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【セミナーレポート】【道路・橋の維持管理】 \事例から学ぶ/"壊れる前に守る"予防保全型への第一歩

老朽化や人員不足で、計画的な維持管理が思うように進まない――。
そんな悩みが、多くの自治体で共通しています。求められているのは、壊れてから修繕をする対応を続けるのではなく、壊れる前に守る「予防保全型メンテナンス」。
そこで、本セミナーでは、道路・橋の維持管理における業務効率化に役立つ事例や、住民との関わり方の工夫を紹介します。自分たちの自治体でも取り組める第一歩を、ぜひ一緒に学んでいきましょう。
概要
■テーマ:【道路・橋の維持管理】事例から学ぶ"壊れる前に守る"予防保全型への第一歩
■実施日:令和7年12月11日(木)
■参加対象:無料
■申込者数:166人
【国土交通省】事後保全から予防保全へー変化が分かる道路メンテナンス施策について
第1部に登壇したのは、国土交通省の近藤弘嗣氏。道路メンテナンス年報から見える道路構造物の現状や「点検支援技術性能カタログ」など、持続可能な道路管理の実現に向けて必要な情報を解説してもらった。

【講師】
近藤 弘嗣 氏
国土交通省 道路局 国道・技術課
平成16年に国土交通省入省。平成28年より総合政策局公共事業企画調整課課長補佐。i-Constructionや道路の性能カタログの制度設計に携わる。令和4年より松江国道事務所長。令和7年より現職。道路技術政策を総括。
予防保全に向けた道路メンテナンス施策の現状
私は国土交通省道路局国道・技術課に所属しています。以前は国道・防災課という名称で、直轄国道の整備や維持管理、予算配分などを担う組織でしたが、平成30年4月に課名に「技術」が加わりました。これにより、道路分野の技術に関する事務全般を所管する役割が増えています。
私たちの仕事は、現場で直接メンテナンスを行うことではありません。道路事業や維持管理の現場ニーズを捉え、新技術を導入しやすい環境を整え、技術開発を支援する立場にあります。令和2年には「道路分野における新技術導入促進方針」を策定し、「使える技術は積極的に使っていく」という姿勢を明確にしました。以前は、新しいものに対して慎重な側面もありましたが、現在は導入の障壁を取り除き、活用を前提に考える方向へとかじを切っています。

道路メンテナンス年報から見える現状
本日のテーマの一つが「道路メンテナンス年報を読み解く」ことです。道路構造物の老朽化が進んでいることは、皆さまもよくご存じだと思います。建設後50年以上を経過する橋梁は年々増加していますし、笹子トンネル天井板落下事故を契機に、道路法にもとづく定期点検が制度化されました。現在は、5年に1回の定期点検が3巡目に入っています。

重要なのは、事後保全ではなく予防保全をいかに進めるかという点です。損傷が深刻化してから対応するよりも、状態が悪化する前に修繕した方が、結果的にコストを抑えられます。そのためには、定期点検と修繕を着実にまわすメンテナンスサイクルの確立が欠かせません。

年報では、橋梁やトンネル、道路付属物について、判定区分Ⅲ・Ⅳ、つまり早期または緊急に措置が必要な施設の割合が示されています。全体として一定数は残っていますが、1巡目、2巡目、そして最新の点検結果を比較すると、判定区分Ⅲ・Ⅳの割合は着実に減少しています。予防保全に向けた取り組みが、少しずつ成果を上げていると受け止めています。
一方で、判定区分Ⅰ・Ⅱだった橋梁が、5年後の点検でⅢ・Ⅳに移行する割合は、全道路管理者平均で約3%となっています。建設後の経過年数が長いほど、その割合が高くなる傾向も確認できます。今後、老朽化した構造物がさらに増えていくことを考えると、5年に1回の定期点検を着実に継続していく必要性は変わりません。

自治体を支える支援施策
道路メンテナンスを巡る課題は、特に市町村で深刻です。橋梁管理に携わる土木技術者がいない自治体も少なくありません。そのため国としては、さまざまな支援策を講じています。

具体的には、緊急性が高く高度な技術を要する施設について、国が診断や修繕を代行する「直轄診断・修繕代行」を実施しています。また、地方公共団体の職員を対象とした研修も行い、技術力の底上げを図っています。さらに、道路メンテナンス会議を全都道府県に設置し、国の施策共有や課題整理を進めています。加えて、地方整備局ごとに道路メンテナンスセンターを整備し、自治体からの相談対応や技術的支援も行っています。人的支援と技術支援を組み合わせ、現場を支える体制を整えてきました。

地域インフラ群再生戦略マネジメントと制度整備
最近、特に重要だと考えられているのが「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、いわゆる群マネの考え方です。個別施設や単独の管理者だけでなく、複数の自治体や複数分野のインフラを「群」として捉え、まとめてマネジメントしていく発想です。

この考え方を道路行政に反映するため、道路法を改正し、「連携協力道路制度」が創設されました。複数の市町村や県が協議し、維持管理や修繕を分担できる仕組みを制度として位置づけたものです。道路管理者の責任を曖昧にするのではなく、役割分担を明確にした上で、効率的な管理を可能にするための制度だと考えています。

財政支援と新技術活用の促進
支援策の中でも、財政面は非常に重要です。「道路メンテナンス事業補助制度」では、長寿命化修繕計画にもとづく修繕、更新、撤去事業を支援しています。橋梁、トンネル、道路付属物が対象で、集約撤去や新技術を活用する事業については、優先的に支援しています。

