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【セミナーレポート】自治体の情報政策の今がわかる3日間!2026~ジチタイワークス・スペシャルセミナー~【DAY3】

生成AIの業務利活用や職員の「働き方改革」、2030年を見据えたネットワークのあり方や地方自治体法改正による新たなセキュリティ対策——。こうした課題に対応するため、省庁の方針と先進自治体の実践を一度に確認できる場として、スペシャルセミナーを3日にかけて開催しました。
デジタル庁・総務省による最新施策の解説に加え、先進自治体による具体的な取組事例や、有識者を交え率直に意見を交わすトークセッションを通じて、自治体情報政策の“今”を捉え、今後の方向性を考えるヒントをお届けします。
概要
■テーマ:自治体の情報政策の今がわかる3日間!2026~ジチタイワークス・スペシャルセミナー~
■実施日:令和8年7月17日(金)
■参加費:無料
■申込者数:176人
自治体DX時代のセキュリティ対策-高性能AIの登場で変わる自治体のサイバー防御-
最初に登壇したのは、総務省自治行政局の米井雄一郎さんです。
AIの高度化によりサイバー攻撃の速度や規模の増大が懸念される中、自治体に求められる備えについて、経営層のリーダーシップ、足元の対策の徹底、業務でのAI活用時のルール整備といった観点からお話しいただきました。

【講師】
米井 雄一郎 さん
総務省 自治行政局
住民制度課 サイバーセキュリティ対策室 サイバーセキュリティ専門官
AI時代だからこそ「基本」が重要になる
フロンティアAIモデルにより、サイバー攻撃者の能力が高まることが懸念されています。これまで手間とコストのかかっていた攻撃の下準備も、AIを悪用することで、短時間かつ大規模に進められます。
この流れを受けて、政府では、AIの性能が向上しても我が国のサイバーセキュリティを確保できるよう、政府全体としての対策パッケージを取りまとめました。重要インフラ事業者等や政府機関等への対応と、脆弱性の発見・修正等に関する取組という二つの柱で、官民や国内外の関係者と連携しながら、社会全体の防御力を底上げしていく内容です。

地方公共団体についても、その業務やシステムの特性を踏まえた対応が必要です。
例えば、攻撃者がAIの力を借りて、インターネット上に公開されている機器を効率的に調べたり、脆弱性情報を分析したり、不正なプログラムの作成を支援させたり、自治体や職員の業務に合わせた巧妙なフィッシングメールを作成したりすることも考えられます。
弱点が見つかってから実際に突かれるまでの猶予が短くなり、住民情報の流出や書き換え、窓口業務の停止といった被害が、従来よりも早く、短期間で発生するおそれがあります。
NICTER観測値
情報通信研究機構、NICTの観測でも、2025年にNICTERのダークネット観測網で観測されたサイバー攻撃関連通信が、1IPアドレス当たり年間約250万パケットに上りました。
これは単純計算で、おおよそ13秒に1パケットが届く水準です。
ここにAIによる自動化が加わることを考えれば、インターネットに面した機器やサービスは、常に探索の対象となり得ることを前提に備える必要があります。
基本的対策
ただし、最新のAI製品を導入する前に、まず手を付けるべきことがあります。
多要素認証の導入、使われていないアカウントの整理、管理者権限の最小化、バックアップの取得と、バックアップから実際に復旧できるかの確認です。
攻撃が高速化する時代だからこそ、こうした基本的な取組が重要になります。
脆弱性への修正プログラムの適用についても、どの脆弱性から優先して対応するか、事前にどのような検証を行うか、いつまでに適用するか、緊急時に誰が判断するかを、あらかじめ定めておく必要があります。
即時の適用が難しい場合には、通信先や接続元の制限、監視の強化等により、リスクを低減することが重要です。
こうした政府全体の動きを受け、総務省では令和8年5月、関係分野の代表者との会合等を通じ、経営層のリーダーシップの下で対策を強化するよう要請しました。

