公開日:
【セミナーレポート】自治体の情報政策の今がわかる!3日間2025 ~ジチタイワークス・スペシャルセミナー~ [Day1]
![【セミナーレポート】自治体の情報政策の今がわかる!3日間2025 ~ジチタイワークス・スペシャルセミナー~ [Day1]](/_next/image?url=https%3A%2F%2Fstatic.jichitai.works%2Fuploads%2Farticles%2F2025-09-19-16-19-44_%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB_%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%AC%E3%83%9DDay1.png&w=3840&q=85)
2030年問題を見据え、自治体DXが急加速しています。生成AIの活用、システム標準化、ガバメントクラウド、セキュリティポリシーガイドラインへの対応、などなど。今では情報部門をはじめ、原課の職員にも一定のリテラシーが求められるようになっています。
そうした流れを踏まえ、今回のセミナーは“自治体の情報政策”をテーマに開催。国や先進自治体の動きを共有しつつ、有識者、DXを応援する事業者が集い、今後の自治体のあり方について意見を交換しました。当日の内容をダイジェストでお届けします。
■タイトル:自治体の情報政策の今がわかる!3日間
2025 [Day1]~ジチタイワークス・スペシャルセミナー
■実施日:2025年6月25日(水)
■参加対象:自治体職員
■開催形式:オンライン(Zoom)
■申込者数:194人
■プログラム:
第1部:地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化について(デジタル庁 地方業務システム基盤チーム)
第2部:個人番号利用事務系や、α´モデルごとのファイル授受対策をご紹介(株式会社CYLLENGE)
第3部:α´モデルの本質を読み解く!~AI時代に適応するためのステップ~
第4部:最近の被害事例から紐解く今必要なランサムウェア対策とは?(サイバーリーズン合同会社)
第5部:【対談】ガバメントクラウド先行事業の成果と今後の展望(愛媛県宇和島市・KUコンサルティング)
地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化について
第1部では、デジタル庁の自治体システム標準化担当者が登壇。システム標準化の経緯や概要などについて、最新動向も含めて各自治体が把握しておくべきポイントを分かりやすく解説してくれた。
[講師]
千葉 大右 氏
デジタル庁 地方業務システム基盤チーム
プロフィール
元船橋市役所職員。電子行政推進課で基幹系システムの庁内SEを経験後、船橋駅前総合窓口センター、戸籍住民課、情報システム課に異動。2023年3月に船橋市役所を退職し、同年4月から現職。
システム標準化における、これまでの施策との違いについて。
私からは、自治体の基幹業務システムの統一・標準化について、直近のできごとを中心にお伝えします。
まず統一・標準化の概要・経緯について、重要なポイントを紹介します。標準化において、これまでの自治体クラウドなどの共同化と大きく違うのは、法律があるという点です。令和3年に標準化に関する法律が成立・施行され、これにもとづいて進めています。特徴的なのは、標準化基準に適合したシステムを使うことが自治体の義務とされた、という部分です。ちなみにガバメントクラウドについては努力義務となっています。
-1_P04.jpg)
対象業務がなぜ20業務なのかというと、以前から取り組んでいた「地域情報プラットフォーム」、「中間標準レイアウト」で示されているユニットがあり、この中から17業務をピックアップして標準化がスタート。その後3業務を足して20業務となったということです。過去から進めてきたものがベースになっている、とご認識ください。
標準仕様書についても、機能・帳票要件が書かれている仕様書は、制度所管省庁において検討されることになっています。一方、データ要件、連携要件といった共通の事項についてはデジタル庁と総務省が検討する、という役割分担です。
標準化を進めるにあたっては、移行支援をしています。基本的に自治体の窓口は総務省で、デジ庁は総務省と連携し、主に技術的支援に注力。自治体だけでなくベンダーからのヒアリングをすることもあります。
-1_P13.jpg)
事業者協議会も立ち上げ、ベンダーや制度所管省庁、APPLICやJ-LISなどの関係団体、JISAやJAHISもまじえて情報共有を図っています。
