町内全域の公共交通網を再編成した菰野町。オンデマンド型の乗合交通を新たに組み込み、ニーズの空白を補完するとともに、時間と運賃を節約する便利な予約システムを開発。同町の取り組みは、さらなる利便性向上を目指し、地域のにぎわい創出に挑む。その現状と今後の展望とは。
※下記はジチタイワークスVol.22(2022年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
利用客の少ない路線を休止し不足分は「のりあいタクシー」で補う。
鉄道、路線バス、タクシー、コミュニティバス、ロープウェイと、複数の公共交通機関を抱える同町。コミュニティバスはかつて町内全域を走っていたが、1路線当たりの便数が少なく、利用者のニーズに応えているとはいえなかった。通勤や通学の時間に合わず、利用したくてもできない、といったちぐはぐ感が否めないダイヤだったという。
そこで、平成20年に住民や事業者も参画した「菰野町地域公共交通会議」を設立。勉強会などを開催し、公共交通網のあり方を検討してきた。第三の立場となる有識者を招いたことで、建設的で有意義な議論が交わされたという。
その結果、コミュニティバス網のうち、利用客が少ない路線の全面的な見直しを決定。重視するポイントをエリアカバー型からニーズ充足型へシフトし、路線の集約を進めた。休止された地域には、オンデマンド型の「のりあいタクシー※」を導入。専用車両を配備し、運行はタクシー会社に委託した。
総務課の伊藤さんは「利用者のスムーズな移動と各交通機関の効率化の両立には、円滑な乗り継ぎが課題でした。中継点の設置やダイヤ改正に取り組む中、特に注力したのがのりあいタクシーの予約方式です。それにはICTの活用が最適だと考え、検討を進めました」と振り返る。
※バス停のように設置された乗降場所間を移動できる、同町独自のAIオンデマンド乗合交通
普及率向上のカギは高齢者、様々な施策で利用促進を図る。
令和元年8月に、携帯電話事業者と連携協定を結び、菰野町MaaS「おでかけこもの」の開発に着手。PCやスマートフォンで、町内266カ所に設置した乗降場所、日時などを入力すると、鉄道、バス、のりあいタクシーのかけ合わせの中から合理的なルートを検索・予約できるWEBサービスが生まれた。
「このサービスはAIを使ったシステムで、令和2年1月から運用開始しました。アプリではなくWEBサービスでの提供と決めたのは、キーワード検索ですぐ開けて、どなたでも利用できるから。高齢者のWEB利用比率は約45%にもなり、ここまで高齢者に浸透しているのは全国的にも珍しいそうです」と拜郷さん。「電話でも予約できますが、おでかけこものを使うと割引もあり便利です。のりあいタクシーの一般料金は400円ですが、条件次第で最大100円にまで割引されることも利用促進につながっています」。
町内にあるバス、タクシーの事業者はそれぞれ1社だったこともあり、制度の導入にあたり交通事業者との連携は円滑に進んだ。苦労したのは高齢者がスマートフォンの操作に慣れていないことだったという。「利用方法の説明会や町内の老人会でのPR、役場窓口での登録対応、スマートフォン教室を定期的に開催するなど、利用を促す取り組みも併せて実施しました」。
高齢者向けスマートフォン教室の様子。携帯電話事業者の協力と職員たちの地道な努力が、高い高齢者利用率へとつながった。
情報発信のしかけを組み込み“おでかけ”の機会創出を目指す。
この取り組みにより、高齢者の利用が増加したことで、各交通事業者への支援にもつながっているという。また、バスに加えのりあいタクシーという選択肢が増えたことで、“乗降場所も多く利用しやすい” “免許を返納したが全く苦にならない”と利用者からも好評なのだそう。
「現時点は公共交通の検索・予約システムにとどまりますが、今後は“おでかけのきっかけづくり”になるような、イベントの実施や情報発信などに取り組む予定です。その結果、地域のにぎわいづくりに役立てることができればと思っています」と語るのは芝田さん。
「これからは若年層の利用促進を目指した取り組みも必要。町内の高校と連携して、無人駅の遊休スペースの活用方法を一緒に考えています。それを通じて公共交通をより身近なものと捉えてもらい、ゆくゆくはまちのにぎわいづくりにつなげていきたいと考えています」。
同事業は、令和元年度、2年度、4年度に国土交通省のモデル事業に選ばれている。公共交通の利用促進・利用者層の拡大を図るとともに、地域課題の解決にも取り組む同町の今後に注目したい。
菰野町 総務課 安全安心対策室
左:地域自治振興係 主査 拜郷 絢香(はいごう あやか)さん
中央:室長 芝田 正博(しばた まさひろ)さん
右:地域自治振興係 係長 伊藤 智彦(いとう ともひこ)さん
「おでかけこもの」は町民だけでなく、町外からの来訪者にも役立つ仕組みです。公共交通の利用促進だけでなく、ほかの施策にも活用できる可能性を感じています。
課題解決のヒント&アイデア
1.利害関係がない第三者の存在が、発展的な議論を生む
行政、住民、事業者だけの話し合いは、意見が対立することも。同町ではオブザーバーとして名古屋大学大学院から教授を招き、話し合いを重ねた。客観的な視点が加わることで、発展的な議論が生み出された。
2.利用の優先度にメリハリを付けた大胆な取捨選択を実施
低頻度多系統のコミュニティバス網では、住民の移動ニーズは満たせない。大胆に見直したことで、オンデマンド型乗合交通の導入、おでかけこもの(町独自のMaaS)の開発と、新たな展開につながった。
3.普及のカギは高齢者。WEB活用を促すしかけをつくる
“インストールの壁”が立ちはだかるアプリではなく、WEBサイトで提供。割引を設定するだけでなく、スマホ教室や初期登録のサポートなどを自治体主導で実施。便利さが口コミで伝わると、利用者が増加した。