高齢化が進む前橋市では、“移動困難者への対応”に力を入れている。移動手段に自家用車を使う割合が高い同市では、免許返納を考える高齢者から返納後の生活を心配する声も聞こえているという。そこで同市は、マイナンバーカードを活用した交通系サービスを展開。過度な車社会からの脱却を目指す取り組みについて話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.20(2022年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
マイナンバーカードが回数券になり、移動困難者を支援するマイタク事業。
「群馬県の1人当たり自動車保有台数は全国で第1位。前橋市単独で調べても、第2位の栃木県※を上まわっています。交通手段に自動車を選ぶ割合も75%と全国の地方都市圏の平均を大きく上まわるほど、自動車に依存しているのが現状です。高齢化が進む当市では、自動車を利用できない高齢者などの外出が困難になっているのが課題です」と鈴木さんは話す。
そこで同市では、平成28年から高齢者など移動困難者を対象に、タクシー運賃の一部を補助する市独自の制度である「マイタク」を導入した。乗車時に市が発行した利用登録証を提示、降車時には利用券を渡して補助額を引いた運賃を支払う。この制度は好評を得て利用者が増える一方で、課題もあった。紙の利用券とデータの照合や入力など事務作業が現場の負担になっていたのだ。
そこで同市はマイナンバーカードをマイタクへ活用することを検討。タクシー利用時にマイタク登録済のカードをタブレットにかざし割引を適用するという仕組みで、現場の負担を大幅に改善。カードの普及促進や市のデジタル推進にも役立った。
※「前橋市地域公共交通網形成計画(平成30年)」にもとづく
前橋版MaaS実証実験を通じてカード活用の可能性を探る。
また同市では、さらなる交通課題の解決を目指して実証実験「MaeMaaS(マエマース)」に取り組んでいる。これは内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省が連携した「スマートシティ関連事業」の1つとして、地域の課題解決に取り組むMaaSのモデル構築を図るもの。同市のMaeMaaSは令和元年に先行モデル事業に選ばれて以来、継続して「日本版MaaS推進・支援事業」に選ばれている。
「交通系ICカードとマイナンバーカードをひもづけることで、バスやデマンド交通が市民向け運賃で利用できるようになります。個人情報の管理について心配する声もありますが、交通系ICカードはID番号だけ、マイナンバーカードは市区町村までの住所と誕生年月だけをひもづけたデータを、クラウド型ID認証システムに保存するので、個人が特定されることはありません。市民はマイナンバーカードを持ち歩くことなく、特典が受けられるのです」と入澤さんは話す。「この仕組みはマイナンバーカードの利活用として考えたのではなく、優遇条件の確認手段としてカードの利用が最適だったので導入しました。結果としてカードの普及促進に役立てれば一石二鳥になりますね」。
地域の公共交通を活性化し移動に困らないまちを目指す。
同市ではマイタクやMaeMaaS以外にも、マイナンバーカードとひもづけた地域公共交通を活性化するための実証実験を行っている。令和2年度には、自動運転バスの実証実験を実施。乗車時の顔認証技術にマイナンバーカードの顔写真との照合を試みた。令和3年7月には「まえばしシェアサイクルcogbe(コグベ)」が本格運用を開始。これは市内35カ所のポートにある自転車を自由に利用できるもので、スマートフォンアプリから利用登録をし、利用料はクレジット決済で行う。ここでも市民向け運賃を用意し、その認証にマイナンバーカードを使用している。
「市民の協力を得て行う実証実験ですが、高齢者も積極的に参加してくださるのが頼もしいです。そのためにマイナンバーカードを申請する人も増えました」と鈴木さん。「誰もが暮らしやすいまちづくりを考える中で、マイナンバーカードが活用できる場面は多いと思います。実証実験で終わったとしても、取り組んだことでノウハウが蓄積されたり、新たな課題が見つかったりもします。それらを自動車に頼らなくても暮らせるまちづくりに役立てていきたいです」。
前橋市 未来創造部 交通政策課
地域交通推進室
左:主任 鈴木 哲平(すずき てっぺい)さん
右:主事 入澤 大樹(いりさわ だいき)さん
実証実験を進めるにも予算が必要です。国の補助金などは常にチェックをしています。該当する補助金がいつ出ても対応できるように、日頃からの準備を心がけています。
課題解決のヒントとアイデア
1.住民の便利を追求することが結果としてカードの利活用につながる
カードの利活用を目的にするのではなく、基本に立ち戻り、住民生活を便利にするために何ができるかを考える。そこでマイナンバーカードがどのように役立つか、という順番で考えることが大切。
2.改善や修正はあって当たり前と考えて小規模でも試してみる
様々な実践を重ねて試行錯誤することで成功に近づいていく。初めからプランをキッチリと決め込むのではなく、改善や修正を加える前提で、まずは小さくでもいいから試してみることから始める。
3.補助金の情報は早めにキャッチし、対応できるよう準備をしておく
予算確保のためには、国の方針など情報収集を怠らず早めに動き、公募にはタイムリーに参加表明をしていく。補助金などが得られる機会を活用するには、常日頃からの準備も必要。