次は基本方針について。昨年12月の改定で1番大きな変更は、「移行困難システム」と呼んでいたものを「特定移行支援システム」とし、対象も改めた点です。多くは事業者のリソースのひっ迫による、ということが分かったので、所要の移行完了期限を設定し、5年以内に標準準拠システムに移行できるよう積極的に支援します。また、移行後の経過措置も新たに設けています。さらに、移行後の安定的な制度運営に向けた標準仕様書改定ルールも基本方針に反映しました。経過措置の適用フローは以下の通りです。
-1_P20.jpg)
直近の変更点と、自治体に向けたアドバイス。
ここからは直近の変更点についてお伝えします。まず“データ要件・連携要件”です。
標準化前はシステムによってデータがバラバラでしたが、データ要件によって項目名やデータの持ち方を一意にできます。これによって円滑なデータ移行、データ連携が可能になったといえます。
-1_P28.jpg)
ただし、これで連携が自動的にうまくいくのではなく、細かい調整が入ります。例えば、履歴の持ち方。遡って更新することもあるので、更新した日時で履歴を積むか、もしくは遡った日付で積んでいくのか、各社で方法が異なります。
今回の要件の中ではそこまで詳細に規定していないので、この辺りの調整を事業者間で進めている段階です。
また、都道府県における独自統計は、標準化されてしまうと必要なデータが出なくなる可能性があります。市区町村の標準準拠システムから必要なデータが出力できるかどうかを確認いただき、都道府県と市区町村で協議して、集計方法の見直しなどについて検討いただきたいと考えています。
-1_P47.jpg)
次は文字要件です。
現在、同定に取り組んでいる最中かと思います。デジ庁の同定手順書や支援ツールを使って進めていただくことになっていますが、できないものについては、当庁に所要の手続きをしていただければと思います。
また、広報資材も用意しているので、これまでのベンダー文字から変わる自治体があれば、住民向けのアナウンスに活用いただければと考えています。
直近で一番大きく動いた、運用経費問題の最近の動きについて説明します。この課題については1年以上前から相談があり、デジ庁も認識していたところです。今年の4月、デジタル行財政改革会議で総理指示があり、本課題について具体的に対策を検討することになりました。
4月以降、協議会やワーキングチームが実施され、関係者へのヒアリングを経て、総合的な対策がまとめられています。
-1_P55.jpg)
総合的な対策の中ではこうした形で国や都道府県、市区町村だけでなく、事業者にも期待される取り組みを示しています。こちらは6月13日のデジタル行財政改革会議の資料に詳しく記載されています。
最後に、デジ庁のWEBサイトでは、先行団体の事例から得られた移行作業における留意事項を紹介しています。標準化担当だけでなく、業務所管課においても活用していただきたいと考えています。ヒアリングの内容を忠実に記載しているので、ぜひご参照ください。
個人番号利用事務系や、α´モデルごとのファイル授受対策をご紹介
三層分離でネックとなるファイル授受の問題。本パートでは、この分野に詳しい事業者がα´モデルの3つのパターンを取り上げ、それぞれに合わせた解決方法を同社ソリューションの機能とあわせて解説する。
[講師]
松部 浩貴 氏
株式会社CYLLENGE
営業本部 コンサルティングセールス部 セキュリティソリューション課
情報処理安全確保支援士
プロフィール
2011年に、株式会社プロット(現:CYLLENGE)に入社。製品販売に長年携わり、顧客の課題解決に従事。製品開発・バージョンアップにも関わり、コンサルティングセールスを担当。
α´における3つのモデルケースとそれぞれの違い。
当社は、企業や団体間のコミュニケーションをセキュアに行なうためのセキュリティソリューションを開発しているメーカーです。オンラインストレージや、インターネット接続系とLGWAN接続系のファイルの交換、無害化のソリューションを開発する国産メーカーとして事業を展開しており、500以上の公的団体で導入いただいています。
ここでは、令和7年3月の改定ガイドラインで記されていた、マイナンバー利用事務系からのファイルの持ち出しについての話と、α´モデルのモデルケースごとの課題についてお伝えします。
-2_P06.jpg)
まず、マイナンバー系からのファイルの持ち出しについて。従来はUSBメモリなどの記録媒体を用いた手法が多かったのではと思いますが、これが原則禁止になりました。従って、それに代わる安全性が確保されたファイルの持ち出し手法を考えていく必要があります。この課題に対するソリューションを紹介します。