特に新技術を活用する場合は、単に導入するだけでなく、どのような効果を期待し、どの程度のコスト縮減や効率化が見込めるのかを明確にすることをお願いしています。来年度以降は、数値目標や効果の記載が、補助制度の要件となる予定です。
新技術導入促進計画と性能カタログ
新技術の普及に向けては、「新技術導入促進計画」を策定し、重点的に取り組んでいます。その一環として整備しているのが「点検支援技術性能カタログ」です。現在、橋梁、トンネル、土工、舗装、道路巡視の分野で、合計375技術を掲載しています。

カタログには、各技術で何ができるのか、その精度や、性能を発揮する条件が整理されています。現場の状況に応じて、適切な技術を選択できるようにするためです。直轄国道では、点検が困難な箇所について、カタログ掲載技術の活用を原則化しており、地方公共団体への波及も期待しています。

77条調査のデータを見ると、橋梁点検で新技術を活用した自治体は約35%、トンネルでは約27%となっています。一方、施設数ベースで見ると、直轄・地方ともに活用率は約8%程度にとどまっており、さらなる普及が課題です。

活用が進む代表的な新技術
今回は自治体での活用件数が多い技術として、3つ紹介します。1つ目は橋梁点検ロボットカメラです。高所作業者やボートによる点検を代替でき、コスト縮減や工期短縮の効果が確認されています。


2つ目は、全方向衝突回避センサーを備えた小型ドローンです。近接目視と同等の診断が可能な場合には、ドローンによる代替が認められており、特に交通規制費用の削減効果が大きいと考えています。


3つ目は、撮影した画像から損傷を自動抽出する画像診断サービス「ひびみっけ」です。内業の効率化にも寄与し、点検業務全体の省力化につながっています。

データ活用の広がり
最後に、全国道路施設点検データベースについて触れます。点検結果や諸元を一元的に管理する仕組みで、APIを通じて第三者によるデータ活用も可能になっています。画像認識AIを活用し、類似損傷事例を検索するなど、診断支援に活用する動きも始まっています。

道路メンテナンスは、今後ますます厳しい環境に置かれます。その中で、予防保全を軸に、新技術とデータを活用しながら、持続可能な道路管理を実現していくことが重要だと考えています。
【NTT東日本】道路維持管理DXの進め方~山梨県甲斐市との対談による事例紹介~
第2部に登壇したのは、NTT東日本株式会社の鈴木健太氏。NTT東日本が取り組む社会インフラ維持管理DXの取り組みについて、2025年からともにDXの取り組みを開始した、山梨県甲斐市建設課職員との座談を通して伺った。

【講師】
鈴木 健太 氏
NTT東日本株式会社 ビジネスイノベーション本部 まちづくり推進部
社会インフラビジネス担当
入社以降、長期に渡り事業開発に従事し、通信インフラの転換点である音声サービスのIP網移行(2024年1月)に提供サービス主管として取り組む。昨年度より、当社インフラのスマートメンテナンスを応用した社会インフラ維持管理DXの事業に従事。
NTT東日本の強みとは
NTT東日本は、東日本全域で地域通信サービスを提供しており、営業エリア全てに支店を構えています。そのため、地域に密着した企業として、日々の企業活動の中で各地域の課題を伺う機会が多くあります。そうした課題を地域の皆さまとともに背負い、解決していくことを軸に取り組んできました。
こうした活動を企業として具体化するため、2023年に「まちづくり推進部」を発足しました。活動を通じて各地域の皆さまから共通して聞かれる課題が、社会インフラに関するものだったという背景があります。弊社自身も通信インフラ設備を大規模に保有しており、自治体の皆さまと同様に、人材の減少や高齢化により、インフラ維持管理の担い手が減少するという課題を、数年前から感じてきました。こうした状況を受け、技術力や効率性を高めていく必要性から、2010年頃よりインフラ維持管理のDXにかじを切った次第です。この経験を、現在自治体の皆さまが直面されているインフラ維持管理の課題解決に活かせるのではないかと考え、2025年度に「社会インフラビジネス担当」を発足させ、活動を進めております。

自治体の皆さまから最も多く伺うのは、「DXや効率化を進めたいが、何から手を付ければよいかわからない」というお悩みです。弊社としても、自らの経験をどのように活かし、どのように伴走していくべきか、検討を重ねてきました。
弊社の強みの一つは、予防保全へ転換する際に必要となる取り組みについて、これまで培ってきたまちづくりのコンサルティング力や実装力を活かせる点にあります。弊社は、これらの経験を通じて自治体の皆さまとともにまちづくりの伴走支援を進めており、DX人材派遣としては42団体へ56名の社員を派遣しています。

もう一つの強みは、膨大な通信インフラ設備の維持管理を長きに渡りDXしてきたノウハウです。業務プロセスの改善や品質の均一化、またデータを活用したスマートメンテナンス手法を早期に導入することで、点検稼働の大幅な削減を実現しています。弊社がたどってきた通信インフラ設備のDXは、まさに現在の自治体が直面している課題と同様であることから、弊社のDXノウハウが自治体の業務DXに活かせると考えています。

こうした経験を活かし、本年度も複数の自治体と連携協定を結び、DX推進の支援を行っています。本日はその中から、山梨県甲斐市さまと進めている道路維持管理の効率化についてご紹介します。

