ジチタイワークス

【自治体DX著者・宮里隆司さん】DXを怖がらず、まずは知ることから。

デジタル庁も創設され、自治体DXが推進される今。DXとは、と改めて問われると困惑する担当者もいるのではないだろうか。「DXには種類がある」と話すのは、DX戦略コンサルタントの宮里さん。自治体がDXに取り組む際に押さえたいポイントとは何か。

※下記はジチタイワークスVol.20(2022年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

Profile
九州大学卒。1980年、日揮入社。2002年、ユーキャン入社。2012年、脳機能分野のIT開発スタートアップを起業。2016年、日通総合研究所(現・NX総合研究所)入社。人材開発部門、テクノロジー部門を経て2019年、AI/DX戦略を担当。

Books
「改革・改善のための戦略デザイン自治体DX 業界標準の指南書」
(秀和システム)
自治体職員や自治体と関わる企業担当者に向けて、DXに取り組む際に不可欠な視点を指南。先行事例を挙げながら具体的な進め方についても解説する。

 

DXを怖がらず正しく理解すれば、自信をもって改革に取り組める。

Q.自治体のDX推進は加速していると思いますか

残念ながら民間企業に比べて自治体のDXは、遅れていると言わざるを得ません。自治体DXではAIやRPAがよく活用されます。しかし、AI導入済みの自治体は都道府県が68%、政令指定都市が50%、その他区市町村は8%、RPAだとそれぞれ49%、45%、9%という数字※で、小規模な自治体はこれからというところでしょう。

しかし、社会のデジタル化はますます加速し待ったなしの状況です。ひと昔前にパソコンやスマートフォンが普及して社会がガラリと変わったように、大きく社会が変化しようとしている今、自治体のデジタル化は早急に求められる課題です。

※2020年12月 総務省「AI・RPAの利用促進について」にもとづく
 

Q.現場では、何から着手すべきか迷う担当者も多いのでは?

そうですね。これにはDXの定義そのものが、曖昧なことにも原因があるのではないでしょうか。一般的にDXとは“デジタル技術を使った取り組み” を広く含むと理解されています。しかしDXは「戦略的DX」と「カイゼンDX」の2種類に分けられると私は考えています。戦略的DXとは、“常識を覆す変革”を起こすものです。例えるなら「Uber(ウーバー)」や「Airbnb(エアビーアンドビー)」など新しい事業スタイルをつくった事例が挙げられます。そのような大胆な行動ではなく、従来の活動を維持したままで、デジタル化により効率を高めることにフォーカスする行動を、私はカイゼンDXと名づけています。

日本では業務の効率化を追求する“改善活動”は馴染みのあるものです。多くの人が無意識に“デジタルを利用した改善活動”を、DXと理解しているのではないでしょうか。まずはDXには2種類あること、今必要なのがどちらのDXなのかを考えると、ふさわしい取り組みを選択できるようになります。


 

Q.「戦略的DX」と「カイゼンDX」。どちらに取り組むべき?

自治体は、カイゼンDXから始めるべきですね。こちらは、これまでの改善活動と同じプロセスで、ツールにデジタル技術を導入し業務の効率化を図るものなので、自治体には取り組みやすいDXです。例えば、役所へ出向いていた各種の申請手続きがオンラインでできるようになった、議事録作成支援システムを導入し時間削減に取り組んだ、これらはカイゼンDXの典型的な事例といえるのではないでしょうか。システム全てを入れ替えるような大規模なプロジェクトにいきなり着手するのではなく、身近で比較的簡単に取り組める課題について、スモールスタートで挑戦していくことから始めたいですね。
 

Q.カイゼンDXを推進する上で、ポイントになることを教えてください。

これからは利用者中心のサービスが求められています。当然カイゼンDXも、提供者側の視点ではなく、利用者側の視点で課題を見つけて取り組まなければなりません。ここで知ってほしいのは、“利用者には2種類ある“ことです。1つは住民、そしてもう1つは自治体職員。職員の皆さんも利用者なのです。“利用者は何に困っているのか”“どんなサービスが求められているのか”という視点で考えた改善は、利用者の利便性を向上させ満足をもたらします。それは結果として、自治体の業務改善にもつながっていきます。このように利用者の立場でニーズを知るところから始める“デザイン思考”が、カイゼンDXを推進する大切な考え方です。
 

Q.“デザイン思考”とはどのようなものでしょうか

デザイン思考とは、デザイナーの世界でのプロセスや技術をサービスの設計にも応用し、利用者にとって使いやすく便利なサービスを実現することです。デザイナーは単に見た目の美しさだけを考えるのではありません。使う人が何に困っているのかを考え、その問題をデザイナー特有の手法で解決しているのです。窓口の手続きの煩雑さを改善した北見市の取り組みは、まさにデザイン思考ではないでしょうか。住民が便利になり、業務負担も軽減されただけではなく、縦割りで融通が利かないという役所のイメージまでも変えた良い事例です。いきなりシステムを導入したのではなく、小さく改善したプロトタイプをつくり、利用者の意見をフィードバックし改善するという試行錯誤を繰り返した上での成功だといえます。


 

Q.利用者をよく知ることが成功の決め手なのですね。

はい。そのためにはコミュニケーションが大切です。住民の声を聞くこともですが、重視したいのは職員間のコミュニケーションです。DXには推進する立場の人と、変わるべき現場の人がいます。現場のニーズをくみ取り、カイゼンDXの目的を現場の人と共有し巻き込んでいくことが、円滑な推進への近道です。そして、全庁で組むための体制づくりも欠かせません。部署ごとに部分的に推進するのではなく、課を超えて交流し、推進意欲のある人を各課に増やしていく。結果として彼らは、縦割り組織の自治体に横串を刺すような人材になっていきます。そのためには部や課のトップが協力し、彼らの活動しやすい環境を整えることも重要です。
 

Q.最後に、自治体職員へアドバイスをお願いします。

行政サービスの向上と業務の効率化はセットです。DXを“自分事”として捉えて、取り組んでいただきたいと思います。DXについて学びたいがデジタルへの苦手意識があるという場合は、まず身近なデジタル技術について“知る”ことから始めてください。例えば魚を釣ろうとするなら、魚の生態や道具、釣り方を知らなければ、ねらった魚は釣れません。同じようにDXもまずは正しく知ることが大切です。本を読んで、広く浅く知識を身につける。それを繰り返すうちに玉石混交の情報から、正しい情報を見抜く力も養われます。そして正しい情報が集まると、中長期的な視野をもつことができるようになります。“DXの推進は人口が減少する未来に向けて今できること”と確信できるようになれば、取り組みにも力が入り、結果として多くの人を巻き込むことができ、成功へとつながっていくでしょう。

宮里さんから学ぶ!自治体がDXを進める上でのポイント

1.相手への理解を深めるためにもコミュニケーションが大切

行政サービスの向上と業務の効率化はセット。現場のニーズをくみ取り目的を共有し、関係する人を巻き込めば推進は加速する。
 

2.DXの取り組みは全庁を挙げての推進が欠かせない

縦割り組織ではDX推進はままならない。組織を横断して動ける人材の活躍こそが、成功のポイント。活躍できる環境づくりには管理職の理解と支援が重要。
 

3.行政サービスにも“デザイン思考”を取り入れる

住民や職員が困っていることを知り、それを解決する方法を考える。すぐに始められることを試し、改善を繰り返す。

 

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