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行革甲子園2026!大会レポート【前編】

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行革甲子園2026!大会レポート【前編】

全国の自治体が行政改革のアイデアやノウハウを持ち寄り、プレゼンテーションで発表し合う愛媛県主催の「行革甲子園」。平成24年の第1回から回を重ね、8回目となる今大会には31都道府県・79自治体から89事例のエントリーがあった。本会場のステージに立ったのは、1次審査を通過した6団体だ。

前編では開会の模様と、6団体のうち前半に登壇した“福井県福井市”“長野県塩尻市”“愛媛県宇和島市”のプレゼンテーションをレポートする。
※記事の掲載情報は公開日時点のものです。

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令和8年8月28日、愛媛県・松山市民会館。行革甲子園2026がスタートした。会場には全国の自治体関係者らが集まり、その模様はYouTubeライブでも配信された。

開会にあたり登壇した愛媛県知事 中村 時広(なかむら ときひろ)さんは「行革というと『削る、切る、やめる』といった作業が思い浮かび、担当者の表情も硬くなりがちだった」と松山市長時代の経験に触れながら、“行政改革は本来、未来への扉を開く前向きな作業”という思いで行革甲子園を公約に掲げた経緯を語った。県内20市町への呼びかけから始まった大会も、今では全国から応募が寄せられるまでに成長。“この視点ならうちでもできる、という新たな発見と気づきの場になっている”という。

続いて、前回グランプリ受賞の京都府福知山市から表彰旗が返還された。同市からは「グランプリ受賞をきっかけに事業者やメディアからの関心が高まり、現在までに10校の廃校などで民間活力を活かした取り組みが進んでいる」と、受賞後の広がりが報告された。

今回の審査員は、一般財団法人地域活性化センター 特別顧問 椎川 忍さん、東洋大学 教授 沼尾 波子さん、愛媛大学 教授 太田 響子さん、日本大学大学院 教授 神井 弘之さん、有限責任監査法人トーマツ パートナー 小室 将雄さん、中村愛媛県知事の6名。
今大会は愛媛県内の市町長が多数来場しており、興味のある事例や共感する事例に札を上げ“判定”するのも見どころ。会場・オンライン参加者による投票の結果もグランプリの選定に反映される。

福井県福井市|「強制しない」が成果を生む、ナッジを活用した行政改革

発表者:福井県福井市
    商工労政課 梅田(うめだ)さん
    福祉総合相談室 山中(やまなか)さん

「私たちは、職員が政策を考える視点を変えました」。梅田さんは冒頭、そう切り出した。ナッジ理論を公共政策に取り入れたという話にとどまらず、ナッジをきっかけに職員が業務改善や行政改革を考える視点そのものを変えた、というのが福井市の取り組みの核心だ。

行政職員は“失敗してはいけない”という心理から、詳細な情報を詰め込み、正確に伝えることに注意を払いすぎてしまう。その結果、文字が多く読みにくい通知文となり、行動を住民に委ねる“住民頼み”のアプローチに陥りがちだという。「行政からのお知らせを必ず開封し、難解な用語も理解し行動する。まるで“スーパー住民”のような、行政にとって理想的な住民を前提にしていないでしょうか」と梅田さんは問いかける。

そこで同市が着目したのがナッジ理論。強制せず、人の行動や心理の特性を踏まえて望ましい選択を後押しする考え方である。同市では、仕事や家事、育児に追われる忙しい住民を想定し、封筒に申告期限を明記して申告忘れを防ぐ“タイムプレッシャー”のナッジを仕掛けた。封筒に期限を記すだけでコストはほぼかからないが、効果検証の結果、申告率は期限印字なしのときより13.2ポイント向上したという。

このナッジの可能性に惹かれた若手職員の有志が令和5年4月に結成したのが、職員チーム「福井市ナッジ・ユニット」だ。庁内公募でメンバーを集め、活動は4年目に入っている。

ユニットの活動は以下の5つ。
(1)通知改善:大腸がん検診のお知らせに“3ステップで簡単に申し込める”というナッジを取り入れ、受診率を従来版から3.4ポイント向上させるなど、活用事例を3年間で合計36件創出。
(2)ツール開発:全7ステップでナッジを検討できるツールキットを開発、WEBサイトで無償公開。
(3)意識改革:首長の応援メッセージや導入実績の可視化で職員の心理的抵抗感を払拭し、庁内報「ナッジ通信」を30号以上発信。
(4)EBPM:専門家と連携し、データに基づく施策立案・実施を推進。
(5)全国展開:研修への登壇は30回、延べ受講者数は2,000人以上にのぼる。

