、高い満足度で継続希望者は9割以上
受講は任意のため、事務局の予想を上回るほど積極的に活用する人がいる一方で、思うように活用が進んでいない人もいたという。事務局があらかじめ示していたDX関連の講座のほかに、エクセルやパワーポイント、データベース、クラウド、マクロ、Pythonまで幅広い内容が視聴された。また、デザイン思考やプレゼンテーション、ウェブ会議の作法なども人気が高かった。
「ほかのeラーニングだと1つのテーマに対して1つの動画で終わってしまうこともありましたが、Udemy Businessは気になる単語で検索すると同じテーマでも複数の講座が出てきて、自分に合うものを選べる点が良かったです。また、通勤中にスマホで見ることができたり、5分10分の短い講座もあったりと、気軽に見られることで受講へのハードルが下がったのではないかと分析しています」
受講者のアンケート結果によると、学習サービスへの満足度で「とても満足」「満足」と答えた人は83%にのぼり、「不満」はわずか2%。IT技術に関する理解が進んだ人は86%、継続して利用したい人は96%を超えている。また、受講前と受講後のアンケート結果を比較すると、DXに対する心理的なハードルが下がり、ICTに関する用語への理解度が顕著に伸びており、「期待以上の効果があった」と担当者は手応えを感じている。さらに、これまで分からなかったスキルの上級者やDXへの意識が高い人たちの発見にもつながっている。
「市役所にとっては、市民サービスの向上が最終的な重要事項ですが、なかなか進めづらく手詰まり感があります。そんな中、リスキリングは進めるための選択肢を増やすのに有効で、この1年で庁内のDXマインドを醸成できたと実感しています。DX人材の育成については、これからも段階的にマイルストーンを置きながら進めていくつもりです。改革マインドが全職員にねづくことで、名古屋市全体の風土まで変わっていくことを期待しています」と力強く意気込みを語った。
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