(さらに、同年8月4日には、全国の都道府県知事及び市区町村長に対し、AI性能の高度化への対応やサプライチェーン・リスク対策を含むサイバーセキュリティ対策について、トップ自らが強いリーダーシップを発揮し、更なる取組を推進するよう求める総務大臣書簡を発出しました。)
※令和8年8月4日
「地方公共団体におけるサイバーセキュリティの確保に関する総務大臣書簡の発出」
総務省は、AI性能の高度化への対応や、サプライチェーン・リスク対策を含めたサイバーセキュリティ対策の強化に向けて、全国の都道府県知事及び市区町村長に対し、トップ自らが強いリーダーシップを発揮し、更なる取組を推進していただくよう要請するため、総務大臣書簡を発出しています。
総務省トップ > 広報・報道 > 報道資料一覧 > 地方公共団体におけるサイバーセキュリティの確保に関する総務大臣書簡の発出
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei02_02000430.html
経営層の判断
地方公共団体では、首長やCISOなどの経営層が、どの行政サービスや情報を優先して守るのか、どこまでリスクを許容するのか、人員や予算をどのように配分するのかについて、平時から方針を明確にしておく必要があります。
インシデント発生時には、行政サービスを停止又は制限するか、いつ関係機関へ報告するか、住民や議会にどのように説明するかといった判断も必要になります。
いざというときに迷わないよう、実際の事態を想定した訓練・演習を繰り返しておくことも欠かせません。
セキュリティは技術だけの問題ではありません。住民サービスの継続、個人情報の保護、行政への信頼に関わる組織経営上の課題として捉えることが重要です。
守る側のAI活用にもルールを
AIは攻撃者だけの道具ではなく、行政の現場でも活用が進んでいます。
その際には、どのような情報を入力してよいか、入力した情報がサービス提供者側で学習等に利用されるか、AIが生成した内容を誰がどのように確認するか、利用履歴をどのように保存するかといった点を、あらかじめ定めておく必要があります。
AIの活用促進とリスクへの対応は、切り離すのではなく、一体的に検討することが重要です。
事故が起きる仕組みを見る
地方公共団体に関連するインシデントには、VDIへの不正アクセス、ネットワークを経由した不正アクセス、委託先に対するランサムウェア攻撃など、さまざまな事例があります。
USBメモリの紛失やメールの誤送信といった、人的な要因による事案も発生しています。
こうした事案では、誰か一人のミスを探すのではなく、構造的な問題を見ることが重要です。
例えば、USBメモリを紛失したのであれば、「注意しましょう」で終わらせるのではなく、そもそもなぜUSBメモリで運ぶ必要があったのか、必要以上のデータが入っていなかったか、暗号化や持出し記録は十分だったかまで考えます。
人的ミスをゼロにするのではなく、ミスが起きても重大事故にならない業務設計が必要です。
令和8年3月27日改定
総務省の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」も、環境の変化に合わせて見直しを行っています。
令和8年3月27日の改定では、改正地方自治法を踏まえた記載の見直しのほか、機器等の廃棄時における情報の消去や、電磁的記録媒体の管理等に関する内容を改定しました。
ガイドラインの例文をそのまま転記して終わりにするのではなく、各団体の規模、組織体制、ネットワーク構成、業務の実態等に即した情報セキュリティポリシーとし、実際に運用できる状態にすることが重要です。
重要インフラ統一基準との関係
地方公共団体は、住民基本台帳、税、福祉、戸籍、防災、消防、上下水道など、住民生活や社会経済活動に不可欠な行政サービスを担っています。
したがって、地方公共団体の情報システムが停止した場合、その影響は単なる庁内事務の遅延にとどまらず、住民生活や社会機能の継続に及ぶ可能性があります。
こうした点を踏まえ、サイバーセキュリティ基本法に基づき策定される重要インフラ分野に関する統一的な基準や、政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準との関係を整理しながら、地方公共団体に必要な対策をガイドラインへどのように反映するか、検討を進めています。