当社の「Smooth Fileネットワーク分離モデル」は、自治体の第1次ネットワーク強靭化の2016年にリリースし、500以上の公的団体で導入いただいている、ファイル交換と無害化ができるシステムです。3セグメント対応という機能があり、三層間でファイルを移動させる場合に利用できる仕様となっています。
インターネット系からLGWAN系への移動は無害化する。逆の場合は無変換。インターネット系からマイナンバー系への移動は禁止する、といったルール設定ができ、1台で3セグメント間を対応可能です。個人情報のフィルタリング機能も用意しています。
-2_P07.jpg)
次に、自治体で検討されているα´のモデルケースについて。
モデル1は、LGWANからインターネットに出て行ける状況で、認証とウイルス定義ファイルの取得のためだけにクラウドサービスを利用する構成です。WEB会議やメールなどのアプリケーションは利用しない前提となっています。
モデル2は、モデル1に加えてWEB会議とメールのツールも使える、アプリケーションを利用できるようにするというものです。ただし、LGWAN系にファイルをダウンロードするという部分は制限されています。
-2_P13.jpg)
そしてモデル3は、モデル2に加えファイルのダウンロードも可能にするという考え方です。ファイルを取り込む際には無害化のセキュリティ対策が必要になるので、それをどのタイミングで実施するのかが重要になります。
各モデルケースに対応したツールでセキュリティを構築。
ここで、当社ではこれらのモデルケースごとに、どのような対策を提供できるのか紹介したいと思います。
ファイル授受の対策では「Smooth File」というオンラインストレージのサービスや、前述の「Smooth File ネットワーク分離モデル」、メールについては誤送信対策や、脱PPAPができるソリューション「Mail Defender」があります。
また、ファイルの無害化では「Fast Sanitizer」、さらにその他対策として「File Defender」というエンドポイント型のパソコンに常駐する無害化ソフトも用意しています。
では実際に、各ソリューションがモデルケースごとにどう活用できるのか紹介します。
モデルの1のケースでは、現在αモデルを利用している自治体であれば、特に大きな変わりはありません。メールを送る際は、LGWAN側で振り分けのメールサーバーがあれば、そこから「Mail Defender 誤送信防止アプリ」と「Smooth Fileネットワーク分離モデル」を使って添付ファイルを自動的にURL化し、外部から入ってくるメールに関しては、「Mail Defender 侵入防止アプリ」で添付ファイルを無害化。「Mail Defender」で原本を保管して、無害化した添付ファイルはLGWAN側のメールサーバーで見られる形になります。
-2_P17.jpg)
モデル2の場合、メールの送信に関しては脱PPAPを想定して、モデル1と同じ流れで添付ファイルをURL化する仕組みで送信できます。注意点として、メールを受信した際の添付ファイルは原則としてLGWAN側への直接受信は禁止と想定したモデルなので、添付ファイルがある場合はインターネット系からダウンロードしてファイルを持ち込む流れになります。
-2_P18.jpg)
そしてモデル3。メール送信に関しては同じ流れですが、受信メールの添付ファイルをLGWAN側にダウンロードするのが大きな違いで、その際に無害化を行うのが「Fast Sanitizer」というソリューションです。
ローカルブレイクアウトをする際、添付ファイルとは別にWEB会議のシステムなどからダウンロードが発生した場合、「Fast Sanitizer」という無害化エンジンで、ゲートウェイ機器と連携させ、ファイルを無害化してLGWAN側のパソコンにダウンロードできるようにします。職員は何も意識することなくファイルをダウンロードできます。ゲートウェイ機器との連携機能は令和7年夏にリリース予定です。
-2_P19.jpg)
最後に当社では、外部とのファイル授受対策、ランサムウェア対策、ローカルブレイクアウト対策、PPAP対策、という4つのポイントで様々なソリューションを用意しているので、興味などあればぜひお問い合わせください。
α´モデルの本質を読み解く! ~AI時代に適応するためのステップ~
第3部は、α´モデルの先駆者として知られる由利本荘市からの情報共有。担当職員が、同モデルを採用した経緯や、情報セキュリティ対策における基本的な姿勢など、当事者ならではの考えもまじえて語ってくれた。
[講師]
今野 薫 氏
秋田県 由利本荘市
秋田県後期高齢者医療広域連合へ派遣・併任、情報処理安全確保支援士
プロフィール
