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「橋梁補修DIY」で現場対応力を高めながら予防保全の基盤を確立。

職員が自ら補修し予防につなげる橋梁メンテナンス
玉名市では橋梁の維持管理において、職員が簡易な点検や補修を担うことで予防保全を行う橋梁補修DIYを実践している。外注費を抑え、大幅なコスト縮減を達成したという、その取り組みの工夫について話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.43(2026年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

玉名市
建設部 土木課
課長補佐 兼 橋梁メンテナンス係長
木下 義昭(きのした よしあき)さん
本当に不足しているのは人手でも財源でもなく“経験”だと分かった。
道路や河川など多岐にわたるインフラの管理を5人体制で担っていた同市。兼務のため手がまわらず、平成26年に国が定めた5年に1回の定期点検も、遅れが生じていたという。平成28年度には、対象となる橋のうち約40%の点検が完了しているのが目安とされていたが、実際にはわずか2%程度だった。さらに予算確保にも苦慮していたそうだ。「点検費用の約6割は国から交付金が出ますが、残りの約4割は一般財源です。点検費用を捻出するのに精いっぱいで、修繕費用まで手がまわらない状況でした」と木下さん。
そこで、まずは現状把握と問題の洗い出しから着手。初めに実務を担う職員へのヒアリングを行った。「ヒアリングの場を設けると、職員が緊張してしまい、本音を引き出せません。そこで日常業務の合間に声をかけ、親身になって話を聞くことを大切にしました」。その中では、“橋の設計図書や橋梁台帳、専門書が役所にないので、何から手を付けてよいか分からない”“何が分からないのか分からない”といった様々な声が出てきた。
そうしたヒアリングの結果、木下さんは根本的な課題は“経験不足”にあると考えた。「よく人手不足や財源不足が課題に挙げられます。しかし、経験や知識がなければ、たとえ人が増えても的確な指示を出すことは難しいでしょうし、予算が確保できても適切な使い道が分からないでしょう。そこで現場力を高めるために、職員自らが補修に携わる仕組みづくりに取り組むことにしたのです」。


職員による直接施工を行うことで現場で経験値を上げ、成長を促す。
こうした考えを実行に移した背景には、優先順位が高い橋に予算がまわされがちな現状への懸念もあった。「たとえ数人しか使わない小さな橋でも、住民にとっては大事な存在です。そこで規模の大きな橋は専門業者に任せ、後まわしになりがちな小さい橋は職員が対応し、大小の“挟み撃ち”で老朽化に対応しようと考えました」。
そのためには点検や簡易な補修ができる人材の育成が必要だ。OJTを重視して取り組みやすい作業から実際に体験させ、自分事として向き合える環境づくりに注力した。「自分でやってみると気づきや疑問が生まれ、もっと知りたいという欲求が生まれます。学んだことを実践し、経験が重なると自信に変わり、成長につながると考えました」。
また、初めて現場に出る職員の心理的なハードルを下げる工夫として、言葉の使い方も見直したそうだ。例えば“点検”だと法的責任を感じさせるため“観察”と呼び、写真撮影や見まわりを指した。“措置”も完璧な工事を求める印象が強いため“手当て”と言い換え、掃除や水止めなど、職員が取り組みやすい作業を指すものとした。
さらに特徴的なのが、あえて小さな失敗を経験しながら、材料や工法の弱点を理解するという考え方だ。工事での失敗は大きな損失につながりかねないが、DIYであれば材料費など小さなコストで試せることが利点だという。作業手順は職員自身がマニュアルを作成し、普段から公用車に備えている。「写真やイラストを使って、実際に使う職員がまとめた方が分かりやすいと考え、任せることにしました」。

職員の現場力の向上により危険な橋への措置が完了。
この取り組みは、掃除や水止めといった簡易な作業から始めるが、その効果は小さくない。「排水溝にたまった土砂を掃除することで水が流れやすくなり、鉄筋のさび付きを防ぐことができます。また数千円で購入した材料でも、数年間は水漏れを防ぐことが可能です」。職員では対応が難しい箇所については、地域の建設業者へ得意な工種ごとに分離発注を行っている。さらに高度な知識が必要な場合は大学と連携するなど、役割分担を明確にしているそうだ。
こうして同市では、点検後に措置を行うという一般的な流れを見直し、点検時に職員が直接手当てを行う手法へと転換。そして必要に応じて外部の力も借りながら、予防保全型の橋梁メンテナンスサイクルである「玉名市モデル」を確立した。同取り組みにより、早期に補修が必要と判断された橋梁への措置は、職員の現場力が向上したことで、全て完了。その結果、5年後の点検では、補修を要する橋梁は確認されなかった。また、職員が作業の一部を担うことで、コスト縮減にもつながったという。
今後は、技術職でなくても役割を担えるように業務をサイズダウンして、多くの人が関われる環境を整えていくという。「写真を撮るだけなら技術職でなくても対応できますし、清掃も役割分担することで、多くの職員が関わる体制づくりにつながります。今後もできることを一つずつ重ねていきたいです」。