ここで大切なのは、セキュリティ対策を個々の製品や機器の導入だけで考えないことです。組織統治、行政サービスや情報資産の把握、平時の防御と監視、インシデント発生時の対応といった一連のプロセスとして整備する必要があります。
統一基準等をガイドラインに反映する具体的な方法については、地方公共団体の実情や実施可能性も踏まえ、今後検討していきます。今後のガイドラインの見直しに当たっては、これまでの情報セキュリティマネジメントの考え方を踏まえつつ、「組織統治」「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」といった一連の機能を、どのように位置付けるかについても検討していきます。
つまり、壁を高くして侵入を防ぐだけではなく、侵入されたとしても早く気づき、影響を閉じ込め、行政サービスを復旧できる体制をつくるということです。
AIの悪用により攻撃の速度が増すおそれがある中では、この「早く気づき、素早く立て直す」力の差が、被害の大きさを左右します。
結びに
AIの高度化に伴い、脆弱性の探索や攻撃準備が高速化・自動化される可能性があります。
こうした環境の変化に対応し、安全な行政サービスを継続的に提供していくためには、特に二つの取組が重要です。
第一は、トップのリーダーシップです。
首長自らが、サイバーセキュリティを組織経営上の重要課題として捉え、必要な予算と人員を確保するとともに、全庁的な取組をけん引していくことが求められます。
第二は、基本的な対策の確実な実施です。
攻撃手法が高度化する中にあっても、足元の対策を一つ一つ着実に積み重ね、明らかになった脆弱性に迅速に対応することが、被害の防止又は軽減につながります。
総務省としても、地方公共団体におけるサイバーセキュリティ対策が実効性のあるものとなるよう、関係機関とも連携しながら、必要な支援に取り組んでまいります。
【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:今後は、政府統一基準と重要インフラ分野の統一的な基準のどちらがベースになるのでしょうか。地方公共団体にとって過度な基準にならないか心配です。
A:重要なのは、インシデントが発生した場合にも、行政サービスを継続・復旧できるレジリエンスを確保することです。
ISO/IEC 27001の考え方を踏まえつつ、NIST Cybersecurity Framework 2.0をはじめとする国内外の考え方も参考にしながら、「組織統治」「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」といった一連の機能を確保する必要があります。
その上で、政府機関等の統一基準と重要インフラ分野の基準を機械的にそのまま適用するのではなく、地方公共団体に必要な対策を精査し、団体の規模や業務、保有する情報、実施可能性等も踏まえながら、ガイドラインへの反映を検討していきたいと考えています。
最近の大規模被害事例から学ぶ、業務を守るランサムウェア対策
第2部に登壇したのは、サイバーリーズン合同会社の五十嵐達也さん。ランサムウェアの最新動向と被害事例を踏まえ、自治体に求められる対策について解説していただくとともに具体的な取組の方向性を紹介していただきました。

【講師】
五十嵐 達也 さん
サイバーリーズン合同会社 (A LevelBlue Company)
シニア・セールスエンジニア
ランサムウェアは組織の規模を問わず狙われる
ランサムウェアによる被害は、依然として深刻です。IPAの「情報セキュリティ10大脅威2026」では組織向け脅威の1位となり、2025年に警察庁へ報告された被害は226件でした。中小企業が約6割を占めていますが、大企業や団体でも被害は発生しており、特定の規模や業種だけの問題ではありません。

特に注目したいのが侵入経路です。実は8割超がVPN機器やリモートデスクトップを経由しており、VPN機器だけでも6割を超えています。メールだけを警戒していればよいわけではなく、外部と接続する機器の脆弱性や設定不備をどう管理するかが非常に重要です。

また、生成AIを利用するマルウェアも出てきています。生成AIによって不正なコマンドを生成する場合、毎回同じパターンになるとは限らず、特定のパターンを検知する従来型のウイルス対策では見つけにくくなる可能性があります。普段から利用している生成AIサービスが攻撃に使われれば、正規利用との区別も難しくなるでしょう。
最近の事例として、アサヒグループホールディングスで発生したランサムウェア被害があります。公表情報によると、2025年9月29日にシステム障害が発生し、同日中にネットワークを遮断してデータセンターを隔離。攻撃者はネットワーク機器を経由して侵入し、複数のサーバーやPCが暗号化されています。攻撃グループ「Qilin」は、27GB、9,323ファイルを窃取したと主張しました。