2010年、由利本荘市役所に入庁。観光部門を経て2012年度より2023年度まで情報システム部門・DX部門。12年に渡り、行政のデジタル化を全般的に担当。2024年度より市民課付、秋田県後期高齢者医療広域連合業務課へ併任派遣。業務班長職のほか、業務システムや情報セキュリティシステムの全面更改を担当。
将来に向けた危機感から、自然な流れでα´モデルを採用した。
私からは、表題の通り、そもそもα´モデルとは何なのかということについて、政策的な話としてお伝えします。
当市は大都市圏からの時間的距離が長く、行政の実態としては火の車です。多様といいつつ選択と集中ができていない。自然が豊かですが、地形が複雑で移動効率が悪く、施設の最適配置にも苦労していて、都市の経済力がない。そうした中で人口が減っていき、職員のリソースもスキルもジリ貧です。
-3_P07.jpg)
そこで、このままではいけないという危機感のもと、産業も資源もないのでITで何とかするしかないと、デジタル化を進めてきました。平成25年にCIO体制を立ち上げ、随契慣行の見直しや、各種デジタルツールの導入など色々とやってきて、それなりに成果も出ています。
ただし、これで盤石ではない。個別の取り組みが空回りしている感がありました。どうやら問題はデジタル技術ではなく、組織風土・カルチャーにあるのではないかと考えざるを得ない。つまりはトランスフォーメーションが大事だということです。そこで働き方改革に目を付け、M365を入れることになりました。
-3_P11.jpg)
こうした動きに伴いα´モデルを導入したのは、コロナ対応としての、テレワークの文脈です。テレワークの職員と庁舎とで情報共有ができないといけない。ただしテレワークの導入にあたっては、単に庁内システムが使えるだけでは不十分で、コミュニケーション変革が必要。それは必然的にインターネット経由になります。LGWANは外部にひけないので、おのずとパブリッククラウドのシステムになる。そうやって最新のデジタル技術をテコに組織を変えていこうという隠れた意図がありました。テレワークはその結果の副産物である、という考えです。
-3_P12.jpg)
ここで考えなければいけないのがセキュリティ対策。そもそもセキュリティというのはリスクマネジメントです。そしてリスクというのは、経営を脅かすかどうか。つまり、セキュリティだけを追求するあまり、経営が立ち行かなくなるようでは本末転倒なのです。だからこそ、今の時代にαモデルで閉じこもっていてはいけない。これがガイドラインからもメッセージとして読み取れます。何のためのクラウド・バイ・デフォルトなのかを考えなければいけないのです。
α´は正解ではなく、自治体の選択肢の1つである。
そもそも何のためのガイドラインかという話ですが、私が“モグラたたきの罠”と呼んでいる現象があります。例えば自分の畑にモグラが出て困っている時、人はすぐにモグラたたきの手法について議論します。しかし本当に考えるべきことは、畑の収益を減らさないことです。モグラたたきよりももっと効果的な手法があるかもしれません。
α´モデルの話をすると、多くの人が「EDRは必要か」、「監査はどうするか」といった話を始めるのですが、その前にセキュリティとは何か、ローカルブレイクアウトによってどういう効果をねらっているのか、そこをきちんと考えましょう、ということです。
-3_P26.jpg)
セキュリティというのは経営上の投資であり、ただのコストではない。どうしてα´なのかを考える時は、クラウドサービスを使いたいから、コストを抑制したいから、セキュリティと両立したいから、といった総合的な観点からモデルを構築する。それを全部やろうと知恵を絞った結果がローカルブレイクアウトです。私がこの事業を担当した時、α´モデルという概念は存在せず、ガイドラインにもなかったので考えた訳です。
だから、当市の話を聞いて「α´もうちには合わない」と思ったら、ガンマモデルとかデルタモデルを考えてもいい。何か妙案があるかもしれません。
-3_P29.jpg)
このように色々考えるべきこともあって、ゴールはまだまだ先ですが、だからこそDXは面白い。システム変革を通じて仕事を変え、組織を変えて、地域を変えて、国も変えていけるという意味ではとてもクリエイティブな仕事なので、堂々と面白がっていいのではと思います。
-3_P36.jpg)
そして、困難な道のりを歩き続けるにはモチベーションが必要で、モチベーションを切らさないためには仲間が必要。そこで紹介したいのは、デジタル庁が運営している「デジタル改革共創プラットフォーム」です。私はここのアンバサダーをやっており、1000以上の自治体、約1万人の公務員が参加しています。活発な情報交換が行われているので、まだ参加していない方はぜひのぞいてみてください。
最近の被害事例から紐解く今必要なランサムウェア対策とは?
