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広島県呉市

公開日:2023-12-15

地域医療がチームになり、市民の健康意識を醸成し適正受診へと導く。

福祉・医療
読了まで:4分
地域医療がチームになり、市民の健康意識を醸成し適正受診へと導く。

行政と医療関係者が連携して生活習慣病の重症化を予防

全国に先駆けてレセプト(診療報酬明細書)をデータベース化し、国民健康保険の医療費適正化を目指す呉市。生活習慣病の重症化を防ぐため、行政と医療関係者が連携して、市民の健康意識向上を図っている。

※下記はジチタイワークスVol.29(2023年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

明細から医療費の使われ方を分析し必要な人が医療にかかれる体制を。

高齢化率が35%※と、同規模の都市と比べて高水準の同市。加えて、市内には大規模な病院が3カ所あり、市民1人当たりの医療費が高い傾向にあるという。国保の被保険者の多くは65歳以上の高齢者が占めているため、高齢化に伴い、市の負担する医療費が増大していることが課題だったそうだ。

平成17年度から、医療費の適正化に向けて、レセプトのデータベース化の検討を始めた。データ分析をもとに平成20年度からジェネリック医薬品の普及に力を入れ、この頃から市内の医師会・歯科医師会・薬剤師会との連携が生まれたという。それから、同じ薬を重複して処方されていたり、同じ病気で複数の医療機関にかかっていたりする患者をリストアップ。該当者には、受診に至る経緯や現在の病状などを聞き、症状を和らげる方法や、改善策などの保健指導を行っている。

「第一の目的は医療費の抑制ではなく、適切に医療を受けてもらうことです。逆に、生活習慣病の治療を中断している人には受診を勧め、重症化のリスクがある人には主治医と本人の同意を得て生活指導プログラムを行います。糖尿病や高血圧、脂質異常などの医療費は年間で1人当たり2~3万円程度ですが、糖尿病が悪化して人工透析が必要になると、約600万円まで膨らみます」と要田さん。

こうした重症化を未然に防ぐため、平成25年度から、市と医療関係者で“呉市地域総合チーム医療”の体制を整えたという。

※令和2年国勢調査より

▲個別指導に加えて実施する、栄養セミナーの様子。

行政が医療関係者の協力を得て糖尿病患者の生活改善を伴走支援。

チーム医療で取り組むプログラムの一つ「糖尿病性腎症等重症化予防事業」は、国保に加入する市民で、糖尿病または糖尿病性腎症で通院治療中の人が対象。期間は6カ月で、専門知識をもつ委託先の看護師が個別指導している。面談や電話で生活状況を把握し、一緒に目標を設定して小さなことから改善を目指すという。

対象者は日々の生活習慣改善に加え、希望すれば歯周疾患検診、服薬管理指導、栄養セミナーを無料で受けられる。プログラムの修了後も半年ごとにフォローアップがあり、自己管理能力を維持するためのサポートも行っているそうだ。

市の担当者は、医師会・歯科医師会・薬剤師会と連携し、医師の治療方針を個別指導する委託の看護師に伝え、円滑なサポートを行う。各担当者は定期的に協議し、プログラムに参加する患者の経過を共有し合いながら市民の健康維持増進を目指している。

「レセプトの情報から対象者を抽出して連絡すると、“なぜ市がそのような情報をもっているのか”と不信感を与えることも。指導の対象になった経緯や取り組みの意義を丁寧に説明することで、理解してもらっています」。取り組みの意義も、行政と医療関係者で共有している。チーム医療に携わる関係者が同じ思いで取り組むことで、市民に一貫性のある支援を行えるのだという。

協力体制は一朝一夕にできたものではない。医療費適正化を掲げた当初、ジェネリック医薬品の利用促進時から協議を重ねてきたことが今につながっているという。「医師会の会長は“国保の財政の安定は、開業医にとっても必要なこと”という考えをもっています。こうした認識の一致も、スムーズに協力・連携できるポイントだと思います」。

地道に取り組みを続けることで市民の健康意識も改善傾向に。

令和3年度に実施したプログラムでは、対象者の81%に、血糖コントロールと腎機能の維持改善が見られたという。参加者からも、プログラムの参加が治療継続の意欲につながっているという声が寄せられているそうだ。今では主治医から患者の保健指導を個別に依頼されるケースもあるほど、取り組みが認知されるようになった。

ジェネリック医薬品への切り替えでは、同市で年間約2億7,000万円の削減効果が出ている。生活習慣病の重症化予防は、すぐに数字にあらわれる取り組みではないが、市民の健康への意識や、医師からの信頼は積み上げられているようだ。「病気になる前に自分の状態を知ることの大切さを伝えるために、今後も地道に続けていきたい取り組みです。健康に対する意識が高まり、プログラムも対象者も減っていくことが理想ですね」。

順調に続いている事業だが、人や組織の関係性で成り立つ“チーム医療”の新たな課題は、次世代の育成だという。「私は平成26年度からこの事業に携わっており、ここ数年で徐々に仕事を分散して引き継げるようになりました。現場に同行して人脈を広げるなど、引き継ぎや育成は短期間では終わりません。勉強会や情報共有を重ねて、実務の中で後進の育成に取り組んでいます。この先も質を下げずに市民の健康習慣を促すため、事業を属人化させない仕組みをつくっていきたいと思います」。

呉市
福祉保健課
要田 弥生(かなめだ やよい)さん

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