重要なのは、その後の業務への影響です。システムによる受注・出荷が停止し、一部を手作業で対応することになりました。システムによる受注再開までには約2カ月を要し、経理関連データへのアクセス障害によって決算発表も延期されています。
もしも自治体で同じことが起これば、「情報が漏れる」だけでは済みません。システムが使えず、住民サービスを継続できなくなる可能性があります。だからこそ、セキュリティ対策は業務継続の問題として考える必要があります。
暗号化されてからでは遅い
ランサムウェア攻撃は、大きく「初期侵入」「攻撃準備」「横展開・窃取」「暗号化・恐喝」という流れで進みます。侵入した攻撃者は内部を探索し、管理者権限を奪い、EDRやEPPを無効化してから感染を広げます。その後データを持ち出し、最後に暗号化を実行するという流れです。

弊社でQilinの挙動を検証したところ、Windowsのバックアップ機能であるVSSを削除し、重要なサービスを停止した上でファイルを暗号化する動作が確認されました。こうした処理はユーザーが気づかない間に進んでいきます。そのため、VPNなどへのパッチ適用や多要素認証によって侵入を防ぐことに加え、EDRなどで侵入後の不審な挙動をできるだけ早く見つけ、横展開や暗号化に至る前に遮断することが重要になります。

弊社のソリューションでは、こうした攻撃のフローを「アタックツリー」として可視化できます。可視化できるということはすなわち、止めることができるということ。万が一暗号化されても、独自バックアップから自動復元する機能を備えています。さらに、今年度からは脆弱性管理オプションも提供しています。

自治体様への導入実績も100団体以上あり、ISMAPにも登録されています。今後はAIを活用した次世代プラットフォームの開発も進め、自然言語でのログ解析などが可能になる予定です。ガイドラインの改定においても、α'(アルファダッシュ)モデルでのEDRの必要性などが盛り込まれており、弊社のソリューションで自治体様のシステムを安全に守る環境を提供できると考えています。
【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:α'モデルやβモデルへ移行する自治体は増えていますか。
A:昨年に比べると、今年はお問い合わせがかなり増えています。一気にβモデルへ移行する小規模自治体もあれば、まずαモデルのままEDRを導入し、運用を試したいという相談もあります。ネットワーク基盤の更新時期に合わせ、将来の1人1台端末やα'モデルへの移行を見据えて検討する自治体が増えていると感じています。
自治体ゼロトラスト:次世代情報基盤のビジョンと実現に向けて
第3部は、福井県の前側文仁さんが登壇。国・地方のネットワーク実証に取り組んだ本県の次世代情報基盤のビジョンや検討で見えてきた課題、今後に向けた具体的取組などを共有していただきました。

【講師】
前側 文仁 さん
福井県
未来創造部・DX推進監
人が減っても行政サービスを続けるために
福井県は人口約74万人と全国43位の小さな県ですが、幸福度では6回連続日本一と評価されています。一方、大きな課題が「働き手不足」です。有効求人倍率は8年連続で全国1位となっています。

2040年に向けて生産年齢人口はさらに減少します。福井県では、老年人口1人を支える生産年齢人口が2010年の2.4人から2040年には1.4人になると推計されています。

このように、生産年齢人口が減少する一方で行政への需要や業務は増えていきますから、2040年には「従来の半分の職員でも業務が行える」ような変革が急務です。しかし、現在の三層分離のままでは、セキュリティと利便性がトレードオフの関係にあり、業務とデータが分断されています。このままのネットワーク構成で「半分の人数で業務を行う」ことは不可能でしょう。
第三期セキュリティクラウドは「中継地点」
では、すぐに完全なゼロトラストへ移れるかというと、私は難しいと考えています。特にマイナンバー利用事務系など、現在の仕組みでは分離しておく必要のある領域もあります。
そのため、第三期セキュリティクラウドは完成形ではなく、2030年の次世代情報基盤へ向かう中継地点と捉えています。
当面は三層分離という境界型の構造を維持しつつ、これまで以上に「境界内の監視」を強化する。内部犯や端末の乗っ取り、ネットワーク内で攻撃が広がるラテラルムーブメントなどを想定し、侵入された場合に早く検知して被害を閉じ込めることが重要です。αやα'モデルでも、必要に応じてEDRなどのエンドポイント対策を取り入れることが考えられます。