ネットワーク構成の選択肢は増えたが、どのモデルにおいてもそれぞれに合わせたセキュリティ対策が必要だ。高度化するサイバー攻撃に、自治体はどう備えていけばいいのか。セキュリティの専門事業者が最新の状況を伝えつつ、情報資産を守る手段についてアドバイスする。
[講師]
倉沢 陽一 氏
サイバーリーズン合同会社
シニア・セールスエンジニア
プロフィール
外資系メーカーおよびコンサルティングファームにて10年以上システム構築に従事。前職では8年間、様々なセキュリティ製品のプリセールスとして活動。現在はサイバーリーズンにて3年、大手パートナーを担当し、公共・文教・医療分野の案件支援や講演活動を行う。
医療機関でのサイバー攻撃事例をもとに、原因と対策を読み解く。
このパートでは、インシデント事例から学ぶランサムウェア攻撃手法と有効な対策、というテーマでお話しします。
まず、近年のランサムウェア被害の実態から。下記は警察庁が半年に1回公表している広報資料の令和7年3月版、「令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」です。この中で、ランサムウェア被害は令和6年だけで222件発生しているとされています。
-4_P03.jpg)
攻撃の手口としては、データの暗号化だけでなく、データを盗んだ上で対価を払わなければデータを公開するぞと脅す「二重恐喝型」が82%となっています。業務影響については、91%の企業・団体で影響が出ており、1000万円以上の損失が出たという回答は50%でした。
感染経路としては、VPNとリモートデスクトップからの侵入が80%以上。こうした脆弱性への対策も必要とされています。攻撃する側も進化しており、アンチウイルスの検出を回避する手法“DLLサイドローディング”のように、正規のアプリが動作しているように見えるため検出が難しいようなものも出現しました。
具体的な事例をベースにお話しします。
地方独立行政法人岡山県精神科医療センターで、ランサムウェア事案がありました。公開された報告書に原因などが細かく書かれていたので、読み解いていきます。
-4_P11.jpg)
上の表は、事案を時系列表示したものです。攻撃によって電子カルテシステムを含む病院情報システム全体が暗号化されてしまい、3カ月システムが停止するという重大な事案となりました。
攻撃者はデータセンターのVPN装置を経由してリモートデスクトップ接続を行い、物理サーバーに侵入しています。侵入後にネットワークを探索する動きをして、情報を盗みながら攻撃ツールを配置。取得した情報は使用後に削除して痕跡を残さないようにしていたようです。バックアップデータも削除されています。
-4_P14.jpg)
その後、水平展開を行った上で管理共有を使い、病院内の端末をランサムウェアで暗号化。セキュリティソフトも削除あるいは無効化されていました。
報告書の中では、VPN装置の脆弱性の放置や、管理者権限を付与したままシステムを運用しているなど、見直しが必要だった項目が多く指摘されています。つまり、これらの対策をしていれば守れた、あるいは攻撃の遅延ができた可能性が高いのです。
サイバー攻撃の段階に合わせ、防御ソリューションの選択を。
この事例は病院での被害ですが、自治体の場合もコストや業務影響を懸念して、一部のサーバーにアンチウイルスは入っていてもEDRは入っていない、といった状況が見られます。あるいは脆弱性を抱えたままのネットワーク機器を使い続けることによって攻撃者のターゲットになり得る。こうした中で、我々にどのようなお手伝いができるか。
当社が提供しているソリューションは、下記の通り5つに大別できます。今回はこの中から、アンチウイルス、EDRを中心に説明します。
-4_P22.jpg)
まずウイルス対策ソフトの無効化(タンパリング)です。当社のサービスではタンパリングを防ぐ設定が可能で、エージェントソフトウェアに対してアンインストール用のパスワードを設定することで、不用意にアンインストールさせないことができます。
次に、悪意あるツール「Mimikatz」によるパスワードを盗む行為ですが、当社アンチウイルス製品やEDR製品で検知可能です。当社が提供しているSOCサービスにおいて一次対応も可能となっています。
-4_P23.jpg)