こうした活動は環境省や大阪大学からも評価を受けた。

梅田さんは3年間の活動が生み出した価値を“ナッジが生み出す好循環”と表現する。事例創出から効果検証、可視化、発信、対外的評価の向上が職員の成功体験となり、意識変容がさらに新たな事例創出につながる循環だ。それを支えたのが、若手職員の提案を予算化する「チャレンジみらい予算」、業務時間の20%以内で担当外業務に取り組める「福井市版20%ルール」という同市独自の2つの制度。取り組みは個人の熱意に依存するものから、組織全体で支える仕組みへと変化したという。

行革甲子園ホームページより
行革甲子園ホームページより

最後に梅田さんは審査のポイントになぞらえて、人を想い、科学的に考え、衆を促すことこそナッジ・ユニットの「創・効・種」であるとまとめた。県内市町長の判定では数多くの札が上がり、幸先のよいスタートとなった。

長野県塩尻市|「教育委員会が学校へ引っ越し⁉」現場の心に火をつける学校の働き方改革

発表者:長野県塩尻市
    教育委員会 学校教育課 岩垂(いわだれ)さん
    百瀬(ももせ)さん

全国的に深刻化する教員の長時間労働は塩尻市も例外ではない。同市の実施計画による時間外在校等時間の目標は、月平均30時間。しかし令和6年度の時間外は小学校で38.8時間、中学校で43.9時間。働き方改革は待ったなしの状態だった。

だが、制度をつくる教育委員会と、日々子どもたちと向き合う学校現場との間には温度差があったそうだ。「教育委員会にいる私には、現場のイメージが湧かなかった」と岩垂さんは振り返る。“働き方改革を通して教育委員会と学校をつなぐ架け橋になりたい”と考えた岩垂さんは、1カ月小学校に“引っ越し”。職員室で教育委員会の仕事をしつつ、授業準備などを手伝い先生たちの日常に飛び込んだ。

単なる数時間の視察ではない。朝のあいさつから放課後の下校指導まで現場を共にする中で“いつ休んでいるのか”“授業の準備時間はいつ取れているのか”という数々の疑問が浮かび、改革の必要性を強く感じたという。同時に、共に同じ景色を見たことで先生方との間にあったハードルが下がり、本当の意味での対話が始まったとのこと。ここが取り組み最大のポイントだ。

信頼関係を土台に岩垂さんが仕掛けたのが、業務の見直しをテーマにしたワークショップだ。従来の働き方改革は、トップダウンになりがちで、“やらされ感”や“これは変えられないだろう”という思いが生まれているように感じたそう。現場と信頼関係を築いた教育委員会の職員が主導することで心理的安全性が生まれ、“やってみよう”の精神に火がついたという。

ワークショップは、(1)業務内容を可視化する(2)改善に向けてアイデアを出し合う(3)新たな手段や方法を実践してみる、の3ステップ。リラックスした雰囲気をつくり、役職に関係なく、教職員が一緒に考える場を大切にしている。

効果は数字にもあらわれた。ワークショップを実施した年と、していない年を比較すると、時間外勤務は20%、月あたり7時間の削減につながった。最大の要因は“何かやらないと”という教員の意識変化だったという。岩垂さんは「その学校の現状を把握し、その学校に合ったやり方で“自分ごと”として取り組む改革でないと、効果は持続しない」と、熟議による納得感の重要性を強調した。

アイデアの中には新たな予算が必要なものもある。同市では“まずはやってみるための予算”をできるだけ確保、水泳授業の民間委託やAI採点の導入などを教育委員会が全面的にバックアップしている。現場の熱を冷まさないスピード感と予算措置が最大の強みである。

忘れてはならないのは、時間外勤務の削減はあくまで手段であり、目的ではないということ。本当の目的は、削減した時間を子どもたちと向き合う時間に再投資し、教員のウェルビーイングを取り戻すことにある。

