ジチタイワークス

【セミナーレポート】防災×DX ~元気象庁長官が語る!これからの備えに向けた自治体災害対策~

昨今、地震や台風、土砂災害など様々な自然災害が頻発しており、自治体における災害対策は、もはや「課題」ではなく「急務」となっています。災害がいつ発生しても、迅速な対応を図れるようにするために、自治体にはどのような備えが必要なのでしょうか。2022年4月、『自治体の災害対策』をテーマに発行したジチタイワークス「災害対策特別号」にちなんで、今回は「気象予報」に焦点を当てたセミナーを開催いたします。

気象によるリスクを早期に把握し、水害を未然防止あるいは軽減するための気象情報の読み解き方を、気象予報士の意見を交えて紹介します。

概要

◼防災×DX ~元気象庁長官が語る!これからの備えに向けた自治体災害対策~
◼実施日:7月21日(木)
◼参加対象:自治体職員
◼参加者数:120人
◼プログラム
Program1
水害の未然防止・軽減には気象情報を読み解く力が重要!
Program2・座談会
24時間365日プロの気象予報士サポートがつく「Halex」導入自治体の今!
Program3
ジチタイワークス「災害対策特別号」のご紹介


水害の未然防止・軽減には気象情報を読み解く力が重要!

<講師>

株式会社ハレックス エグゼクティブビジネスアドバイザー
元 気象庁長官 山本 孝二 氏

プロフィール
気象庁入庁後、仙台管区気象台長、気象庁地震火山部長、気象庁予報部長、気象庁長官を歴任。その後、(株)ハレックスにて顧問、取締役会長、相談役を務め、令和3年4月から同エグゼクティブビジネスアドバイザー就任。平成23年瑞宝重光章受章。


河川氾濫や大雨による土砂崩れなど、水災害から住民を守るためには、雨量指数などの水災害に関連した気象情報を読み解く力が“鍵”となる。自治体職員が正しい知識を身につけておけば、水害リスクの最小化や防止にもつながる。気象庁情報の読み解き方について過去の事例を踏まえながら、山本さんが解説する。

近年の豪雨の特徴と降水予測精度の現状、台風の進路予報の精度

地球温暖化による水蒸気量の増加で、豪雨の高頻度化や甚大な水災害発生の増加につながっています。平成30年には「線状降水帯」によって、西日本豪雨で大きな被害が出ました。ほかにも、台風が強い勢力のまま日本列島に上陸する特徴があります。

令和3年8月、西日本から東日本の広い範囲で大雨になり、広島の土砂災害や西日本の豪雨など、甚大な災害が起きました。これは、中国大陸から太平洋高気圧の縁辺のチベット高気圧に挟まれた間を線状降水帯が入ってきたことによって起きたものです。下記の棒グラフは、地域気象観測システム(アメダス)の1,300地点における1時間降水量50mm以上の発生回数の経年変化をあらわしています。

グラフ自動的に生成された説明

こうした状況の中で、気象庁は大雨をどこまで予測できるのか。残念ながら“予測”という手法で100%的中はあり得ません。しかし、気象庁の数値予報モデルの高度化により、85%の的中率となっています。降水の予測は、時間雨量および積算雨量に関し、下記の3つが予測可能となっています。

①24〜36時間先までに関しては、地方レベル
②6〜24時間先までに関しては、地域レベル
③1〜6時間先までに関しては、特定の場所

考えなければいけないのが、洪水、土砂災害、内水氾濫などの“進行型災害”です。降水現象さえ正確に把握できれば、我々は、いつ、どこで、どのような現象が発生し、それが今後どのように進行するか(発達するか、衰退するか)を、想像できるような情報を出すことが可能です。ただ、ゲリラ豪雨に関しては③のカテゴリーで、前日に予測することが困難は非常です。気象庁は発雷確率の情報を出していますから、発雷確率が高いということは、ゲリラ豪雨の発生が高いと考えてください。

ゲリラ豪雨が山で降った場合です。平野部では雨は降っていませんが、中小河川は山に振った雨が流れて来て、平地で氾濫する可能性があります。自治体の皆さんは、山の方で雷鳴が聞こえたら中州から退避するよう呼びかけてください。