次はランサムウェアによる暗号化。こちらは当社のアンチウイルスの機能である予測型ランサムウェア機能による防御が可能。ランサムウェアが行う暗号化のプロセスを常時監視・防御して、もし一部のファイルが暗号化されたとしても、バックアップから自動で復元を行うこともできます。SOCによる1次対応も可能です。
最後に、横展開による被害の拡大。この点もEDRなどを使えばアラートを上げて対応することができます。先に挙げた事例も、当社ソリューションを導入していれば素早く検知して被害が出なかった可能性が高いと考えています。
また、最新の自治体向けガイドラインでは、マネージドサービス、SOCサービスを利用したEDRによる監視についても言及されており、α´モデルでLGWAN接続系からDaaSに接続する際も、β、β´モデルと同様の不正プログラム対策が求められると明記されています。
-4_P28.jpg)
当社サービスは、ISMAPにも登録されているので安心して利用可能です。導入事例として、高知県の教育委員会では対外的に高いセキュリティを説明できる必要があり、学校からの直接インターネット接続に伴うセキュリティリスクを低減させる必要があったため、当社サービスを導入。強固な対策が実現でき、高度なセキュリティ対策を施していることが対外的にも説明可能になった、という声をいただいています。
こうしたセキュリティで、自治体の資産を守っていきましょう。
【対談】ガバメントクラウド先行事業の成果と今後の展望
セミナーの最後は、“ガバメントクラウドへのリフト”がテーマ。事業を進めた宇和島市職員のレポートを踏まえ、自治体DXアドバイザーとの対談形式で、ガバメントクラウド先行事業における検証結果について意見を交換した。
[講師]
児玉 光輝 氏
愛媛県宇和島市 企画政策部デジタル推進課
プロフィール
2002年に採用後、病院部門、環境部門を経て、情報システム部門9年目。DX推進に向けた情報通信基盤の整備やセキュリティ対策を担当する係長として、ガバメントクラウド先行事業にも初年度から携わる。
[講師]
高橋 邦夫 氏
合同会社KUコンサルティング 代表社員
プロフィール
総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドラインの改定等に係る検討会」構成委員、同地域情報化アドバイザー、文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン改定検討会」座長、同・学校DX戦略アドバイザー、元豊島区CISO。
事業者との二人三脚で進めたガバメントクラウド移行の取り組み。
高橋:今回の対談は、まず宇和島市の事例を発表いただき、それを踏まえて色々聞いていきます。では児玉さん、宜しくお願いします。
児玉:私からは、「ガバメントクラウド先行事業の取組成果とコスト最適化の検証結果」と題して、発表させていただきます。まず、令和3年度から4年度にかけて実施したガバメントクラウド先行事業の検証結果の考察です。
-5_P05.jpg)
図左側がガバメントクラウド移行前の姿です。単独クラウドとして、RKKCSという事業者のASP環境に、標準化18業務と財務会計や人事給与、契約管理などのシステムを含むオールインワンパッケージとして利用していました。先行事業団体募集の話がデジ庁から出た時、コスト面やガバメントクラウド移行にかかる業務負担を平準化できるというメリットがあったことから同社に打診し、実現に至りました。
先行事業ではAWSの環境に、現行の本番環境と同じものを構築して検証を実施しました。標準準拠システムに予定されている18業務のシステムと、それ以外の関連システムもリフトしています。
-5_P06.jpg)
検証から得られた知見と課題について、まずはコストの比較です。ランニングコストが5年間で約3,900万円増える試算となりました。主な要因は、クラウド利用経費が単独利用方式での試算となっているためで、今後の共同利用方式により按分効果が発揮されれば削減効果が見込まれると結論づけました。
環境においては、ガイドラインを遵守しつつ運用を犠牲にしない構成が確立できました。データリフト検証による本番移行時のタイムスケジュールも確認でき、回線性能やリージョン切り替えによる可用性の確認もとれています。
