愛媛県新居浜市

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スマホ1台のインフラ管理術で“事後保全で手いっぱい”の現場を救う

都市整備・上下水道
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スマホ1台のインフラ管理術で“事後保全で手いっぱい”の現場を救う

インフラの老朽化による事故が後を絶たない。構造物の倒壊や陥没、崩落などメディアの報道も相次ぐ中、“自分のまちは大丈夫だろうか……”“もし住民に被害が出たら……” と不安を抱える職員も多いのではないだろうか。

今回は、数あるインフラの中でも、街路灯やカーブミラーといった道路小規模付属物にスポットを当て、現在の課題や対策に関する有識者の意見を紹介。さらに、課題解決に向けたソリューションを開発した企業の担当者にも話を聞いた。

※記事の掲載情報は公開日時点のものです。

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大量に存在するインフラと、点検のリソース不足という現実

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【Interviewee】

日本大学 工学部 土木工学科 教授
岩城 一郎(いわき いちろう)さん

1963年生まれ。日本大学工学部工学研究所長・土木工学科教授。博士(工学)。東北大学大学院修士課程修了後、首都高速道路公団、東北大学を経て現職。コンクリート構造物の高耐久化やインフラのメンテナンスを専門とし、地域住民との協働による「橋の歯磨きプロジェクト」に取り組む。元土木学会誌編集委員会委員長。土木学会論文賞・技術賞・吉田賞・田中賞、インフラメンテナンス大賞国土交通大臣賞など受賞。編著に『日本のインフラ危機』(講談社現代新書)、『新設コンクリート革命』『インフラメンテナンス大変革』(ともに日経BP)など多数。

日本では、高度経済成長期に大量のインフラが整備された。そうした構造物の耐用年数はおおむね50年が目安だといわれており、現在がその時期にあたる。各地で起きている陥没事故や、街路灯の倒壊などについては報道されている通りだが、「現実にはより多くのリスクが潜んでいる」と岩城さんは警鐘を鳴らす。

「人的被害が出た事故は大きく取り上げられますが、そうでない場合は扱いも小さく、いつしか忘れ去られます。また、50年というのはあくまでも目安でしかありません。例えば上下水道の整備は平成12年前後がピークですが、すでに老朽化している例も多くあります」。

さらに、道路小規模付属物の場合、倒壊リスクは災害によって増大すると付け加える。「構造物が弱っているところに地震や台風が来れば、さらに危険度が増します。老朽化と災害はセットで考えておくべきです」。

こうした事故を防ぐための点検や整備の実施には、“ヒト・モノ・カネ”のリソースが不可欠。しかしそれらが十分ではないのが現実だ。「自治体の財源や職員数が不足しているのは周知の通りです。それに加え、インフラ管理には技術系の人材が必要。しかし25%の自治体では技術系の職員が0人で、約半数が5人以下という状況です」。そもそも土木業界では人手不足と高齢化が進んでおり、今後改善される見込みは薄い。そのような厳しい現実はありつつも、「インフラの事故は、防げないものではありません」と強調する。

※市町村全体の公務員数は回復傾向にある一方で、技術職員数は低迷を続けている。約5割の自治体で技術系職員数が5人以下という実情だ。※岩城さんの著書「日本のインフラ危機(講談社)」内の図表をもとに作成
  ※市町村全体の公務員数は回復傾向にある一方で、技術職員数は低迷を続けている。約5割の自治体で技術系職員数が5人以下という実情だ。※岩城さんの著書「日本のインフラ危機(講談社)」内の図表をもとに作成   

道路小規模付属物はシンプルだから取り組みやすい

道路小規模付属物の倒壊事故を防ぐ方法として、岩城さんは鉄道の保全が手本になると語る。「鉄道は明治時代から整備され歴史も古いのですが、点検やメンテナンスを継続的かつ計画的に行うことで事故を防いでいます。事後保全ではなく、予防保全が効果的だという好事例です」。

また、街路灯やカーブミラーといった構造物は、点検も比較的やりやすいのだという。「例えば、橋のように複雑な構造物は点検に技術を要し、メンテナンスも手間がかかりますが、街路灯やカーブミラーはつくりがシンプルです。また、ほとんどの部分が地上に出ているので、下水道のように埋設されている構造物と比べて見た目で判断可能です。数が圧倒的に多い反面、保全に取り組みやすい対象物だといえます」。

それではなぜ倒壊事故が起きるのか、理由の一つとして“意識されにくい”という点があげられるという。「トンネルや橋などは、そこにあるということを住民も認知しています。しかし、“ここに街路灯がある”と意識している人はほとんどいないでしょう。風景に溶け込んでいるインフラなので、劣化や異常も見落とされがち。だからこそ適切な点検と、合理的なメンテナンスが求められるのです」。

日常に溶け込むインフラ。この写真だけでも2基の街路灯が写り込んでいる。※写真はイメージ
日常に溶け込むインフラ。この写真だけでも2基の街路灯が写り込んでいる。※写真はイメージ

今できるDXから始めて、予防保全への転換を!

