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低金利融資の仕組みで、企業の進める脱炭素化を資金面から促していく。

金融機関とともに企業の脱炭素化を後押しする仕組み
京都府は条例にもとづく既存制度を準用し、「サステナビリティ・リンク・ローン(以下、SLL)」の仕組みを構築。同府が設定した目標の達成で金利が優遇され、融資の下限額もないため、利用する企業が増えている。
※下記はジチタイワークスVol.41(2025年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

京都府
総合政策環境部
脱炭素社会推進課
副主査 興津 良介(おきつ りょうすけ)さん
補助金制度や専門家派遣だけではアプローチできる範囲が限られる。
2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指している同府。その中間目標として、まずは2030年度までに平成25年度比で46%以上の削減を掲げている。これらの目標を達成するためには、府内企業の大半を占めている中小企業の脱炭素化が欠かせない。しかし、実際には思うように進んでいなかったという。「必要性は感じていても“何をすべきか分からない”“投資コストを負担に感じる”という声は少なくありません。補助金制度や専門家派遣などを行ってきましたが、支援先は年間で数十件から100件程度にとどまるため、多くの中小企業にアプローチすることに限界を感じていました」と、興津さんは語る。
そこで注目したのが、幅広いネットワークや営業力をもつ地元の金融機関だ。「金融機関から顧客である中小企業に働きかけてもらおうと考えました。顧客が脱炭素経営を行い、経営基盤を安定させることは、金融機関にとってもメリットが大きい。しかし、中小企業の脱炭素化を支援する重要性は理解していても、どうアプローチすべきか分からないという課題を抱えていたようです。互いに方向性が一致しており、連携はスムーズでした」。
どのような支援が可能かを探るため、まずは府内に本店を置く4行に協働を呼びかけたという。加えて、多数の会員企業を抱える経済団体や行政など、様々な関係団体を交えて検討を開始。令和5年1月に構築したのが「京都ゼロカーボン・フレームワーク」だ。


金融機関からの声をヒントにして中小企業が使いやすい形に徹底。
同フレームワークではSLLの仕組みを活用。同府が事前に環境目標を設定し、それを企業が達成すると金利優遇が受けられる。検討を重ねる中で注目したのが、“中小企業にとって使いやすい仕組みであることが大切”という金融機関の声だ。
この意見を反映し、SLLの組成時に必要な第三者機関の認証費用が不要となるよう工夫したという。通常のSLLにおいては、企業が掲げた環境目標が野心的な数値になっているかなどを第三者機関が審査するが、この認証には数百万円の費用がかかる。そこで同府では、条例にもとづく「事業者排出量削減計画・報告・公表制度」を準用。「本制度は、大企業を中心に削減計画の提出や実績の報告などを義務付けるもの。中小企業が同等の目標を目指せば十分に野心的だと評価できます。これを準用することで、当府が審査を代行し、認証費用をかけずにSLLの組成が可能になったのです」。また、同フレームワークでは認証費用が発生しないため、融資額の下限がないという点も、メリットの一つだ。これにより、中小企業も使いやすい形になっている。
融資を希望する企業はまず、排出量削減計画書や基準年度の排出量算定シートなどを記入して同府に提出。審査を経て、実績を報告する際に目標の達成が確認されると金利優遇というインセンティブが付与される流れだ。「算定シートに電気やガソリンなどの使用量を記入するだけで、簡単に自社の二酸化炭素排出量を算出することができます。まずは排出量を測ることで、何をすれば減らすことができるのかを考えられるはずです。減らすことは意外に難しくないと気づくきっかけになるのではないでしょうか」。

“小さな工夫”の積み重ねが排出量を減らす大きな力に。
融資件数は順調に増えていき、令和7年8月時点で149件に達している。令和5年度の排出量は基準年度排出量(※1)と比べて、利用企業全体で12.9%削減された。各社は電気プランの見直しや、蛍光灯をLEDに替えるなど、身近な取り組みなどで成果を上げている。
利用した企業からは、“コストを抑えてSLLに挑戦できた”“環境問題に関心の高い人材の採用につながった”といった声が届いているという。また、金融機関からも“従来は、サステナブルファイナンス(※2)に関する専門部署がなかったが、この取り組みを通じて、その分野における支援体制を構築できた”“顧客との結び付きが強くなった”といった声が寄せられているそうだ。なお同府では、利用した企業の優良事例を取材して同府のホームページで発信している。「経営者からは“他社の取り組みが参考になる”という声を聞いています。今後も事例を発信し、府内の機運醸成につながればと考えています」。
着実な成果を出しているが、興津さんは先を見据えている。「最終的な目標は府域のカーボンニュートラルです。まだ排出量の削減状況にばらつきが見られ、目標が達成できていない企業もあります。今後は当府からのフォローアップをさらに強化していく予定です」。
※1 過去3カ年度の平均または前年度の実績(企業の状況により判断)
※2 環境や社会に配慮した投資・融資のこと