ここからは座談を通して弊社と甲斐市さまの取り組みを紹介させてください。
■座談参加者
甲斐市 まちづくり振興部 建設課 建設総務係 係長
櫻田 隆樹 氏
甲斐市 まちづくり振興部 建設課 建設総務係 主任
和田 匠 氏
NTT東日本 イノベーション本部 まちづくり推進部
藤間 麻衣
NTT東日本 ネットワーク事業推進本部 設備企画部
橋本 敏見
藤間:道路をはじめとする社会インフラの維持管理において、甲斐市さまが以前から抱えていた課題や改善が必要だと感じていた点を教えてください。
櫻田:我々建設課では、インフラの中でも道路維持管理を担当しており、道路の草刈りから大規模な修繕まで幅広い案件の対応を行っています。年々職員数が削減されている中で、管理すべきインフラは老朽化が進む一方であり、人手不足を痛感しています。発注が必要な工事については設計ができる技師が対応しておりますが、そちらも人員不足などにより時間外労働が慢性化しております。職員を管理する立場としては、職員に負荷がかかり続けるこの状況は、どうにか解決していかなければならないと強く感じていました。
和田:紙の対応が多くて稼働がかかり、情報がうまく引き継がれないことも課題でした。例えば甲斐市では、住民や事業者からの相談や軽微な修繕履歴について紙媒体で保管しているのですが、頻繁に修繕している箇所や定期的に相談が来る案件等の情報管理が属人化しており、異動に伴い情報がうまく引き継がれない懸念がありました。また、住民相談等においても文字ベースでの管理のため、場所の特定に時間がかかることも課題でした。
藤間:建設課の業務は特性上、紙を使うことが非常に多い印象です。
和田:そうですね。デジタル化を進めて効率化していきたいという思いはあるものの、日々の対応業務で手一杯ですし、現在の膨大な紙を使った業務をどこからどうやって効率化していくか、職員だけでは見当がつかない状況でした。
藤間:人員不足や紙対応といった課題が山積みな状況の中で、2025年からNTTグループとのDXの第一歩を進めていくことになりますが、こちらはどういった取り組みから連携を進めてきたのでしょうか。
櫻田:まず大きな枠組みとして、甲斐市、NTT東日本、NTT-MEの3者による「道路維持管理業務高度化に向けた共同検討に関する連携協定」を締結させていただき、ともに検討を進める土台作りを行いました。
橋本:実際に締結した連携協定がこちらになりますが、道路などの社会インフラの老朽化、それから人口減少や自治体職員の方の負担増加などの社会課題に対応するために、NTT東日本がこれまで通信インフラの維持管理で培ってきた技術力やデジタルソリューションを活用して、どうすれば道路維持管理業務を高度化していけるのかを、甲斐市さまと共同して検討していくものです。

藤間:連携協定の締結にあたり、甲斐市さまはNTTのどういった点を評価、ご期待いただいてパートナーに選んでいただいたのでしょうか。
櫻田:NTTさまも我々建設課と同じくインフラの管理を行っているということもありまして、効率的なメンテナンス等のノウハウが非常に豊富であるということ、最先端の技術分野にも造詣が深いことから、インフラ分野のDX化への強力な推進力をお持ちであると考えておりましたので、非常に期待感がありました。
藤間:連携協定の締結を皮切りに高度化に向けた共同検討を開始され、現在で約1年が経とうとしています。この1年でどのような検討を進めてきたのでしょうか。
和田:まず、NTTさまに2週間ほど建設課の業務を見ていただき、業務課題の洗い出しを行っていただきました。外部の方に業務フローを可視化していただき、課題の原因を構造化していただくことで、改めて業務のやりにくさがどこにあるのか、その影響範囲がどれほどなのかを知ることができました。
藤間:NTTとしては、どのような提案をしてきたのでしょうか。
橋本:一度にDXを進めるというところは大変難しいので、課題の大きさですとか緊急性を踏まえまして、どのようなところから取り組みを始めたらいいのか、そういったところをご相談・ご提案させていただきました。実施するにあたっては財源確保も自治体さまの大きな課題になっておりますので、併せて活用できる補助事業等の情報もご提供させていただきながら、進めております。
藤間:現在の取り組みを教えてください。
和田:NTTさまと協議を重ね、今年度はドライブレコーダーのデータをAI解析することによる道路点検業務のDX化や、住民からの通報を一元管理するデータベース構築などを進めています。

