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高校生主体でイベントを企画し、アートの役割を実践的に学ぶ。

実践型アートイベントによる次世代リーダーの育成事業
文化芸術が地域活性に寄与するには、次世代を担うリーダーの育成が不可欠だ。富山県では、高校1・2年生を対象に、アートの理解を促すだけでなく、自らイベントを企画し、運営できる人材の育成に取り組んでいる。
※下記はジチタイワークスVol.41(2025年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

富山県
教育委員会 生涯学習・文化財課
主幹 小川 理香(おがわ りか)さん

富山県
教育委員会 生涯学習・文化財課
主任 髙瀬 光絵(たかせ みつえ)さん
次世代のアートリーダーを育て文化芸術で地域活性を目指す。
輝くとやま未来文化リーダー育成事業「アートのちから」を、令和3年度からスタートさせた同県。事業の立ち上げに携わった小川さんは、当時を次のように振り返る。「文化芸術を取り入れて地域を盛り上げるという試みが、近隣の自治体で増えていました。当県でも新規事業を検討する中で、特にアート分野で先導的な役割を担う人材の必要性を感じていたのです」。
しかし、人材育成に目が向けられやすいスポーツ分野に比べて、文化芸術分野では取り組みが進んでいない現状があった。そこで小川さんは、若い世代に向けた事業として、県内の高校1・2年生を対象に、企画力や創造力を磨く2日間のプログラムを組み立てた。“すぐに結果を得られなくても、取り組む意義がある”という思いを財政課に伝え、予算化を実現。「将来的には、地域活性につながる行事を担う人材になってほしい。まずはその種まきという意識でした」。
プログラムではアート分野の専門家による講演のほか、彫刻家や陶芸家といった、地域の作家を訪ねるフィールドワークを実施。そこで得た知識をもとにグループワークを行い、イベント企画に落とし込むという内容だ。参加した生徒からは、富山の自然とアートを結び付けるなど、様々なアイデアが出たという。
「アートを身近で参加しやすく、地域住民が楽しめるものに変える。そんな人材に育ってほしいと考えたのです」。


生徒の声がきっかけで実践的なプログラムに進化を遂げる。
令和4年度から事業担当を引き継いだ髙瀬さんはこう話す。「当初企画した内容は、各学校へもち帰るという形式でした。しかし、学校を巻き込んで、自らが企画したイベントを実現するとなると、現実的には難しい部分があります。参加した生徒からは、“実践する方法が分からない”という声が寄せられていました」。
そこで令和5年度からは、約半年の期間で5回集まる形式に拡大。5~6人で一組のグループに分かれ、アートを使った企画立案と準備を進めた上で、5日目には実際のイベントを開催するというものだ。まずはアートやイベント企画への理解を深める講義を受け、そこから実践に向けたグループディスカッションを重ねていく。材料の選定や試作を含め、本番に向けた最終準備やリハーサルなどを、生徒主導で行うという。
一方で、事務局側の苦労もあるようだ。「準備の過程で、“この会社の、この材料を使いたい”とリクエストがあると、取り寄せの調整が大変なこともあります。それでも、生徒の自由な発想を応援したいという気持ちで取り組んでいます」。
また、同事業の企画・運営には、富山大学芸術文化学部の協力も得ているという。学部の教員からの助言に加え、各グループに1人大学生が入り、リーダーとして進行を支える。「テーマの設定や、イベントの進め方に悩み、本番ギリギリまで最善の方法を探っている姿を見ると、準備期間中は苦しい思いをしているのがよく分かります。試行錯誤を重ねる中で生徒たちもどんどん真剣になり、イベントが終わる頃には全員がとてもいい表情をしているのが印象的ですね」。

アートを学んだ次世代の人材が富山を文化芸術で彩る未来へ。
学校という枠を超えて主体的にイベントを企画し、実践までやり切る。参加した生徒にとって、一連の経験で得るものは大きい。「イベントでは、グループごとに趣向を凝らしたテーマで、来場者にアートワークショップを体験してもらいます。例えば、ミサンガづくりを実施したグループでは、色の組み合わせで富山ゆかりのものを表現し、体験に来た人にその意味を伝えることで、地域の文化に触れてもらっていました」。こうした経験は生徒たちに、アートを学ぶ意味や、アートが地域交流の手段となることを肌で感じてもらう機会になるだろう。
さらに、過去に参加した生徒が同大学に進学し、サポート役として関わるケースも出ている。チームを支える立場になることで新たな学びがあるなど、育成の成果が出はじめているという。
イベントに来場し、ワークショップを体験した人からは、“楽しかった”“社会をよりよくする可能性を広げると思う”といった声が寄せられたそうだ。「アートに関する事業に興味を示し、参加してくれる生徒が増えているのはうれしい限りです。来場者の声からも、本事業がアートに触れるきっかけや、世代間交流の機会になっていると感じます。今後も多くの人材が活躍してくれることを願います」。













