那覇空港から車で約90分。沖縄県中部にあるうるま市は、具志川市、石川市、勝連町・与那城町の2市2町が平成17(2005)年4月に合併して発足した都市だ。主な観光地は世界遺産の「勝連城跡」、東側の島々を結ぶ東洋一の「海中道路」、亜熱帯の森林が広がる宿泊・観光施設「ビオスの丘」など、豊かな自然を生かしたスポットが多い。 同市が平成30(2018)年に実施した観光動向分析について、うるま市経済部観光振興課の課長・松岡秀光さんと上間司晃さんに詳しく伺った。
※下記はジチタイワークス内閣官房推進 EBPM特集号(2019年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
以前から感じていた観光戦略の課題
通過型から滞在型へ――。うるま市ではかねてからこの課題に直面していた。しかし、議論で出てくるのは漠然とした数字や感覚ばかりで、戦略や目標値を立てるのが難しい。より具体的な目標を設定するために、県の交付金制度を活用してフリーWi-Fiスポットの設置およびGPSを使った観光動向調査を仕掛けようと考えたのが平成29(2017)年だった。
具体的な方策はコンペ形式で公募。ソフト・ハードの両面からベストな提案が出た沖縄セルラーが受託し、KDDI 、コロプラと事業を進めることになった。 提案内容は、うるま市または沖縄県を訪れた日本人・訪日外国人観光客に対して、GPS(位置情報)、SNS、アンケートの調査を実施し、分析するというもの。これらの結果をもとに、観光の課題やニーズを明らかにすることが目的だ。 調査にあたり、重視したかったのは「年間を通した数字の動き」と松岡さん。観光客の動向に季節的な特徴がないかどうかも検討できるよう要望を伝え、平成29年から平成30年の約1年間のデータを分析にかけた。
沖縄県うるま市経済部観光振興課の上間司晃さん(左)と同課課長・松岡秀光さん(右)
観光課の思惑にない驚きの調査結果も
さまざまな調査結果をかけ合わせたところ、意外な事実が判明した。日本人を対象にしたGPSの調査では、うるま市への来訪者のほとんどが沖縄県民であり、その多くが日帰りだったとわかった。また、市が推したいスポットと観光客の動きに大きな相違があることも判明。感覚任せの政策立案だとこうした現実は見えないままだったに違いない。
地理的な課題も浮き彫りになった。沖縄では、那覇市のある県南と中部を結ぶ高速道路が県の中央を縦走するが、訪日外国人を対象にしたレンタカーのGPSを使った調査では北谷や読谷などの人気エリアに比べて、うるま市がある東側への観光客の流入は多くはなかった。なかでも、うるま市内でも西側にある観光施設「ビオスの丘」には西側から観光客が流れていたが、それより東側には足が伸びていなかった。
こうした結果から、うるま市の課題が見えてきた。西側での観光PRを強化する必要があること。東側へ流入するルートをつくり、市内での1日過ごせる観光コースを設けて「滞在型」のまちづくりをすること。そのためには、宿泊施設の増設と整備が不可欠だとわかった。そうは言っても、市単独の力では限界がある。中部全体の連携が重要で、最終的には県全体の循環型観光モデルを構築することが、各市町村への観光客誘致を後押しになると結論づけた。
県西側から多くの観光客が訪れるレジャー施設「ビオスの丘」
データをいかに使うか求められるのは意識変革
調査後すぐに、うるま市の観光パンフレットを持って「ビオスの丘」に追加で設置。また、市内西側にあるホテルへも観光パンフレットを設置できるよう調整している。うるま市内では、ここ数年でホテルは増加したが、今後もベッド数1900~2000を目標にリゾート・ビジネス誘致に注力する考えだ。特にスポーツをキーワードに掲げ、プロ野球やJリーグなどのキャンプ・合宿誘致にさらに力を入れ、次なる入客を期待する。
今後もWi-Fiのアクセスポイントを経由して必要に応じてデータを集めていく。対面やWebでのアンケート調査も継続する計画だ。また、民間企業との意見交換会や勉強会開催もはたらきかけるなど、地元企業との連携にも積極的だ。「データ取得という当初の目的は十二分に達成できた。強い分析力を持つ頼れるパートナーに出会えました」と松岡さん。数字で現状を把握することで費用対効果にもつながると、力強く語った。
調査結果と向き合うことで、自治体職員は自らの観光資源の価値を再認識できる。データを生産的に活用するためには「私たちが検証とアレンジを重ね、必要に応じて既存の型を崩し、ブラッシュアップを続ける必要がある」(松岡さん)。ビックデータは、観光やまちづくりを俯瞰するグランドデザイン構築のために欠かせない貴重な第一歩だ。
Case Study
<BEFORE 課題と目的>
市東側へのアクセスが少なかった
南北を走る高速道路の西側に人気の観光エリアが多い沖縄県。県中部・東側にあるうるま市では、観光客増のための具体的な戦略立案が求められていた。そのためには観光に役立ち、かつGPS情報も取得できるフリーWi-Fiスポットの設置が必要不可欠だと考えていた。
<ANALYSIS 調査内容と結果>
【主な調査結果】
■GPS
・来訪者数は季節により変化があり、3~5月が最も多く、12~2月が最も少なかった。
・来訪者の多くがうるま市外に居住する沖縄県民(約9割)で、日帰り(約8割)。
■レンタカー
・訪日外国人におけるうるま市への年間来訪車台数は2万4080台(推計)。使用言語は中国語繁体字ユーザーが最も多く71.6%を占める。
■SNS
・島や「海中道路」は景色や海の綺麗さが評価されている。
・受入環境上の一番大きな課題はアクセス。
■アンケート
・非来訪理由として「何があるかわからない」が約70%。市名は知っていても(認知度は8割強)、観光資源が認知されていない。
<AFTER アクション>
「ビオスの丘」のパンフレット設置数を増加
調査結果に基づき、すぐに取り組めることとして東側への流入拠点となりそうな観光施設「ビオスの丘」にコンタクト。観光パンフレットを追加で持ち込み、「勝連城跡」や「うるマルシェ」、「海中道路」などの周遊コースPRを強化した。点ではなく線としての戦略的視点を獲得。
データ分析の人材育成を官民連携で勉強会を開催
沖縄セルラー、KDDI 、コロプラと連携して勉強会を実施。観光振興課をメインに、うるま市の職員が自らデータを分析して戦略を立案するために必要な知識の修得を目指す。第二回は夏ごろに実施予定。今後も不定期で開催していく見込みだ。