コストについては、クラウド上での物理分離が必要になったためコスト増につながっており、これをいかに抑えるかについては令和5年度の先行事業の検証項目にしました。
-5_P09.jpg)
続いて、令和5年度に行った先行事業での考察の結果です。前年度までの反省を踏まえ、投資対効果の検証を行いました。
1つ目に、検証環境のシステム稼働時間の見直しを行いました。ガバメントクラウドが従量課金であることを庁内で説明し、勤務時間内に利用することで理解を得ました。見直し後は年間110万円ほど削減できています。
-5_P12.jpg)
2つ目は、バックアップ環境の見直しです。見直し前は大阪リージョンで縮退運用を行うウォームスタンバイを採用していましたが、見直し後は大阪リージョンへのデータ退避を行うバックアップに変更しました。
見直し後はAWSのスナップショットを利用し、大阪リージョンにデータベースの差分バックアップを取得するようにしました。これによって年間410万円ほど削減できました。
令和7年10月には標準準拠システムへの本番移行を控えており、今は調整、テストを行っています。ガバメントクラウド内におけるEBPMやデータ利活用、窓口業務における生成AIの活用についても、RKKCS、オラクルと連携しながら検討していくこととしています。
【対談】担当職員の声を通してクラウド活用のメリットを再確認。
高橋:ありがとうございました。ここからは私から質問させていただきます。
まずコスト見直しという点です。稼働時間を短くするとか、バックアップをコールドスタンバイに変えるというのは、かなり議論されたのかと思われます。検証環境は本番環境ではないということでしょうか。
児玉:そうです。テスト環境のシステムで動かして、確認した上で本番環境への適用を行います。この検証環境と本番環境は、多くのベンダーでも基幹行政システムで持っています。
高橋:バックアップの話はかなり大胆ですが、反対意見も出たのではないでしょうか。
児玉:ガバメントクラウドに移行するにあたって、従来の運用環境をそのまま使っていくとすると、大阪リージョンの考え方も整理しなければいけない。また、誰も使ったことがないガバメントクラウドですから、ちょっと怖いというのもあった。やはりコストが相応にかかっていましたし、バックアップ方法は同じ形に戻ったということなので、大丈夫かといった議論はありませんでした。
高橋:今後について、令和7年10月に切り替え予定ということですが、今のところはオンスケジュールで進んでいますか。
児玉:はい。先行事業の効果もありますし、RKKCSでタスク管理をしていることもある。月1回で進捗の定例会を行っていますが、同社は多くの団体を抱える中で非常に頑張ってくれています。
高橋:標準化が10月に終わると、業務はどう変わると予想していますか。
児玉:現場においては、災害対応で自治体職員が派遣された時でも、全然知らないシステムを操作するのではなく、一定触ったことがある環境になっていると思います。また、法改正によってシステム改修の対応も統一化されると思うので、他団体と情報交換しやすくなるのではないでしょうか。
情シスとしては、ガバメントクラウドの管理が一元化されることで、セキュリティ面や管理面における属人化の解消にはある程度つながると思っています。ただ、ガバメントクラウド自体は一定の専門知識・リテラシーが必要なので、一朝一夕にできるものではないかもしれません。
高橋:これからガバメントクラウドへのリフトを行っていく職員へアドバイスを。
児玉:ガバメントクラウド移行では、目の前の作業をクリアしていくだけで精一杯なのではと思います。一方で、コスト最適化については多くの団体が課題だと考えている。ガバメントクラウドは従量課金制で、いつでも変更ができるので、本稼働した後に状況を見ながら最適化に向けて構成の見直しを進めていけば良いのでは、と思っています。
高橋:ありがとうございました。やはりクラウドのいいところは、導入後も毎年のように見直しできるという点にもあると思います。宇和島市の取り組みを皆さんも参考にして、どうすれば本当に有効な資源の活用ができるかという点を考えて、コスト最適化を図っていただければ。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works













