全国の自治体が、マイナンバーカードの申請率を向上させるため、様々な取り組みを進めている。ただ、庁舎窓口まで足を運べず、サポート無しではオンライン申請も難しいような住民の場合、行政側が何らかの支援を行わなければカードの申請および取得が困難だ。
そうした住民をサポートするために泉佐野市は、「ベルシステム24(以下「BS24」)」および「ベルフェイス(以下「bF」)」が共同開発した「オンライン窓口センター」サービスを令和5年1月に導入。同月16日より市民向けサービスの提供を開始した。
[提供]ベルフェイス株式会社
簡単・スムーズにオンライン申請できる仕組みを整備
「令和4年度末までに、ほぼ全国民に行き渡らせる」ことを目指し、政府が普及促進を強力に推し進めているマイナンバーカード。各自治体も国からの要請を受け、庁舎窓口ばかりではなく域内の公民館や商店街内に出張窓口を設けるなどで、同カードの申請率向上に取り組んでいる。
ただ、前述のような“申請が難しい”状況の住民が、どこの地域にでも一定数いることに加え、オンライン申請を行おうとしたものの、記入内容の不備などで受け付けられず、断念するケースも少なくはないという。
そのため総務省の全国集計によると、令和4年12月末時点の同カード交付枚数率は人口比57.1%、カード交付前の件数まで含む「申請率(人口当たり有効申請受付数)」でも66.3%(令和5年1月9日時点)と、“ほぼ全国民”の目標には、まだまだ届かない状況だ。窓口申請への対応は自治体職員側の負担も大きいため、職員数が多い政令市と、それ以外の市および特別区、町村との申請率の差も拡がりつつある。
そうした中で泉佐野市は、市内の商業施設に設けた出張所での申請サポートや、マイナンバーカードに関する市民向けコールセンターの立ち上げなど、申請率アップに向けた取り組みを積極的に推進。令和4年12月31日時点で申請率66.99%と、全国平均を上回る成果を出している。
さらに今後、スマートフォン操作が苦手な高齢者や、仕事や家事が忙しく開庁時間に行けない人などでも簡単・スムーズに申請できる仕組みを整備するため、マイナンバーカード申請サポート専用窓口に、対面に近い感覚でオンライン申請が可能な「オンライン窓口センター」サービス(以下「サービス」)を導入することを決めた。同カードの申請サポートに本サービスを活用するのは、国内自治体で初の事例だという。
2社の知見を組み合わせることで生まれた新形態のサービス
本サービスは、BS24が蓄積しているコンタクトセンター運用ノウハウと、bFが開発・販売を行う電話面談システム「bellFace」を活用することで、マイナンバーカード申請時の煩雑な手続きをリモート支援するもの。市民とオペレーターとが電話と画面(専用WEBサイト)を同時につなぎ、画面を共有しながらオペレーターがサポートを行ってくれるので、対面に近い感覚で申請手続きを完結できる点が最大の特徴と言える。
bFが販売するbellFaceは、平成27年のリリースから現在までに、累計3,600社への導入実績を持つ電話面談システム。一方のBS24は、40年ほど前から本格的なコールセンターサービスを開始し、企業と生活者との接点となって様々なサービスを展開してきた。両者のシステムおよび知見を組み合わせることで、マイナンバーカードのオンライン申請サポートという新たなサービス形態が生まれたわけだ。
オンライン申請サポートの流れは、
(1)申請サポートを受けたい時間帯を電話予約し、オペレーターから電話がかかるのを待つ
(2)申請者のスマホにSMSメッセージで届く4桁の接続ナンバーを電話口でオペレーターに伝える
(3)「リモートコントロール機能(※)」を活用し、オペレーターとの共有画面を見ながら必要事項を入力する
…と、比較的シンプルで、市民側が特定のアプリをインストールする必要はない。申請に必要な顔写真を事前に準備していない場合も、写真撮影機能を使ってその場で撮影できるので、スムーズに登録を完了させられる。
総務省がWEB公開しているFAQを見ると分かるように、オンライン申請がうまくいかない原因の多くは、顔写真や連絡用メールアドレスの不備、使用ブラウザの環境など、サポートがあれば簡単に解決できる内容ばかりだ。画面操作や入力内容を、オペレーターがリアルタイムでサポートしてくれる本サービスの導入により、同市はマイナンバーカードの申請率向上を目指す。
※リモートコントロール機能とは
サービス開始に合わせて発表会見を開催