従来は事後保全という形で、住民通報を起点に現地へ駆けつけ、修繕等の対応を行っており、予防保全を意識した修繕計画を立てることができていませんでした。そこで、ドライブレコーダーで一元的に道路のデータを収集し、AIによる劣化診断を行うことにしました。対応すべき破損箇所が一元的に把握できますし、AI解析といった客観的なエビデンスにもとづいたデータであるため、最適な修繕計画の策定につながることが期待できます。
取り組みの2つ目は、「住民からの通報を一元管理するデータベースの構築」です。現状、甲斐市の住民問い合わせ手法は複数あり、それぞれのツールが異なることや、対応履歴を紙で管理していたため、過去の対応経緯の確認や対応進捗の管理が困難でした。これらの問い合わせデータを集約して地図上で一元管理できるようにすることで、問い合わせ対応の効率化と、対応記録を有効に蓄積して利活用できるようになると期待されています。将来的には、これらのDX化により収集したデータをデータベースに蓄積して利活用することで、予防保全計画の策定等に活用していくことを検討しています。
藤間:なるほど。これらの仕様を検討していくにあたり、NTTとして工夫している点はありますか。
橋本:デジタルツールを導入してDXを行えば、当然業務の効率化にはつながります。しかし、永続的に高いコストがかかっていくような仕組みは続かず、従来のやり方に戻ってしまうことも考えられます。ですので、何かツールを入れて終わりという目先のDXではなくて、職員の方々が持続して続けられるような取り組みにすることを重視しています。
また、NTTだからできることを道路管理業務に生かせるのか、という点も工夫しているところですね。令和7年度の取り組みで言いますと、道路のひび割れなどの点検について一般的には路面性状調査の車両を委託により走行させているかと思いますが、本事業ではドライブレコーダーのデータを活用して路面のデータ収集を行っております。業者に委託してしまいますと車両走行だけで自治体にコスト負担がかかってきてしまいますので、甲斐市さまと協力して日々地域内を循環している市バスや庁用車にドライブレコーダーを設置し、「ながら」で取得したデータを活用するようにしました。
当然NTTも日々通信インフラ業務でメンテナンス車両が地域を走っておりますので、市とNTTのリソースをシェアしながらデータ収集を行ってきた、というところになっています。
藤間:点検稼働をみんなでシェアリングして効率化していく仕組みは、NTTならではですよね。シェアリングという観点でいうと、周辺自治体との連携もご検討されていらっしゃいますか。
和田:道路は周辺自治体とつながっているので、同じデータを取得して解析するのであれば、隣接する複数自治体が一緒に取り組んだ方が効率的です。なので、周辺の韮崎市さまにご協力いただき、広域連携によるコスト削減効果の検証にも取り組んでいます。データ取得に関しては、甲斐市・韮崎市を横断で走行する路線バスによるデータ収集を行っています。
また、県道のデータも収集することから、山梨県さまにもアドバイザーとしてご参画いただいています。広域連携でのインフラ維持管理の第一歩といったところです。
櫻田:やはりNTTさまは長年インフラメンテナンスのDXも進めてきていらっしゃいますから、効率的なメンテナンス等のノウハウの経験が豊富ですし、地域のステークホルダーを巻き込みながら持続可能な仕組み作りをご提案いただいて、伴走していただけるということは非常にありがたいです。
藤間:これ以外で、甲斐市さまとNTTの取り組みで検討中のものはありますか。
橋本:道路占用に関する申請手続きのデジタル化も進めています。NTTを含めインフラ事業者が道路管理者へ道路占用する際の手続きを効率化するためのシステムです。自治体さまに使っていただくことで、我々も自治体さまもオンラインで占用手続きが可能となります。

その他には、NTTには通信インフラの駆けつけ保守のために地域を駆け回るNTT社員がたくさんいますので、地域を駆け回るNTTが建設課の職員の方に代わって道路の不具合や確認報告をすることで、住民通報ですとか大きな事故が起こる前に、予防保全的に対応するような仕組みづくりについても、検討を進めています。
藤間: 今後のインフラ維持管理メンテナンスのDXの取り組み内容について、予定や展望があればお伺いさせてください。
櫻田:今回の実証事業で得られたノウハウなどを生かして、将来的には他部署で管理しているアセットなども全て効率化につなげていければと思っています。また、今後、実効性の高い事業として、県内全域の連携ひいては全国の自治体でも検討していただけるようなモデルの創出を目指して、引き続き検証を進めていきたいと思っております。
藤間: NTTに期待することはありますか。
和田:これまでの共同検討においても、行政では収集しきれない最先端の技術や情報、またそれをわかりやすくご提案していただき、スキルの高さに感服しています。今後も同じインフラ管理者という立場であることから、効率的なメンテナンス方法など、さまざまなものをアドバイスしていただけるとありがたいです。また、NTTさまは多くの自治体とのつながりも強いことから、自治体間の連携に向けた架け橋として、課題解決に向けた事例や打開案等にもご協力いただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。
座談で話しているように、ツールの導入だけではなく、業務そのものを見直していくデジタルトランスフォーメーションを進めていくことによって、持続性のある取り組みにしていくことが非常に大事だと考えています。
【株式会社東設土木コンサルタント】点検支援技術の合理的な導入の提案~判定支援技術で広がる点検支援技術の活用性とDX化~
第3部に登壇したのは、株式会社東設土木コンサルタントの中川光貴氏。テーマは、変状抽出AIや判定支援技術を組み合わせた点検業務の効率化について。サービスを利用した自治体の事例解説も合わせて伺った。

【講師】
中川 光貴 氏
株式会社東設土木コンサルタント 事業推進部営業推進グループ グループマネージャー
20年前から画像計測やLiDARなどの新技術活用に取り組み、NEXCO、東京電力、大手民鉄などのトンネル・橋梁・ダムにおける新技術の実務経験を蓄積。点検支援技術やAIを活用した維持管理の合理化については、NEXCO総研およびキヤノンとの共同研究を通じて実務実装を行う。これらの知見をもとに、自治体への新技術導入の提案や支援にも従事している。
会社概要とこれまでの取り組み
当社は点検支援技術やデータドリブンなインフラ管理に力を入れています。点検支援技術の提案や導入支援は20年以上前から取り組んできました。特徴は、点検結果をアナログの記録として扱うのではなく、デジタルデータとして扱う点です。データの有効活用やDX化を前提に、点検・診断・記録のプロセス全体を改善する提案を行っています。