次に、台風の予報精度について。台風の進路予報は“アンサンブル予報”と呼びます。この気象図は2020年の台風19号のケースです。

グラフ自動的に生成された説明

台風アンサンブルの精度がずっと狭まると、どこに上陸するか、いつになるか、どのような勢力を持ってくるのかが、上陸の2日前には分かるようになっています。暴風の中での避難は非常に危険です。2日前には台風の進路がある程度分かるので、暴風域に入る時間を割けて避難行動を呼びかけていただきたいと思います。

 

流域・表面雨量指数、土壌雨量指数、スネークラインとは

気象庁が発表開始した“水のふるまい”=“水災害リスク”は、予測情報を正しく理解することにより、災害リスクの最小化や未然防止が可能になるはずです。各自治体の水災害に対する防災対策に特化したリスクの情報取得が可能となっています。防災担当の皆さんは、普段は防災以外の仕事もお持ちなので、情報を常時チェックすることは難しいと思いますが、リスク発生の際、我々は危ない状況が間近に迫っていることを「PUSH型通信」で伝えることが可能です。

以下の図は、地面に降った雨水の振る舞いの概念図です。

ダイアグラム自動的に生成された説明

平成31年の台風19号では、一級河川だけでなく多くの中小河川の破堤が各地で発生しました。流域雨量指数を活用すれば水位の上昇が予見でき、中小河川対策で十分な役割を果たすということが可能になってきています。

土砂災害の危険度判定は、土壌雨量指数と積算雨量指数が大きな情報源になります。土砂災害危険箇所は、全国の約52万5,000カ所から推計されており、西日本は土質が非常に脆弱(ぜいじゃく)です。こういう地域をサポートするために、スネークラインという概念があります。詳細は以下の図で確認してください。

タイムライン が含まれている画像自動的に生成された説明

 

線状降水帯の予測への挑戦(抜粋)

NTT西日本と共同開発し、皆さんに提供したいシステムが、「HalexForesight!」です。専門知識がないと読み解くことが難しく、解釈に迷う気象情報を、分かりやすく可視化したシステムで、複数の任意地点の予測データを網羅的に自動監視し、見逃しを防止することが可能です。スネークライン対応を実装すると、アラートをメールで事前にお知らせしてくれます。

また、気象庁は本年度から線状降水帯の予測精度向上への取り組みを強化しています。詳細は下記の図をご覧ください。

タイムライン自動的に生成された説明

内閣府は、防災対応の3原則を以下の通り周知しています。

①疑わしきときは行動せよ
②最悪事態を想定して行動せよ
③空振りは許されるが、見逃しは許されない。

私は、この中の③が特に重要と思っています。予測の精度に誤差がある限りは、空振りは10〜20%あります。空振りを恐れずに対応するというのは、一つの要点になります。水災害は日本のどこでも発生し、住民の生命と安全の脅威になっているという認識をもっていただきたいです。

24時間365日プロの気象予報士サポートがつく「Halex」導入自治体の今!

<講師>

堺市 危機管理室 危機管理課 危機対策係長 
秋田 昌紀 氏

株式会社ハレックス ビジネスソリューション事業部営業部 営業課長 
宮村 和宏 氏、藤田 優 氏

<ファシリテート>

NTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部 
成瀬 友麻 氏

河川氾濫、土砂災害、浸水害の気象リスクを“見える化”し、自治体の防災担当者の判断をトータルにサポートする防災情報システム“Halex”。導入している堺市役所と、サービスを提供するハレックス社、NTTビジネスソリューションズとの3者で、気象情報を一元化するメリットやプロの気象予報士に相談できることで実現できることなど、現場のリアルを語り合う。

 

テスト導入で実感した見やすさ・使いやすさ

成瀬:境市役所では本年度、気象情報や水系を一元的に可視化するハレックス社のサービスを導入いただいております。境市役所の秋田さんに参加いただき、実際に導入前後でどのように変わったかを伺いたいと思います。まず、導入のきっかけを教えてください。

秋田:堺市は風水害が頻発する地域ではありませんが、平成29年、30年の台風で被害が発生しました。災害というのはいつ何が起こるか分からないので、リスクの高まりが予想される場合には気象予報、警報や土砂災害危険度、川の水位などの情報を常時観測を徹底しています。

災害対応では様々なところから情報を収集し、職員間で迅速に共有することが必要となりますが、そのノウハウは経験年数が長い一部の職員に依存してしまう状況もあります。必要な情報は誰でも迅速に、確実に収集でき、監視できる体制の構築が課題として挙がっていました。その点が導入へのきっかけです。

