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鹿児島県肝付町

公開日:2021-06-30

ICTで畜産農家の情報を共有し生産性と所得の向上を図る。

農林水産
読了まで:4分
ICTで畜産農家の情報を共有し生産性と所得の向上を図る。

少子高齢化により、全国的に畜産業の従事者が減少している。和牛の生産出荷量で全国トップ(令和元年度)の鹿児島県も例外ではない。肝付町では、同町の基幹産業である畜産業を守るため、「スマート畜産」に取り組んでいる。プロジェクトを主導する肝付町と、協働する鹿児島県の担当者に話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

若手の肉用牛生産者20名を対象に牛群管理システムとセンサーを導入。

大隅半島中部にある肝付町は、町の農業産出額の約7割を畜産業が占める。しかし、2040年には人口が半減し、そのうち約半数が65歳以上の高齢者になると予測され、畜産の生産基盤の強化が課題となっている。

そこで同町の主導により、県とJA鹿児島きもつきなどが、令和元年度からIoTセンサーとクラウドによる牛群管理システムを導入。仕事の効率化を図り、若手就農者のサポートにもつなげるねらいのもと、実証実験を行っている。

参加しているのは肉用牛の繁殖を行う45歳以下の若手20名。繁殖農家は、雌牛に子牛を産ませて販売する生産者で、今回2つの取り組みをしている。1つは、牛の首にIoTセンサーを装着し、クラウド牛群管理システムにアップロードした牛の行動データを人工知能が分析することで、発情の兆候や疾病といった個体情報が生産者のスマートフォンなどに通知されるというもの。60個のセンサーを3戸で半年間利用する形で、令和元年度後半からこれまで計9戸が利用した。

クラウド活用で牛の状況をみんなで共有。管理・指導に活かし、生産率を上げる。

もう1つは、センサーを付けていない牛も含めて、プロジェクト参加の全生産者が各牛の個体情報(授精日・発情予定日・分娩予定日・疾病履歴など)をシステムに入力して、これまでノートや黒板で管理していた情報を、スマートフォンなどでいつでも見られるようにするというもの。さらにクラウドの活用によって、それらの情報を町の畜産課と県、JA鹿児島きもつきの職員にも共有し、みんなで管理と指導ができるようにしたという。

「雌牛が子牛を出産する間隔を短くすることが、生産者の所得向上につながります。そのためには約21日周期でくる発情の兆候を見逃さず、うまく種付けをすることが大切です。これまで牛の発情を確認するには、牛ごとの発情予定日を把握し、目視で確認するのが負担になっていました。しかし今回の取り組みによって、全ての情報をクラウドで管理でき、目視に加えてアラートの通知や町・県・JAの指導もあるため、発情を見逃すことがほぼなくなりました」と同町の柳谷さんは話す。

成果は数値にもあらわれている。分娩後に受胎するまでの日数が、平成30年度の128日から、令和元年度にセンサーを付けた牛は平均90日と大幅に短縮された。また、生産者が牛舎にいない夜間(21~5時)の発情通知が全体の57%にのぼり、生産者は「夜間にそんなに多いなんて初めて知った」と驚いていたという。

生産者の経営安定化とまちの未来を守るために。

新型コロナウイルス感染症が拡大し、生産者の集合研修や意見交換ができなくなった。また、若手でもアナログによる管理を好む人もいて、全員に浸透させることはなかなか難しい。しかし、確実に手応えがあり、令和3年度までの実証実験が終わっても継続を検討中だ。県の上村さんは「新規就農者は、繁殖成績が向上することで、子牛販売頭数が増加し経営が安定します。情報を共有してもらうことで早期に指導して改善を図れるため、非常にいい取り組みだと感じています」と話す。

「少子高齢化が進む中、DX化は必要不可欠です。より良いまちづくり、畜産業の未来のために、これからも関係者で一丸となって取り組んでいきます」と久保さん。日本初のスマート畜産はさらに発展していきそうだ。

牛の首にIoTセンサーを装着する様子。

課題解決のヒントとアイデア

1.町・県・JAで情報を共有して生産者と牛の状況をフォロー

従来は牧場内の黒板やノートなどアナログで情報を確認していたが、システム導入によって生産者と町・県・JAの3者がリアルタイムで情報共有できるように。相談もしやすく、「この牛はまだ種がついていない」「獣医に診てもらった方がいい」など細かい生産技術指導が可能になることで、繁殖成績が上がった。

2.スマート機器を配るだけでなく使い方を教え便利さを体感してもらう

若手であっても、システムを使うのが得意という人もいれば苦手な人もいた。新型コロナウイルス感染症拡大前は、全体研修を行っており、不慣れな人には個別で対応。実際に使った生産者からは「常に牧場内にいられるわけではないため、手元で牧場管理ができるのは大変便利」といったプラスの感想が多いという。

肉用牛をIoTセンサーで監視。発情兆候を見逃さない

牛の個体情報を一元管理。技術指導に活用

 

肝付町 畜産課
左:課長 久保 健一(くぼ けんいち)さん
中央:参事 柳谷 拓也(やなぎたに たくや)さん
鹿児島県 大隅地域振興局
右:農林水産部 農政普及課
技術主査 上村 信治(うえむら しんじ)さん

「基幹産業である畜産業が衰退すると、田畑が荒れたり耕作放棄地が増えたりして、まちが被るダメージが大きくなります。実証実験後もぜひICTを活用してほしいです。」

カテゴリ

畜産業
情報システム
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