研究開発については、2015年度からキヤノンと共同研究を開始し、AIによる変状抽出などに取り組んできました。さらに2020年度からはNEXCO総研とも共同研究を進め、高速道路構造物におけるAIシステム活用の研究を行っています。こうした研究成果を、自治体の維持管理に活用いただく機会も増えてきました。

また、官民連携にも力を入れています。国や自治体で、点検支援技術やAI関連の業務、新技術導入支援などにも取り組んできました。自治体向けには、地元コンサルタントとの技術交流を含めた形で支援を行うケースもあります。

点検支援技術を巡る「負のスパイラル」
国の直轄では、点検支援技術の活用を原則化する取り組みが進んでいます。このねらいは、自治体での有効活用を促すこと、そして民間技術の開発を促進することにあります。
一方で現状を見ると、自治体側では「目に見える効果」を十分に見いだせず、活用が限定的になりがちです。民間側も発注が限られるためビジネスとして成立しにくく、単価を下げられない、技術が発達しにくいという状況に陥ります。その結果、点検支援技術やAI技術が割高な状態のまま使われるケースが増えます。さらに、有望な技術を持つ企業が維持管理市場から撤退し、イノベーションが衰退するという危機につながります。私自身、民間の立場として、この状況は想像以上に深刻だと感じています。

だからこそ、今は「新技術を導入するか、しないか」を議論する段階ではなく、「導入するためのやり方」を具体的に考え、実行に移す段階に入っていると考えています。
自治体ニーズの特徴は?
インフラメンテナンス国民会議に参加したところ、自治体ニーズには共通点が見られました。

点検支援技術やAIに期待はあるものの、効果を十分に見いだせていないこと、小規模橋が多く効果を実感しにくいこと、短期的なコスト縮減に関心が集まりやすいことです。
一方で、中小橋以上の橋梁を一定数保有していて点検車や高所作業者の削減を目指したい自治体もありますし、自営点検か外注点検か、維持管理予算の規模など、自治体によって異なる点もあります。ニーズの方向性は共通していても、自治体ごとの状況に応じて多様なバリエーションに対応する必要があるということです。また、短期的コストだけでなく、中長期的なコスト縮減もイメージしないと、新技術導入は進みにくいと考えています。
技術の「通行止め」を解消する
そこで私たちが提案している点検ソリューションのキーポイントは、「技術の通行止め」を解消することです。

これまでの点検支援技術は、現場で撮影し、AIでひび割れを抽出するなど、解析・記録の支援は進んできた一方で、判定や診断を支援する技術が十分ではなく、現場から調書作成までを総合的に合理化しにくい状況がありました。そこで、現場に合った撮影方法、多様な点検支援技術、損傷抽出AI、そして判定支援技術を組み合わせ、全体を合理化することをねらいます。
点検支援技術といえば「ドローン」というイメージが強いかもしれませんが、現場条件によっては、より安価に、安全に導入できる技術があります。例として3つ紹介します。1つ目は遠方自動撮影システムです。桁高さが大きい橋ほど効果を発揮し、点検車や高所作業者の削減にもつながります。NEXCOや国直轄、自治体で数百橋の活用実績がある技術です。2つ目はロープスキャンシステムで、河川横断橋など点検車やドローンの利用が難しい条件に適します。3つ目は流水自然流下撮影システムで、用水路にかかる小規模橋を上流から一括で点検する発想の技術です。

ここで重要なのは、一つの技術だけを導入しても根元解決になりにくいという点です。橋ごとに相性の良い方法をマッチングさせ、より多くの橋で活用することで、スケールメリットを高めていきます。
損傷抽出AIで信頼性と利便性を高める
次に損傷抽出AIの紹介です。当社はキヤノンとの共同研究をベースに、損傷抽出AI「インスペクションEYE for インフラ Cloud Edition」を活用しています。NEXCOでは3年間の試行を経て実務活用されていることから、信頼性の高い技術として位置づけています。

このAIは、ひび割れだけでなく、鉄筋露出など多様な損傷種類に対応しています。また、外観に特徴のある「はく離」を自動抽出し、浮きの可能性がある箇所を打音でスクリーニングするといった活用にもつながります。点検支援技術の合理的な活用に貢献できると考えています。

ばらつきと負担を根元から減らす判定支援技術
今回紹介している技術の目玉となるのが判定支援技術です。定期点検では「点検・診断のばらつき」と「点検の負担(記録の合理化)」が大きな課題とされています。判定支援技術は、この二つの課題を根本的に解決することを目指した技術です。

この技術はNEXCO総研との共同研究で実現したもので、点検支援技術で作成されたデジタル損傷図から、判定すべき箇所や範囲を自動で特定し、損傷程度を自動判定します。さらに部位・径間ごとの健全度を自動判定し、色分けして見える化します。最終判断は人が行いますが、その判断を支援する仕組みです。

この判定支援技術では、判定の根拠を客観的に示せる点も特徴です。ブラックボックスになりがちなAIの弱点を補い、技術者や自治体職員が納得して使いやすい形にすることを重視しています。根拠が示されることで、若手職員の教材としても活用でき、担い手不足の課題にも貢献できると考えています。