成瀬:自治体は人事異動があるため、業務がどうしても属人化しやすいという課題を各自治体が抱えているようです。私が実際に秋田さんからこの課題を伺ったときに、ハレックスなら改善できるかもしれないと思い、ハレックスの藤田さんと宮村さんに相談し提案させてもらいました。

藤田:このサービスの特徴の一つである、気象予測情報を一元表示できるサービスを提案いたしました。利用スペースの詳細地図を見ることができるのも特徴ですが、それ以外にも河川氾濫や土砂災害予測を6時間先まで表示できるのが大きな特徴です。

成瀬:堺市役所には、いったんトライアルを提案させていただきましたが、トライアルで使ってみていかがでしたか。

秋田:本格導入の前にテスト導入できたのはありがたかったです。昨年度の9~12月にかけて3カ月間のテスト導入をしました。幸い、その間は災害対応に至るようなことはなかったのですが、その間にシステムの見やすさや一覧性の高さはしっかり確認することができました。また、当初実装されていなかった、土砂災害危険度レベル4の判定ができるシステム導入についても、相談させてもらいました。

藤田:相談を受けたとき、秋田さんは非常に使いこなしておられると感じました。相談内容については、気象予報士と一緒に対応しました。実際に使用した感想を聞かせてください。

秋田:最初に提案いただいた際の紙ベースで見ても、情報がひと目で分かるように配置されていて、見やすいのだろうと感じた上でテストしてみました。実際に触ってみると、トップ画面に把握したい情報が集約・表示されています。また、詳細情報を見たい場合、該当箇所をクリックするだけで詳しく見ることができて、非常に分かりやすい操作感でした。ITに強くない職員でも使いやすく、すぐに活用できるものだと思っています。

また、気象予報士のサポートが24時間・365日受けられるのも非常に助かります。行政職員は人事異動等で配属されるので、必ずしも専門的知識を有しているわけではありません。数字だけでは解釈できないような詳しい気象状況等について、気象予報士から細かく説明していただけるのはとても心強いと感じました。

藤田:ありがとうございます。24時間・365日の気象予報士サポートは、我々のオススメポイントでもあります。

宮村:堺市であれば、普段は大阪管区気象台に問い合わせをされていると思います。気象台からの情報提供は、どうしても防災上の観点から、安全側に多く出ることがあります。台風のように、事前にある程度広域で被害が発生することが予想できる現象であれば良いのですが、気象情報は刻々と変わりますので、そういったときにひとつひとつの細かなエリアがどうなるか…といった点をケアする上では少し課題があると思っていました。

弊社のサービスはそういった部分を踏まえ、例えば堺市のエリアであればそこに絞り、気象予報士がアドバイスを提供することを心掛けています。また、ゲリラ豪雨や線状降水帯のような、事前の発生予測がなかなか難しいような現象でも、弊社の気象予報士は常にスタンバイ・監視していますので、すぐにケアできるのも特徴です。

秋田:ハレックスを導入してから、これまで実際に何度も問い合わせをしました。気になるときは1日に2回、3回と問い合わせをしましたが、そのたびに堺市周辺の地形による気象への影響などを踏まえ、素人が聞いても分かりやすいような言葉で丁寧に対応してもらい、非常に助かりました。

宮村:気象情報は刻々と変化します。例えば防災メールを住民に発信すべきか否かを迷う際に、自治体職員では判断が難しいと思います。そういった場面でこそ、弊社の気象予報士にお問い合わせいただいて、最終的に的確な判断につなげていただければと思っています。

 

本導入後の反応と今後の見通しについて

成瀬:堺市さんは本年度から本格導入に至り、実際に市役所の中ではどのような反応や声があったか、聞かせてください。

秋田:テスト導入時から、災害対応職員にシステムを使ってもらっています。やはり情報収集と共有が、誰でも確実に迅速に見落とすことなくできるようになっていると感じています。担当者の手間が減らせるので、業務効率化につながるだけではなく、災害対応力の標準化、あるいは誰でもできるという意味での平準化にもつながっているのではないかなと思っています。

また、人事異動によって災害対応経験が浅い、もしくは経験が全くない職員が担当になった場合でも、これを見ることで少なくとも最低限必要な危険な情報は今何かというのを、確認することができるようになるのではないかと思っているところです。