では、適切かつ合理的な維持管理はどのように実現すればよいのか。カギになるのはAI活用だという。「街路灯やカーブミラーは、安全のために見るべき箇所が決まっています。地上に露出しているので写真を撮ってAIで解析をすることも可能。DXとの相性は非常に良いはずです」。

しかし、限られた予算でどのようなツールを採用し、どう運用していくかという点も悩みどころだ。この問いに対しては次のようにアドバイスする。「まずは簡易な技術で、コストを抑えつつ導入効果を出していくのがオススメです。点検システムにコストをかけ過ぎて修繕対応に予算をまわせなくなったら本末転倒ですから。その上で、職員によるチェックなど人の目も通し、予防保全を実現しながら安全性を高めていくのが賢明です」。

インフラ事故は、どのまちでも起こり得る。そして、住民に被害が出てからの対応では遅い。また、長期的に見ると事後保全の方が予防保全よりも大幅なコスト高になるという国土交通省の推計もある。これらをふまえ、予防保全の意義は大きいと岩城さんは力を込める。「最初から完璧を目指さなくてもいいのです。財源や技術力が不足しているのなら、群マネ(※)という手法もあります。まずは予防保全への転換に向けて、挑戦してみることをオススメします」。

※地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ):複数自治体、あるいは複数分野のインフラを“群”として捉え、効率的かつ効果的にマネジメントしていく手法。


頑張っても追いつかない……紙で運用する保全の課題

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【Interviewee】

パナソニック エレクトリックワークス株式会社
 ソリューションエンジニアリング本部 ソリューション事業統括部 パブリックエンターテインメントカテゴリー

立花 徹(たちばな とおる)さん

「パナソニック エレクトリックワークス」は、全国で街路灯などの照明関連製品を数多く手がけている。近年はLED化により灯具の長寿命化・省エネ化が進んでいる一方で、それを支える支柱(ポール)は交換されず、老朽化による倒壊リスクが解消されない事象が発生しているという。同社はこのアンバランスに、メーカーとして強い課題意識をもっていた。「せっかく長寿命化しても、支柱が倒れてしまっては意味がありません」と立花さんは語る。

「実際に自治体へ足を運ぶと、『まちの街路灯が倒れた。次はいつ起きるのか気が気ではない』と、現場も同様の危機感を抱いていることがわかりました」。さらに、深刻なリソース不足に加え、“紙ベース”で行われる点検業務の非効率も浮き彫りになったという。紙の地図とデジカメを持って現場へ行き、帰庁後に手作業で報告書を作成する。膨大な対象物を抱える中、国が推奨する5年に1回の目視点検を実施しようにも、良いツールもなく、点検もままならない。過去データとの比較や、予防保全へとつなげる動きは実質的に困難な状況だった。

「交換が必要になった灯具や支柱に製品を提供するだけでなく、そもそも倒壊を防ぐための“事前のインフラ管理”や“予防保全”の段階から、メーカーとしてお手伝いできることはないかと考えました。そこで、当社が培ってきた知見とデジタルの力を組み合わせ、この課題の解決に乗り出したのです」。

このような経緯で、同社は令和4年にソリューションの開発を始めた。街路灯だけでなく、類似の構造を持つカーブミラーなど、道路小規模付属物に対象を拡大。試行錯誤の末、AIによる画像解析を利用したサービス「LD-Map(エルディマップ)」が完成した。

スマホだけで完結できる点検ソリューション

LD-Mapは「予防保全型インフラ維持管理DXサービス」という位置付けで、スマートフォンのアプリとして動作する。メインの機能は「街路灯モード」と「カーブミラーモード」の2つで、職員の入力とAIによる画像解析で劣化度を判断する。使い方がシンプルであることが大きな強みだという。

直感的な操作で、一連の調査・記録業務がストレスフリーに完結する。
  直感的な操作で、一連の調査・記録業務がストレスフリーに完結する。  

「アプリを開くと、地図上で点検対象の位置と状況が分かるので、それを見て場所を決定し移動します。現場に携行するのはスマートフォンのみ。点検場所に来たらアプリの指示に従って対象物の写真を何点か撮影し、検査項目に回答してデータを送信したら完了です。操作に慣れると、対象物1点の調査が2分程度で完了します」。

撮影画像は、さびの分布や、穴が開いている箇所などをAIが解析。また、検査項目の設問は国土交通省の点検基準に則したものとなっており、これらの情報に基づいて劣化度をランク別表示する。中でも、支柱と地面の境目である“地際(じぎわ)”の部分が重要なのだという。

AI画像診断により地際の穴も特定が可能
  AI画像診断により地際の穴も特定が可能  

「地際は雨水や犬のマーキングなどでダメージを受けやすく、風や振動などのストレスも集中する場所。倒壊事故の多くは、この部分の劣化です。そのため同アプリでは、地際を前後から撮影して分析する対策もとっています」。さらに、送信したデータはクラウド上にアップロードされるため、庁内にいる職員と同じデータを共有しながら、その場で話し合うことができる。「この仕組みを使うことで、自治体は道路小規模付属物の点検業務を自己完結できるようになり、作業スピードを大幅に短縮できます」。