試行時のアンケートでも、性能面に関して前向きな回答が多く、判定の一貫性や効率性の観点でもポジティブな評価が得られています。

導入効果は短期・中期・長期で整理できます。短期的には点検支援技術の活用性向上に寄与します。中期的には、ばらつきのない判定が可能になることで、抜本的な対策検討に貢献します。長期的には、電子カルテをベースに信頼性の高いデータを蓄積し、劣化予測の精度向上やLCC最適化による大きなコスト縮減につなげることを期待しています。

大田区と協定を結んで行った実証実験では、個々の損傷判定や健全度について、技術者の判定と同様の判定が出ることが実証されています。また、自治体や直轄国道の橋梁などでも試行しており、適応性が高いことを確認しています。
小規模橋での成功例:熊本市の事例
次に、熊本市で新技術導入によって大きな効果が得られた事例を紹介します。用水路にかかる小規模橋を対象に、上流側からカメラを流下させて一括撮影し、下流側で回収する方法です。用水路延長3.7km区間の27橋を一括点検した場合、従来手法(54時間×2人)に対して、本手法(5時間×2人)という現場工数の縮減が示されています。内業を含めても、3~4割のコスト縮減が見込まれると整理しています。

成功のポイントは、橋梁間移動時間を大幅に削減したこと、そして最初から高品質なオルソ画像を作るのではなく、360度動画でスクリーニングして画像処理コストを抑えたことです。さらに、発注者側の工夫として、点検の発注ロットやサイクルを一度リセットし、技術の活用性を最大化した点も重要だと捉えています。
DXを進めるうえでの障壁:調書様式
合理化を進めるにはDXが必要になりますが、ここで大きな障壁になるのが従来の調書様式です。伝統的なアナログの損傷図や写真帳は、デジタルと相性が悪く、客観的な進行性の把握が難しい面があります。写真帳作成には手間がかかり、写真番号を損傷図に反映させる作業も負担になります。調書様式に縛られているとDXが進みにくいという問題意識です。
そこで、判定支援技術を活用し、調書を簡素化しつつ高度化する方向も提案しています。診断員の最終判定と所見以外は、自動化やコピー&ペーストで完了できる部分を増やし、調書作成時間を削減して、所見や診断に時間を充てる設計です。熊本市では新しい様式の採用が進み、大田区でも「技術を調書に合わせる」のではなく「調書を技術に合わせる」ことで合理化を進めています。さらに大田区では、電子カルテによる管理も視野に入れ、意見交換を進める予定だと整理しています。

合理化を進めるには、革新的な技術を待つだけではなく、その技術を最大限活かすための「やり方」の変革が必要だと感じています。技術単位の発注や発注数量の工夫、調書合理化、中長期的な視点での導入などは、先行事例がすでに出てきています。一方で自治体ごとに状況は異なるため、簡単に実現できるとは限りません。当社としては、技術やソリューションの提供に加え、技術マッチングや合理的な運用方法の検討、マニュアル整備、講習会など、導入の「やり方」まで含めた支援も行っています。何かあれば、遠慮なくお声がけください。
【鹿嶋市】道路管理におけるAI技術の活用について
第4部に登壇したのは、鹿嶋市都市整備部施設管理課の石神大地氏。AIを活用した道路損傷検知システムを導入した経緯や導入後の変化について詳しく解説してもらった。

【講師】
石神 大地 氏
鹿嶋市 都市整備部 施設管理課
令和2年4月に鹿嶋市役所入庁。水道課を経て令和5年度に施設管理課へ異動。道路補修・橋梁補修を中心に道路維持管理業務を担当。
鹿嶋市のインフラ状況と課題
鹿嶋市が市道として認定している道路延長は約980キロメートルあります。橋梁は99橋で、令和7年度時点で判定Ⅲの橋が2橋あります。横断歩道橋は2橋、トンネルは1基。このほか、法定外道路や法定外水路なども管理しています。市内のインフラは昭和30年代から昭和50年代に行われた「鹿島開発」により整備されたものが多く、整備から50年程度が経過し、老朽化が進んでいる施設が少なくありません。

道路維持管理の現状として、市民からの要望件数は年間1500~1600件程度あります。内容は、除草や道路路面の補修、不陸整正などが多いです。要望があった際には現地確認を行い、対応を決めていますが、全ての要望に対応するのは困難です。
その結果、どこを優先的に直すべきか判断しにくく、予算要求や事業計画をデータにもとづいて説明しづらい、将来の予防保全に結びつけにくい、といった課題を抱えていました。要望ベースで個別対応はしているものの、限られた人員・技術職員・予算の下で、道路全体を見渡した戦略的な維持管理がしにくかったのです。
AI導入の経緯と、公民連携の特徴
こうした課題を受けて、政策推進課からSmartCityXを通じて、公民連携事業として道路管理の課題解決ができるのではないか、という話が持ち上がり、AIを導入する運びとなりました。
その後、出光興産の担当者と複数回のヒアリングを行い、市の現状整理や課題の洗い出しを進めました。鹿嶋市のリクエストは「より簡単に、より多く、より広く、より細やかな道路パトロールを行うこと」「道路維持担当業務の効率化・省力化」「修繕レベル判断の非属人化」です。単に新技術を導入するのではなく、現場課題からスタートした公民連携であった点が特徴です。
課題に対する解決方法としては、出光興産グループが市内で運行しているLPガス配送車と、市が所有する公用車にスマートフォンを搭載し、日常走行の中で道路状況を撮影する仕組みを検討しました。さらに、その撮影画像をAIで解析し、道路損傷を検知できるシステムを組み合わせる構成としました。すでに毎日走っている車両を活用し、負担を増やさずにカバー率と精度を高める、という考え方です。
実証実験の方法
このコンセプトを検証するため、実証実験を行いました。