藤田:このサービスは災害リスクの見逃しがないよう、誰にでも使いやすくなっているのもポイントです。

成瀬:日頃からどれだけ備えをしておくかが、いざという時に役立つことが分かりました。堺市さんは今後、このシステムをどういった形で使っていきたいとか、ここを改善できたらうれしいなどの要望があれば教えてください。

秋田:本市では河川氾濫に関する避難情報の発令にあたって、各河川の観測所における一定の水位を判断基準にしています。そのため、国から指定河川洪水予報が発表される一級河川であれば、発表された洪水予報をもとに予測水位で比較的容易に事前判断することが可能です。一方で、中小河川においては現在のところ、水位予測はなかなか困難で、実況水位をもとに判断しなければいけない状況です。

ハレックスの洪水危険度判定で、流域雨量指数予測が高まってきたら、水位上昇の傾向があることを一定程度まで把握することができます。将来的にはこういった課題に対し、より正確に対応できるシステムの開発向上があればうれしいと思います。

藤田:指定河川の場合は、水位予測でのアラート機能も実装されているのですが、指定河川以外について、現状では民間気象会社では法律によりできません。しかし、気象庁と民間会社による検討会などが開かれており、規制緩和などを今議論しているようです。今後は将来的なニーズに対応できるよう、新たな機能などを取り込んでいく予定です。

成瀬:藤田さん、最後にセールスポイントをお願いします。

藤田:ひと言でまとめると、防災担当者向けの気象情報の集約ツールです。これからも成長していくサービスですので、気象に関することは何でもお声がけいただければと思います。

成瀬:今回のサービスに興味が湧かれましたら、我々NTTビジネスソリューションズまでお問い合わせいただければと思います。私たちはICTの力とネットワークの力で、自治体の皆さまの課題解決のお手伝いをしたいと思っております。


[参加者とのQ&A] ※一部抜粋

Q:河川水位と比べた場合、土砂災害警戒情報による避難情報の発令は“空振り”になる可能性が高いと感じています。気象庁が発表していない情報まで発表しているのでしょうか。ウェザーニューズがやっているようなものをイメージすれば良いでしょうか。

A:(宮村)弊社が提供している情報は、基本的には全て気象庁から発表されている内容を分かりやすくして、自治体職員が理解できる形にして提供しているものです。気象庁が提供している情報量は膨大で、職員の方々が目にしているものは、そのうちのほんの一部です。一般公開されていない情報もたくさんあります。

そういった一般に出ていない情報の中にも、自治体職員が活用できるものがたくさんあるので、当社のソリューションで提供しています。気象庁の情報を分かりやすくお伝えしているものなので、気象庁の発信している情報と乖離があるわけではありません。

ジチタイワークス「災害対策特別号」のご紹介


<講師>
NTTビジネスソリューションズ
バリューデザイン 成瀬 友麻 氏

プロフィール
2011年NTT西日本入社。2020年にNTTビジネスソリューションズに出向。その後防災商材の開発に携わり、現在はHalexの商品企画を担当。


今回のセミナーで取り上げた防災情報支援システムのほかに、ジチタイワークス「災害対策特別号」で掲載したNTTグループが提供する防災・減災ソリューションについて、成瀬さんが紹介する。

こちらは、ジチタイワークスとNTTビジネスソリューションズが共同で作成した「ジチタイワークス災害対策特別号」です。今年3月に全国の自治体へ配布しました。内容としては“自治体のこれからの備えを考える防災DX”をテーマに中身を詰めました。

新聞記事の一部低い精度で自動的に生成された説明

掲載記事の一部を紹介します。熊本県八代市の中村市長のインタビューが掲載されていたり、我々NTT西日本グループが、防災として取り組んでいる全体のソリューションを紹介したりしています。防災のフェーズは、現場の情報を収集するフェーズや住民への情報伝達のフェーズ。また、自治体職員の皆さんの中で情報共有するフェーズから避難所対策まで、多岐にわたります。

このように私たちNTT西日本グループは、全面的なトータルサポートが可能ですので、防災対策で何かお困りのことがありましたら、我々NTTビジネスソリューションズの方まで声をかけていただきたいと思います。なお、ジチタイワークス特別号が手元に届いているかと思いますので、ぜひ改めてお手に取ってご覧ください。

ジチタイワークスWEBでもご覧いただけます

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