GSS検証から今後の姿を考える
福井県は2025年度、鯖江市、高浜町とともにGSS試用型の検証へ参加しました。そこで考えたのが、「国が全てを管理する世界は本当に実現できるのか」ということです。ゼロトラストではIDと端末の管理が欠かせません。しかし、1,700を超える自治体のIDや端末を国が一括管理するのは簡単ではありません。自治体ごとに人事給与システムも異なり、それぞれが抱えるレガシーシステムへのアクセス制御も必要です。

マイナンバー利用事務系についても、窓口で使う共用端末を廃止することや、DLPによる持ち出し管理を運用することには課題があります。そのため、LGWAN・インターネット系がゼロトラスト化しても、マイナンバー利用事務系は当面別の形で残るのではないかと考えています。

そこで私たちが考えているのが、県がハブとなり、市町とデジタル基盤を共同調達・共同運用する仕組みです。国による一括管理にも、市町単独での運用にも限界があるなら、その中間にある都道府県が役割を担うという発想です。県と17市町で、基幹業務システムや内部業務システム、ネットワーク、さらには人材まで共同化していく。システムを共同調達するだけでなく、業務フローを統一し、不要なカスタマイズをなくすことや、通知物の印刷・発送などの業務も共同化したいと考えています。

ロードマップでは、令和9年度に市町を支援する「デジタル人材プール」をはじめ、市町と共に、システム・業務の共同化、共同BPOを検討していきます。令和12年度には県がゼロトラストへ先行移行し、その後、市町にも広げていく姿を描いています。将来的には、共同事務センターのような形で、市町業務を楽にできる未来を目指したいと考えています。
そのためにまず取り組むのは、ネットワークの棚卸しと可視化です。長年の機器・機能追加で複雑になった構成を洗い出し、レガシーシステムについてもクラウドへ移行できるのか、更新時期はいつなのかを整理していきます。重要なのは、ゼロトラストの導入そのものではありません。2040年、職員数が減少しても質の高い行政サービスを提供し続けること。そのために、職員がいつでも、どこでも安全に働ける環境をつくることが最大の目的です。

【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:セキュリティクラウドと共同システムを並行運用すると、負担が大きくなりませんか。
A:おっしゃるとおり、移行期間中は重複によるコストや手間の負担が大きくなる可能性があると想定しています。そこをどう最適化していくのかは、今後の課題です。
メールにおける自治体向けファイル無害化運用の実践ポイント
第4部は情報セキュリティメーカー・デジタルアーツ株式会社の野村祐介さんが登壇。LGWAN接続系への取り込み時に必要となる無害化の考え方や、運用負荷を抑えながら安全性を確保するための実践的な対応方法について紹介していただきました。

【講師】
野村 祐介 さん
デジタルアーツ株式会社
マーケティング本部 プロダクトマーケティング部第2部 主任
モデルが変わっても「無害化」は必要
自治体セキュリティの大きな転機となったのが、2015年の日本年金機構における情報漏えい事案です。標的型攻撃メールをきっかけに約125万件の個人情報が流出したことなどを受け、自治体ではマイナンバー利用事務系、LGWAN接続系、インターネット接続系を分ける「三層の対策」が進められました。
現在はDXやクラウド活用が進み、ネットワークモデルにも複数の選択肢があります。αモデルは三層分離を徹底し、LGWAN側に業務端末を置く従来型。β・β'モデルは業務端末をインターネット接続系へ移し、クラウドやテレワークを活用しやすくする形。そしてα'モデルは、αモデルを基本的に維持しながら、LGWAN端末から特定のクラウドサービスへ直接接続する折衷型です。