期間は2022年11月19日から2023年2月14日までの約3カ月間です。車両はLPガス配送車3台、公用車5台(総務課所管)を使用。システムはUrbanX Technologiesの「Road Manager(RM)」を利用し、ポットホールなどの道路損傷検知、位置と写真を帳票として出力する機能、損傷数を可視化する路線評価などを活用しました。加えて、損傷部だけでなく全ての写真を確認できる連続撮影機能のオプションも使いました。
評価項目としては、パトロールのカバー率が高まるか、損傷発見箇所数が増えるか、簡易補修箇所数が増えるか、職員の現場確認回数が減るか、の4点を設定しました。新規事業ではロジックモデルを作成する運用のため、KPIとして位置づけ、導入効果を客観的に確認できるようにしています。
実証結果①カバー率の向上
実証結果の1つ目は、パトロールカバー率の向上です。実証実験では、LPガス配送車と公用車それぞれで60%程度、合算すると80%程度までカバー率が向上しました。月1回しかパトロールできていなかった箇所を複数回実施できるようになり、面的なカバーと頻度の両方が改善した点が成果でした。

実証結果②ポットホール発見数の向上
2つ目は、ポットホールの発見数向上です。カバー率が上がったことで、見過ごされていたポットホールを新たに発見できるケースが増えました。また、Road Managerによる検知が増加したことで住民通報が減少した、という結果も得られました。住民から指摘されてから直す受け身の対応から、市側が先に損傷を把握し対処する方向に近づいたと捉えています。

実証結果③簡易補修箇所数
3つ目は、簡易補修箇所数です。令和4年度は外注業者パトロール起因の大幅な減少がありましたが、その背景として、令和3年度は鹿島神宮周辺を集中的に補修しており、補修件数が特に多かったことが挙げられます。また、Road Manager検知後に職員が対応を実施した点も整理しています。こうした要因を踏まえると、増加傾向は見られるものの「はっきりと増加した」という結果までは得られませんでした。

実証結果④職員の現場確認回数の減少
4つ目は、職員の現場確認回数の減少です。連続撮影機能で要望箇所の写真を確認できるため、現地に行かなければならない回数を減らすことができました。住民通報を受けたら、まずRoad Manager上で該当箇所の写真がないか確認し、写真から状況が分かり対応指示可能なものは現地確認を省く、という流れに変更しました。資料では、実証期間3カ月で40件の現場確認を削減し、合計90時間の削減につながったと整理しています。

結果を整理して効果があることを確認したため、導入するにあたり費用を精査し、既存予算で対応できるか検討しました。本格導入時はLPガス配送車3台と公用車2台での導入とし、効果を見ながら適切な台数を検討する形にしています。
効果と活用の広がり
導入後に実感している効果として大きいのは、道路の損傷状況が可視化されたことです。どこにどの程度の損傷があるかを地図上で把握でき、職員間で共有しやすくなりました。過去の状態が記録として残るため、現在との比較ができ、損傷の進行具合も把握しやすくなりました。検知感度が高いことから、検知数に比べて実際の損傷件数が少ない場合もありますが、見落としを減らすという意味では一定の効果があると捉えています。
活用例として、施設管理課では、カーブミラーなど道路付属施設が損傷していた場合に連続撮影機能を使うことで、損傷時期をある程度の期間まで絞り込めるようになりました。過去に発見した軽微な損傷についても、現場へ頻繁に行かずに進行具合を確認できるようになっています。
また、他部署の例では、交通防災課が空き地の雑草繁茂状況を確認する業務で、道路状況を撮影している画像を用い、空き地の状況を判断材料とする取り組みがあります。道路データを、道路以外の行政課題にも転用できている点は特徴の一つです。
予防保全型へ移行するために必要だと感じていることは、現在の状況を可視化すること、公民連携事業やDX・業務見直しを進める部署の協力を得ること、過去の補修履歴や改良時期が不明なケースが多いためデータを整理すること、そして既存事業の中でやり方を変えることで移行できないか検討することです。
【株式会社システム計画研究所】スモールステップで始めるAIひび割れ点検~AI導入の検討から実証、予算化までを20分で俯瞰する~
第5部に登壇したのは、株式会社システム計画研究所の井上由香氏。AIによるコンクリートのひび割れ検出エンジン「ひびここ」を例に、現場の担当者が道路・橋の点検の自動化へと踏み出せるような話を展開してもらった。

【講師】
井上 由香 氏
株式会社システム計画研究所 事業本部 シニアエキスパート
1977年創業より科学技術系ソフトウェア開発に特化し、経営陣を筆頭にものづくりエンジニアで構成される株式会社システム計画研究所にて、ソフトウェアおよびシステム開発に従事。画像処理事業化、AIシステム事業化の推進を通じ、多様な現場にて画像処理とAIを活用したシステムの実用化を実現。現在のテーマは、「ロボティクス技術とAIの融合」。
「ひび」を見つけるAIは、何を学習しているのか
本日は、道路や橋梁など、これまで日本の産業や生活を支えてきた社会基盤の劣化の一つである「ひび」を見つける製品として、当社のAIひび割れ検出エンジン「ひびここ」を紹介します。人が手作業でカバーしてきた部分を、どう仕組み化・自動化していくのか、その考え方と進め方を共有します。