本サービスの導入および市民向けサービスの提供を広く告知するため、泉佐野市とBS24およびbFは16日、同市役所内で「泉佐野市マイナンバーカード申請支援サービス発表会見」を開催。同市の千代松 大耕市長ほか、BS24の石井 覚執行役員、bFの中島 一明代表取締役が登壇し、導入のねらいや背景、サービスの概要説明などを行った。
会見の冒頭、千代松市長は、「マイナンバー制度は行政を効率化し国民の利便性を高め、公平公正な社会を実現する社会基盤であり、同カードはオンライン上で安全かつ確実に本人確認ができる、デジタル社会に必要なツール。これまで当市は、庁舎窓口での申請支援をはじめ申請サポートカーや商業施設などでの出張サポートを行ってきたが、本日からオンライン窓口センターでの申請支援も行うことにより、さらなる申請機会の拡充を目指していく」とあいさつ。
千代松 大耕(ちよまつ ひろやす)さん
泉佐野市長
続いて石井執行役員が「本サービスを活用することで、住民の手続き負担の軽減と満足度の向上、自治体の業務効率化が実現されると確信している。今後は本サービスを住民窓口全般にも普及させることで、さらなる負担軽減と満足度向上に寄与できるだろう」と展望を語り、中島代表取締役がサービス利用の流れを説明した。
左:石井 覚(いしい さとる)さん
株式会社ベルシステム24 執行役員
右:中島 一明(なかじま かずあき)さん
ベルフェイス株式会社 代表取締役
なお、当日の質疑応答の内容は下記の通り(一部抜粋)。
―― どのような層の住民がマイナンバーカード未申請なのでしょうか。
千代松:当市がアプローチできていない高齢者施設の利用者や、仕事が忙しく市役所に行くのが面倒だという方、マイナンバーカードは特に必要ないと考えている方などが、約3割の未申請の方の内訳だと考えています。電話で気軽に申し込めるようになれば、それらの中にも「自分もやってみよう」と思い立つ方が、必ずおられるでしょう。
デジタル社会が進展する中で、マイナンバーカードは本当に重要なツールになります。できるだけ100%近い市民がカードを持つよう、新たな取り組みの一歩を踏み出したわけです。
―― 導入の決め手となったポイントと、他自治体へのアドバイスがあれば。
千代松:「電話」という、最もオーソドックスな連絡方法を使ってオンラインを活用できることと、このやり方ならマイナンバーカードの必要性を感じていない方にも、行政側からアプローチしていけると感じたことが、導入の決め手です。
当市に限らず他自治体も、申請率・交付率を現状からさらに大きく伸ばすのは難しく、地道な取り組みが必要だと思っています。そんな中で、当市における実績をしっかりとお示しすることが、アドバイスになるのではないかと思っています。
―― マイナンバーカードが普及することで可能になる、新たなサービスの展望を伺いたい。
千代松:行政のデジタル化を進める中で、オンライン申請の普及は必須の取り組みになります。電話というオーソドックスな手法によって市民の皆さんにアプローチし、それがオンライン申請を普及させるきっかけ作りになることを期待しています。
石井:市長が言われた通り、マイナンバーカードの普及は様々な業務におけるオンライン申請を可能にします。当社はこれまで、自治体の給付金申請などで自治体にコールセンターを活用いただいた実績があり、今後さらに可能性が広がると考えています。
ただ、コールセンター業務だけではサービス内容の限界もあります。電話でサポートできるベルフェイスの仕組みは画期的であり、このシステムと組み合わせることで、コールセンターのサポート領域も大きく広がるでしょう。
中島:当社はもともと、『電話市役所』というコンセプトを、各地の自治体に提案しておりました。マイナンバーカードの申請および交付に特化した今回の取り組みは、電話を起点にしながら、行政によるあらゆる市民サービスをハイブリッドに提供できるようにする絶好の機会だと考えています。
電話と、当社の特許技術である「リモートコントロール機能」とを組み合わせ、遠隔でも本人確認ができるようになれば、市役所に足を運ぶか、自治体のホームページから申請するかしなければならなかった各種証明書の交付なども、電話口から行えるようになるわけです。今後はそうしたサービス展開も、千代松市長に提案したいと考えています。
質疑応答終了後、千代松市長とbF中島代表によるデモンストレーションが行われ、会見に参加した各メディアが実際のオンライン申請の流れを確認していた。