それぞれ構成は違いますが、共通する重要なポイントがあります。それは、インターネット経由で受け取ったメールやファイルをLGWAN接続系へ取り込む場合には、無害化が必要だということです。これはα'モデルでも変わりません。
ウイルスチェックだけではない「サニタイズ処理」
ここでいう無害化とは、単にウイルス対策ソフトでファイルをスキャンすることだけではありません。代表的な方法の1つが「サニタイズ処理」です。ファイルをいったん分解し、マクロやスクリプトなどの危険因子を取り除いた上で、安全な要素だけを使って元と同様の形式に再構築します。危険なプログラムが実行される可能性を取り除いてから、LGWAN接続系へ渡すという考え方です。

また、無害化したファイルだけ残せばよいわけではありません。無害化前の原本も保存し、必要に応じて確認できるようにしておくことが重要です。自治体のメール運用では、「受信→無害化→配送→原本保存→監査」という一連の流れを考え、どこで無害化するのか、原本をどこへ残すのか、誰が参照できるのかまで明確にすることが重要です。
特にα'モデルではMicrosoft 365などのクラウドサービスを利用するため、メールの経路にも複数のパターンが考えられます。例えばクラウドメールサービスから直接メールを受信する場合でも、LGWAN接続系へ取り込む前に添付ファイルをサニタイズし、無害化前の原本を保存する必要があります。一方、自治体情報セキュリティクラウドを経由してクラウドへメールを配送する構成なら、クラウドへ転送する前に無害化し、原本は別途アーカイブする方法もあります。


つまり、「α'へ移行したからクラウドメールが使える」で終わりではありません。メールがどこを通り、どこで無害化され、原本がどこに残るのかを設計することが重要です。
「準拠している」から「実際に回る」運用へ
弊社の「m-FILTER」では、2026年2月から受信メールの添付ファイルを自動で無害化する「ファイル無害化オプション」を提供しています。外部の無害化製品と連携せず、m-FILTER単体で運用でき、パスワード付きZIPやファイル内に埋め込まれたファイルを再帰的に無害化することも可能です。


ただ、製品を導入するだけでは十分ではありません。原本を誰が参照できるのか、例外時は誰が承認するのか、ログをどう確認するのか。職員が迷わず使える手順まで落とし込んで初めて、日々の業務として定着します。
【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:PPAP対策として、どのような運用方法を提案していますか。
A:m-FILTERでは、添付ファイルをオンラインストレージへ自動的にアップロードし、メール本文にはダウンロード用のリンクを記載する方法を提供しています。職員の操作を大きく変えずに、添付ファイルをメールから分離する運用が可能です。
Q:オンプレミス版とクラウド版、自治体が選定する際にどのような観点で比較すれば良いでしょうか。
A:自治体では、従来の三層分離に基づく運用を背景に、オンプレミス環境を利用しているケースが多いと考えられます。既存の運用を大きく変えずに対策を進めたい場合は、オンプレミス版が選択肢となります。今後のα'モデルへの移行やクラウド活用を見据える場合は、クラウド版「m-FILTER @Cloud」も有力な選択肢です。
ネットワークモデルを問わない堺市のDXの取組について
スペシャルセミナーの最後を飾るのは、大阪府堺市の中島路敏さんと合同会社KUコンサルティングの髙橋邦夫さんによる対談。6月に公表の、これまでの取組実績を取りまとめた資料「SHIFT SAKAI」をもとに、ネットワーク環境に関わらず堺市が実践してきた取組を紹介していただきました。