アプリとデジタル台帳で作業時間が最大約3分の1に

インフラの点検をする職員にとっては、帰庁後の事務作業も大きな負担だが、同サービスはこの業務効率化にも貢献。「現場から送信したデータは“デジタル台帳”に自動登録されるため、手書きの調査票を転記する必要がありません。また、調査結果は地図上で可視化され、修繕や交換の優先度を俯瞰して確認できます」。こうしたデジタル化の効果を紙ベースの点検と比較したところ、作業時間を最大約3分の1まで削減できる試算(※)が出たという。

移動~点検~レポート作成までの作業時間が最大約1/3に削減される試算
  移動~点検~レポート作成までの作業時間が最大約1/3に削減される試算    

さらに、点検データが蓄積されるとともに過去の履歴が整理され、前回の点検はいつか、どのくらいのリスクがあるのかといったことが一目瞭然になり、保全計画が立てやすくなる。「個々の対象物の現状が地図上に落とし込まれるので、劣化の進行を予測する際の手がかりとなり、行動計画を組む際の根拠にできます。GPS機能を使って位置を特定しているので誤差も少なく、現場を移動するルートを決める際にも便利です」。

こうしたソリューションの活用により、属人的になりがちな点検業務を標準化し、異動時の引き継ぎもスムーズに。点検を重ねるごとにデータの蓄積が進み、それに従って分析の精度も上がっていく。その結果、事後保全から予防保全への転換が進んでいくという仕組みだ。同社では、このソリューションの実効性を確認すべく、愛媛県で実証実験を行った。

※現状業務において、紙の地図を携行し、紙ベースでの点検記録およびデジタルカメラでの撮影を実施している場合。ただし作業範囲・人員等によって異なります。(パナソニックEW調べ)

実証実験を通じ、現場の声を次々に反映

愛媛県では、県内の企業や基礎自治体と連携したデジタル実装加速化プロジェクト「トライアングルエヒメ」を実施している。同社はこの事業に応募。令和6年8月に採択を受け、新居浜市、八幡浜市との実証実験を行うことが決定した。

「両市とも、道路小規模付属物について維持管理のリソースが不足しているという課題を抱えていました。特に新居浜市では約4,000の対象物があるということで、街路灯とカーブミラーの両方を対象に実証することになりました」。

現場の声を細かく反映する「アジャイル開発」にて開発を進めた
  現場の声を細かく反映する「アジャイル開発」にて開発を進めた  

実証実験は3つのフェーズに分けられ、8カ月にわたって実施。フェーズ1では、現状の点検業務の内容を確認した上で、ブラウザ版のアプリでテスト運用。フェーズ2ではプロトタイプのアプリを現場で使用し、職員の声を集めていった。ここでは「ストレスフリーに調査ができる」といった意見が目立ったという。「数十件を超える意見が集まりました。その中から改善に結びつく声を拾い、年代を問わず使いやすいアプリを目指してブラッシュアップしたのです」。そしてフェーズ3では、実務にどのような改善が見られたかを確認。予防保全の実現に向けて改良を進めつつ、同県内の自治体を対象とした勉強会も開催したそうだ。

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【自治体担当者の声】

新居浜市 建設部 道路課 課長
黒田 雅人(くろだ まさと)さん

アプリの活用で業務が効率的になるだけではなく、修繕・更新の優先順位付けが可能になります。住民を倒壊リスクから守るとともに、予算の平準化にもつなげられるものだと、非常に期待しています。

自治体のパートナーとして全国のインフラを守る

この実証実験で得たデータをもとにさらに改良を重ね、同システムを完成。令和8年5月に、全国の自治体に向けて正式提供が始まった。立花さんは「これをLD-Mapの完成形とするのではなく、さらに使いやすさを追求していきたい」と意気込む。「予防保全が重要であるのは間違いありません。本ソリューションがそこに貢献できるはず。多くの自治体に広めて、街路灯などの倒壊リスクをなくしていきたいと思っています」。

また、インフラの点検業務には共通する部分が多く、同ソリューションが転用できる可能性も高い。標識やガードレールなども対象にできれば、同じアプリで多くの点検をこなせるようになり、点検業務のさらなる効率化が期待できるだろう。

このように、点検業務に改革を起こそうとしている同社。「完成品を販売するだけではなく、地域の課題解決に共に取り組むパートナーになりたい」と今後の展望を語る。「当社には“企業は社会の公器である”という理念があります。公共インフラの維持・管理という事業はそこに直結するのです。これからも全国の自治体と連携しながら、一つでも多くの課題解決を支援できればと考えています」。


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ソリューション事業統括部
パブリックエンターテインメントカテゴリー

東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック汐留ビル

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TEL:06-6908-1131(代表受付 9:00~17:30)