長崎県

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官民がともに学べる講座と実務を通して、地域の守り手を増やす。

都市整備・上下水道
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官民がともに学べる講座と実務を通して、地域の守り手を増やす。

産学官連携の養成講座を通じて技術者を育成

長崎県では、平成20年から長崎大学が開講する講座を活用し、地域のインフラを守る人材の育成に取り組んできた。県の点検現場を実践やOJTの場として活用し、実務を通して技術力を身に付ける仕組みを整えている。

※下記はジチタイワークスVol.43(2026年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

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長崎県
土木部 道路維持課
課長補佐 園田 一郎(そのだ いちろう)さん

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土木部 道路維持課
係長 宮崎 真考(みやざき まさたか)さん

道路や橋梁などが島に点在しており維持管理の技術者が不足していた。

同県では県土の約7割を離島や半島が占め、道路や渡海橋、港湾が各地に点在している。特に海上の橋梁は潮風の影響を受けやすく、塩害対策も欠かせないため、維持管理の負担は大きいという。「当県では全国でも比較的早い段階で『橋梁長寿命化修繕計画』を作成していました。そのため、計画にもとづく維持管理への意識は、元々高かったと思います」と園田さんは振り返る。

一方で、公共事業費が減少傾向にあることや、技術者不足に対する危機感も強まっていたという。「インフラの維持管理には、一定の専門性をもつ技術者が不可欠です。しかし、当時は人材が不足しており、このままでは立ち行かなくなるという不安がありました」。

こうした状況を打開するため、同県は長崎大学内に設置された、インフラの研究や技術支援を担う「インフラ長寿命化センター」と連携し、新たな方法を模索したという。「大学と協力して何かできないかと考えました。行政だけでインフラの維持管理を行うのではなく、地元の建設会社やコンサルタント、住民など“地域の力”を活かす仕組みが必要だと感じたのです」。そこで平成20年に始まったのが、インフラの維持管理を担う人材育成を目的とした「道守(みちもり)養成講座」だ。

▲県の直営点検には認定者やOBも参加。技術力向上につなげている。
▲県の直営点検には認定者やOBも参加。技術力向上につなげている。

民間企業の社員も受講対象にして入札加点で参加したくなる工夫を。

同講座には、4つのコースが用意されており、修了時にはコースに応じた資格が認定される。入門レベルにあたる「道守補助員」は地域住民向けだったが、令和7年度からは主な対象を自治体の若手技術職員とし、内容が再構成された。その上位にあたる「道守補」は平成26年に法制化された法定点検を担うことができ、「特定道守」は点検結果を踏まえた診断まで可能。そして最上位の「道守」は、点検計画の策定や全体の維持管理をマネジメントできる人材という位置付けだ。

「道守補以上のコースは、建設会社の社員なども対象です。多様な主体が関わることで、地域全体でインフラを支える体制を築くことができます。技術力の向上だけでなく、地域への愛着も育まれており、持続可能な維持管理につながっていると認識しています」と宮崎さん。認定者が在籍する企業には、県発注工事の総合評価入札で加点する仕組みを設け、企業にもメリットが生まれるよう工夫しているという。

講座の運営は長崎大学が担っており、大学教員や実務経験をもつコンサルタント、自治体職員などが講師を務める。「県職員は、県内道路に関する講義を担当しています。例えば、県内の橋梁数や道路の現状、維持管理計画の考え方などについて、具体的な数値を示しながら説明しています」。現場を管理する立場から課題を示すことで、受講者が地域のインフラを自分事として捉えるきっかけにもなっているという。

また、点検研修会を毎年実施するなど、資格取得後も継続的に関わりやすい工夫を重ねている。「当県が管理する橋梁の約6割を直営で点検しており、認定者にも参加してもらっています。資格更新の要件として“4年間で4回以上の活動実績”を設定していることが、直営点検や研修会への参加を後押しして、継続的な技術習得にもつながっているのではないでしょうか」。


点検をOJTの場として活用し、若手職員の育成につなげる。

講座開始から約20年たち、認定者は延べ1,100人を超えた。毎年約70人の新規認定者が誕生し、県内のインフラ状況を理解する人材が着実に増えている。認定者のうち約80人は自治体職員で、若手の受講も多い。希望すれば業務の一環として受講できる仕組みだ。受講後、点検業務に携わることで、日常のパトロールや現場管理での視点が変化しているという。「直営点検は、県職員2人と県職員OB1人、認定者1人の4人程度で行っています。高い技術をもつ認定者から直接学べるため、若手職員にとって最良のOJTの場になっています」と園田さん。一方で、認定者の多くは地元企業の社員だ。「県の橋梁点検の約4割は民間に委託しています。直営点検に参加することで、企業側は県の基準や仕様への理解が深まり、官民双方にとって有益な関係が築けていると感じています」。

講座は当初、国の支援を受けて実施してきたが、平成30年度からは有料化。それでも受講者は減らず、持続可能な運営体制を築いている。今後も産学官連携を継続し、地域の担い手育成だけでなく、職員の点検技術向上につなげていく考えだ。「人手不足は自治体だけでなく建設業界全体の課題です。資格取得を通じてインフラに関心をもち、“自分たちの地域を自分たちで守る”という意識が育つことが、課題解決のカギになるのではないでしょうか」。