【講師】
中島 路敏 さん
大阪府 堺市
ICTイノベーション推進室 室長

【講師】
髙橋 邦夫 さん
合同会社KUコンサルティング
代表社員
DXは「人づくり」と「環境づくり」の両輪で
堺市は人口約80万人の政令指定都市で、現在のネットワークはαモデルを基本としています。政令市ではβ'モデルへの移行も進んでいますが、私たちはβやβ'を否定しているわけではありません。利便性だけでなく、安全性やコスト、現在利用しているクラウドサービスなどを総合的に考え、今の堺市にはαモデルが適していると判断しています。
一方で、従来の構成をそのまま守るだけではありません。αモデルの安全性を維持しながら、業務上必要で、安全性を確認できたクラウドサービスについては限定的に利用するなど、α'モデルの考え方も一部取り入れています。
また、堺市では、市民サービスの向上と行政運営の効率化を目標に行政DXを進めています。
大切にしているのは、デジタルを使いこなし変革をリードできる人材を育てる「人づくり」と、デジタルを活用しやすい仕組みを整える「環境づくり」です。職員研修やDX推進リーダーの育成、データ活用を進める一方で、Microsoft 365やkintone、生成AI、RPAなども活用しています。

ただし、ツールを入れること自体がDXではありません。既存の業務をゼロベースで見直し、そこから新しい価値を生み出していくことが重要です。これまでの取組では、行政手続きのオンライン化を進め、オンライン化が完了した手続きは3,500件を超えました。また、これまでのICT施策を「SHIFT SAKAI」としてまとめて公開し、市民の皆様の意見を幅広く聞き、AIも活用して整理・分析する『ブロードリスニング』を試行しています。

個別最適から「全体最適」へ
髙橋:自治体がICT施策の進捗を「SHIFT SAKAI」として広く公表するのは珍しい取組だと思います。この中で、アンケートではなくブロードリスニングという手法をとった経緯を教えてください。
中島:「SHIFT SAKAI」は、市民の皆様に堺市のDXの取組を知っていただき、ICTを活用した行政サービスを円滑に利用していただくために公表しました。また、職員が仕事の価値や成果、取組が役立っていることを実感し、エンゲージメントが高まることも期待しています。ブロードリスニングを試行したのは、従来のアンケートでは、用意された選択肢の範囲でしか答えられなかったり、自由記述を人手で整理する負担が大きかったりします。もっと気軽に市民のニーズを把握できないかと考え、先進自治体の事例も参考にしながら取組を始めました。
髙橋:政令市である堺市が、αモデルを選び続けている理由も知りたいです。
中島:βモデルを導入している自治体の話を聞くと「やはりすごいな」と感心します。ただ、利便性だけではなく安全性やコストも総合的に判断しなければなりません。そのうえで、堺市のクラウドサービスの利用状況も鑑みて判断しました。今後はまた変わっていく可能性も、もちろんあります。
髙橋:堺市のDXは順調に進んでいると感じますか。
中島:オンライン申請など、DXの土台づくりはかなり進みました。一方で、今後は各部局がそれぞれ改善するだけでなく、全庁を横断して共通業務を見直す「全体最適」の段階へ進む必要があります。今年度は重点施策として5つのDXプロジェクトを進めています。電話対応の情報を可視化して改善につなげる「通話対応DX」、内部管理事務を最適化する「バックオフィスDX」、ブロードリスニングを広げる「市民意識把握DX」、データ活用やEBPMを進める「意思決定DX」、そしてそれらを支える「人づくり」です。
職員が「業務が楽になった」「本来やりたかった仕事に時間を使えるようになった」と実感できることが、DXを次へ進める上で大切だと思っています。

髙橋:αモデルを維持しながら、これだけDXを進めていることは、他の自治体にとっても参考になると思います。最後に、メッセージをお願いします。
中島:ネットワーク構成を変えることも1つの選択肢ですが、それだけでDXが進むわけではありません。どれだけ便利なツールを入れても、職員の意識や組織風土が変わらなければ、業務のトランスフォーメーションにはつながりません。だからこそ、人づくりを同時に進める必要があります。
堺市が「SHIFT SAKAI」を公表した理由の1つには、他自治体や事業者ともっとつながりたいという思いもあります。堺市だけで完結させるのではなく、互いの取組や失敗も共有しながら、共創の輪を広げていければと考えています。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works


