行革甲子園ホームページより
  行革甲子園ホームページより  

「来週からまた教育委員会を飛び出し、次は中学校に1カ月引っ越します」と岩垂さん。質疑応答で中村知事から仕組みを問われると、「制度化されているわけではなく、教育委員会の仕事をしつつ、現場に出る機会の比重を高めている」と回答。会場からは、現場に入り込んで対話する姿勢に共感の声が寄せられた。

愛媛県宇和島市|地域の持続可能性の確保に向けた郵便局の利活用推進事業(郵便局におけるオンライン診療・服薬指導事業)

発表者:愛媛県宇和島市
    保険健康課 松浦(まつうら)さん

宇和島市はこの10年で約17%というスピードで人口減少が進み、単身高齢者世帯が急増。医療・介護だけでなく日常生活全体を支える必要があり、もはや行政単体では限界があるという。同市では普段から、医療従事者や福祉関係者、警察・消防・行政、地域住民までが顔の見える関係を築き、総力戦の体制をつくってきた。このネットワークをさらに強固にするため、令和2年8月に日本郵便株式会社と包括連携協定を締結。

背景にあるのは、移動困難者の増加という深刻な問題だ。高齢化に伴う運転免許返納や路線バスの減便、離島・中山間部の通院負担により、医療機関に通いたくても通えない住民が増えている。そこで着目したのが、市内に点在する郵便局の活用。市民の身近な場所でオンライン診療を受けられるようにする。なじみのある郵便局員との顔の見える関係が安心感を生み、金融や郵便など他の手続きも一度に済ませられるメリットがある。

流れはこうだ。市民は事前に医療機関で予約をした上で郵便局へ向かう。局員が機器の操作をサポートし、画面越しに医師が診察。診察後、薬局のオンライン服薬指導を受け、処方薬は配達によって後日、自宅へ届けられる。

実証の結果、利用者からは「長時間の移動や待ち時間から解放されて体力的にも助かった」という喜びの声が寄せられ、アンケートの満足度は89.6%という高い評価を得た。医療機関側のメリットも大きい。医師が半島部へ往診する場合、移動だけで1時間半程度を要していたが、オンライン化でこの時間を大幅に削減。空いた時間を外来などに充てることが可能となる。限られた医師のリソースでより多くの患者に対応でき、地域医療全体のキャパシティ向上につながる。紹介されたインタビュー動画では、郵便局員の「これからの郵便局は、手紙や荷物の窓口ではなく、地域の命と暮らしを守る場所として進化していける」という言葉が印象的だった。

一方で、本格実装に向けて、一部地域における通信環境の安定化、薬の輸送料などに関する受益者負担のあり方という課題が見えてきた。郵便局へ行くことができない人への対応については令和4年度より実施している「見守り+オンライン診療事業」と組み合わせ、市民の状態に応じた柔軟なサービス展開を検討していくそうだ。

さらに、この事業はオンライン診療にとどまらない可能性を示した。実際に、郵便局でオンライン診療を受けると同時に、マイナンバーカードの更新を完了したケースがあった。診療所と市役所を移動しなければならなかった手続きが1カ所で完結する。郵便局が、様々な行政・生活サービスを提供する多機能な“コミュニティ・ハブ”となる未来が見えてきたという。

「本事業の仕組み自体は非常にシンプルで、物理的にはどの自治体でも実施可能。しかし本当に重要なのは、参画するプレイヤーがお互いに“のりしろ”を出し合う姿勢です」と松浦さん。顔の見える関係を築き、自分たちに何ができるかを考え抜く文化が根付いていることこそ、事業を成功に導いたカギであり、誇れる強みだと語った。

行革甲子園ホームページより
  行革甲子園ホームページより  

質疑応答では、郵便局側への資金負担について質問があり、「委託契約を結び、場所提供に対する費用とサポート費を委託料として支払っている。それほど大きな負担ではなく、ほかの自治体でも実施できるのでは」と回答。将来的には、移動できない人をサポートする医療MaaSの導入も検討しているという。県内市町長の判定ではほぼ全ての札が上がり、共感のコメントも相次いだ。

後編へ続く

【問い合わせ先】
愛媛県 総務部 行財政推進局 市町振興課
担当:連携推進係 森本、長谷部
TEL:089-912-2216(直通)
FAX:089-912-2209
Email:g-koushien@pref.ehime.lg.jp