「ひびの検出」と言うと特別なことのように聞こえるかもしれませんが、コンピューターやAIの立場からすると、「ひび」と「ひびではないもの」の違いは、最初から明確に分かるわけではありません。そこで重要になるのが、AIに「見つけたいものの特徴」を教えることです。ひびここは、もともと画像の特徴を捉える力を持ったAIに対し、コンクリートのひび割れを学習させることで作った検出エンジンです。
例えばコンクリート面では、「ひび」と「目地」のように、線としては似て見えるものを区別したい場面があります。従来の画像解析でエッジ抽出を行う方法では、かえって難しくなることもあります。一方、人間は見た瞬間に「これは人工的な目地」「これは劣化によるひび」と判断できます。つまり、人間は経験にもとづく複数のルールで無意識にフィルタリングしており、パターンマッチングだけでは拾いにくい劣化を見つけています。そうした、人間の判断に近い形で劣化を拾い上げる点で、AIは有効だと考えています。
また、劣化は「どこにあるか分からない」ことが前提です。そのため網羅的に見る必要があり、それを人間の目だけでやり続けるのは難しい、というのが現場の課題だと捉えています。では、どう自動化するか、そして役に立つAIをどう構築するかが重要になります。
ひびだけではなく、画像から「劣化」を見つけるひびここは、コンクリートのひび割れ検出に使えるだけでなく、静的構造物の劣化を画像から見つける考え方に展開できます。実際に、建物のひびやアスファルトの劣化など、ひび割れに限らず適用できる前提で設計しています。
アスファルトに適用する場合も基本は同じで、画像を入力し、劣化箇所を抽出できるようにします。そのうえで次に重要になるのが「どう撮るか」です。つまり、目を何にするか、カメラを何にするか、どの条件で撮るかという設計が、実用化に直結します。
道路版ひびここでは、車両にアクションカメラとGPSを搭載し、走行しながら路面を撮影します。撮影データをアップロードすると、クラウド側でひび割れ箇所を検出し、結果を画面で確認できるようにします。点検ルートと撮影位置が分かる形で表示し、区画ごとの評価を出すことで、場所と劣化状況を紐付けて見える化します。さらに、要望に応じて帳票としてダウンロードできる形にもします。


ここでお伝えしたいのは、AIで劣化を見つける場合、「①何を見つけるのか」「②どう撮るのか」「③どう出すのか(画面・紙)」を分解して設計する必要があるという点です。入力と出力を整理し、組み合わせていくことで、初めて実用的なシステムになります。
この道路版の仕組みは、高速道路のように大型の検査車両や精密機器を入れて定期的に検査できる環境ではなく、いわゆる生活道路など、大掛かりな設備による検査が難しい道路でのアプローチとして位置づけています。まずは画像で見つけ、問題がありそうなら人が見に行く、という流れにすることで、完全な自動化が難しくても、点検の高度化につなげたい、という考え方です。
ひびここ提供形態
道路のように「走行しながら撮る」以外にも、使い方はいくつかあります。例えば工場内の床など、車両が走らない場所の劣化を見たい場合には、自律移動体に小型のコンピュータを載せ、現場で検知まで行う、いわゆるエッジコンピューティングの形も考えられます。現場で劣化を見つけ、必要な場合だけ通知・レポート化することで、人とロボットの作業分担が可能になります。

また、ドローンやタブレットで撮影した画像をクラウドにアップロードして解析し、結果を返す形もあります。予兆を見つけたいのであれば、一定間隔で、一定の撮り方で、一定の航路で撮影し、画像を蓄積して分析する、といった運用が現実的です。問題が起きてから現地に行くのではなく、経過観察しながら必要な対処を行う、という予防保全の考え方に近づけることができます。
進め方は「スモールステップ」が基本
ここまでの話を少し抽象化すると、進め方はスモールステップが基本だと考えています。課題が複数ある場合でも、一度に全部を解こうとせず、課題ごとに「この撮影方法・このデバイスで解決できそうか」を検証します。次にPoC(概念実証)として、短い区間や特定区画で試し、運用上の問題(時間帯の影響、路上駐車で撮れない等)が見えてきたら、カバーする運用設計や機材調整を行います。そのうえで実用システム化し、運用まで設計する、という流れです。

システム化では、人間のようにどんな状況でも柔軟に対処することは難しいため、やることを落とし込み、簡単な単位に分解する必要があります。一方で、システム化のメリットは、基準を共通化し、同じ基準で繰り返し実行できる点にあります。点検や予知保全は、その性質と相性が良い領域です。

また、AIが得意なことと、人が決めるべきことも切り分けます。ひびここは「ひびを見つける」ことはできますが、「どの長さなら修復が必要か」といった判断ルールは知りませんし、そこは人が決めればよい部分です。AIの出力を、ビジネスロジック(判断基準)で切り分けて運用に落とし込むことが重要だと考えています。
弊社は、道路・橋梁に限らず、ドローンや画像解析を用いた監視、設備の劣化点検、ロボットによる交通警備など、さまざまな領域で同じ進め方でシステム化を実現してきました。

道路は規模が大きく、データ取得の手段も一種類ではありません。その中で、ソフトウェアやAIの面で、少しでも力になれればと思っています。何か一緒にできそうなことがあれば、お声がけください。
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ジチタイワークス セミナー運営事務局
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